表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔道具と娯楽品の作成に勤しむ転生令嬢は、囲われていることに気がつかない  作者: 成瀬川 透


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/71

17_先人の知識

エリック父は仕事があると、一泊だけして次の日には早々に本宅へ戻って行った。


基本的に朝食はエリックと一緒に食べて、そのあと昼食までは各々自分の時間を過ごす。

今日も今日とて私はメモ用紙にアイデアを文字だけではなく、簡単なイラストつきで書き込んでいく。


今はタイプライターを優先で作りたい。

魔塔の主が言っていた書物の翻訳を依頼された時、何冊依頼されるかわからないが、全て手書きだと私の右手は腱鞘炎になるのは必須だろう。

そうはならないためのタイプライターだ。実際にタイプライターを見たことも使ったこともない。にわか知識でそれっぽく作るしかない。インクリボンも、インクを染み込ませるだけでいいのかもわからないし。


作りたいものがあるが、仕組み以前に圧倒的に素材不足である。自分自身での素材の調達は止められてしまったため、街へ買い出しに行くしかない。


「……街へ買い物に行きたいな」

実際に素材に見て触れて、適した材質か確かめたい。何かしらの加工を加えたらプラスチックもどきになる素材はないだろうか。それかもうプラスチックのような殻とか鱗とか持った魔獣がいたらいいのだけれど。

アルミニウムやステンレスのような素材も欲しい。アルミニウムは鉱石からだっけ?ステンレスは鉄とニッケルとかを混ぜたものだっけ?

ダメだ。2度目の人生、趣味にかまけて勉学を疎かにしてきた弊害が今ここに……。いや、今さら悔やんでも仕方がない。色々と実験し試行錯誤するためにも多めに素材は確保したい。それか、専門の人に依頼するか。鉄はあるんだし、うん、依頼してみよう。


魔石も希少だし、魔獣からとれる以外にも、なにか他のものに魔力を込めれたり出来ないだろうか。あぁ、私に鑑定スキルさえあれば分かるのに……。もちろんこの世界に固有スキルなんてものは存在しない。3度目の人生、洞窟内での生活に慣れてきたころに1人で「ステータスオープン」と声に出して確かめ済みだ。もちろん、ウィンドウなんか出て来なかった。


遊び道具も充実させたいし、うん、やっぱり圧倒的に素材が足りない。昼食時にエリックに買い出しに行きたいとお願いしてみよう。そう思っていたら、


「マリ、翻訳を頼みたいものを持ってきたぞ」


と、いきなり後ろから声をかけられた。

驚き振りかえると、そこには国語の辞書くらい厚みのある紙の束や本を数冊かかえた魔塔の主がいた。

いや、子供とはいえ乙女の部屋に無断で入るなよとか、着替え中だったらどうするんだよとか、昨日の今日で来るとは思ってなかったよとか、驚きすぎて言葉には出来なかった。


魔塔の主は分厚い紙の束と本たちをテーブルの上に置き、私が先ほどまでアイデアを書いていたメモ用紙に目線を落とす。


「なんだ、また変な絵を描いているんだな」


「いえ、文字を打ち込むための道具の絵です」

タイプライターのイラストを変な絵と言われてしまった。それもそうか。文字盤の箇所は丸が何個も羅列されているから変な絵に見えてしまうのも仕方がない。


「文字を打ち込む?」

魔塔の主が興味を持ったらしい。

私はテーブルの上に置かれた分厚い山たちに目を向けたまま「はい、翻訳を手書きですると右手を痛めてしまうと思ったので」と言った。これは本当に右手を痛めるだろう。


私は魔塔の主に顔を向けた。

「いきなり消えたり現れたりしますけど、転移魔法ですか?」


「あぁ、こんな高度な魔法は私くらいにしか出来ないだろう」


「…そうですか。できれば今後は事前連絡があるとありがたいです」

私は再び分厚い本に目線を戻し、一番上にある製本をされているとは言い難い、メモ用紙を簡単に綴っただけの紙の束をパラパラとめくった。


「翻訳は急ぎはしないが、なるべく早めに頼む。私も内容が気になるのでな」

いや、それは暗に急かしてますよね。面と向かっては言えないけれど。


パラパラとめくっていると、私に衝撃が走った。先人は天才だった。色んな種類の鉱石について書いてあった。さがせば私が求めているステンレスの製造法も記されているに違いない。

まさしく今、私が欲してやまない知識が目の前にある。都合良くこんな奇跡があるのかと感動しながら、パラパラとめくるページが最後の方になるにつれて、鉱石のことにはもう触れておらず字体が崩れてきており、"気付けばここにいた。この世界の言葉がわからない"と書いてあった。まためくると"私は孤独だ"。まためくると"私の存在はなんだ"。最後のページに"これを書いている時だけが、私が私でいられる"と書いてあり、これを書いたであろう人の名前がところ狭しと書いてあったが、読み取るのがやっとの筆跡だった。


きっと、私と同じで途中で前の記憶が甦ったとき、それ以前の記憶が思い出せなくなったのだろう。私はまだ1度目の人生の記憶があったから言葉には困らなかったし、自分1人でスタートだったからなんとかなった。が、このメモの筆者は違ったのだ。

突然に知らない身体の人の人生を途中から、それまでのその人の記憶もなく引き継がなければならなかったのだから。


「……これを書いた人はどうなったんですか」

私は崩れた筆跡で書かれた名前の上を指でなぞりながら魔塔の主に質問をする。


「……私が産まれる前の話だ」


「そうですか」

このメモの束がどのような経緯で魔塔保管になったかはわからない。


私がこの世界の言葉にして、ちゃんと本にするよ。あなたが存在していたことを、名前を伝えるよ。それしか出来ない私をどうか許して。



2025.11.11 誤字修正致しました!ご報告ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