16_心配 ーside 魔塔主ー
ルーンベル国の筆頭魔法使いから一通の手紙と、魔石を利用した道具が届いた。
本来、私宛の手紙は私付きのガイナスが中身を精査してから、私にあげるか他の魔法使いに投げるかを決める。だが、手紙と一緒に送られてきた道具が一国の魔法使いが作れるはずもなく、興味をそそられたから私が直々に手紙に目を通してやった。
手紙には、一緒に送った道具は少女が作ったこと、しかしその少女には記憶がなく森の中をさ迷っていたこと、それなのにそのような道具が作れること、だからもしかしたら魔塔の関係者ではないか?とのこと。
また、不思議なくらいその少女に公爵家の息子が惹かれている、だからその少女が無意識にでも魅力をかけているのではないか、公爵家の息子を見て欲しいという内容が書かれていた。
つまりは、怪しい少女が魔石を利用した道具を作っているから魔塔の関係者ではないのか。魅力魔法を使って公爵家の息子を誑かしていないか確認して欲しいってことだ。
魔塔にそんな道具を作れる者は居なかったはずだ。私は道具を作った少女に興味をもったため、会いに行こうとした。
しかし、私付きのアホが今すぐにでも行こうとする私を止める。「お伺いの日付を返答してからにしましょう」などと言うから我慢してやった。
そして、今日、その少女ことマリに会ってきた。
マリのメモ用紙には古代語が書かれていた。もうそれだけで答えは出たようなものだった。私すら完璧ではない古代語をマリは母国語のように使っていたのだから。
今はマリに翻訳を頼む書物の選定をしている。そんな私の後ろで遅れて戻ってきたアホが、アホなことを抜かしはじめた。
「まさか『魂に記憶を刻んだ者』に生きているうちに出会えるなんて、私、感動しました!」
「お前、本当にそう思っているのか」
「もちろんですよ!
その方達が遺してくださった知識が、我々魔塔の魔法使い達に恩恵を与えて下さってるんですから。
本当に凄いですよね。農業の知識から色んなことまで!マリさんも素敵な道具を作られてましたし!
でも主がいきなり書物のことを言い出し時は焦りましたよ。その知識のおかげで、魔塔の魔法使い達が威厳を保っている時もありますからね!」
「お前は本当に何もわかっておらぬな」
なぜ私付きはこんなにアホなのか。
「なにがです?」
本当に何も分かっていない顔をする。
「だからアホのままなのだ。
本来、魂はまっさらな状態で産まれてくるものだ。それなのに、記憶が刻まれた状態で産まれてみろ。辛かった出来事も、ましてや死の瞬間ですら魂が記憶しているかもしれんのだぞ。
歴代の『魂に記憶を刻んだ者』の中には、その記憶ゆえに孤独になった者や、死の瞬間の恐怖や痛みの記憶が襲ってきて気がふれてしまった者もいたと記されている。
マリも普通にみえて、実は深い闇を抱えているやもしれぬのだぞ」
「……まさか、そんなこと」
「考え及ばないやつが、よく私の付き人なんぞになれたものだな」
手紙に記されていた"記憶がない"とは嘘だろう。むしろ記憶があるがために誤魔化すための言い訳だろう。
「あの子の心が壊れないといいがな」
まだ幼き少女の行く末が幸多からんことを祈るばかりだ。




