第十二話 抱き続ける恐れ
グリムリーパーに出会った次の日、フィルディアのパーティーは昨日受けたクエストのクリア報告をする為、全員でギルドに来ていた。
あの後、エイジ達はメタルベアーを倒してクエストをクリアしたが、皆 疲れはてていた為、イニティウムに着くなり解散した。
その為、次の日である今日クエストのクリア報告に来ているのだ。
クエストを報告するためにライセンスを預けると、当然のように驚きの声が上がる。
「魔鎧の討伐記録がある!?」
その声でギルド内にいる冒険者全ての視線がフィルディアのパーティーに集まる。
「魔鎧だと!?」
「ウソだろ!? この街には魔鎧を倒す化けもんがいるのかよ!」
エイジが一人で魔鎧を倒した事実は、ギルド内に更なる騒ぎを起こしかねない為、エイジ達はその事を伏せる事にしていた。
その後、魔鎧の賞金込みで報酬を受け取り、上級魔法解放を目指し、冒険者レベルを上げる為のクエストをカイトとフィルディアが選び、その間にエイジとシルヴィアは朝食を食べていた。
「……ふぅ、美味しかった。でも、ギルドのメニューには甘いデザートが無いのが非常に残念だよ」
「エイジ君は甘い食べ物が好きなの?」
その質問に、エイジは席から立ち上がって答える。
「大好きだ! 愛していると言ってもいい程にな! 特にケーキは最高だ! 故に、俺はプロのパティシエールと結婚したい」
「欲望を隠さないんだね。と言うか、パティシエールって何?」
「分かりやすく言うなら、甘味を作る女性職人の事だ。まぁ、あくまでも理想だけどな。本当に結婚するなら……」
「結婚するなら?」
「……あぁ、分かんねぇや」
シルヴィアにそう答え、食器を職員が片付けやすいようにし、エイジはクエストボードの方へと向かって行く。
まだ食事を食べ終えていないシルヴィアは、皿に置いていたフォークとナイフを再び手に取り、食事を再開する。
「……甘味か………私でも作れるかな?」
俯いて呟き、顔を上げてクエストボードの方に視線を移し、エイジの姿を瞳に写して頬を赤く染める。
その姿を、兄であるカイトは見てしまう。
「たたた大変だ!! シ、シルヴィアが熱を出したかもしれない!! フィルディアさん、クエストの選択は任せた! シルヴィアァァァァ!!」
「……カイトはシスコンだな」
シルヴィアの元へ走っていくカイトを見送るエイジがそう言う。
フィルディアは、何故かその姿を羨ましそうに見ており、二人を見て微笑んだ。
「どうした?」
「……私は一人っ子なので、あの二人みたいな兄妹愛を少し羨ましく思うんです」
それを聞き、エイジもフィルディアと同じ様に二人の方をみる。
その二人の話す光景を、自分と妹に重ねて見てしまい、瑠花の事を考えてしまう。
(瑠花は何してるかな………?)
フィルディアがエイジの方を向くと、何処か悲しそうなエイジの横顔が視界に入り、躊躇いながらも質問した。
「どうかしたんですか?」
「……いや、なんでもない。それより、クエストはどれにする?」
「あ、クエストは既に受けてあります。いたって簡単なクエストを!」
フィルディアを信用しているエイジだが、クエストの選択においてカイトを信用出来ないエイジは、正直者と信じるフィルディアに聞く。
「……信じていいんだな?」
「……レベルアップです!」
「一気に不安になったぞ!?」
質問の答えとは違う様に感じたが、エイジはフィルディアが純粋である事を信じ、フィルディア自信を信じる事にした。
「本当に信じてもいいんだな!」
しかし、フィルディアを信じても、不安なものは不安なのだ。
そして、エイジの質問の答えは反って来なかった。
「はぁ、まぁいいや、リーダーを信じるよ。出発は十時で、街の入り口に集合でいいか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか。じゃあ、二人に伝えておいてくれ」
「構いませんけど、何処かに行かれるんですか?」
「まぁな。遅刻はしないから安心してくれ。そんじゃ、また後でな」
行き先は伝えることなくギルドを出ると、街の外へとエイジは向かう。
そのまま街を出ると、街から少し離れ、シルヴィアと初めて出会った場所の辺りに来ていた。
「この辺りでいいか」
回りに誰もいないのを確認すると、エイジは初めて発動した攻撃魔法の感覚を思い出す。
