23_婚約者?
馬車移動で疲れてしまったのか、街でたくさん歩いたから疲れてしまったのか、お風呂からあがったら眠気に襲われた。まだジェットさんに相談したいことがあったのに。魔道具もそろそろ作り始めたかったのに、私の意識は下へ下へと沈んでいった。
翌朝、外から聞こえる大きな声で目が覚めた。何事だ?と思っていたら扉がノックされ、「どうぞ」と言うとサラさんが「おはようございます」と入室してきた。
私はサラさんに外から聞こえる大声の出所をたずねると、「ジェットさんが自分の仕事ができるまでは他の人の仕事を手伝うと言い出しまして、今は朝から元気に薪割りをしております」と答えてくれた。
私は思わず「えっ、迷惑」と言葉にしてしまい、慌てて両手で口を塞いだ。サラさんは私のそんな様子をみて「マリ様大丈夫です。他のみんなも思っていますので」と笑ってフォローしてくれた。
このやりとりの間も外からはジェットさんの「はいよっ!」とか「そりゃ!」とか「今日も筋肉元気に動いてるっ!」とか聞こえてくる。なるほど、ジェットさんは筋肉と会話できるタイプか。厄介なタイプだな。
時間を考えて欲しい、時間を。と思っていたらガラッと窓が勢いよく開く音がしたと思ったら「やかましいっ!やるなら静かにやれっ」とエリックの怒号が飛び交った。流石のエリックも耐えきれなかったのだろう。ジェットさんは「ガハハハ!すまんすまん!」とまたもや大声で言った。
サラさんに手伝ってもらい、顔をあらい、髪を梳かし、ドレスに着替え朝食をとるべくダイニングルームへ向かった。
すでにエリックはダイニングルームについており、私をエスコートしてくれる。ひかれた椅子に座り、エリックも席に着く。
「ジェットさん、朝から元気だよね」 私が苦笑いで言うと、エリックは「あれは元気とは言わない。うるさいと言うんだ」と渋い顔をして言った。
「でも、私の我が儘でジェットさんを置いてくれてありがとう。エリックのお父さんの返答次第では、ジェットさんと一緒に出て行くね」
私がそういうと、エリックは手をとめ私を見つめてきた。
「一晩たっても、その考えは変わらないか?」
「うん、かわらない」
「そうか…」
エリックとの間に気まずい沈黙が訪れる。その静寂を打ち破るかのような騒ぎが聞こえてくる。
「…なんだろ、廊下かな?騒がしいね」
「あぁ、ジェットの声にしては甲高いな」
なんだろう?と思いつつ、朝食の続きを食べていると、ダイニングルームの扉が勢いよく開いた。艶やかな腰まである金髪に、つり目がちな紫色の瞳、いかにも高貴なお嬢様がそこにいた。
そのお嬢様はつかつかと私の近くまで歩いてきたと思ったら、私をビシッと指差し、
「あなたは誰なのよ!エリック様の婚約者は私なのよっ!」
と言ってきた。エリックは「貴様が勝手に言っているだけだろう!」と言い返す。
セバスチャンさんが息をきらしながらダイニングルームに入ってきて、「エリザベス様、勝手に、入られては、困ります」と息も絶え絶えに言ってきた。
おそらくセバスチャンさんを振り切り勝手に入ってきて、セバスチャンさんは慌てて追いかけてきたのだろう。お年寄りを走らせるとは、なんたる愚行。
「知らせもなく、勝手に来てうるさくわめくな。帰れ!!」
エリックは椅子から立ち上がり、右手でダイニングルームの扉を指差しながら言った。
「昨日、エリック様が見知らぬ女と手を繋いで街をデートしていたと聞いて来てみれば、まさか本当だったとは!」
「私が誰とデートしようが勝手だろう!」
「まぁ!私がいながら!!」
「別に貴様がなんと言おうが関係ない!今すぐ帰れっ!」
きっと、エリックの距離感がバグった行為を自分への好意だと勘違いし、暴走しているパターンかな?と邪推してみる。
黙って成り行きを見届けていると、「なに余裕ぶっているのよ」と、お嬢様の怒りの矛先がこちらに向かってきた。




