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vs【剣聖】

舞台に残った神奈月と絋人。

他の生徒が移動し終わるまで柔軟などこなし準備を進める。

絋人は相手が相手だけにしっかりとウォームアップを行い少ない情報ながらもシミュレーションも行う。

一方の神奈月は特段何かアップするという様子もなくおもむろに舞台脇にある倉庫に向かう。

数十秒後倉庫から出てきた神奈月の手には木刀が握られていた。

それを軽く数度素振りをしており意図を察した。

「もしかして、それで相手してくれるんですか?」

「ええ、あくまで模擬戦なので学生であるキミに怪我をさせるわけにはいかないでしょう?あぁ、勿論月島くんはデバイスを使って良いですよ」

悪意のないその配慮に一瞬イラッとするが実力差と状況を考えると妥当な判断といえる。

ただ実際流石に神奈月を相手は無理があると感じてはいる。

世界最強の騎士に一介の学生が挑むなど本来勝負論など存在し得ない。

いわばアリが巨象に挑むようなものだ。

であるならば実力差を考えると勝利は目標ではない。

現実的かつ頑張れば到達できる紘人の目標は神奈月邦彦にデバイスを抜かせる。

そこまで出来れば御の字どころか万々歳とすら言える。

だがそれには絋人の全力を出しても達成できるかどうか。

その上、第四学園の面々もおり今後の太陽剣舞祭の事を考えれば他校に情報が漏れるのはあまり好ましくは感じていない。

が、それを差し引いても十分以上に神奈月相手ならば価値は高い。

それに今いる第四学園の面々で太陽剣舞祭に出られそうなのは奏と焔くらいだろうと評価しており直接的にはほぼ影響はしないとも考えている。

どちらかと言えば刀士に手の内がバレる方が嫌と言えば嫌なのだがそんなことは言ってられない。

逆の立場なら間違いなく刀士も全力を出しただろうから。

そんな目論見を抱きながらその時を待つ。

数分して全生徒が席に着いたと連絡があり舞台に立つ。

「月島くん、君が望むならこの手合わせを記録して送ることが出来ますがどうしますか?」

「なら是非とも下さい」

「分かりました」

そう言うと後ろに控えている職員に声をかける。

「……はい、ではお願いしますね。

今しがた記録を依頼しましたので━━始めましょうか」

そう言う神奈月は木刀を右手に手にして鋒を紘人に向ける。

所謂正しい構えの類いではないが神奈月が行うことでそれが最適解かのような印象を植え付けられる。

これが剣聖か、と見惚れそうになるが切り替える。

「━━煌めけ【狐月】」

デバイスを顕現させると正中線に構える。

互いに刃を向け合うと一気に空気が張り詰める。

世界最強に刃を向け、世界最強が刃を向けてくると言う構図に自ずと緊張感が高まってしまう。

その緊張感に飲まれそうになるが一度目を閉じて深く息を吐く。

直後目を開けると絋人のスイッチが入った。

それを感じた神奈月はニッと口許を綻ばせる。

「いつでもどうぞ?」

そう微笑む神奈月。

一歩踏み出そうとしてみたが当然ながら隙は一切ない。

構えているだけだというのにその圧迫感は巨大な壁を目の前にしているかの如く。

だがこのまま待っても仕方がない。

これは模擬戦であり、あくまでも自分が挑戦者。

ならばこちらから動くと言うのが礼儀であろう。

まずはシンプルに真正面から斬りかかる。

間合いは一歩で潰した。

加速はしないがそれでも十分な速さは客観的に見てある。

まさか神奈月邦彦を相手に正面突破はないだろうと大多数が予想していた。

不意を突いた一撃ではあるが、


「━━僕を相手に正面からぶつかるのは称賛しましょう。でも、勇気と無謀は別ですよ?」

「!?」


木刀を使うまでもなく人差し指と中指で挟む白刃取りの要領で刃を受け止めた。

その上刃を引こうとするがピクリとも動かない。

(何だ、この力は……!?)

