第十話 守りたいもの
水蒸気のせいで視界が悪くなり始めた上流付近で、グリムリーパー 一人を相手にフィルディアとカイトは押され出していた。
理由はいろいろとあるが、一番の理由は、圧倒的な実力差だ。
「流石は死神、噂以上の実力だよ。そろそろ僕も、本気を出さないとね! フィルディアさん! 君はシルヴィア達を!」
「分かりました!」
戦いのなか、カイトはフィルディアを流された二人の方に向かうように言い、フィルディアは川にそって走り出す。
「行かせるかァ!」
走りるフィルディアの背後を狙って放たれた魔法は、カイトが同じ『スフィアボム』の魔法で相殺し、グリムリーパーの前に立って進行を妨害した。
「お前、一人で勝てると思ってるのかァ?」
「本気を出せば勝てると思ってるよ。でも、僕の本気は、僕自信でも抑えがきかないから、仲間がいると使えない」
空を雨雲が覆いだし、雨が降りだした。
まだそこまでは強くないが、遠くで雷の音が小さく鳴り響き、天気が悪くなる事を知らせる。
グリムリーパーを前に、カイトは目を閉じ、意識を集中させる。
その隙をつけば、グリムリーパーは間違いなく勝つのだが、グリムリーパーはそんな事をせず、カイトが力を解放するのを待つ。
「覚悟はできた、行くよ! ユニーク・『ブースト』、解放」
カイトがユニークを解放した瞬間、魔力は魔鎧に劣らない程に禍々しく、身に纏う魔力が燃え上がる様に見える。
「さぁ、始めようか!」
「ふははははは! 面白くなってきたァ!」
カイトはポケットから一枚のコインを取りだし、そのコインを空に目掛けて親指で弾く。
コインが弾かれた瞬間、二人は臨戦体勢をとり、弾かれたコインが地面に落ち、音を鳴らしたと同時に戦いが始まった。
その頃、川の中流付近でも戦いが始まろうとしていた。
黒く禍々しい魔力を体から溢れさせる魔鎧種のゴブリンは、その魔力を鎧の様に身に纏っており、右手に持つ棍棒にまで魔力を纏わせている。
「逃げようよ エイジ君! 勝ち目は無いよ!」
「逃げれると思うか? 絶対に無理だ!」
シルヴィア一人を逃がす事ならエイジにはできるが、シルヴィアは戦闘系の魔法が使えず、逃がした後が危険すぎる為、エイジはその手を使わずに魔鎧と戦闘を行おうとしている。
「魔鎧には魔法が効かないんだよ!」
「大丈夫。今の俺が武装魔法以外を使うと自滅するかもだからな」
現在のエイジは、川に浸かったせいでびしょ濡れなのに加え、雨のせいでさらに濡れ、雷魔法を使うと感電して自滅する可能性があるのだ。
一日前に魔法を覚えたばかりの為、エイジには詳しい事が分からない。
「まぁ安心しろ、お前は絶対に俺が守る!」
「エイジ君……」
頬を赤くしたシルヴィアの方に振り向く事なく、雷刃を右手に握りしめるエイジが魔鎧に向かって走り、全力で斬りかかる。
だが、ゴブリンは優々と攻撃を弾き、体勢を崩したエイジが魔鎧が持つ棍棒の攻撃をくらう。
「がはっ!?」
思っていた以上に高威力の攻撃をもらい、吹っ飛ばされたエイジは、吹っ飛ばされた先の地面に血を吐き出す。
「エイジ君!?」
「…っ大丈夫だ! …ぺっ……」
口に残る血を吐き出し、もう一度エイジは魔鎧に立ち向かう。
走ってきたエイジに攻撃を当てようと魔鎧が棍棒を全力で横に振るが、エイジはその攻撃を転がり込んで避け、隙だらけの胴体に雷刃で斬りかかるが、黒く禍々しい魔力に弾かれた。
「は!? 固すぎんだろ!?」
攻撃を弾かれたエイジは、効かないとは分かっているが、確証を得るために追撃を放ち、感電しないように魔鎧から距離をおいた。
その際、エイジは魔鎧に放った魔法が、魔鎧が身に纏う禍々しい魔力に触れた瞬間に魔力に還る瞬間を見逃さなかった。
「マジかよ!」
魔法を魔力に還した魔鎧は、エイジの方を睨み、今度は魔鎧の方から攻撃を仕掛けた。
だが、エイジは魔鎧がどう攻撃をするか予測しているかの様に連続で避け、外れた魔鎧の攻撃が地面を砕く。
「凄い、魔鎧の動きを見切ってる! まるで未来予知……」
エイジは攻撃を避けつつ、魔鎧の動きを観察し、隙を見せた際には攻撃をお見舞いする。
しかし、攻撃は弾かれ、全くダメージを与えれず、瞬間的に自分の隙を生んでしまうだけだった。
さらに、山登りに加えて、川に流され、濡れて重くなった服を着ての戦闘の為、エイジの体力は通常よりも多く消耗していく。
体力の低下していくエイジは、魔鎧の攻撃を完全に避ける事が困難になりだし、雷刃を地面に向けて振り下ろし、雷を地面に落として足止めをし、魔鎧から距離をおいた。
