表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/87

第六十六話 祖国の異変6

 王都の手前の街道。

 闇に沈み、死人が闊歩するその街道に、白銀の光が舞い降りる。

 光が散った後、四人の人間がそこに立っていた。

 城門に向かっていた、死者たちの数人が、生者の持つ魔力に惹かれて寄ってくる。


「こっちのが多いな」


 カルロが辺りの死者を一気に灰にした。

 が、燃やしてもすぐに、地より死者が湧きでる。


「うわ! これは、まずくないですか?」


 ダニーロが燃え上がる死者たちを避けるようにのけぞる。

 弱気な彼に、グイドが厳しい言葉を投げつけた。


「しっかりしろォ! おまえそれでも、兵士か!?」


「僕は頭脳派なんです!」


「頭脳派は竜にケンカを売らねえだろ?」


「えっ!? 誰からそれを!?」


「屋敷の兵士たちが、な」


「身内の裏切りか。くっ、一体誰が……!」


 言い合いながらも、ダニーロは剣を抜き、グイドが大斧を構える。

 背後の会話を聞きながら、カルロは周囲を見渡した。


「ふん、何度でも湧き出るなら、何度でも燃やすまでだ」


 そこら中で炎が上がり、闇に沈んだ大地を煌々と照らす。

 花咲き乱れる王都の付近は、いつもとても良い香りに満ちていた。

 しかし、今は吐き気を催す、異臭が辺りに漂っている。

 真っ暗な地面を一歩進むたび、足に伝わる柔らかな感触。

 それがなんであるか察して、ルクレツィアは眉根を寄せた。


「王都内の、死者も一掃できますか?」


「んー。あっちは生きてるのも紛れてるからなあ。散らばっている割に、数が多い。何人が燃やしてもいいなら、ってとこかな」


「ならば、わたくしたちが中へ行きます。転移魔術陣が使えればよいのですが……カルロは退路の確保のためにも、外の死体の相手をお願いいたします。外の死者の数がこれ以上増えれば、王都から出るのも難しくなるでしょうし」


「わかった。いざというときは、あの脆い結界を破って殴りこむからな」


「……結界が、張られているのですか?」


「ああ。つっても、前と違うみたいだ。城の周りだけ、外からの死者の侵入を防ぐために張っているっぽいけど……あちこち綻んでるし、内側からも湧き出ているから、意味があるのかわかんねーな。あれ」


「城の周りにだけ、ですか。……魔術は使用可能そうですか?」


「おう。あ、ちょっと待て。それとは別のうっすい結界がもう何枚か、王都全体へ展開しているな。中では転移陣ってやつはたぶん、使えなさそうだから気を付けろよ。他の魔術はー……今ちょっと扉の内側の死体を魔術陣ってやつで燃やしてみたけど、問題はなさそうだ」


