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合同見学会②

騎士協会本部の案内には現役の騎士が宛がわれると道中のバスで聞いた。

例年第三学園だけでの見学会でもA級の騎士が案内することが多いとのことで二つの学園の合同なら相当の人が来るのではないかと噂は立っていた。

職員の案内があり大ホールで待機する学生達は誰が来るのか楽しみに待っていた。

するとここまで案内してくれた職員が壇上に立ち号令をかける。

『皆さん本日は急遽ではございましたが我が騎士協会本部への見学会を執り行いたいと思います。早速ではございますが、本日引率をしてくださる方の紹介です。壇上にどうぞ』

そう言うと舞台袖から一人の男性が現れる。

白を基調としたスーツに肩の辺りまで伸びた金髪が映えている。

その姿を見た殆どの生徒はザワザワし出す。

流石の絋人でもこの人物についてはよく知っている。

国内、否、世界最高レベルの騎士であり国内最強戦力である━━━


『皆さん初めまして。【十二神将】・【剣聖】の神奈月邦彦です』


━━━うぉぉぉぉぉ!!


歓声と拍手が同時に沸き起こる。

まさか現役の【十二神将】ましてや【剣聖】が来るなど想像もしていなかったからだ。

中には驚きと感動のあまり涙を流す生徒もいるほどだ。

だが絋人そして刀士だけは全く違う感情を抱いていた。

(……凄いな、立ち姿に一切の隙がない)

(得物を持たずにこの凄み。しかもある程度実力のあるものにしか悟れないようにコントロールしている)

絋人がチラッと様子を伺った感じでは自分の他には刀士くらいしかその事に気付いていない様子。

どこか隙などないのかついつい探ってしまう。

一瞬壇上の神奈月が笑顔を崩さず視線をこちらに寄越した。

その瞬間ほぼ無意識的に右足を半歩退かせていた。

それは刀士も同様。

無言で視線を合わすとゆっくり頷く。

どうやらお互い神奈月から牽制されたようだった。

『本日はこの協会本部についての案内をさせていただきます。最後の方には特別なプログラムもあるので楽しみにしていてください』

『ありがとうございます剣聖。では第三学園の生徒さんから順番に動きます。剣聖に着いて行ってください』

絋人のような一部を除いて浮かれた様子で神奈月の後に続いて移動する。

「凄いね月島くん、剣聖だよ?」

「……なぁ水戸部は剣聖の姿を見て何も思わなかったか?」

「え?うーん……強いて言えば本当に隙のない立ち方をしているなってくらいかな?」

どうやら凛も気付いてはいたようだが、牽制を受けてはいない様子。

チラッと第四学園の方を見るが牽制を受けた様子はなさそうだった。

「そんなことを聞くってことは何かあったの?」

「いや?俺の考えすぎだと思うから気にしないでくれ」

列の後方を歩きながら移動する。

その中で少しだけ離れて絋人と刀士は話しながら進む。

「真田も気付いてたよな?」

「あぁ、明らかに牽制されてたな」

「ひょっとしなくても剣聖の隙を探っただろ?」

「バレてたみたいだな。それでこそ国内最強の騎士だ」

正直絋人も刀士も敵意と言うほどのものも出したつもりはないが剣聖の感度は鋭敏らしい。



まず神奈月が案内したのはデバイスの開発局だ。

「さて、こちらがデバイス開発を担う部署です。通称開発局と僕たちは呼んでいます。機動の方は特に馴染みがあると思いますが最近では魔導の方でもデバイスを用いることが珍しくないので案内させてもらいます。本当はこちらの統括をしている天草局長に説明などしてもらう予定でしたがスケジュールが空かなかったとのことで場所のみの紹介となります。ただこのフロアには多くのデバイスが展示してありますので10分ほど見学時間を設けます」

開発局の入り口から壁にかけてはガラスケースが置いてあり歴代のデバイスの歴史が視覚的に分かりやすく展示されている。

特に機動科の生徒達は初めて見る現物に興味津々といった様子で見ていた。

絋人としても初めてちゃんとした機動のデバイスを目にしたと言うこともありしっかり見ながら着いていく。

(良く出来てるな。大気中の魔素を吸引しながらそれをエネルギーに変換。これなら確かに魔力操作が苦手な人や魔力使用が出来ない人でも戦えるのか)

しかしここで一つ絋人の中で疑問が浮かぶ。

(でも良く考えたら誰がどうやって俺たちが自然にやっている魔力循環を理解して組み込んだんだ?)