しかし、魔法は発動しない。
エイジの中でのイメージは完璧とも言えるが、魔法自体を難しく考えてしまい、魔方陣の構築がうまくいかない。
「武装魔法・『魔法銃』」
エイジが魔鎧との戦いで生み出した新たな武器を出し、少し離れた場所にある岩に銃口を向ける。
「雷式魔力バレット・『サンダーショット』」
エイジは魔法を発動するイメージを重ね、魔法銃の引き金を引く。
すると、魔鎧との戦いの時とは違い、銃が一瞬にして銃口の先に魔方陣を展開し、攻撃魔法を放つ。
「イメージ通りの能力だな。これなら、今の俺でも魔法が使えるし、武器自体の攻撃力は関係ないな」
エイジは魔法銃で魔法を簡略化させ、威力を低下させる代わりに、発動と被弾するまでの速度を上げた。
エイジが魔法銃に求めた能力は、魔法を簡略化して速く放つ事と、ラビットファイヤー機能だ。
機能はエイジの意思でONになり、エイジの意思でOFFになる。
「速射は一回で五発までか……。能力は理解できたな」
右手に持っていた魔法銃を消し、武装魔法を発動させて雷刃を出し、それを右手で掴む。
「……やっぱり、こっちの方がしっくりくるな」
エイジは一年前までは剣道をやっており、大会で優勝したこともある程に強かった。それとは別で居合術も練習をしており、相手の動きを見極める洞察力はエイジの持つ最大の武器とも言える。
さらに、コンティニューしてその身に魔力を宿した影響か、その能力はさらに向上しており、未来予知の様な領域に至っている。
しかし、刀を手にしている時のみだ。
(魔法で高火力が出せないのは不味いな。魔法の速射は強みだが、ガードが硬い魔物には使えないだろうな。強くなる為には魔法を普通に使える必要があるが、グリムリーパーがイニティウムに来るまでに間に合うか………)
出した雷刃を地面に突き立て、口元に手を当てて考えるエイジだが、考えるだけでは答えは出ない。
その為、再び魔法の発動を試みる。
しかし、練習を始めてからおよそ一時間、魔法の発動が成功する事はなかったが、クエストに遅刻する訳にもいかず、時間の確認と準備の為に街に戻る事にした。
(仕方ないか。まぁ、俺は本番に強いからな。クエストの途中で成功するかもしれない。諦めなければいつか……)
「――って、いつかじゃ遅いか 」
その考え方がエイジをさらに焦らせ、エイジの魔法発動の失敗に繋がっている事に、本人は気づかない。
それは仕方ない事なのかもしれない。
何故なら、エイジは自分を自分で理解できていないからだ。否、しようとしていないのだ。
エイジは、自分を知ることが恐いのだ。
その恐れが、エイジの記憶に鍵を掛け、自分が死んだ理由を思い出せずにいるのだ。
エイジが自分の死んだ理由を思い出した時、それは自分と向き合うことができた時。
その時、エイジは自分の内に眠る力を発揮する事ができる。
しかし、残された時間はあまりにも短い。
エイジ達には見えないタイムリミットは刻一刻と迫り、見えない事がよりエイジを焦らせる。
「あれ?」
エイジはイニティウムの入り口付近で話しているフィルディアとカイトを見つけ、名前を呼んで駆け寄る。
「おーい! フィルディアー! カイトー!」
「あ、エイジだ……。話は終わりにしよう、フィルディアさん」
「………はい」
何かを話していた二人の元に到着し、エイジは二人に聞く。
「二人がここにいるってことは、俺って遅刻した?」
「いえ、まだ三十分程 時間に余裕がありますよ」
「そうか、よかった。あ、シルヴィアは大丈夫か?」
「宿にいるよ。今回のクエストはお休みにさせてもらうけど、割りと大丈夫そうだよ」
エイジがギルドを出る前にカイトが叫んでいた事を思い出し、シルヴィアの事が少し気になって質問した。
「大丈夫なら良かったよ。じゃあ、予定より早いけど、今からクエストに行かないか?」
「いいですよ」
「僕もいいよ。それじゃあ、エイジ、どっちがクエストで活躍できるか、僕と勝負しようよ。負けた方がお昼ごはんを奢るってことで」
「よし、その勝負乗った!」
一度勝利したこともあり、エイジはカイトの提案を迷うことなく受け入れ、勝負を行う事にした。
「魔法銃の能力を最大に生かし、俺が勝利してやるよ!」
この後、エイジは魔法銃を使う間もなく敗北した。




