表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夏の蛾

作者: NOZON

 オヤ、眩しい。アラ、彼の色男、一丁前に女を連れて帰って来やがった。ハハ、随分と妥協の色が見られるな……。今朝、彼様なに汗を流して片した部屋だって云うのに細かい所を粘々と指摘為れたら堪らんね。確かに俺も其処は汚いと思って居たが、其れに為たって遠慮が無い女だな。マア、厭、本当に今日は俺も堪える程に蒸し暑い。ハハ、野郎、立腹々々……、然し乍ら欲望には敵わんと見える。青筋を立てて居るが言い返せず、諂笑の他に為兼ねる様子。ンン、酒で取り成す企て……、女を妖怪か変化か何かだと割り切ったのか。安い酒、安い肴……。イヨ、仰る通り……。野郎も遂に怒ったか、俺も一寸言い過ぎだと思った処だ。オオ、殴る々々……。足を殴って動けなく為、腹に座り込んで口を押え、手当たり次第に殴る々々……。余り暴れると役人が来て終うなァ。オイ、遣り過ぎじゃねェか、ナア酷い様相だ。殴られた処が変色為て、目許は腫れて……、アア、口から鮮血が一筋……。強く掴み掛かったなァ、女の手首に手の陰りが見える。男も目の上を切って血が流れて居るじゃねェか、オヤ、腕も裂傷で生々しい。血が飛び散る沙汰には成らなかったが……、女、倒れ伏して本当に気絶かよォ。死んで居るんじゃあないだろうな、……呼吸は確かか。アア、何て事だ。女の半身を剥いて、自分の性器を宛がって……、非情な野郎だ。許すまじと雖も俺には何も出来ねェ、只管に見下ろして居る他に術は無い。野郎が動作を繰り返す度に女の口から伝う血が波打つ。見て居るのも飽きる程に単調で、死の臭いが噎せ返る様な……。男の屈めた背からは並々成らぬ生命を感じるが、浮かび上がる雲霧の如き生命は人間を象っちゃ居ねェ。女は意識が有るやら判然と為ない、暴虐を味わわされた死体に酷似為た儘で……、彼れはハハ、俺と為た事が文豪の似せ者とは恥じる可きか。男も用を済ませて、サア、問われるぞ……。オイ、オイ……。アア、遂に殺して終った。今の時期、死体は直ぐに腐って臭うぞォ……、其様な押し入れへ突っ込んだって……。御前は出掛けると云うか、何ィ、知り合いと酒を酌み交わす約束を入れて居やがる。狂人だ、狂人だ、ハハ……。オヤ、暗い。斯う暗い中では凝と為て居る他に無い…………。オオ、押し入れが開けられて、災難な女ァ、生きて居たのか。アア、眩しい。卓上の燐寸を取り上げて、擦って堆い書類へ放ってから机へ向かい筆を執る。此奴も狂人か……、短い手紙だな、丸めて窓の外へ放り遣って……、オイ、オイ、押し入れへ戻るのかよ。焼け死ぬぞ、アラ、戸を閉めて終って……。扨て、俺も焼かれちゃ敵わない。夏の夜空へ、番いを探しに行くと為よう。パタ、パタ、パタ…………。

 小さな蛾が飛び去った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ウェブ小説なので、こまめに改行すると読みやすくなります。 なろうに限らずウェブで文章を登校する際は、 読み手が読みやすい文体と文字の配置を心掛けるよ良いと思います。 短い話ですが、雰囲気…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