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風に舞う桜の花びらのように

作者: 鈴本耕太郎

 美しく咲き誇っていた桜が散ってしまうように、全ての事にはいつか終わりが訪れる。

 永遠なんてない。

 そんな事は初めから分かっていた。

 でも……。

 

 僕らの関係が終わりを迎えるのは、もっとずっと先の事だと思っていた。


 春、僕らの目を楽しませてくれた桜の花が、風に吹かれて舞い落ちる。

 いくつもの花びらが宙を舞い、最後の一瞬まで美しいままで。


 儚いから美しいのか。

 美しいから儚いのか。


 それはまるで僕らの関係のように。

 

 いつものように君を迎えに行き、

 いつものようにデートをして、

 いつものように送り届け、

 いつものようにキスをして、

 いつものようにおやすみと手を振る。


 もう戻らない君との時間。

 何気ない日常が幸せだった。

 何でもない事が楽しかった。


 僕の一生の中で最も輝いていた時間だった。


 それがどうして……。

 どうして君だったのだろうか。

 どうして他の誰かではなかったのだろうか。


 どうして君が、死ななければいけなかったのだろうか。

 どうして僕を、連れて行ってくれなかったのだろうか。


 どうして。

 どうして……。


 風に舞う花びらを見る度に思い出す。

 君と過ごした儚くも美しい季節。


 僕は後何回、この景色を一人で見なければいけないのだろうか。

 僕は後どれだけ、君の事を覚えていられるだろうか。


 僕はいつになったら君の元に行けるのだろうか。


 僕は。

 僕は……。


 桜の木に結び付けた一本のロープ。

 丁度僕の頭が入る程の大きさの輪。

 目の前のロープを掴んで首へとかける。

 後は足元の台を蹴れば、それで終わり。

 君の元へと行けるはずだ。


 今行くよ。


 足に力を入れようとしたその時。

 一陣の風が吹き、一斉に花びらが舞った。

 目の前の景色を埋め尽くす程の桜の乱舞。

 春の終わりを告げる、一度きりの美しい舞。

 それはまるで、最後の一瞬まで気高くあろうとしているかのように。


『私の分まで幸せになって』

 

 君が残した最後の言葉。

 大切な大切な君との思い出。

 僕が叶えなければいけない君の願い。


 今まで霞がかったように、思い出す事が出来なかったその言葉が、今になって僕の胸を締め付けた。


 溢れ出した涙が頬を伝う。

 君がいなくなってから、枯れる程泣いたはずなのに。

 こんなに温かな涙は、初めてだった。

 

 涙の向こうでは、たくさんの桜の花びらが、今もまだ舞い続けている。

 地に落ちるその瞬間まで美しくあろうとしているように。


 美しくも力強いその姿は、あの日の君を思い出させた。

 最後の最後まで必死で生きようとしていた、強く美しい君の姿を。


「わかったよ。僕は生きるから。生きて君の分も幸せになるから……」


 ――だから。


 だから君は、安心して待っててよ。


 いつか君の元に行くその時に、胸を張って会えるように。

 僕は力強く生きてみせる。


 この風に舞う桜の花びらのように。









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