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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白い部屋

作者: 蒼天 要

初投稿です。

今まで読む側に居たのですが書いてみたいと思って登録して勢いで書いてしまいました。

なんとなく「誰が悪いわけではないんだけど」ともやっとした感じになるものを目指して書いてみたので読後感はよくない作品です。

もうどれだけの時間をこの部屋で過ごしているのだろう。

壁も床も天井も白く柔らかい。

常に白い明かりで照らされて1日の終わりを知ることすらできない。

この白い部屋には暇をつぶす物は何もない。

私は呆けて時間が流れるのを待つ。

気が付くと眠っている。

そして気が付くと食事と飲み物が置かれている。

緩慢に食事をしてまた呆けて眠る。

そんな時間がどれほど経っただろうか。

もう食事を取ることも面倒くさくなってきた。

始まりは何時だったのだろうか。

私はこのまま朽ちていくのだろうか。

ふと右手を見る。

そうだ。この右手の傷がきっかけだった。

なぜかはわからないが私がこの白い部屋に来た理由はこの右手の傷だった。

あれはどれほど前のことなのだろうか。

仲間たちがいたあの時。



私の最初の記憶は檻に入れられて発熱に苦しんでいた記憶だ。

まだ私は小さかった。

幼かった。

寒さと体中の痛みに苦しみながら誰かに助けを求めていた。

薄れゆく意識の中で誰かの励ましや他の誰かの助けを求める声を聞いていた気がする。

誰かの手で治療されたのだろうか。

それとも私自身の生命力だったのか。

私にはわからないが熱が下がりしっかりと意識が戻った。

誰かが助けを求めるうめき声や誰かを励ます声。

私は直感的に自分の仲間が私と同じように熱で苦しんでいるんだと分かり、必死で励ます声を掛けた。

周りにははっきり檻が見える。

隣にも前にも私と同じように檻に閉じ込められた仲間が居た。

見える範囲の仲間は皆苦しんでいた。

励ましの声は遠くから聞こえる。

苦痛に喘ぐ仲間の声が聞こえたら励ましたくなるものだ。

私には苦しんでいる仲間が見えているのに檻が邪魔をして側に行くことすら出来ない。

だから励ました。

それしか出来なかったのだから。

やがて隣の仲間の苦痛の声が消えた。

幼かった私にもすぐに分かった。

死んだのだろう、と。

どれほどの時間が流れたのかわからない。

見える範囲の仲間はたくさん死んだ。

遠くでまた助けを求めるうめき声があがり必死に励ました。

そんな日々の中、唯一の救いがあった。

私の前の檻に老いた仲間がいた。

その老いた仲間は私と同じように苦しみが終わっていた。

最初は呆けていた老いた仲間が私の声に気づいた日から私は少し救われたのだ。


「そんなに叫んでも誰も救えないよ」

老いた仲間は私を見つめてそう言ったのだ。

私は初めて仲間と会話することができた。

嬉しくて驚いて言葉が出なかった。否、仲間と会話するためにどんな言葉をかければ良いのかわからなかった。

「…脳が壊れてしまったのか。可哀想に」

老いた仲間がそう呟いて私は首を振って言葉をつないだ。

「ちが…違うんだ。会話をしたことが…ないから…」

老いた仲間は私をじっと見つめた。

そして目を細めて哀しそうな顔をした。

「こんなに幼い子まで…」

遠くから聞こえる仲間の声は私自身に掛けられてるかわからないが、この老いた仲間の声は私自身に向けられている。

それが無性に嬉しかった。

「あなたは…ずっとここに居るの?」

私は言葉を必死で考えた。

会話がしたかったから。

「あぁ…俺は違うところから来たんだ。でもお前は多分ここで産まれたのだろう。どこかにお前の親も居るはずだ」

老いた仲間は哀しそうに言った。

「親?親ってなに?」

私は何も知らない。何もわからないから聞いた。

「お前をこの世界に産んだ仲間だ。お前だってなんとなくは分かるだろ?」

そう言われて私は考えた。

暖かい…柔らかい気持ちが心を満たしていたような…気がする。

やっぱり良くわからない。

少しだけはわかる気がするけど、わからないことより老いた仲間の話が聞きたかった。

「違うところってどんなところ?」

老いた仲間は遠くを見るように目を細めた。

「仲間と遊んでいたよ。まだ幼い時のことだけどな」

遊ぶってなんだろう。

老いた仲間は目を細めたままその場所のことを呟いていた。

