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第三十話 赤竜

三十と三十一話は短編の内容をそのまま持ってきている部分も多いので、本日のみ三回更新いたします。

一回目:6:00 三十話

二回目:12:00 三十一話

三回目:18:00 三十二話

宜しくお願い致します。

 ――赤竜カルロは、幼竜のころから血気盛んな竜だった。

 一枚一枚に燃え盛る炎を宿したような鱗をもち、全身から燐光を発する竜体は、炎天下の太陽を思わせる。

 彼が空を飛べば、太陽が二つあるかのように錯覚するほど、一際激しく、純粋な太陽の魔力を放つ竜。

 カルロは生まれてより、その特異な魔力のせいで悪目立ちしていた。 

 竜たちの中では最後に生まれたカルロを軽視する竜もいれば、何かと世話を焼きたがる竜もおり、彼の周りはいつも賑やかだった。

 とはいえ、構われ過ぎれば嫌気もさすというもの。

 たまには一人になりたくて、風に乗って空を飛べば縄張りを侵したとして喧嘩を吹っかけられ、地に潜れば、眩しくて眠れないと文句を言われる。

 知ったことか、と返り討ちにしている内に最強の称号を得てしまい、彼はますます面倒な立場となった。

 元々カルロは自らの輝きに負けぬほど、きらきらと輝く美しいものをたくさん集めて、日がな眺めているのを好む。

 しかし、売られた喧嘩を買わずにはいられない性分であった。

 腕試しにやってきた竜を返り討ちにすると、今度はうわさを聞いた別の竜がやってくる。

 面倒くさくて仕方がないと、愚痴を言うカルロに最初に生まれた竜――カルロはじいさんと呼んでいた――は、ただ嬉しそうに笑うばかりで、周りを止めてはくれなかった。


「じいさんさ、なんでそんなに嬉しそうなんだよ」


 カルロは一度、老竜に問うたことがある。


「おぬしは最後に生まれた故に、我らの創造主におうたことがなかったのう。じゃから、我が教えてやろう。我ら竜は、愛し、滅びるために生まれた種だ」


「意味が分からないんだけど」


「竜はツガイを持つと、二つの選択を迫られる。ツガイと一つの子を産み、産んだ子が育つのを見送って短い寿命を迎える道。もう一つは、子を望まず、ツガイと二人で死ぬまで長く生きる道じゃ」


「ふーん。じゃあ、俺もいつかそのツガイってやつに出会えるのか?」


「いいや。童は特別じゃ。竜は初めに、百と一体、生み出された。最後に生まれたおぬしにツガイはいない」


「はあ」


「おぬしは我らを造りたもうた方の、絶望であると同時に、一縷いちるの希望となりえる竜と聞いている。まあ、童には迷惑な話かもわからんがの。皆がおぬしに構いたがるのは、いづれ孤独になると知ってのことだろう」


 そう言って、大きな闇色の目を優しく細める老竜に、カルロは肩をすくめた。


「そうはいっても、限度があるんじゃねえの? なあ、じーちゃん」


 小憎たらしい若竜の生意気な言葉にも、ただただ楽しげに頷くばかりの老竜。

 カルロはらちが明かないとばかりに、彼の元を飛び立った。

 それからも、喧嘩を売られては返り討ちにする日々。

 こんな毎日を繰り返しているとせっかく集めた宝物を愛でる暇もない。

 挙句の果てに、カルロが成竜となってからは、幼竜たちが度胸試しとして、挑んでくることさえあった。

 さすがに嫌気がさしたカルロは、己の体を小さなトカゲに変え、集めた宝の山にもぐりこんだ。

 月の魔力を集めた魔石の山は太陽の魔力とも相性が良く、カルロのお気に入りの一つである。

 視界いっぱいに輝く、ひんやりと冷たい感触の魔石。その魔力を堪能しているうちに、カルロはいつしか深い眠りにつく。

 ――次に目覚めたのは、頭を固い何かで小突かれたときだった。


「おおっ、こりゃすげえ。デカい月の魔石だァ。こんだけデカけりゃ、一財産築けるな」


 人間の男の声が聞こえたかと思うと、周囲が徐々に騒がしくなってゆく。


「おい、見てみろよ。同じ大きさの魔石がごろごろ埋まっているぜ。おっと、どいてなオチビちゃん。この魔石はトカゲにゃもったいねぇ」


 大きな鉄の塊で頭を小突かれ、抱えていた魔石を取り上げられたカルロは一気に覚醒した。

 瞬間、体を元の大きさに戻し、咆哮とともに四方へ真紅の炎を吐き出す。

 自らの目覚めを叫ぶ咆哮だった。しかし、これに応えた竜はいなかった。

 周囲を見渡せば、彼が眠りにつくより以前と少し変わっているようにも思えたが、さほど気にはならない。


「放って置いても、そのうち誰かくるだろ」


 疑問に思いつつも、カルロは今の静かな環境を満喫することにする。

 まずは、自分の宝の山を埋めていた砂地を一か所にかき集めた。

 そうして、いくつか掘り出しては眺めることにする。

 月光を受けて銀の光を放つ魔石は、時を経てなお美しい。

 時折、小さな生き物たちがカルロの元を訪れたが、度胸試しにつきあってやるつもりはなかったので、さっと焼き払った。

 彼は石を愛でるのに忙しいのだ。

 小さな声で何やら呼びかけてくる生き物もいたが、小さすぎて聞き取れない。


「ああ? 小さすぎて全く聞こえねえッ! もっと魔力のせて大きな声で話せ!」


 聞き返しただけで、カルロの咆哮と魔力に吹き飛ばされて、見えなくなってしまう。

 あの小さな生き物たちは、一体何をしに来たのやら。

 まあ、カルロにとってはどうでも良いことだったので、さほど気にはならなかった。

 ほとんどの竜は、言葉で伝えるなどと言う、面倒なことは好まない。

 けれど、カルロは意思を言語化して伝えることを好むし、言語を用いた会話も嫌いではない。

 言語化して意思を形にすると、これまで感覚的に行ってきた、地形の変更や魔石収集がより簡便になるからだ。


「集まれ~、俺の宝石たち!」


 地面から卵が産まれるように、ぽこりぽこりと月の魔石が姿を現す。

 地に埋めていた月の魔石をたくさん呼んで腕に抱えると、ひんやりと冷たい。

 心地よい、月の魔力に、カルロはなんとも幸せな気分になった。

 そのままぼんやり時を過ごしていると、不意に、強い月の魔力が近づいてくるのを感じた。


「あれ、俺そんな巨大魔石……つーか、岩山? 埋めてたっけ? でもこれ、埋まっているというよりは、空間を飛んできているような……」


 呟いた直後、突如として手の中の魔石が音を立てて割れる。

 視界を覆い尽くす銀の光の爆発とともに、頭部に激痛が走った。

 光が収束した後に、己の体の横に横たわっている巨大な黄金の角を眺めて、カルロが驚きに目を見開く。


 ――つのが、おれている。


 どの竜よりも大きく、雄々しく、そして燦然さんぜんと輝く金色の……自慢の角が、折れていた。

 理解すると同時に、カルロの全身が震え、筋肉が強張る。

 痛みが限界まで達した時、魂が咆哮を上げた。


「いっ――てえぇぇッ!!」


 見開かれたカルロの金色の瞳に飛び込んできたのは、銀色の小さな光だった。


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