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【悲報】勇者が魔王討伐RTAしてるんだが

作者: とある魔王

 ピカッ、ゴロゴロゴロ……ドカーーン!!

 雷鳴が轟き、我が魔王城を内部までまばゆい光が照らした。


 我は魔王、すべての魔族を束ね、やがて世界を支配する者だ。

 人々を脅かす我を、何ヶ月かに1人くらい「勇者」と呼ばれる輩が魔王城に攻め込んでくるのだが、どれも口ほどにもない。我が膨大なる魔力の前には虫ケラ同然だったな。


 玉座の横に置いた宝箱を撫でながら、グラスのワインをあおると……。


「魔王様! 伝令です! ゆ、勇者がまた出現しました!!」


 リザードマンのヤモリンがノックもせず我の部屋に飛び込んできおった。まったく失礼なやつだ。


「勇者だと? そんなもの放っておけ。そのうちどこかで野垂れ死ぬか、我がもとにやってきて死ぬかの2つしかなかろう」

「いや、それが今回は違うんです! 東に配置していた四天王のタルタル様が、勇者出現から10分と経たずにやられました!」

「えっ?」


 パリン。グラスが手から落ちてしまった。ああっ! ボトルで700万ゴールドしたワインなのに! ……いやいやそんな場合じゃない!!


「ちょっと待て、もう一度言ってもらえるか?」

「ですから……タルタル様が勇者出現から10分と経たずにやられたんです!!」

「…………マジ?」


 タルタルといえば我が魔王軍の中でも最強レベルの水魔法を使うサキュバスだ。二日酔いの時によく水をくれたっけ。


「とりあえずライブカメラを出せ! 勇者の姿をここに映し出すのだ!」

「はっ!」


 我は玉座からバッと立ち上がり、ヤモリンは小型の機械で空間に映像を表示した。


 そこに写っていたのは……。


『やはり移動はこのステキャンバグが最適解なんですよね〜。魔王討伐RTAのためにあるんですかね、これ』


 ……両手を広げたYの字に立って、凄まじい速さで移動する上裸の男……いや怖っ!?


「えっ? この変態が? タルタルを倒した勇者?」

「はい……。勇者はこの世界に降り立ってからすぐにこの謎の動きで高速移動をし、なんやかんやあっという間にタルタル様を倒してしまったのです」


 えぇ……? こんなヤツ初めて見たんですけど。しかも何? バグ? 我の知らん概念で移動するのやめてもらっていいか?

 しかも何!? 魔王討伐RTAって何!?


「ま、まぁ、落ち着け。タルタルといえど四天王の中では最弱。まだ焦るときでは……」

「あっ、魔王様見てください!」


 ヤモリンが指差す画面を見てみると……。


「ほう、勇者の次なる相手は四天王の最強のチャップか」

「ですね……」


 チャップは最大出力は我と同等と言えるほどの炎魔法使い。刺身を炙りにするのが得意技だ。


「ククク……。タルタルは倒すほどの強者だが、運がなかったようだな。チャップに会ってしまったが最後、丸焦げになるのみ―――」

「あーっ! チャップ様が黒焦げに!!」

「えっ!?」


 画面を見ると、チャップの色白な肌が真っ黒になっているではないか!


『ここはリフレクトミラー2枚あればぶっちゃけヌルゲーですね。今回の走りでは道中のドロップで落ちたのが超ラッキーでした。まぁ落ちなくても錬成バグで出せるんですけど――』


 勇者がまたY字の高速移動をしながらぺちゃくちゃ喋っている。両手に持ってるのは……リフレクトミラー。魔法の威力を倍にして跳ね返す、伝説級のアイテムのはず。


「これなんで持ってるの???」

「実はスライムを倒すと非常に稀に手に入るみたいで……」

「なんじゃそのスライム!?」


 神の遊び心ってやつか!? 悪い遊びだな!!


