第五話「明かされる真実」
中庭に出るとユエラとリルが遊んでいるのが見えた。
どうやらリルが起きたらしい。
リルは僕が近づいてきたのを感じてかこちらを向き、尻尾をはぱたぱたさせながら走ってきた。
「ウォウッ」
「・・・・・・っ」
僕の存在に気付いたユエラは、一瞬だけこちらを向きすぐに下を向いてしまった。
僕は意を決して近づく。
走ってきたリルを抱きかかえてユエラのところまで行くと、ユエラの隣に座る。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばらくの間、無言の状態が続く。
抱きかかえられているリルも、暴れることも鳴くこともなくじっとしていた。
僕は深呼吸を数回繰り返して口を開く。
「あのさ、ユエラ。ユエラってもしかして―――」
「待って!」
ユエラは大きな声で僕の言葉を遮る。その面持ちはどこか何かを覚悟したような顔だった。
「私に、言わせて」
「・・・わかった」
そう言ってユエラの言葉を待ったが、少しの間ユエラは黙ったままだった。
そして、おもむろに話し始める。
「桜華の言おうとした通り、私は人じゃない。魂だけの存在・・・幽霊なの」
わかってはいたが、その言葉を聞いて僕はかなりショックを受けた。
僕と同じ年で死んでしまったということが、こんなに可愛い子がどうして死ななきゃいけなかったのかなど色々な感情が出てきたが、僕はそれを抑えてユエラの話を聞いた。
「私ね、生きていた時の記憶がないの。気づいたら森の中に一人で立っていた。覚えていたのは自分の名前と、自分が死んだということだけ」
ユエラは空を見上げ、遠い目をしながら話す。僕もユエラと同じように空を見上げる。リルも僕らを真似して空を見る。
空には雲一つなく、目に映るのは澄み切った青だけだった。
「生きていた時の記憶も死んだときの記憶もないのに、不思議と自分が死んだということだけは理解できたの。でも私は受け入れられなくて、しばらくしたら怖くなって森の中を走り回った。誰か私の事を知っている人がいないか探し回ったけど結局誰も居なかった」
「・・・・・・」
ユエラが話すのを僕はただ黙って聞く事しかできなかった。
何か言ってやりたかったが、言葉が出なかった。いや、出せなかった。あまりにもユエラの表情が悲しそうなのに、声が出なかった。
「そして、ほとんど諦めかけた時に楽しそうな声が聞こえてきたの」
「楽しそうな声って・・・あ、もしかして」
「そう、桜華とその子が楽しそうに遊んでいるのが見えたの」
ユエラは僕とリルを交互に見て、リルに手を伸ばし喉を撫でる。リルは気持ちよさそうに目を細める。
「クゥ~ン」
「ふふ、本当にここが気持ちいいのね」
ユエラはリルの撫でられると気持ちのいいところ知っていた。
たぶん僕がお昼ご飯を食べている間にでも見つけたんだろうけど、リルが自分の弱点ともいえる部分を僕以外に教えていたのに少し驚いた。
「・・・ごめんね」
ユエラは手を戻して足を抱えながら三角座りをする。
「え、何が?」
「私が、幽霊だって黙ってて」
「確かに驚いたけど、僕は別に気にしてないよ?」
「・・・どうして?」
僕が気にしていないことに驚いたのか、ユエラは目を白黒させる。
「だって、ユエラは僕を襲わなかったでしょ? それに、僕と仲良くしてくれたじゃん」
「それだけ? それだけの理由なの?」
「それだけだよ」
「・・・・・・」
僕は戸惑いなく言う。
実際に理由はそれだけだ。
ユエラは僕の言葉を聞いて、俯いてしまった。
大丈夫かなと思ってユエラの横顔をそっと覗いてみると、不安の色はなく、むしろ喜びや嬉しさのといった表情だった。
ユエラの顔に見惚れていた僕は、ユエラが顔を上げたのにビックリしてすぐさま視線を逸らした。
「ありがとう、桜華」
「別に、僕は何もしていないよ」
「それでも、ありがとう」
満面の笑みで言うユエラは物凄く可愛かった。
その笑顔を見ていると、僕の顔が赤くなっていくのが分かったので話を逸らすことにした。
僕にとって、はっきりさせておきたい別の―――もう一つのこと。
今このタイミングで出すのはどうにも気が引けるが、今じゃなきゃ駄目なような気が物凄くしたから、言い出すことにした。
ユエラに気づかれないように深呼吸をして、心を落ち着かせる。
帰って来る言葉は、大体理解できる。
でも、確かめておきたい。
自分が、何なのかを。
「あのさ、ユエラ。一つ聞いていいかな」
「何?」
「ユエラが幽霊だということは分かる。それならさ、僕は何なの。幽霊を見て、幽霊と話が出来て、しかも普通は触れることが出来ない幽霊に触れた僕は・・・いったい、何なの?」
「っ・・・」
その言葉に、ユエラの顔が一気に強ばる。
やっぱり聞くべきじゃなかったかなと一瞬思ったが、僕は―――自分のことを知りたい。
お父さんの話だと、霊力と言うものが高い人はこの世に存在する魂だけの存在―――霊を見ることが出来ると言っていた。
そして、訓練しだいで対話が出来るとも言っていた。
でも、霊に触ることは―――生身で触ることは出来ないと教えてもらった。
お父さんの言葉が本当だとしたら、生身で幽霊であるユエラに触れた僕は何なのか。それを知ることで何かが終わり、始まるような予感がした。
「ねえ、僕はいったい何なの?」
ユエラの返事は無かった。
でも、僕はユエラが話してくれるのを待った。
しばらくして、ユエラは口を開いた。
「・・・落ち着いて聞いてね、桜華」
「うん」
「確かに、桜華は普通の人間じゃない。桜華は・・・」
どうしてか、最後の言葉を聞く瞬間、時が止まったような感覚がした。
ゆっくりユエラの方を向くと、ユエラの真紅の瞳と僕の目が会う。そして、今まで止まっていた時間が動き出す。
「桜華は・・・『霊核剥離』なの」
第五話まで読んでいただきありがとうございます。
やっとこの話のタイトル、『霊核剥離』を出すことが出来ました。
五話目で早いや、逆に遅いと思った方もいるかもしれませんが、そこはご了承ください。
掲載するのに時間がかかってしまいましたが、これからも頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。




