02_出会い
転生したと自覚してから、どのくらい経ったのかわからないが、湖の側に構えた住みかは着実に過ごしやすくなっていった。
最初は葉っぱを敷き詰めただけだったが、今は違う。湖の側に洞窟を発見したのだ。最初は、肉食獣が住み着いていたらどうしようとか、ゲジゲジ虫が気色悪いとか色々あったけれど、住めば都である。
洞窟の奥の方には生を終えた獣達の骨や、魔獣から稀に手に入れることができる魔石などがあり、その素材を加工し魔方陣と組み合わせて火の要らないランプもどきを作ったり、洞窟内の空気循環のために扇風機もどきを作ったりと、なかなかに充実した毎日を送っている。
洞窟内に獣達の死骸があったため、洞窟を発見して暫くは獣の出入りがないか見張っていたが、それもなく安心して過ごしている。
ただ、着る服の替えがないのが難点である。
ボロボロの布みたいな服を湖で丁寧に洗って乾かしている。私には、糸、ましてや布を作成する知識は持ち合わせていないのだ。今の気候だと布1枚でも問題なく過ごせているが、この地域に冬が存在した場合、私は間違いなく凍え死ぬ。早めに村なり街を見つけないといけないのだが、こんな格好では人前に出れない。もし人と出会えたとしても、お金を持っていない今、服を手に入れれるかも怪しい。
あと湯船にも浸かりたい。湖で身体の汚れは清めてはいるけれど、浴槽にお湯をためて頭まで浸かりたい。頭と身体の皮脂汚れを綺麗に洗い流したい。
無い物ねだりとはわかってはいるが、今は叶えられない願いばかりが頭の中に浮かぶ。
「…はぁ、焚き火の準備しようかな」
魚を食べるために火の準備をはじめる。湖ということは淡水魚なわけで、火を通さないと危ないからね。
あらかじめ集めておいた小枝を1本手にとり、土の上に魔法陣を描く。その魔法陣の上に焚き火に必要数の小枝を置き、魔法陣に魔力を流す。魔力を流したことで魔法陣は淡く光り、乾燥した小枝の完成だ。これは火をつけるために小枝を一瞬にして乾燥させることができる魔法陣だ。
最初のころは、小枝が湿っていたりして、なかなか火をつけれなくて苦労したため、編み出した魔方陣だ。
よし、魚を捕まえにいくか。
釣り道具なんてものは、もちろん無い。そのため、魚がいる箇所を水ごと球体として浮かばせ、陸地まで運ぶのだ。魚の周辺を水ごと球体として切り抜く感じ。この作業は集中力が必要で、運搬途中で気がそれると水の球体は形を維持できなくなり、その場で湖へと戻るのだ。
「よし、集中集中」
自身の両頬を手で軽く叩き、集中モードに入る。魚を目視にて確認した。よし、浮かばせる。と、思ったその時に、後ろから声をかけられた気がした。そのため集中力がきれ、水の球体は形をなさなかった。
まさか人が?
後ろを振り向くと黒髪の男の子が立っていた。年齢は、小学高学年あたりだろうか。
鼻筋は通っており、二重瞼のしたには琥珀色の瞳。加工という名のフィルターを通していないのに、こんなに綺麗な顔が存在するのか。服装も身なりがいいお坊ちゃまという感じ。年齢のためだろう、膝上のハーフズボンからチラチラ見える膝小僧は、2度目の人生であったなら犯罪級である。
「こんな所で何をしている」
あぁ、この男の子は声まで澄んでいて素敵なのか。声変わり前の高い声、グッジョブ。
「おい、聞いているのか!」
この3度目の人生で初めての人との接触。相手は身なりからして平民ではないだろう。そのため、最低限の礼はとらねばと、1度目の人生の記憶をこじ開け、ボロボロの布の裾をもち、カーテシーをとる。
まさか孤児がカーテシーをとると思っていなかったのか、綺麗な琥珀色の両の眼は限界まで見開かれている。
「初めてまして。私はマリと申します。家名はございません。ただいま遭難中です。ここで出会えたのも何かの縁。どうか私を人里まで案内していただけませんか」
ちなみにマリという名は2度目の人生での私の名前だった。3度目の人生、名前があったかも分からなかったから前の人生での名前を名乗っている。
この出会い逃してなるものか。
私は目の前にいる絶世の美少年に人里への案内をお願いした。ここを逃したら私はいつまで湖の畔暮らしになるかわからない。まぁ最悪、案内してもらえなくとも、美少年の後をつければどこか人がいる場所にはたどり着くだろう。
「君はなぜここにいる?」
「わかりません。気がついたらこの森の中にいました」
「そう、か…」
そこから会話は途切れた。
眉間に皺をよせ、右手を顎、左手を腰にあて考えごとをする様すら美しい。
どれほど沈黙が続いたかはわからないが、美少年が先に口を開いた。
「さすがにここには置いてはいけない。
来い。とりあえず私の屋敷まで案内しよう」
よし、思惑通り!
私は礼をとり、美少年のあとに続いて歩き出した。
2025.11.2 誤字脱字のご報告ありがとうございます!修正致しました!