 カルロの言葉にルクレツィアは王都の方を見やった。

 王都内の状況によっては、家族や友人を連れて避難しなければならない。

 中から転移することができないのであれば、一度外に出てから転移する必要がある。

 護る人間が多くなるほど全員を無傷で避難させるのは難しくなるだろう。

 ならばやはり、あらかじめカルロを城壁外に残して、退路を確保しておいた方が良い。

 ルクレツィアはそう判断した。


「どさくさに紛れての暗殺を防ぐためでしょうか。わかりました。では、ダニーロ、グイド、向かうとしましょう」


「はい! 姉貴は王宮に居ると思うので、出来れば寄って下さい」


 ダニーロは剣を抜いたままルクレツィアの後を追い、大斧を肩に担いだグイドが続く。


「おっと、その前にソフィアの無事も確認させてくれ」


「ええ。順に寄ってゆきます。わたくしも、王都の屋敷に向かうつもりですので」


 幸いにして門の前の石橋は、無事であった。

 しかし、鉄の大門はおろされており、外側から開くことは難しいだろう。

 また、襲われて避難したのか、あるいは死者に食われたか、門番も不在であった。

 橋の上にも鉄門を押し叩く死者たちがひしめいていたが、カルロが炎をはしらせれば瞬く間に灰と化した。

 カルロが作った道を通る一行。


「開けるからちょっと下がってろ」


 閉じた鉄の門を見上げる三人にいって、カルロは大きく、重たい鉄の大門を片手で持ち上げた。


「物凄い馬鹿力ですね」


「……俺は馬鹿じゃない」


「アッハイ! すいません!」


 ダニーロとそんなやり取りをしつつ、カルロは持ち上げた門の隙間から三人通した。

 再び門を閉じる前に、ルクレツィアがカルロを振り返る。


「では、また後ほど」


「ああ。名前を呼んだら、すぐ駆けつける。この世界のどこに居たって、ルクレツィアの声なら聞こえるから」


 だから、無茶をするな。

 そういって、カルロは門を閉じた。

 足早に掛けていく、ルクレツィアの気配を感じながら、湧き出る死体を燃やしてゆく。

 いつもなら、それなりに楽しめるのに、ちっとも楽しくなかった。

 ただ去ってゆく彼女のことばかり、気にかかる。


「ぬ! なんぞ、いきなり死体が燃えるとは、面妖な!」


 遠くで響く野太い声。それは、どこかで聞き覚えのある声だった。


「生きている人間が居たのか」


 改めて、見てみるとこの辺りで生きている人間は彼だけのようだった。

 群がる死者紛れて、見落としていたらしい。


「ふむ。どこかで見たような顔だな。たしか……竜殺しまがいの男であったか」


 砂色の髪の熊のような男。

 エスターテやアルシエロなどでも現れた、アルシエロの第一王子サウロだった。

 彼の旅装束は汗と油、そして腐臭が染みついている。

 どれほどここで戦っているのか。

 手足をいくらか齧られたようで、血がにじんでいたが、気にした様子はない。

 彼の大剣の刃先は油で鈍っており、戦い方も切りつけると言うよりは叩き潰すと言った風になっていた。

 群がってくる死者を殴って爆散させながら、カルロはしばし考える。


「――ああ。お前、ちょいちょい出会う面白いやつだな」


「ははは! 我をそのように称するとは、なかなかに面白いやつよ!」


 豪快に笑いながら、サウロが剣で死者の脊椎をたたき折る。

 腐った肉を勢い良く飛ばしながら、彼は嗤い続けた。


「今日は変わった人間によく合うな。そういえば、お前とおんなじ臭いのする男……ええと、弟だったか。そいつに伝言を頼まれた」


「弟、というと、ニコラか! 何と申しておったのだ?」


「一度帰ってきてほしいらしい」


「うむ。承知した。この地の民を救ったならば、国に戻ろうぞ!」


「すぐ帰えんねーの?」


「苦しむ民を見捨てて帰るなど、我にはできぬ!」


「あんた、レッチェアーノの人間だったっけ。人間は生まれた国を大事にするんだろ?」


「いいや。だが、この際、細かいことはどうでも良いのだ! 助けを求る民あらば、我は応じるのみ」


「ここに生きてるやつはいねーぞ?」


「分かっておる。門が重くて突破できぬのだ。死者ならば我の敵ではないが、まさか門に阻まれようとは……」


「あれは、人間には重いよなあ。開けてやってもいいぞ」


「我に開けられぬものが、その細腕で開けられるとな!? ふははは、ぬかしおる! さて、無駄口叩いておらず、目の前の死者どもをあるべき場所へ送り返そうぞ!!」


 大剣を振り上げていきり立つサウロに、カルロがからりと笑う。


「あんた、やっぱり面白いな。嫁さんがあっちに行っている間、付き合ってやるよ」


 言いながら、カルロは素手で三体の死者を粉砕した。


「苦しゅうないぞ! その豪力、我が家臣たるに相応しい!」


「あ。それは、いらねー」


「照れおって!」


「照れる要素なんかあったか?」


 軽口をたたきながら、彼らは死者を次々とほふった。

 噛み付き、しがみついてくる死者たちの首が飛び、体が爆散する。

 ルクレツィアと闘うときほどではないが、こういうのも悪くないな。

 我知らず、カルロは微笑んで、サウロと共に拳をふるうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