「あれ、四天王最強がやられたってことは……?」

「……残りの2人もすぐにやられる可能性大でしょうね……」

「だよね」


 そんなこと言ってる間に、剣の四天王であるソースの首がはねられた。


「なに今の動き?」

「腕がなんか伸びました」

「いや起きたことはわかるんだけど、理解できないっていうか……。あっ、ショーユもやられた」


 ヤモリンが飛び込んできてから5分ほど、我が魔王軍自慢の四天王は全滅してしまった。


 ……えぇ? いや、えぇ……?


 我、こんな勇者聞いてないって。


「見てください、魔王城の方に向かってますよ」

「えっ、我今からアレと戦うの?」

「ですね」

「あーーーー! 終わったー! 我終了ーー!!」


 勝てるわけない! 15分で四天王全滅? 無理無理無理無理無理! えっ、魔王討伐RTAって速攻で我を倒しにくるとかそういう感じ!?


「よしヤモリン、逃げよう!」

「はぁっ!?」

「もう支配とか諦めよう! あいつが魔王でいいや!」

「それでいいんですか!? ―――あっ、画面に魔王城写りましたよ!!」

「あ、我死んだわ」


 数秒後に勇者は我がデザインしたカッコいい扉をすり抜けて我が部屋に入ってきた。開ける時の音とかこだわったんだから、開けてほしかったなぁ。

 あっ、なんかフル〇ンになってるし。


「さて、最後に起こすバグなんですけど――」


 扉の前に立ってY字を解き、空間をまさぐるような動作をした。


 ……仕方ない。プライドなんか捨てて命乞いをしよう。

 やめろヤモリン、我を冷めた目で見るな。


「勇者様! どうか命だけはお助けください! あなた様が望むものならなんでも差し上げます! そうだ! 世界の半分なんて―――」

「っと……準備完了ですね。あとはこれを……」


 ダメだ、まったく聞いてねぇ。あー終わった終わった。世界の支配とかバカなこと考えるんじゃなかったわー。


 勇者がどこから取り出したものを高く掲げ、我を見つめる。

 殺すならはやく殺してくれー! ……と思ったが、あれ?

 勇者が持ってるのって……パンツ?


「狙い定めて……ゴー!」


 勇者はパンツを被り、我に突進。そのまま我の身体は砕け散って…………ない。無傷だ。


「へ?」


 振り向くと、勇者は我の背後の玉座に立っていた。……通り抜けたとか?


「魔王戦は流石に厳しいので、今回はコスチュームバグで戦闘フラグを回避しました。あとは横の宝箱を開けてカースクリスタルを壊せばエンディングですね」


 意味のわからない言葉を並べ、宝箱をこじ開けた。そして紫に光る宝石を、床に投げてぶっ壊した。


 テレテテーテーテーテッテレ〜


 どこからともなく陽気な音楽が流れ始め、空間に謎の文字が表示される。えぇと? 「荒井たつや」「黒瀬ひかり」「谷岡こうじ」……なんのことだ。

 そして、最後に「THE END」。


「ふぅー……ザ・エンドってね。さて、完走した感想なんですが――」


 勇者はどこか一点を見つめて、またぺちゃくちゃと喋りだす。独り言が激しいな。てかジ・エンドじゃないの……?


 それからしばらく喋って、勇者はどこかへ消えてしまった……。


「……なんか勇者消えちゃったんですけど……これからどうします? また世界の支配一から始めましょうか?」

「いや、もう支配とかいいや……。またあんなの出てきたら我たち死んじゃうよ?」

「じゃあ、これからどうするつもりですか?」

「そうだな……。では、物書きにでもなるか。今回のとんでもない勇者の話を他の魔族に広めて、バカな考えをさせないためにな」

「ふふっ、世界の支配を目論んでいた魔王様が物書き、ですか……」

「こう見えて我は幼いころに物語を書いたことがあってな。……あっ、今ちょうどいいタイトルが思いついたぞ! ズバリ―――」

いかがだっただろうか。

これを読んでくれた魔族たちよ、くれぐれも世界の支配なんて考えるんじゃないぞ。もし考えようものなら……言わなくてもわかるな?

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