プロローグ
緑が広がる美しい草原。暖かな日が差し、絶好の昼寝日和といえる。
だが、現状で気を抜いたならば、間違いなく永遠の眠りについてしまう。
「なぁなぁフィルディアさんや、このクエストはいたって簡単なクエストと言っていなかったかな?」
「な、なんの事でしょうか? それに、エイジさんなら、こんな討伐クエストは簡単にクリアできますよね!」
「なにその根拠のない信頼!? 簡単な訳ないだろ!」
そんな言い合いをしている二人の前には、二本の大きな角を持ち、人間位なら軽く真っ二つに出来そうな程巨大なオノを持った、鬼の様な姿をした魔物がいる。
そいつはキングアックスオーガという名前の魔物だ。
「あれはヤバい! マジでヤバい! あれにザックリいかれたポックリ逝っちゃうから! リタイアだ、リタイアしよう!」
エイジは必死で隣にいるフィルディアにクエストのリタイアを促すが、フィルディアが首を立てに振らない上、二人に気づいたアックスオーガが巨大なオノを片手で持ち、全力疾走で向かってくる。
それでもフィルディアは退かない為、エイジも退く事ができない。
「あーもぉ! やってやるよ! フィルディア、後で覚えとけよ」
エイジは右手を前にかざし、魔法を発動させた。
その魔法は武装魔法という、武器を創成する魔法で、エイジの右手に刀が現れた。
距離を詰めたアックスオーガは、エイジ目掛けて巨大なオノを振り下ろしたが、エイジはその攻撃をひらりとかわし、アックスオーガの胴体に一撃を決めつつ、隙だらけの後ろに回りこんだ。
そして、アックスオーガの背中を刀で二回斬りつけ、十字傷を付けた。
「グガアアアアアァァァァァァ!!」
攻撃をくらったアックスオーガは堪らず叫びをあげたが、たいしたダメージは入っておらず、後ろにいるエイジにオノで斬り掛かる。
「危な!?」
攻撃をギリギリでかわしたエイジは、体制を立て直す為に、一旦後ろに退いたが、アックスオーガが距離を詰めて来た。
その瞬間、エイジとアックスオーガの足下に、大きな魔方陣が一つ現れた。
「僕のターンだ! エイジ、頑張って避けてよ!『プロミネス』!!」
「は!?」
突然現れた少年が使った魔法により、魔方陣から火柱が上がる。
エイジはギリギリで避けて助かったが、あと少しでアックスオーガ共々丸焦げになるところだった。
「俺まで焼くつもりか、カイト! てか、今まで何処にいた!」
「エイジがフィルディア様とイチャイチャしてたから、邪魔をしたら悪いかなーって」
「私達はイチャイチャしてたんですか!?」
カイトの一言を聞き、顔を赤くしたフィルディアがエイジの顔を見る。
「ふざけんな!? あんなのがイチャイチャであってたまるか!」
エイジがそう言いきり、フィルディアが不機嫌になってしまった。
「エイジさんのバカ!」
「え!? なんで俺は罵倒されてんの!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。喧嘩は良くないよ」
「お前が引き金を引いたんだろ!?」
「いいえ、全てエイジさんが悪いです!」
「なんでだよ!?」
「エイジ、フィルディア様に謝るべきだよ」
「だから、なんで!?」
黒焦げになったアックスオーガを他所に、パーティーメンバーの三人で言い争うが、その矛先はエイジに向いてくる。
だからといって、エイジが嫌われている訳ではなく、むしろその逆で、信頼されている。
「まぁ、話は変わるけど。エイジ、このクエストのMVPは僕だね。お昼ご飯は、エイジのおごりね」
「ちょッ!?」
「約束だったろ?」
「エイジさん。潔く負けを認めましょう。私達の分をおごるだけじゃないですか」
「さらっと自分を混ぜんなよ」
「早く帰ろう。僕の妹が待ってるからね。あ、僕はねぇ、街で一番美味しいステーキ!」
「え!?」
「じゃあ私も」
「多少は遠慮しろよ!!」
二人はエイジの叫びを無視して、街に帰りだす。
エイジはその場に立ったまま、何処までも続く綺麗な青空を見上げ、呟いた。
「はぁ……地球に帰りたい。選択肢、間違えたかも………」
エイジは前を向き、楽しそうな二人の姿を見る。
「いや、これはこれで悪くないかな」
そう言って、エイジは仲間たちの下へと走っていった。
異世界コンティニューを読んでくださり、ありがとうございます。
プロローグの話は十二話と十三話の間の話になっていますので、次の話からは時をさかのぼります。
是非とも読んでください。