高嶺の花 その②
ここから物語は急展開を迎えます。
店を出たリュウとエリカは、並んで道を歩いていた。
「ねぇ、貴方の名前はなんて言うの?」
「あ?リュウだ。」
「へー。リュウ君って言うんだ。よろしくね。」
馴れ馴れしく話しかけてくるエリカをウザったく思い、適当に返答していると、2人の目の前に立派な建物が見えてきた。
見るからにお偉いさんが住んでそうな赤レンガの豪邸に興味を持ったリュウは通りすがりの男に
「なぁ。このバカでかい建物はなんだ?」
と尋ねると、男は少し驚いたように
「何ってこの街の領主・ハルドさんの館にきまっているだろ。そんなことも知らんとは、さてはお前、王国の方から来たもんか?」
と言いリュウをのぞき込む。
「まぁ、そんなことだ。」
リュウは自分に興味を持ち始めた男に面倒くさそうに言葉を返す。
リュウをジロジロ見ていた男はやがて興味を失ったようで、
「ふ~ん。」
と言うとどこかへ歩いて行った。
リュウはふぅと一息つき、もっと近くで見ようと館の方へと歩いた。
門の前まで来ると、『ペルルフーン王国パンタ街領主ハルド・G・パンタルンの館。』と書かれた看板が立てかけられていた。
赤レンガの館は、高い塀で囲まれており、西洋の建物のようだった。入り口にはがたいの良い男2人が剣を片手に佇んでいた。さすが領主、警備もしっかりしている等と考えていると、
「うわぁ~~。すごいすごい!」
と、隣にいたエリカが館を見て騒いだ。
仲間と思われるのが嫌だったリュウは、情報収集をしようと、エリカのもとを離れていく。
しばらくして隣にリュウがいないことに気付いたエリカは
「まってぇー。」
と追いかけたのだった。
その後幾つかの情報を得た2人は、エリカの金で「ウルフのホラ吹き亭」という何とも胡散臭い宿に泊まることとなった。リュウはエリカと別れ、自分の部屋に入ると早速情報整理をし始めた。
この街『パンタ街』はペルルフーン国の東に位置するらしい。
ペルルフーン国の他に『ランゴスタ国』と『アロス国』という2国があり、海を渡ると踏りすがりの男が言っていた王国『カザール』があるようだ。
そして、カザール王国よりもずっと奥には凶悪・最強な魔族や魔物のいる、死へと導く地があるらしいが、そこへ足を踏み入れた者は勇者一行だけらしい。そんな恐ろしい場所に行くはずなどないだろうが...。
そんな中でも一番の収穫となったのは、領主・ハルドの館に神の創造物があるということだ。ハルドの館にある神の創造物は、赤と黒の双剣らしい。リュウは手元の剣の鞘を抜く。黄金色に輝く刃が僅かに輝いたような気がした。
リュウが剣を鞘にしまうと同時にコンコンと扉を叩く音がした。
「誰だ。」
再度鞘を抜き、剣を構えるリュウ。するとドアの向こうから
「私よ。エリカよ。」
という声が聞こえる。
お前かよと舌打ちをしながら、リュウは鞘に収めた剣をベットに置き、扉を開ける。
そこにはなぜか顔を赤らめたエリカがいた。
取りあえずリュウは、エリカを部屋へ招くと、ベットへ腰かけた。するとエリカはリュウに密着するように隣に腰かけた。突然の接触に驚いたリュウは飛び上がりそうになる。
その状態で沈黙が続き、やがて、エリカはリュウを見つめるとゆっくりと口を開いた。
「私、この世界に突然転生させられて、一人ぼっちで本当に怖かったの。何とか生きてきたけど、戻る方法も全く分からなくて。いっそのこと死のうと思ったりもした。でもそんなときにリュウ君と出会って...。本当に嬉しかったの。私のことウザったいっておもってるかもしれないけど、私にとってリュウ君はとっても大切な人なんだよ...。」
そう言うと、エリカはリュウに顔を近づけ始めた。
突然の告白にさらに驚くリュウ。
リュウにとってエリカはただの使える駒でしかなかった。そんなエリカからの突然の告白に、リュウの心は揺れだす。
本当に俺がエリカにとって大切な人だとしたら、ずっと一人きりだと思っていたこの世界で心を通じ合える奴がいたとしたら、なんのとりえもない俺を好きだと言ってくれるのなら...。エリカへの想いが徐々に強くなる。
俺がエリカを守る。俺がエリカを日本へ帰してやるんだ。
強い使命感に目覚めたリュウは近づくエリカの顔に対して自分も近づけ始めた。
2人の唇がふれあ.....。
グサリ。
場違いな音が桃色な空間を破壊するように響き渡る。
リュウの左胸にはナイフが深々く刺さっていた。
リュウは驚いたようにエリカの青い瞳を見つめる。
「くっ、なぜ...。」
歯を食いしばるリュウを虫けらでも見るような冷たい青い瞳に変えたエリカは、ふっと笑った。
「私がアンタみたいな野郎のことを好きになるとでも思ったぁ?
馬鹿じゃないの。私は大企業の娘よ。アンタみたいなやつが釣り合うわけないじゃない。私の目的はその剣よ。私はすべての神の創造物を手に入れてひとりで日本に帰るのよ。アンタがこんなトラップにかかるなんて、想像以上の馬鹿で助かったわ。それじゃあ。」
そう言うとエリカはベットの剣を取りスタスタと去っていった。
くそっ、はめられた。こんなくそ女のせいで俺の人生は終わるのか...。
それを最後にリュウの記憶は永遠の闇に閉ざされた。
読んで下さりありがとうございました。
4話目にして主人公が死にました。
今後の展開を楽しみにしていてください。
次回はでき次第更新します。