おもちゃで遊び、追いかけっこして遊び、お腹いっぱい食べてゆっくり眠る。

ここにはない「太陽」という暖かくていい匂いのする光で満たされる世界。

私はとても憧れた。

「…でもある日俺だけここに連れて来られた。それからはずっとここに居る」

この場所しか知らない私からすれば違う場所を知っている老いた仲間が羨ましいが今は同じ境遇だ。

仲間たちの苦痛の声が途切れないこの世界の同じ住人。

もっと話が聞きたかったが老いた仲間は疲れて眠ってしまう。

老いた仲間が眠った後は、また仲間を励ます声をかけ続けた。



私は眠っていたのだろうか。

白い部屋を眺めた。

あれはもう終わったこと。

それでも繰り返し思い出してしまう。

またいつの間にか食事が置かれている。

もう食べる気なんて起きない。

あの日のように外へ出るために必死になることももうないだろう。

この白い部屋では仲間の声も聴こえない。

まだあの檻のほうがマシだった。

そう…まだマシだったんだ。


「外へ出たいか?」

ある日老いた仲間がそう聞いた。

考えたこともなかった。

外へ出たいか…そんなの当然出たいに決まってる。

私達は『実験』されるためにここに閉じ込められている。

老いた仲間からそう聞いた時から与えられる苦痛の意味を知った。

なんの実験かは知らない。

でも私もあれから何度も熱を出し苦しんだ。

仲間の声もいつも苦しんでいる。

ここに閉じ込めた奴らが私達に苦痛を与えている。

それが『実験』ということなのだろう。

老いた仲間もつい先程まで苦しんでいた。

今も苦しいのかもしれない。

老いた仲間の目は白く濁っていた。

「俺は気がついたんだ。奴らは俺達が死ぬと外へ連れ出す。それはお前も知っているだろう?」

私は見えないかもしれない老いた仲間のために大きな声で「知っている」と答えた。

「それだけじゃない。前に熱で脳が壊れた仲間が檻の中で暴れてケガをしたんだ。その時は死んでいないのに外へ連れて行った」

私はそれを知らない。

でも老いた仲間は構わず続けた。

「俺はこのままだと死ぬ。だから暴れてケガをして連れ出させようと思う。うまく行ったら…お前も同じようにここを出るんだ…」

老いた仲間が苦しそうに喘ぎながら言った。

やはり熱で苦しんでいるのかもしれない。

「うん…私も同じようにしてみるよ」

私は熱で苦しんでいる老いた仲間が満足してくれるようにそう答えた。

そして私もまた熱を出した。

苦しくて苦しくて叫んだ。

熱が下がりつつある日、老いた仲間が入ってた檻が空になっていた。

死んだのか?それとも逃げたのか?

私にはわからない。

でもこの苦しみから逃れたいと思った。

そして老いた仲間の檻の中に血が見えた。

やったのか?

老いた仲間はケガをして外へ連れだされ、太陽の下にいるのだろうか。

ケガってどうやったら出来るんだ?

檻に頭をぶつければいいのか?

いや血が出るほど頭をぶつけたら死んでしまうかもしれない。

考えろ…考えろ…考えろ…

なにか尖ったもので刺して…

だめだ。この檻にはそんなものはない。

どうやって老いた仲間はケガをしたんだ?

そして自分の手首をみつめる。

噛みきれば…

鼓動が早くなる。

前に針を刺されたことがある。

あの時だって痛かった。

でも血がたくさん出るほど自分で噛み切らなければここから出られないだろう。

このままここで死ぬか、自分で噛み切って外へ出るか…。

手首を見つめたまま逡巡した。

しばらくためらった後私は手首に歯を立てた。

激しい痛み。

これでいい。これでたくさん血が出る。

口から力を抜いて傷を見てみる。

思ったほど血が出てない。

すぐに止まってしまいそうだ。

もう一度噛み付いた。

深く噛んで痛みでうめき声が出た。

傷を見るとやはり血が多く出ていない。

痛いばかりで血がたくさん出ない。

また噛み付いて今度は傷が大きくなるように肉を引きちぎらんばかりの勢いで、歯を立てたまま手首と口の間を取る。

傷を見てみると血が沢山出ていた。

でもこれで足りるかわからない。

老いた仲間の檻に残っていた血はもっとたくさんだった。

痛みの余韻で体ががくがくと震えるがもう一度深く噛み付いた。

そして傷を広げるために引っ張る。

痛みで気を失ってしまいそうだ。

それでもたくさん血を出すために力を込める。

『ぶちんっ』

口の中に自分の肉片がある。

傷からはたくさんの血が流れ出ている。

やった!これで外へ出られるんだ!