本当ならこの場で質問もしたかったが専門家が居ないという状況でややこしい質問をするわけにもいかず心に留めることにする。

するとその様子を見た凛が声をかける。

「月島くんは初めてちゃんと見たんだよね?どう?」

「見れば見るほど面白い構造をしている。俺たちが自然にやっている魔力循環を再現しているし、出力こそ高くはないが安定感についてはやはりと言うべきか目を見張るものがあるな」

「流石分析というか解像度が高いね。実際この技術が生まれてから霊禍による被害は減少傾向にあるらしいよ。倒せるかどうかは兎も角死なないための装備としてはかなり優秀だからね。開発当初の基本コンセプトとして命を守るためのデバイスっていうのが触れ込みだって聞いたよ」

「流石切嗣くんの妹さん、詳しいですね」

「か、神奈月剣聖!?」

背後から話を聞いていた神奈月が声をかける。

流石の凛もまさか話しかけられるとは思わず驚きの声をあげた。

「驚かせてすみません。ただ随分と熱心に話をしていたようなので気になったんですよ。少しだけ話を聞かせて貰いましたが、君のデバイスへの解像度は見事ですね。名前を聞いても」

「月島絋人です。お褒めに預かり光栄です」

「では月島くん、それを踏まえて何か気になることはありましたか?」

「………。一点、いいですか?」

「どうぞ」

「どうやってこのデバイスのシステムは構築できたんでしょうか?」

「と、言いますと?」

「デバイスの魔力循環システムは自分たち魔導騎士が自然と行っている工程を再現しています。ただ、それにしては正確すぎる気がするんです。まるで自分以外の魔力循環の工程を目の前で見たかのように。それも現代なら兎も角半世紀以上前の初期型から再現度が高すぎるのが気になりますね」

「……目敏いですね。良い着眼点だ。ですがそれについては個別で回答してあげますので今は差し控えましょう」

そう言うと神奈月は踵を返し他の生徒達を見に行った。

ただ絋人の角度からは口許を綻ばす神奈月の表情は確認できなかった。




「ではそろそろ時間ですので移動しましょう。次はトレーニングルームを案内します」

トレーニングルームは本部から渡り廊下を越えたところにある。

所謂大型の体育館のようなつくりでありその中にウェイトゾーンやランニングゾーンなど区画が分かれていた。

そこを抜けるとメインホール2階部分の客席に当たるところから見学を行う。

「ここがメインホールでイベントなんかも行ったりします。そして今トレーニングをしているのが特務課の方々です」

見ればメインホールで数十人が合図に合わせてダッシュや素振りなど行っていた。

先頭に立ち指揮を取っているのは切嗣であった。

あの時はスーツを着ていて分かりにくかったがトレーニングウェアを着ている今なら分かる圧倒的に仕上がった身体。

明らかに切嗣のしごきを受けている者が弱いというわけではないが、それ以上に切嗣は肉体的にも圧倒するものがあった。

「先頭に立っているのが水戸部切嗣。特務課のエースです。彼と共にトレーニングをしている面々は皆最低でもB級以上。彼らが国内での霊禍関連の事件や騎士の力を悪用する輩に犯罪を取り締まるので安全に過ごすことが出来ているのです」

(……水戸部のお兄さん、やっぱり強い人だ。叶うことなら、戦ってみたい)

「……。月島くん、今お兄ちゃんと戦いたいって思ったでしょ」

「バレたか」

「まぁ薄々思っているけど月島くんってちゃんと戦闘狂だからね。あ、我関せずって顔してるけど真田くんも」

「!?」

隣に座っていたが思わぬ飛び火に少し驚いた顔を見せる刀士。

「まぁ……強く否定はしない」

「今度私から伝えてみようか?二人が手合わせを願っているって」

「いや、それはいいや。太陽剣舞祭が優先だからな」

「月島の言う通りだ。楽しみは後にとっておきたいしな」

「いやそういう話じゃないんだが……まぁいいや」

この件は詰めても仕方ないと判断し今は目の前のトレーニング見学に集中する。



およそ30分ほどトレーニングをトレーニングを見学した後次に案内されたのは食堂兼カフェテリアだ。

「こちらは職員の福利厚生の一環で用意されているものになります。一般の方も利用可能ですが職員であれば利用にお金はかかりません。少し早いですがここで昼食を取って貰おうかと思います。今日は特別に料金はいただかないのでお好きなものを食べてください」

