0話 はじまりはじまり
「おい、こりゃどうなってんだよ」
南アムリヤ大陸リャンゼン山岳国の湖畔にて呆然とした状態の男が呟いた。
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彼、立浪 怜央は高校生である。
学力は平均的だが、その身長は優に180センチを超えており
体格も中学まで運動部に所属していたおかげか、元からの素養か
無駄に筋肉質というだけでなく引き締まった体躯をしている。
顔つきはハンサムというより、凛々しい部類であり昨今の
ただイケ風潮にもにも片足だけなら踏み込めるレベルである。
これまでの記述だけでも立浪 怜央が一個人に埋没する人材でない
ことがありありと分かるが、特筆すべきは彼の並々ならぬ人望にあった。
高校2年生になり、急遽生徒会選挙に立候補し事前の選挙活動無しに
全票の9割をも攫っていった彼は生きる伝説とさえ言われていた。
現在も生徒会長を2期連続で務めており、選挙戦の前から3期当選も
確実とさえ言われており、全校生徒から兄貴と慕われていた。
そんな軽く人並み外れている彼だが、趣味は人並みであった。
ゲームである。
ただ、ゲームが趣味といってもライトなもので専らプレイするジャンルは
RPGと決めていた。
ドラゴンなクエストやファイナルなファンタジー、ポポロ的なものや
幻想的なもの、時流に乗ってポケット的なものもプレイした。
そんな彼が今までにない程、ハマっているゲームがMMORPG(多人数参加型
RPG) Jobs and Arts Online(通称:JAO)である。
JAOの大きな特長を挙げるとするならば、そのタイトル通りジョブとアーツ
の2つにあると言われている。
まず、ジョブ。プレイヤーによっては職業、職とも言われているこの要素は既存の
RPGやMMORPGにも数多く取り入れられているが、JAOでは存在するジョブ
数の桁が違い、現在の総ジョブ数は300を超えている。
クローズドβ時でも50、オープンβ時に100、正式サービス時に200と着々と
アップデートの度に数を増やしておりプレイヤーからみても「正直増やしすぎだろ・・・
把握しきれねぇよ///」と嬉しい悲鳴で騒がれる程であり、運営は「それ程でもない」
と謙虚に対応している。
もちろんジョブの魅力は数だけでなく、そのメリットにもある。そのメリットこそ
ジョブ補正である。
ジョブ補正とはジョブ毎に設定されている補正値のことで、様々なステータスが
補正される。基本的なジョブ補正であれば腕力(小)<腕力ステータスが5%上昇>、
体力(小)<体力ステータスが5%上昇>などが存在している。
さらにジョブ補正はジョブを育てることによって成長する。先に挙げたもので例えれば
腕力(小)は腕力(中)<腕力ステータスが15%上昇>に、体力(小)は体力(中)
<体力ステータスが15%上昇>に成長する。
初期ジョブには(小)効果の補正しか付いていないがこの補正成長により初期ジョブ
でも補正を成長させ、格上のジョブに匹敵させられるようになっている。
この為、「雑魚ジョブの戦士に負けた。氏にたい」「oi、おい、何で初期職の盗賊に
攻撃あたらねえんだよ。升つかうなよハゲ」という香ばしい悲鳴が聞こえるように
なっている。
そしてもう一つの特長がアーツである。アーツには大きく分けて2つのアーツが存在
している。
それが戦闘用アーツと生産用アーツの2つであり、前者は
戦闘職が後者は生産職が使用している。
アーツもジョブ毎に存在しており、近接職なら直接戦闘系アーツ、魔術師なら魔術アーツ、
鍛冶師なら鍛冶アーツ、採掘師なら採掘アーツetcと多岐に渡っている。
それこそジョブが増える度にアーツも増えている為、ジョブも把握しきれていないプレイヤーにとってみれば「嬉しいけどもうやめてください(震え声)」状態である。
アーツにもジョブと同様に成長要素がある。ジョブのようにレベルを上げる単純成長ではないが、レベルアップ時に付与される成長ポイントを振り分けることによってアーツを成長
させることができる。
例えば魔術アーツの中でも基本アーツであるファイアボール。和訳通り火の玉を生成し
敵にぶつけるアーツであり、序盤の魔術職ならそれなりにお世話になるアーツである。
このアーツの成長形の1つにフレイムボールがある。使い方はファイアボールと同様だが
文字通り火力が違う。アーツ説明文の「燃え盛る劫火を凝縮した火の玉。ファイアボール
とは桁違いの火力を有している。」に恥じない威力を秘めている。
何気にファイアボールをディスっている説明文ではあるが、その文句に偽りのない威力を
発揮しているからたちが悪いのかもしれない。
ただし、アーツ成長はメリットばかりでなく、デメリットも存在している。
その最たるデメリットが全てのアーツが成長できる訳ではない。成長する
アーツは限られている、ということだろうか。
このデメリットによりせっかく成長ポイントを振り分けたのに、アーツ成長できる
アーツでなく、成長ポイントの無駄振りという現象が各所で発生した。
巷は「返せよッ!・・・たった一つの成長ポイントなんだッ!」「成長ポイント全振り
してるのに一向にアーツ成長しないとか俺\(^o^)/オワタ」という怨嗟の声に溢れた。
JAOにはWikiも攻略サイトも攻略本もないため、先人の轍を踏む者が絶えない
ことも怨嗟の拡大を招く一端であることは明らかだった。
ジョブとアーツの拡大を続ける2大要素を宣伝文句にJAOは今もユーザーを増やし
続けている。最初はネット上のアフィリエイトでしか宣伝していなかったが、ユーザー
数を拡大し、収益も上げつつあるJAOはTVCMでも宣伝が行われていた。
彼、立浪 怜央はTVCMでその存在を知ったクチであり、
クローズドβ時から血涙を飲み込みながらもやりこんできた古参ではなかった。
いつものように高校の授業を終えた後、放課後の生徒会活動を務め、自宅のアパートに
帰宅した怜央は一人暮らしのその部屋のベッドに学生鞄を投げつけ、学ランの
上着を放るやいなやPCの電源をつけ、JAOを起動した。
そして、お馴染みのJAOのタイトル画面を目にした途端に意識を失い、現在の湖畔
に至るという訳であった。
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「・・・どうなってんだよ」
呆然とした顔から眉根を寄せた憮然とした表情へと顔を変え二言目の呟きを漏らした。
4月1日だと気付いて勢いで書いた。
後悔しかしてない。
ぼく よみせん だから もうむり