08_友達
眠りについていた意識が浮上する。
身体が痛くない。痛くないどころか、身体を柔らかく包み込んでくれている感覚。
まだ眠いが瞼をあける。
ここはどこだ。見慣れた洞窟内でなく脳が一瞬思考停止したが、あぁ、美少年もといエリックに連れてきてもらった屋敷だったと思いだす。私を柔らかく包み込んでくれているものは、ふかふかのベッドだった。
いつまでも居座っていては迷惑だろう。エリックに礼を言ってここから出ていかないと。あ、村とか町が近くにあるかも聞かなきゃな。
一宿一飯の礼は、扇風機もどきで勘弁してくれないだろうか。ランプもどきは、できれば持っていきたい。でも、元の素材はエリックのだから置いていかないとダメかな?あぁ、それよりも早く起きなければ……と思っていても、今後ふかふかのベッドで寝れるかもわからないため、なかなかベッドから抜け出せないでいた。
そのとき、部屋の扉が静かにノックされたあと、オレンジ色の髪をお団子にした昨日のメイドさんが室内に入ってきた。いよいよ起きなければと、私は上半身を起こした。
すると、昨日のメイドさんはベッドの上にいる私をみて「起こしてしまいましたか?申し訳ございません」と頭を下げた。
今の時刻が分からないが、まだ寝ていると思われたのだろう。私は「いいえ、もともと起きていたので頭を下げる必要はありませんよ」と、ベッドから出ようとした。するとメイドさんが「まだお休みになっていて構いませんよ」と誘惑の言葉をかけてきた。
頭の中で天使の私が『これ以上迷惑かけちゃダメ』と止める一方、悪魔な私が『こう言ってるんだしベッドに戻っちゃえよ』と唆してくる。
正直、悪魔な私に傾きかけたけれど天使な私が勝利した。
「いえ、起きます」
名残惜しかったが、私はベッドから抜け出しソファーに座った。
ソファーに座ったタイミングでメイドさんが変なことを言ってきた。
「本日からマリ様付きになりましたサラと申します。何なりとお申し付け下さい」
「…え?私付き?」
何を言っているのか意味が分からないよ。
頭の中が混乱している中サラさんは続ける。
「お坊ちゃんがマリ様とお話したいことがあるそうなので、朝の準備をして朝食を摂りましたら、執務室へご案内いたしますね」
意味を理解できなくて固まっている間に顔を拭かれ、髪をクシでとかれ、目の前に朝食が運ばれてきた。
無言で朝食を食べはじめる。すると、
「マリ様がお召しにできるようなドレスがなくて申し訳ございません。早急に準備致しますので、それまではご不便お掛けしますがお坊ちゃんの服で我慢して下さいませ」と、サラさんはますますます意味が分からないことを言ってきた。
気付けば朝食を食べ終えていた。
「では、ご案内しますね」とサラさんに連れ出される。到着した場所はもちろん執務室。扉をノックすると、中から「入れ」の返事。
サラさんに続いて室内に入ると、ローテーブル前のソファーに座ったエリックと、その後ろに控えて立っているセバスチャンさんがいた。
私の姿を確認したエリックはソファーから立ち上がり、私の側に寄ってきた。そして私の右手をとりソファーまでエスコートしてくれ、私がソファーに座ると何故かエリックは向かいのソファーではなく隣に座ってきた。一応、拳1つ分はあいているが昨日出会ったばかりなのに、いきなりの距離の詰め方に驚いた。
2度目の人生で関わってこなかったが、これが陽キャ属性か?
そんな私の胸中を知らないエリックは「マリ、昨日はゆっくり休めたか?」と気遣いの言葉をかけてくれる。
顔がいいのにこの対応は、たくさんの女の子達を勘違いさせてきたに違いないと確信する。
陽キャより女性に甘い男性の方が正しいか?
「はい、お陰さまで久しぶりにゆっくり休めました。ありがとうございます」と私は頭をさげた。
安心しろぃ。私は勘違いなんかしないから。
「それでマリさえ良ければ、このまま暫く滞在しないか?」
「…え?」
サラさんが私付きと言っていたのは、このことか?
「マリは記憶もなく、帰る場所も行く当てもないのだろう?
ここで自由に過ごしてくれて構わない」
とてもありがたい申し出だった。だけれど、
「そこまで良くして頂く理由がありません」
理由がない行きすぎた親切は受けとるのが怖い。無料より怖いものはないと言うじゃない。
「理由か…。
恥ずかしながら私には友と呼べる存在がいないんだ。だから、友達とまでは言わないが、私の話し相手になってはくれないだろうか」
雨の中に捨てられたワンコのような、すがった目で見つめられた。
あぁ、顔がいいから女の子達が寄ってきて、そのことで同性に僻まれて友達ができないのかな?性格もいいから、余計に相手の男達は惨めな思いをしただろう。
それか身分の違いで仲のよい友達が出来ないのかなと推測した。貴族ともなると色んな思惑が渦巻くからね。
…こんな好条件を逃すのももったいない気がする。正直、エリックの申し出は非常にありがたい。しかし忘れてはならない、私には大きな野望がある。
「…昨日お見せしたような道具は作ってもいいですか?」
「あぁ!全然好きなだけ作って貰っても構わない。なんなら必要素材はこちらでいくらでも準備しよう」
なんと破格な待遇。
でも、ずっとは甘えてられないだろうから、いつでも出ていけるようにはしておこう。
「エリック、これから宜しくね」
私は敬語をやめ、握手を求め右手を差し出した。
エリックは「あぁ、宜しく頼む」と、私が差し出した右手に握手を返してくれた。更に左手も添えられ、両手で包みこまれた。
よし!
友達がいないエリックのためにも、一緒に遊べる道具も作っちゃうぞ!と息巻く私であった。




