放課後②
ニューヒロイン登場
バス内では主に絋人のことで質問が多くあった。
「え、月島くん騎士になるつもり無かったの?」
絋人の昔話を聞いている最中、衝撃のカミングアウトを受けて凛が驚きの声をあげる。
「あぁ、ウチは結構田舎にあって騎士云々とかあんまり意識したこと無くて。だから騎士の事とかは知ってるけど学園都市とかそういうのはあんまり知らないんだ」
「でも霊禍とか出ないの?」
「出るよ。両親ともに元騎士であの地域を守るのを取り仕切ってたんだ。初等部くらいの時は父さんと母さんについていって経験を積んで、中等部くらいの年齢の時には俺一人でも霊禍を祓うようになったんだ」
「……なるほどな。そういう理由か」
絋人の年齢と似合わない慣れている感じはそこから来ているのだと納得できた。
しかしまだ納得できない部分が。
「ではどうやってあの対人戦闘スキルを手に入れたんだ?いくら単独で霊禍を祓っているとはいえ限界があると思うが」
「それについては父さんがかなり強い騎士だったみたいで稽古つけてもらったからだな。ぶっちゃけ父さんが強すぎてちょっとの強敵くらいなら怖くはない」
「見たこと無い流派の剣だったが、それは父親など代々受け継がれているものと言う認識で良いのか?」
「間違ってない。それよりも俺は真田の剣の方が気になる。あの正確さどうやって出しているのか」
「簡単な話だ。ひたすら基礎の反復。俺の技については既存のそれを練度高く繰り出しているだけでそれほどスペシャルではない」
「ほう?なあ、よかったら今度合同でトレーニングしてみないか?真田のトレーニング興味がある」
「それは是非とも。むしろこちらから願いたいくらいだ」
「え、それなら私も参加したい。二人とは違う系統だけど剣士タイプの騎士目指してるし」
「俺は良いけど真田は?」
「水戸部ならついてこられるだろうしいいんじゃないか?荒川も興味があれば来るか?」
「私はデバイス系統違うしパス。ていうか多分ついていけないから」
そんな話をしているとあっという間に時間は経過する。
バスに揺られること30分。
協会本部近くのバス停で下車する。
協会本部近くは寮の近くとは異なりかなり都会的な建物の作りをしている。
高層ビルも多く連なっておりその分多くの人々が行き交っている。
凛の言う通りイベント開催中らしく屋台なども多く出店されているようだった。
「なぁ水戸部。これって何の催し物なんだ?」
「これは新年度の恒例行事ね。毎年学園の新年度になると進級や入学を祝した催し物が開かれるの。やっぱりこの都市自体を支えているのは学園あってだから」
「なるほどね。で、協会本部ってどの辺だ?」
「ここから15分くらい歩いたところよ。もう少し開けたところに出たら建物も見えると思うよ。まぁ折角だし屋台で何か買って食べながら行こうよ。あそこの噴水が分かりやすいしあそこ集合で」
凛の提案を了承しまずは各々食べたいものを買って集まることになる。
手軽に食べられるものから結構ガッツリしたものとバラエティー豊かなラインナップが見て取れる。
その前に首席の腕章を外して鞄にしまう。
昨日の商店街のようなことにもなりかねないと危惧したためだ。
何にしようかと迷っていると裏路地の方に差し掛かる。
するとある一角に目が行った。
第三学園の物とは異なるが明らかに学園都市の制服を着た赤髪の少女が複数の男に囲まれていた。
「おいおい嬢ちゃん、この服高かったんだぜ」
「あーあ、どう責任とって貰おうか」
「まぁまずはそこの裏でお話ししようや」
下卑た笑みを浮かべながら少女を追い詰めていた。
少女は毅然とした態度は崩さず反論する。
「言いがかりは止めてください。そっちからぶつかっておいて」
話を聞く感じ、いちゃもんを付けられている様子だ。
「嬢ちゃんその制服騎士目指してるんだろ?騎士候補だからって調子に乗るんじゃねぇぞ。俺たちにはこういう武器もあるんだ」
そう言うとポケットからナイフを取り出す。
ただそれは普通のナイフではなく魔力を帯びていた。
「な、何それ」
「へへ、これは裏で出回っている改造デバイスだ。魔力の無い俺でも学生騎士くらいやれんだよ!!」
そのナイフを振りかざしたところで絋人は動き出す。
一歩で10メートルほど先にいた輩の元にたどり着くと、ナイフを持った手首を押さえる。
「そこまでだ」
「「「!?」」」
輩三人は驚いた表情を浮かべる。
突然現れた絋人の事は認識すらしていなかったからだ。
「それ以上は看過できない。俺が相手になってやる」
「おいおいヒーロー気取りか?」
「俺たちも持ってるんだぜ」
そういうと残り二人も改造デバイスとやらを手にして絋人を囲む。
絋人は手を離すと三人を無視し少女の元に向かう。
「大丈夫か?早くここからはなれると良い」
「で、でも貴方は」
「ん?大丈夫、この程度なら余裕だから」
そう言うと少女を庇うように輩の前に立つ。
「ひゅーカッコいいね~。でも大人三人相手に何が出来るかな!!」
三人はそれぞれ絋人に向かって攻撃をする。
ナイフを振りかざしたり突き刺そうとする。
「………遅いな」
小さくそう呟くと、まずは正面にいるナイフを振りかざしたした男の懐に入り込み、鳩尾に向かって思いっきりアッパー気味の一撃を放つ。
「ゴフッ!?」
直後身を翻し右側の男の突き刺そうとしたナイフを蹴飛ばすとそのままもう1回転し回し蹴りを顎にピンポイントに放つ。
一瞬でブラックアウトし膝から崩れるより早く絋人は残る一人に向かい飛び込む。
今度はナイフを持った手の手首を掴むと、そのまま一回転し壁に身体を叩き付けた。
この間わずか3秒未満。
一種の出来事に少女は呆気に取られていた。
(つ、強すぎない?)
