悪への扉
前回の続きです。内容に疑問を覚える人もいるかと思いますが、どうか最後まで読んでください。
状況を一先ず整理したリュウは、これからどうしたものかと頭を悩ませていた。突然の転生への驚きは、普段のラノベで耐性ができたせいか、わずかなもので冷静でいられた。ラノベのテンプレなら誰かと出会うんだろうか等と考えていると、案の定気の良さそうな老夫婦がリュウのことを珍しげに見つめていた。
「坊や、どこの国から来たんだい?」
老婆がリュウに尋ねる。
「えっと...日本っていうところです。」
「ニホン?聞いたことないわねぇ。おじいさんは?」
「はて?ワシも聞いたことがないのぉ。」
「とにかく坊や、今夜は家に泊まりなさいな。日も落ちかけているしね。」
リュウは平原を見渡すと夕日が沈もうとしているのが見えたので、泊めさせてもらうことにした。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」
その言葉を聞いた老夫婦はリュウの顔を見て微笑んだ。
老夫婦の家は平原にある小さな集落の中にあった。この集落は「アワム」という名で、30人ほどの人々が住み、農業で生計を立てているらしい。平原なら魔物がいるのではないかと思ったリュウが尋ねると老夫婦は、いるにはいるがゴブリンくらいで、集落の若い者たちが撃退しているので問題ないと言っていた。
家に着くと、老婆は早速食事の準備を始めた。リュウは老夫と共に椅子に座った。部屋の見渡すと壁になにやら立派な剣が飾られていた。
「あの...あそこに飾っている剣は何ですか?」
老夫はその質問を待ってましたというようにニヤリと笑うと、
「この剣はのぉ、ワシが若い頃にもらった自慢の剣なんじゃ。神の創造物というものの1つでワシの宝なんじゃよ。」
といった。ん?神の創造物?俺が探してるものの1つじゃねぇか!いきなり1つ目が見つかるとはラッキーだな等とリュウは思い、他の神の創造物についても分かるかもしれないと考え、
「他にどのくらい神のの創造物はあるんですか?」
と尋ねた。
「さあのぉ?正確な数はわからんが各国に1つはあるようじゃよ。」
そう老夫は答えると、
「まぁ、そんなものの1つをワシが持っているのも不思議な話じゃかのぉ。」
と言いほほほと笑った。そんな事を横にリュウは、いかにしてあの剣を手に入れるかを考えていた。そして深夜に盗むのが一番無難か、と考えをまとめた頃、老婆の
「食事の準備ができましたよ。」
と言う声が聞こえてきた。
リュウと老夫が席につくと、焼きたてのパンと具材のたっぷり入ったシチューのようなものが運ばれてきた。そういえば母の精神が不安定になってからは、あまり手料理を食べていなかったなぁと思い、料理に目を向けていると、
「遠慮せずにたくさんお食べ。」
と老婆が言った。リュウは木のスプーンを手に取とり。シチューもどきを口に運ぶ。温かくクリーミーな味が、リュウの心を落ち着かせる。
「美味しいです。」
老婆はにっこりと笑うと自分もシチューもどきを食べ始めた。
シチューのような料理は「クーミル」という名で、庶民に広く知られているらしい。そんなことを聞きながらリュウはこの優しい老夫婦の恩を仇で返すのはどうかと一瞬思ったが、リュウの中の悪心は思った以上に大きく、すぐに打ち消してしまった。そして深夜の行動へと向けて再度クーミルを食べ始めるのだった。
深夜、月の明かりに照らされ、1つの影が動いていた。もちろん正体はリュウで、老夫婦が寝たであろうこのタイミングを狙い行動をとったのだ。老夫婦に用意してもらった部屋の扉を静かに開け、廊下に出る。真っ暗な廊下を一歩ずつゆっくりと歩いていく。リュウは、自分の鼓動を強く感じ、盗みのスリルを堪能していた。老夫婦の寝室の前を通るとき、リュウのスリルへの興奮は最高潮になった。数時間前まで優しくしてくれた老夫婦に対して俺は奴等の大切なものを盗むという仇で返す...最高じゃねぇか!こんなに盗みが素晴らしいとは...ふはは、朝奴等が起きたらどんな顔をするのだろうか、俺を恨むだろうか...最高だ!
このときのリュウは狂喜的で悪に完全に支配されていた。
「あばよ。」
と呟きリュウは暗闇へと走っていった。そんなリュウの様子をフードを被った、青い眼の女が屋根の上から見ていたがそれを知るものはいなかった。こうして、リュウの泥棒としての扉が開かれたのだった。
読んでくださりありがとうございました。
厨二全開ですが、今後もよろしくお願いします。
次回は未定ですができ次第更新します。