「━━言い忘れましたが、僕って結構剣以外も強いんですよ?」

木刀を足元に落とし、右の拳を握り込むと紘人の心窩に叩き込もうとする。

拳が触れる直前━━


(これは、マズイ!━━【加速世界】)


咄嗟の判断で加速世界を発動し、狐月を手放し柄を蹴る。

神奈月の拳は制服を少しかすめはしたものの辛うじて回避に成功した。

コンマ一秒ずれていたら直撃を免れなかったが間一髪で事なきを得る。

開始時よりも後方に退き明確に距離を取る。

加速世界を解き一つ深く呼吸をして息を整える。

今の一瞬の動きを見て神奈月は拍手をして称賛する。

「今のを回避するとは素晴らしいですね。それに咄嗟に動かせない刀を捨てる判断。学生が瞬間的に判断できる事柄じゃないですよ?」

「……お褒めに預かり、光栄ですよ」

そう言って笑って見せるが正直ギリギリだったのは紘人が一番良く分かっている。

(正面突破はやりすぎと思ったがあんなあっさり止められるか。しかも体術も相当強いぞ、あの感じは)

剣だけならもう少しシンプルに立ち回れたが体術すら卓越しているとなると、どうやってデバイスを取り戻すかが問題となってくる。

そんなことを考えていると神奈月は徐に歩を進めると二人の中心くらいの位置に狐月を置いて元の位置に戻った。

「これは模擬戦です。実戦ならばこのまま返しませんが月島くんの実力を知りたいので今のを踏まえて頑張って下さい」

「……ええ、やってやりますよ。今の俺の全力を」

再び狐月を手にすると出し惜しみなしで一気に仕掛ける。

(━━【加速世界】)

群青の魔力が身体を包む。

それを見て神奈月もなにか違うと言うことを悟った。

絋人は1歩脚を前に出すと加速をもって縦横無尽に駆け抜ける。

今度は正面突破ではない。

地面を壁を蹴り上げてどんどんとスピードを上げる。

(まずは意識を散らして隙を作る)

ヒット&アウェイを基本に攻撃を仕掛ける。

しかし神奈月は魔力を持たせた木刀にて絋人の攻撃を悉く退ける。

(マジか、全然翻弄すらされてねぇ。どうなってやがる)

全てが通用するとは思っていなかったが、ここまで意に介さないとなると話が違う。

こちらの動きを明らかに追っており、その上右足を軸足にしてその場から1歩たりとも動いてすらいない。

初見の技でもここまで対応できると言うことは手を変える必要がある。



そこまでを客席で見ている生徒達は2度驚きの声を上げている。

まずは絋人の速さについて。

そもそも前提として大多数の人間が絋人の動きを追うことが出来ていなかった。

元より神奈月が異次元の存在であることは皆知っていたが、絋人の動きは既に学生の範疇を超えていると言っても過言ではない。

この一瞬で絋人を初めて見た面々は本能的に自分達では到達できない領域であると理解させられた。

想像を超える動きに驚嘆の声が漏れる。

そしてもう一度はそれに対する神奈月について。

そんなある種別次元の同級生を全く意に介さず凌いでいる。

最早理解の及ぶ範疇からは大きく越えてしまっていた。

絋人と親交の深い刀士達を除いて。

「いきなり月島は例の技を使ったな」

そう言う刀士はやや険し目の表情を浮かべる。

凛と小夜子も同じく表情を険しくしながら戦いを見守っている。

「多分そうしないと剣聖の攻撃で終わってたからね。そもそもあの技の前の攻めも正面突破という逆を付いた感じはしたけど全く崩れなかったね」

「真田くんとの模擬戦の時から気になってたけど月島くんの高速移動って何?身体強化の術式?」

「俺らも知らされてない。模擬戦で俺も目の当たりにしたが全く分からなかった。

……月島の幼馴染みならあの技のことは何か知っているんじゃないのか、的場」

小夜子の疑問にある種当事者だった刀士にぶつけるが当然刀士も知らない。

唯一それを知っていそうな奏に視線を向けると少し悩むような表情を浮かべる。

「……詳細は知らないけど、名前とかは知ってる。ざっくりどんな感じの術式なのかも。でもこれを勝手に話すのはちょっとフェアじゃない気がしてね」


この時代において術式というものはかなりパーソナルな情報に該当する。

というのも騎士を目指す以上いずれ命のやり取りをすることが考えられる。

そうなった場合術式の詳細は場合によっては致命的な情報を与えてしまうこともある。

故に知っているからという理由で他人にアレコレ話をするというのは禁断(タブー)とされている。


「それもそうだな、すまなかった」

「ごめんね、力になれず。でもそれを踏まえて言うならさっきの絋人は結構ギリギリの綱渡りに成功した感じだと思うよ。多分ほんのちょっとあれの発動が遅れてたら吹き飛ばされてたし」