「あんまり調子に乗らないことだ」
そう言うと改造デバイスと呼ばれたものを一つ回収し、残り二つは踏み潰して壊した。
デバイスは鞄にしまうと少女の確認をする。
「怪我はないよね?」
「え、あ……はいお陰さまで。あの、貴方何者ですか?」
「俺は月島絋人。第三学園所属の一年生だ」
「火神焔と言います。第四学園の一年生です」
「第四学園?何で第三学園都市に?」
「ちょっと用事があって騎士協会本部に行かないといけなくて。場所を調べようと地図アプリを開いていたら絡まれちゃって」
「それは災難だな。良かったら協会本部に案内するよ。と言っても俺も場所は知らないから連れに教えて貰うんだけど」
「おーい月島くん、すごい物音あったけど大丈夫?」
丁度いいタイミングで凛がこちらにやってきた。
どうやら輩をぼこぼこにした時の物音が気になって来たようだ。
「ちょっとトラブルを解決してた。どうもこの子も協会本部に行きたいみたいなんだけど一緒に良いか?」
「彼女が良いなら良いんだけど……って焔ちゃん?」
「あ、凛ちゃん」
「知り合いか?」
「うん、家同士が交流があって小さい頃から良く一緒に遊んだりしてたの。幼馴染みってやつよ。でもどうしたの珍しい。てかトラブルって何?」
「あはは……ちょっとね」
焔はバツが悪そうに苦笑いを浮かべる。
視線を向けた先には三人の輩がダウンしていた。
それを見て何となく察した。
「あー、もしかして厄介ごとに絡まれたのを月島くんが解決したって感じね。焔は荒事苦手だもんね。て言うか一人壁にめり込んでるけど大丈夫?」
「さぁ?まぁ死んではないと思うけど」
絋人が近付いて首筋に手を当てると拍動は感じるため生きてはいるようだ。
「大丈夫、生きてはいる」
「ならいいけど。まぁ、何はともあれ騒ぎになる前に移動しようか。焔ちゃんも」
凛の促しで現場から素早く立ち去る事にした3人。
大通りに出て一息つく。
「どうする?焔ちゃんも一緒に本部に行く?また何かあっても嫌だし」
「そうしてくれるなら嬉しいな。土地勘ないからまた迷いそうだし」
凛と焔のやり取りを見ているとあることに気が付く。
焔の制服に腕章が付いていた。
「なぁ、火神は首席か?」
「え?うん一応ね。戦いとかは苦手なんだけどね」
そのやり取りを聞いて凛もあることに気が付く。
「あれ、月島くん腕章は?」
「ん?ここにしまってるけど、まずかったか?」
そういって鞄からチラッと見せる。
「うーん、学園外だからダメではないけど推奨はされないかな?ちなみに外した理由は?」
「昨日商店街に行ったら腕章きっかけでメチャクチャ色々サービス受けすぎて気が引けたから」
「あーそういうことね。だったら無くさないようにすればいいよ」
そのやり取りを聞いて焔に疑問が浮かぶ。
「あれ?そう言えば凛に腕章がない。ってことは?」
「うん、今年の首席は月島くんだよ。今年は次席」
「凄いな、私なんかと大違いだ」
少し視線を落とし寂しそうな目をする焔。
「………さ、それじゃ協会本部まで案内よろしく水戸部」
「え?あーそうだね。そろそろ二人も戻ってくる頃合いだし合流しようか。焔、行こっか」
「………うん。ありがとう凛、月島くん」
そう言うと集合場所の噴水まで三人で向かった。