心のなかでそう叫んで流れ出る血を眺めていた。

体ががくがくと震え体温が下がっていくほど血が出ているのに誰も来ない。

早く外へ出してくれという思いで叫びたいのに力が入らない。

血がどくどくと流れ出ていく。

そこで私の意識は途切れた。


目が覚めたら白い光で眩しいところだった。

これが太陽なのかと思った。

傷は手当され柔らかい床に横たえられていた。

仲間の苦痛の叫びは聴こえない。

ここがきっと違う場所なのだと、その時はそう思った。



それ以来、私はこの白い部屋にいる。

この白い部屋は檻の中より快適だ。

あれ以来、私は熱を出していないから実験されていないのだろう。

でもこれはどう言い表せばいいのだろう。

なにもない。

そうここには何もないのだ。

苦痛の喘ぎとは言え仲間の声があったあの檻の中を懐かしいとさえ思う。

白い光は部屋の隅々まで届き、消えることはない。

それがより一層私の心を疲れさせる。

外へ出たいという必死な思いで自分の手首を噛み切ったというのに、何もない場所へ連れて来られた。

もう何も希望はない。

生きていたらまた檻に戻されるのだろうか。

仲間を感じられる檻だが、実験の苦痛を与えられる。

このままこの白い部屋に閉じ込められるのだろうか。

実験の苦痛はないが、仲間を感じられない。

またケガをすれば外へ出られるだろうか。

多分無理だ。

だから私は食事を摂ることもやめた。

緩やかな死がもうすぐそこまで来ていることを私は感じている。





「死んじゃったなぁ」

白衣の男が特殊ケージを覗きこんで言う。

「焼却の準備しないとね」

白衣の女性がコーヒーカップを置いて言った。

「自傷行為に走るラットは少なくないけど食事を拒んで死ぬとはね…ストレスかな」

白衣の男性が特殊ケージを蓋を開けてラットを取り出した。

すると白衣の女性は慌てて「ちょっと!迂闊に外に出さないでよ!」と非難の声を上げる。

白衣の男性は肩をすくめてラットの頭を突く。

「このウィルスは噛まれなければ感染しないよ。唾液に含まれるんだから。もちろんこのラットの死体を君が食べちゃうっていうなら話は別だけどね」とおどけて言う。

女性は後ずさりしながらドアに向かう。

「そう言われてもウィルスの突然変異なんて稀なことじゃないのよ。これだけ実験してるラットだし万全を期すために私は断固この部屋から出て消毒して隔離室にこもるわ!」

ドアから出て行く女性を見ながら肩をすくませた男性は手にしたラットの死体を眺めてポケットから取り出したハンカチの上に乗せる。

「…焼却する時に供養したってバチは当たらないだろうに」

ハンカチの上のラットの死体を机の上に乗せて、男性は一緒に焼却してやろうと花瓶に目を向けた。

残念ながら花が活けられていなかったので他の部屋に探しに行くことにした。

このラットは長い間実験に貢献してくれたし、自傷行為の後は特殊ケージで見守ってきたがウィルスによって凶暴化したわけではないことも検査済みだ。

活動が停止してから3日経って先ほど獣医からの死亡も宣告されてる。

「怖がりすぎだよ。まったく…」

呟きながらドアを開けて他の部屋に男性は向かった。



ココハドコ?

シロイヘヤジャナイ。

ソウ、ワタシハソトヘイキタイ。

ソトヘ…


本能の赴くままにラットの死体は歩いた。

そして走った。

死んだと思われたラットは死んではいなかった。

それがウィルスの変異によるものなのか、ラットの欲求が大きかったからかは分からない。

ただこれより後、高熱と脳障害を引き起こすウィルスが蔓延することになった。



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初投稿なので読みにくかったら申し訳ありません。

思いついたまま書いた話なので設定なども甘いですが流し読みでお楽しみいただければと思います。


ラットは逃げ出した後憧れの太陽を見ることが出来たのか。

研究していたウィルスは危険なものだったのか。

すべて曖昧ですが読者さんの想像の余地を残しておきたかったのでこの形に留めました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ちゃんとしたテーマがあって読み応えがありました。 [気になる点] 改行とかは、もう少し読みやすくする工夫をしたほうが良いと思います。
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