いわゆるビュッフェスタイルで各々が好きなものを取っていく。

と、このタイミングでようやく焔が動くことを決心する。

見学ではどうしても学園毎に固まって動いており絋人の元に行く機会がなかった。

だがこの時間は比較的自由。

そう思っていると


「あ、焔一緒に食べないか?」

「!?ひ、絋人くん!も、勿論だよ」

絋人の方から声をかけられ一瞬声が上ずるが何とか冷静さを取り戻す。

そんな焔の背後から奏でも声をかけてくる。

「絋人、私も良いかな?」

「勿論。こっちの友人をちゃんと紹介したいし」

食堂の一角で6人で円形のテーブルを囲む。

「じゃあ初めまして、私は的場奏。焔の親友兼絋人の幼馴染みよ」

「水戸部凛ですよろしく」

「荒川小夜子よ」

「真田刀士だ。一つ質問良いか?」

「どうぞ?」

「的場も月島と一緒に霊禍を祓っていたのか?」

「あれ、絋人が祓ってた話知ってるんだ。何回か現場に同行したことはあるけど絋人ほど実地経験ないよ?と言うかこの年で単身でちゃんと祓える絋人が異常だから」

「そうは言っても奏でもC級くらいは余裕だろ?」

「それはない、余裕なのはD級くらいよ。でもあんたはB級くらいは余裕で対応するじゃない」

「余裕ではないが、まぁ……出来ないことはないな」

「いやいや月島くんしれっと異次元の会話繰り広げないでよ」

「いやいや水戸部さん、絋人は大概異次元よりだから慣れないとダメだよ?地元でも絋人の才能と実力に心折れた大人たちもどれだけいることか」

しみじみと言った表情で語る奏。

武勇伝と言うほどではないが絋人の同郷の人間から具体的なエピソードを聞き驚きより畏れと言う感情がギリギリ勝っている。

……若干一名を除いて。

(絋人くんってそんなに強いんだ。それも一人でB級まで対応できるなんて凄すぎる!)

焔だけは好きな人の新情報に心踊らせながら脳内メモリーにしっかりインプットしていた。



ランチも食べ進めるなか絋人と焔、凛と刀士と自然とペアが出来て話をしている。

その隙に隣り合った席に座っている奏と小夜子は互いに思っていることを確認し始める。

「……的場さんは、火神さんの参謀って所かな?」

「……それを聞くってことは荒川さんは、絋人の参謀かな?」

「……確認させて。あの二人のことどう思う?」

「……じれったいけど、時間をかけた方が面白いと思っているわ」

「同感よ。あくまでも私たちはアシストをするだけ、良いわね?」

「勿論よ。あの二人を見事ゴールインさせましょう」

ガシッと力強く握手を交わし、ある種の同盟を結ぶのだった。



およそ一時間ほどが経過し食堂から離れていた神奈月が戻ってくる。

「皆さんお食事は楽しんでいただけましたかね?続いてですが先程のメインホールの中に行きます。そこで一つレクリエーションを行おうかと考えていますのでお楽しみに」

神奈月の先導でメインホールの中の舞台に登る。

すると神奈月は早速レクリエーションと言うものについて説明をする。

「では、先程述べたレクリエーションですが……この中の代表者一名を選んでいただき、僕との模擬戦を行いましょう」

「「「!?」」」

全生徒が驚きの表情を浮かべる。

それもそのはず。

まだ学生と言う身分でありながら国内最高戦力である【剣聖】と手合わせなど正直分不相応と考えてしまう。

ザワザワする一同だが真っ先に延びる手が二本。

「「俺と戦ってください」」

声の方を向くとやはりと言った表情で笑みを浮かべる。

「第三学園の月島くんと真田くんですね?……他に戦いたい人は?」

少し見渡してみるがそんな度胸を持っている者はもういない様子だった。

「居ないようですので二人のどちらかと戦いましょう。ちなみに二人は直接手合わせをしたことは?あればその時の勝敗は?」

「あります。その時は俺が勝ちました」

「なら今回は月島くんと戦わせてもらいましょう。真田くん、今回は申し訳ありません」

「いえ、月島と戦うのであれば見て学ぶものも多いので問題ないです」

「何だ結構あっさり引き下がってくれるんだな」

「正直お前と【剣聖】の戦いには興味がある。頼むぞ」

「あぁ、ありがとう。では【剣聖】よろしくお願いします」

「では残りの皆さんは先程見学してもらった二階に移動を」

「絋人くん、頑張ってね」

「ありがとう焔。応援頼むぞ」

「!うん、勿論」

笑顔を交わすと焔も皆と同じように移動をする。



道中特に焔と奏を除く第四学園の面々の反応は絋人に対して懐疑的な反応が多いように感じられた。

━━誰か知らないけど図々しいだの

━━分不相応と分からないのかなど

一方の第三学園側の反応としては、模擬戦での絋人の戦いを知っているためどこまで通用するのか楽しみと言ったような反応であり正反対の反応と言えた。

そんな中凛は神奈月との模擬戦に手を上げた刀士に尋ねる。

「真田くんはどうなると思う?」

「勝敗に関して言えば流石に月島の勝ちはないと思う。それはアイツ自身もよく理解しているはずだ。それほどまでに【剣聖】は格が違う。だが、アイツなら何かしら一矢報いるのではないかと思っているし俺よりもその可能性が高いから譲ったんだ」

「私も月島くんなら何かしてくれそうだと思う。だからしっかり私たちも見て後でアウトプットできるようにしてあげよう」

階段を登ると客席に座る。

特に学園毎などという指示もなかったので凛達3人と焔と奏の2人が合流し最前列で戦いの行く末を確認することになった。

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