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王都へ


 銀髪の少女、ユカさんは、去っていった。

 彼を取り残した責任は果たし終わったから、と言って、風に乗って空へ消えた。

 ユカさんは魔法使いの一族で、あの男の子は彼女のおじいちゃんが大切にしていた精霊族の「友人」だったらしい。

 男の子はおじいちゃんが死んでしまったあとも、ユカさんたち一族の「友人」であり続けようとしたけれど、男の子の精霊としての本当の姿を、誰も受け入れることができなかったのだ。だから、彼は、寂しくて苦しくて狂ってしまったらしい。

 ユカさんは言っていた。かわいそうなことをしてしまったって。

「そろそろ集落につく。じーさんたち、目、覚めてるといいんだけど」

「大丈夫だろ」

 集落へと向かう道中、気を揉むノルド君に対して、アキちゃんの言葉はそっけない。

 ノルド君はむっとした感じで唇をひきむすんだ。

 わたしたちは黙々と足を進めた。そうしていると、間もなく獣人族の集落にたどり着いた。

 日はすでに落ちかけていて、集落の周りにはたいまつが灯っている。

 そして集落の入り口に、赤いカエルさんと猫耳のおじさんが立っていた。彼らはわたしたちの姿をみとめると、慌てた様子でかけよってきた。

「若!それにみなさん!よくお戻りになられました。眠っていた者たちは次々と目を覚ましています」

 赤いカエルさんの喜びの声に、ノルド君はほっとした様子で答えた。

「そっか。よかった。沼地の魔女はわるいやつじゃなかったよ。病の原因は別のところにあって……とにかく、解決したから安心してくれ」

「さすが若です。若がご立派に成長されて、私も族長も感激しています」

「いや、ぼくの力じゃなくて、あいつ……アキのおか」

「うるせー。こんなとこでごちゃごちゃいってねーで、さっさとあんたのじーさんの様子でもみてこいよ」

 ノルド君の言葉をさえぎって、アキちゃんは彼の背中をおもいっきり押した。

「なにするんだよ!」

「別に」

 ノルド君は不満そうだったけれど、カエルさんと猫耳のおじさんに連れられて、ひとあしさきに族長の家にむかった。

 わたしたちもどうせ向かうところはおなじなのだけれど。

 なんで一緒に行かないのかなって思ったけれど、その疑問はすぐに解けた。

 族長の、ノルド君の家を覗くと、ノルド君が泣いていた。ノルド君はソファに腰掛ける大柄な老人の腰に抱きついて、ちいさなこどものようにぐずっている。老人はそんなノルド君の黒髪をなでている。その表情は穏やかだ。

 わたしたちはそっと扉から離れた。

 アキちゃんは、分かっていたんだろう。ノルド君に家族の時間が必要だってこと。

 時間をつぶしを兼ねて、わたしたちは集落をまわってみることにした。眠りの病から家族が目覚めて、喜び合う獣人族の姿を、よかったなあ、なんて思いながら眺める。集落はいい意味で騒がしかった。獣人族とは顔見知りどころか、すれ違った程度の間柄だけど、たすかってほんとうによかった。

 ひととおりみてまわって、わたしたちはノルド君の家の前に戻ってきた。ノルド君の家はちょっとした丘の上にあって、集落を見渡せる絶景の場所だ。小さくなったエルゼさんを肩にのせたわたしと、アキちゃんと、ぼんやりとその景色を眺める。

「アキちゃん」

「あ?」

「わたしたちも、無事、王都について、おつかいが終わったら、早くアキちゃんのお父さんとお母さんに会いにいこうね」

 わたしたちが住んでいた最果ての森は、既に黒い影の勢力下だという。カナンさんの仲間が助けにいってくれるっていっていたし、おじさんもおばさんもちょっとしたことじゃ倒れたりしないはずだ。

 なにせ、おじさんは王都でも認められている魔術師なんだから。そうじゃなきゃ、あんな辺境っていっていい森に、王都からの使いなんてこないはずだ。

「……そうだな」

 アキちゃんも、わたしも、まだまだこどもで、やっぱり家族が恋しい。

 日がおちる直前の、燃えるような空の向こうで、わずかに光り輝く星を数えながら、わたしとアキちゃんはとおい最果ての森を思った。



 翌日。

 わたしたちはノルド君のおじーちゃんに用意してもらった馬車に乗り込んでいた。

 アキちゃんはノルド君に、集落に残るようすすめたけれど、ノルド君は頑として聞かなかった。ノルド君のおじーちゃんも、ノルド君が集落に残るのは反対のようだった。

「あまったれ坊主め。心配せんでもわしはまだまだ死なん!だから、安心していってこい!」

 なんて、力強い言葉でノルド君を馬車に放り込む始末だ。つい先日まで病に伏せていたなんて感じさせない、筋肉隆々の元気そうなおじーちゃんで、ノルド君も大きくなったらむきむきになっちゃうのかなあ……なんて思った。

「ぼくはむきむきにならないよ。父さんも母さんも華奢だったからな」

「……隔世遺伝の可能性、か」

 否定するノルド君に対して、アキちゃんがぼそりと呟いた。

 そのとたん、ふたりは馬車の上でとっくみあいを始めた。とっくみあいっていうより、じゃれあいといったほうが正しいかもしれない。なにせ、ノルド君は本気でかかったら、きっとアキちゃんなんてすぐに背骨からぽっきり折れてしまうくらいの力を持っている。

「ヒト族、それに精霊族の方。今回の集落の出来事の解決に、力を貸してくださったと聞いています。私達は、きっとあなたがたの親切を忘れることはないでしょう」

 ノルド君のおじーちゃんは、急にまじめな顔をしてそういった。

 おじーちゃんが腰を折ると、それに習うように、後ろに控えていた赤いカエルさんや猫耳のおじさん、馬顔のおじさん、ノルド君を見送りにきていた集落のひとびとに、みんないっせいにお辞儀をされる。

 エルゼさんはにっこりと微笑み、アキちゃんは無言で彼らの姿を眺めていた。

 わたしはというと、どうすればいいのか分からなくて慌てるばかりだ。

「あなたたちの旅路に幸いあれ」

 おじーさんがそういうと、集落全体から「幸いあれ」と合唱される。なんだか大層な事態になってきた。

「お元気で」

 アキちゃんは平然とそういうと、馬車を走らせる。

 獣人族のひとびとは、わたしたちの姿が見えなくなるまでずっと見送りをしてくれた。

 さあ、いよいよだ。王都は近い。わたしたちの旅はもうすぐ終わりを迎える。

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