「避けてばかりじゃダメだな……。やった事はないが、勝つためには成功させる!」
策を決め、エイジ目掛けて走ってくる魔鎧の足元に向けて雷刃を振って雷を落とし、足を止めた魔鎧にエイジから攻撃を仕掛ける。
魔鎧はエイジの攻撃を棍棒で受け止め、雷刃を弾いて攻撃に移るが、エイジはひらりと身をかわし、魔鎧の横腹に攻撃を当て、弾かれた。
攻撃を外した魔鎧は再びエイジに棍棒で攻撃を仕掛け、エイジはその攻撃をわざと避けずに雷刃で防ごうとし、そのまま吹っ飛ばされる。
「ぐっ……! 失敗か……。でも、まだだ!」
エイジは魔鎧に再び向かい、魔鎧の攻撃を避けることなく雷刃で受け、シルヴィアの近くに吹き飛ばされ、シルヴィアが倒れたエイジの元に駆け寄る。
「やっぱり魔鎧に勝つなんて無理だよ!」
そうシルヴィアは言うが、集中して考えていたエイジには聞いてなかった。
「……シルヴィアに一つ質問だ…」
起き上がりながら言ったエイジは、一切諦めていなかった。
「武装魔法で出す武器って、二つ目はできるか?」
「できるけど、攻撃力は一つ目に遠く及ばない、形だけの物になるよ」
「武器に攻撃力はいらない、攻撃力を決めるのは俺の魔力だ…」
天気がさらに悪くなり、雷の音が近くで聞こえだし、雨が強くなり、エイジの不利な状況を悪化させる。
「よし! シルヴィア、俺が魔鎧に近づいたら森の方に走れ。あ! まだ森には入るなよ!」
エイジはシルヴィアの方を向き、
「後は、その場所から俺が勝つのを見てな!」
笑顔でそう言い、魔鎧に向かって走り出す。
「エイジ君……絶対に勝ってよ!!」
そう叫び、エイジに言われた通りに森の方に走り、エイジの勝利を祈る。
「行くぜ!」
エイジは魔鎧と同じように雷刃に魔力を纏わせ、魔鎧に正面から挑む。
真正面から向かってくるエイジに魔鎧は棍棒で迎え撃つが、エイジはその攻撃を受け流し、横腹を切り裂く。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
次に、苦しむ魔鎧の背中を斬り、痛みで暴れだした魔鎧を蹴り飛ばす。
「やっぱりか。お前の真似で武器に魔力を纏わせたが、能力が段違いだ」
武器に魔力を纏わせる事により、武器の能力は段違いに上がるが、魔法による攻撃には即座に移れない弱点がある。
だが、魔鎧には魔法が効かないため、この手段が一番有効なのだ。
しかし、戦闘のほとんどが魔法に頼りきりの異世界の住人達は、魔鎧と近接で戦うだけの体力も運動神経もない。
この方法で戦えるのは限られた人物だけだ。
「ガアアアアアアアアアアア!!」
怒る魔鎧の攻撃を受け流し、さらなる傷を付ける。
「イメージはできた! 武装魔法・『魔法銃』」
エイジは左手に武装魔法で新たなる武器、魔法銃を出し、
「雷式魔力バレット」
自分の魔力を弾丸として、雷属性の攻撃を撃つが、その攻撃は魔力に還ったが、次に撃った無属性の弾丸は弾かれた。
(やっぱりか。魔鎧は、属性魔法を魔力に還して無効化し、単なる魔力攻撃は、自分の魔力以下は弾き、魔力関係無しの攻撃には対応なし)
その答えを出したエイジは、魔鎧の攻撃を避け、魔鎧の足を貫通させて地面に雷刃を突き立てた。
「このままじゃ、お前を倒すまで俺の体力がもたないからな、この手段を使わせてもらう!」
エイジは雷刃を突き立てたまま、空に向かって魔法銃の弾丸を最大威力で放ち、即座にシルヴィアの方に走る。
そして、エイジの狙い通り、自然の雷が魔鎧に落ち、凄まじい音が辺りの音を飲み込んだ。
それは一瞬の出来事だが、エイジにはとても長く感じた。
雷が落ちた場所は真っ黒になり、その中心には魔法が効かない魔鎧が立っており、まだ息があった。
その魔鎧は武器を失っており、足に刺さっていた雷刃を抜き、エイジに向けて構える。
ちょうどその時、上流から川にそって二人を探していたフィルディアが到着した。
「まさか、魔鎧!?」
その声に気づいた魔鎧は、エイジではなくフィルディアの方に走り出す。
「させるか!」
魔鎧はフィルディアに向かって走るが、足がすくんだフィルディアは逃げる事が出来なかった。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
魔鎧はフィルディアに向けて雷刃を振り下ろしたが、エイジが魔法銃の無属性を最大威力で右手に当てて雷刃を弾き飛ばし、
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
その雷刃を掴み、魔鎧を切り捨てた。