「じゃあ真田くん的に剣聖の剣ってどう見える?」

凛からの質問に少しだけ間をおいて考えてみる。

「…………。まだ防戦しかしてないから何とも言えないが、あり得ないくらい反応速度が速い。そしてそれに追い付く体躯を兼ね備えているから剣を使わずとも月島に危機感を抱かせたんだろう」

「ちなみに剣士ってああいう体術も訓練するの?」

「流派による、としか言えない。俺の使う流派では正式に体術への応用は教わってないが俺自身は応用させて戦うこともある。火神、先日見たあいつの体術はどう感じた?」

「え?……うーんあの時は結構怖かったら詳しくは覚えてないけど、すごい強かったよ。でも相手は素人だしそれが所謂流派の派生なのかは分からない」

「なら荒川、剣聖の体術ってどう見る?」

「あの一瞬だけどヤバイね。無駄と隙がない。で、何であれを月島くんが躱せたのかも意味分からない」

絋人の実力の一端を知る彼らですら神奈月の隔絶された実力には驚きを隠せてない。



(━━月島流【夕月】)

所謂軟打を中心にしながら強打を織り混ぜて攻めを構築する。

だがそれでもなお神奈月は揺るがない。

しっかりと威力の高い攻撃は強めに受けたり躱したりと完璧に立ち回られている。

完全に動きが読まれている。

(クソ、マジで当たらねぇ)

ならば次の技を繰り出す。

背後から斬りかかる絋人。

当然神奈月は難なく凌いだ、と思われたが虚空を斬る。

その脇から絋人の攻撃が差し迫る。

(━━月島流【朧月】)

攻撃を繰り出す虚像を映し出し、そこに引っ掛かれば反撃直後で無防備な所に不意を突いて攻撃をする自己完結型のカウンター技。

虚像には神奈月も引っ掛かったが、その後の不意を突く一撃については神奈月は身を翻し難なく回避する。

(嘘だろ、これも初見で躱すのか)

逆に打ち込まれる前に退き次の攻撃に向けて動く。

驚きはありつつもそんなことで動揺はしてられない。

そんな絋人の心中を察してか少し笑みを溢しながら神奈月は口を開く。

「威力の異なる攻撃を定期的に織り混ぜて攻めるその姿勢は素晴らしい。ですが、無意識でしょうね……技を使うとき、少し間が空きますね」

それを指摘と同時に神奈月は木刀を振り回し絋人の攻撃を正面から受け止める。

つばぜり合いの構図に持ち込まれる。

「ではそろそろ、僕も攻めてみましょうか」

そう言うと神奈月自ら後方に距離を取る。

「今から打ち込みに行きます。頑張って凌いでくださいね」

その宣言を受けて絋人の緊張感はより一層高まる。

おそらく木刀とはいえ受ければ大ダメージは必至。

加速世界を解かずに十分に備える。

一挙手一投足、一分の隙もなく動きを警戒していた。

だが、



「━━━まだまだ視覚に頼っているのですね?」



「ッ!?」

神奈月は既に間合いの中にいた。

(嘘だろ、いつだ!?何で見落とした!?)

振り上げられる木刀を回避できずモロに胴から肩に掛けて切り上げるように攻撃を受けた。

そのまま後方に吹き飛ばされる。

一方の神奈月は攻撃の手応えが十分無いことに気付き視線の先の絋人を称賛する。

「……凄いですね。半歩ですが後方に退いてダメージ軽減を図りましたか」

「……ッ……痛てぇ」

斬られたラインを手でなぞる。

実戦なら即死は免れたが間違いなく致命的な傷になっただろう。

これが模擬戦でよかったとつくづく思わされる。

痛みを堪えながら立ち上がり構える。

それを見て再度神奈月は打ち込む。

更に一歩踏み込み神奈月が打ったことにより今度は完全に回避できずモロに正面から攻撃を受け後方に飛ばされる。

だが何とか空中で姿勢を建て直し倒れること無く追撃に備えた。

そんな様子をみた神奈月から一つ提言があった。

「……月島くん、今までの攻撃の躱し方。教えてあげましょうか?」

「?……どういうことですか?」

「先ほどまで僕は君の攻撃を凌ぎました。君からすればあれだけ超高速で動いているのをどうやって全部関知して凌いだのか、気になっているでしょう?そして僕の攻撃をどうやって凌げばいいのか」

「そんな種明かししてくれるんですか?」

「キミの動きやポテンシャルなら習得が出来ると思うので伝えましょう。

━━━【刹那の見切り】、というのを聞いたことありますか?」

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