21_鍛冶屋
エリックは「あそこは服屋、あそこは薬屋、あっちにはパン屋がある」と歩きながら説明してくれた。
途中、私が気になって足をとめた串肉の屋台にも寄って買ってくれてた。「食べ歩きもたまにはいいもんだな」とエリックは笑った。
しばらく歩くと「あそこが鍛冶屋だ」とエリックが指さした方に顔を向けると、なにやら店前には人だかりができていた。まだ鍛冶屋から離れていたこともあり、エリックは「なにかあるのか?とりあえず行ってみよう」と歩みを続ける。
鍛冶屋に近付くにつれ、店内が騒がしいことに気がついた。店前の人だかりは野次馬なのだろう。気になって顔を覗かせると、店内で2人の男性が言い合いをしていた。
「マリ、とりあえず離れよう」
エリックが私をこの場から離そうとしたその時、目の前のガラス張りの扉を突き破って言い合いをしていた男性の1人がぶっ飛んできた。
護衛の人たちはいきなりのことにも関わらず、エリックと私の前に出て壁となってくれ、ガラスの破片から守ってくれた。
驚きで声が出ないその間も、ぶっ飛んできた男性は「てめぇ、この野郎!」と頭から血を流しながらも店内に戻り、言い合いをしていたもう片方に殴りかかりにいっていた。
店前の人だかりからは「いいぞぉ、もっとやれ!」やら「警備隊に連絡した方が」とか、「どっちが勝つか賭けようぜ」などの声がした。
護衛の人たちがエリックと私を囲むようにして、その場から離れた。広間の噴水まで避難し、噴水の縁にエリックと共に腰かけた。
「なにがあったんだろうね」
私がエリックに声をかけると「マリすまない。危ない目にあわせてしまって」と、眉をさげ私の両手をエリック自身の両手で包んできた。
「エリックのせいじゃないよ。まさか、喧嘩の真っ最中なんて思わないもん。職人気質の人たちだから、意見が合わなくて喧嘩になったのかもね」
エリックは再び「それでもすまない」と謝ってきた。エリックのせいではないのに、気に病む必要はない。私はこの湿気った空気をかえるべく、「別荘のみんなにお土産買って帰ろうか」私は言いながら立ち上がる。
「エリック、美味しいお菓子屋さんとか雑貨屋さんに案内してよ」
私はエリックの右手を引っ張り歩き出した。
無事に別荘のみんなにクッキーとかハンドクリームとか、お土産を買えたところで別荘に帰ろうとしたが、エリックが「帰りの馬車でまた酔うかもしれないから、薬屋に寄ろう」と提案してくれた。
とてもありがたい提案だった。私のせいで帰りも時間がかかっては申し訳ないから「お願いします」とエリックに頭を下げた。
最初に案内してくれた薬屋につき中に入る。すると、鍛冶屋でガラス張りの扉を突き破ってぶっ飛んできた男性が、頭に包帯を巻かれている最中だった。
薬屋の店主は包帯を巻く手を一瞬とめてこちらに顔を向け「いらっしゃいませ。しばらくお待ちください」と私たちに言ったあと、再び包帯を巻いていく。
エリックは私の前に立ち位置をかえたが、すぐさま護衛の1人がエリックの前に立つ。
私はそんな2人の横から顔をだし、鍛冶屋にいた男性を見る。料理長のバレットさんに負けず劣らずの筋肉。鍛冶屋で見かけたときスキンヘッドだったから包帯は巻きやすいだろうな、と思っていた。
私は「鍛冶屋の人ですよね?怪我は大丈夫ですか?」と声をかけた。エリックはまさか私が声をかけるとは思ってもいなかったのだろう。「マリ!?」と驚いていた。
鍛冶屋にいた男性、というより"おっちゃん"と言った方がしっくりくるかもしれない。その鍛冶屋のおっちゃんは
「あんたらみたいな子供にも見られていたのか。恥ずかしいな」と豪快に笑った。見た目は怖いが、人当たりは良さそうである。
「何が理由で喧嘩したんですか?」
私が突っ込んだ質問をするとエリックは慌てて「マリ!」と言いながら私の口をふさいできた。
「ガハハハ!物怖じしない嬢ちゃんだな。嫌いではないが、今後は相手を見定めるんだぞ。俺は気にしないが、気にするやつはいるからな」
エリックが私のかわりに「突っ込んだ質問をしてすまない」と鍛冶屋のおっちゃんに謝った。
鍛冶屋のおっちゃんは「気にしてないさ」と言ってくれた。
「俺はな、あそこの鍛冶屋を親父から引き継いでたんだ。妻もいてそこそこ幸せだったんだよ。従業員のアイツに全て奪われるまではな」
「もしや、奥さんと鍛冶屋を奪われた?」
私は口を塞いでいるエリックの手をどけて聞き返す。
「嬢ちゃんの言うとおりだ。頭を使った書類仕事は苦手でね。気づいたら全て失った後よ」
どこの世でも、男女のいざこざはあるもんなんだな。近所の目もあるだろうし、鍛冶屋のおっちゃんはいずらくなるだろう。
「このあとはどうなされるんです?」
「そうだなぁ、とりあえずこの街を出て、違うところで職探しでもするさっ」
「それなら私と一瞬に素敵な便利アイテムたちをつくりませんか?」
「マリ!?」
「エリック!技術者がこの街からいなくなって他の場所に行くなんて!大きな損失になるよ!」
なんてのは建前で。用事があるたびに街まで馬車に揺られながら通うなんてこと、今の私には無理だと悟ったからだ。身体は痛くなるし、なにより酔う。それならプロをスカウトして、一緒に働いた方が作業効率もいいだろう。
ただ、私は居候の身。エリック親子から許可を得なければ別荘に一緒に連れていけない。許可さえでれば、工房は魔塔の主にでも翻訳の報酬として交換条件を出せばいい。
鍛冶屋のおっちゃんは「仕事を貰えるなら俺はありがたいけどよ」と言った。
エリックは悩んだあと、「……ひとまず父上に相談する。今後どうするか決まるまでは別荘にいても構わない」と言ってくれた。
私はエリックに「ありがとう!」と抱きついた。




