第十一話 ユニーク狩りの死神
魔鎧がフィルディアに向かって走り出し、一瞬 反応が遅れたエイジは、極限まで体力が消耗していたこともあり、手負いの魔鎧に追い付けないはずだった。
エイジは必死に走り、フィルディアを魔鎧から助けようとしたが、今のエイジでは不可能。
フィルディアを助けようと、前に向かって一歩づつ踏み出す度、手を伸ばしても届かせることが出来ない自分の無力を痛感する。
(俺はまた、この手を届かせることが出来ないのか! やっぱり、俺は何も変われてないのかよ!)
苦しみながらも一歩づつ踏み出していたエイジだが、助けるのは無理なのかと諦めかけて俯いた瞬間、フィルディアから貰った神秘のペンデュラムが視界に入り、
――迷った時は、自分の心に従え。
シュバラに言われたその言葉を思いだし、神秘のペンデュラムを握りしめる。
「俺は、諦めたくない!!」
答えを見つけたエイジは、左手に出した魔法銃で雷刃を持つ魔鎧の右手に最大威力の弾丸を撃ち、魔鎧の手から雷刃を弾き飛ばした。
そして、エイジは稲妻の様に速く、まさに一瞬で魔鎧の近くまで移動し、弾いた雷刃を掴んで魔鎧を切り裂く。
その圧倒的な移動速度は新しい魔法なのか、魔鎧をも一撃で切り裂く事を可能とした強い魔力が何なのか、それを行ったエイジ自信 理解できていない。
エイジが理解できたのは、目の前にある現実だけだ。
「エイジさんが、魔鎧に勝った……!?」
「誰も倒せなかった魔鎧を……。Sランクでも倒せなかった魔鎧を、エイジ君が倒した!」
あり得ない現実。
しかし、これは 正真正銘の現実。
驚きと喜びが入り交じった感情のシルヴィアは、涙を浮かべてエイジの元に駆け寄る。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」
雨上がりの空の下、体力をからになるまで消費しきったエイジは、荒い息を吐きながら立ち尽くしていた。
雨雲の隙間から差し込む光が、魔鎧を倒した事を祝福するかの様にエイジを照らし、俯くエイジが左拳を天に掲げた。
――雨が上がる少し前の上流付近。
グリムリーパーを前に、カイトは地面に倒れていた。
魔力は底をつき、カイトは攻撃を行う事すら出来ない。
「まさか、こんな所でイーニティウスの兄妹に会えるとはなァ。お前が『ブースト』って事は、最初に会った方が『ルーラー』か……」
グリムリーパーは、その名に相応しい武器『死霊の鎌』を武装魔法で出しており、それを持ってゆっくりとカイトに迫る。
「…あり得ない……!? 死神、お前はこの戦いで、いくつのユニークを使ったんだ!?」
「死に行くお前が知る必要は無いだろ。楽しませてもらったよ、じゃァな!」
倒れたまま抵抗が出来ないカイト目掛け、グリムリーパーが死霊の鎌を振り下ろし、刺さるギリギリ手前で止め、
「お前は運が良いなァ」
そう言って武装魔法を解除した。
「何故僕を殺さない………!?」
「気が変わったからだ。一緒にきてもらうぞ」
そう言ったグリムリーパーの足元に魔方陣が現れ、魔方陣の内側にいたグリムリーパーとカイトは光に包まれてその場から姿を消した。
――時間を戻し、雨が上がりの中流付近。
「二人共、怪我はないか?」
「私は大丈夫です……」
「私も大丈夫だよ。エイジ君は怪我してるね、治したげるね!」
「いや、今は大丈夫だ。それより、今はカイトを助けに行くことを優先しよう」
二人が無事である事を確認し、カイトを助ける為に上流に向かおうとした瞬間、エイジでも分かるような魔力が近くに現れるのを感じた。
それは、倒れた魔鎧の側、つまり、エイジ達の後ろからだ。
「まさか!?」
その魔力の正体に気づいたエイジは、武装魔法で魔法銃を出して振り返る。
「グリムリーパー!!」
振り返った瞬間に引き金を引こうとしたが、グリムリーパーはカイトを投げ、エイジは攻撃を止めてカイトを受け止める。
「大丈夫か?」
「なんとかね……」
「シルヴィア、カイトに回復魔法を!」
「任せて!」
エイジはカイトをシルヴィアに任せ、フィルディアと二人でグリムリーパーの前に立つ。
しかし、当のグリムリーパーはエイジ達には目もくれず、倒れている魔鎧の亡骸を死霊の鎌で切り刻んでいた。
その後、魔鎧の中から何かを取りだし、エイジに話しかける。
「おい、雷。お前の名前は何だ?」
「……エイジだ」
「そうか」
グリムリーパーは、魔鎧の中から取り出した真っ黒なクリスタルを見せ、エイジに投げた。
「……これは?」
「戦利品だ、魔鎧に勝利したお前のなァ」
「エイジが魔鎧に勝利した!?」
「そうだ。故にお前は生きている」
グリムリーパーはそう話すが、誰一人として言葉の意味が理解できなかった。
それを察してか、グリムリーパーは話を続けた。
「魔鎧を倒したエイジ。特別な力を持つイーニティウス兄妹。そして――」
グリムリーパーは、パーティーリーダーであるフィルディアの方を向き言う。
「聖剣に選ばれた一族のフィルディア」
「聖剣………?」
地球で聞き覚えのある単語に、エイジはこの世界を構成している伝説の一つに気づいた。
それは、『聖剣・エクスカリバー』がでてくるアーサー伝説だ。
「これ程のパーティーを見たことは嘗てない! 俺の野望に対抗できるのはお前達だけだ」
「なら、何故僕を生かした? 矛盾してる」
「強者が圧倒して勝つ様なワンサイドゲームは好きじゃ無いからなァ。ただ、それだけだ」
答えたグリムリーパーは、自分の足元に魔方陣を展開させた。
「近い内にイニティウムで会おう」
それだけを言い残し、グリムリーパーはその場から姿を消した。
「……とりあえず、皆無事だな」
「素直に喜ぶべきかは悩みますが、無事ではあります」
「私も……」
「僕も、怪我はしてるけど命に別状はないよ」
「そうか……」
命は助かったが、グリムリーパーの最後に言い残した言葉が喜ぶべきかを悩ませる。
それは、近い内にイニティウムで何かを起こすとも取れる発言だからだ。
「死神を相手にするには、僕達はあまりにも未熟で、あまりにも弱すぎる……」
辛い現実がエイジ達に重くのしかかる。
だが、それを背負ってでも進む覚悟を、エイジは今日この瞬間に決めた。




