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長身猫背令嬢、社交界デビューに挑む! 〜あたくしのやることに文句ありますの?って美女を心に飼えって無茶ではないですか?〜  作者: あかね


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2/12

2、仕立て屋で窮地

本日2話目です。

以降、1日1話全7-8話予定。

 兄に相談した日からきっちり一週間。音沙汰がないと思っていたら急に出かけるぞと言われた。母には仕立て屋に行ってきますと話しているのが聞こえた。


「どこの仕立て屋?」


「ロワイエ服飾品店。元後輩の実家だから話は通してある」


「……はい?」


 老舗中の老舗の仕立て屋の名前を出された。建国時よりある店であり、小物の販売は一般にもしてくれる。そちらはお手頃価格で販売されることが多い。

 しかし、服の仕立てとなると一年に制作する服の数は決まっており、予約が数年先まで埋まっているという。それに割り込みなどした日には、冷たい目で見られることになる。


 その店に仕立てに? それもコネで?


「こわいこわい、なんで」


「あ?」


 ピンときていない兄に私は説明する。


「ああ、今日は仕立てとか頼むんじゃない。

 長身のメイドがいるから、歩き方とか振る舞いを教えて貰おうかと持ってな」


「そ、そうなんですか?」


「ほんと、あれには騙された。可憐な美女だった」


 良い言い方ではないが、大丈夫なんだろうか。不安に駆られつつ、私たちは店に向かうことになった。


 その店は老舗の威圧感のないこぢんまりとしていた。入りにくいような雰囲気がなさすぎた。前情報を知っていると逆に通り過ぎてしまいそうなくらいに。


「おもったより小さいのね」


「来たことことないのか?」


「私にはサイズが合いそうになんですもの……」


 でかい女にはかわいいは無縁だ。可愛いが可哀想になる。

 そうか? と言いたげな兄。兄は一般的に巨大と言われる範囲にいるので、妹の大きさは気にならないんだろう。普通は隣に立たれて、あれ? と見上げられる事が多い。


「なんか気に入ったのがあれば買ってやるよ」


「お高いの選んでおくわ」


「兄の財布に優しいのにしろよ」


「それなら奢るとか言わないんですわよ。狭量にみえますもの」


 くっ、とか言っている兄を横目に見ているうちに店の扉が開いた。

 店員だろうかと思ったが男性だった。こういった店は女性の店員が多い。彼は私と兄を見てちょっと眉を寄せた。


「店先でなに遊んでんです?」


「遊んでない。

 フィデル、これが妹のリースだ」


 長く伸ばした銀髪の男性は兄より年下に見えた。私と同じくらいかなと思いながら軽く会釈する。それにしてもこれって! 少し兄の脇腹を小突いた。全く気がついていなかったが。この筋肉め。


「ああ、こちらが、例の妹さん」


 不穏な言い方。なにか、いらぬ前情報を提供していそうな雰囲気がした。


「美人だろ」


 兄の堂々とした言い方に私のほうが絶句した。美人などと言われたことがない。他国の血が入っているのがよくわかる顔立ちはこの国の美人の範疇には入らない。

 しかし、フィデルさんはふむと呟いた。


「原石ですね。磨かないと。磨いていいなら、ですけどね。面倒も連れてくるんで必要に応じてですよ」


「今度デビューさせるから、一番目立つ美人に」


「ちょ、ちょっと」


「その話は中で伺いましょう」


 笑って彼は店内に案内した。私が睨んでも兄はどこ吹く風といったふうだった。

 店の中は何人かの店員がいたが、軽く会釈するだけで作業に戻っていった。彼女たちは白い小物とカラフルなリボンやガラスなどを扱っていたようだった。手際よく組み合わせを決めて箱に詰めている。


「今年は社交界デビューの夜会があるからね。

 どこの仕立て屋もこの二ヶ月は慌ただしいよ」


 そう言われながら、小さいテーブルに案内される。そこもどうにか空けましたという感じに近くに書類が積んであった。おそらくそれが置いてあったんだろう。ちらりと見えた内容では予約抽選の用紙のようだった。記載済みで束ほどにあるとなればその中で当たるなんてことはよほどの強運だ。


「全部受けてあげたいけどね。支店も営業止めて近隣のお嬢さんの対応しているし、なかなか大変だよ」


 私が見ていたことに気がついたのか彼は苦笑いしてそういった。そんな忙しい時に時間を取ってもらっている。じろりと兄を睨む。意味がわからんと言いたげに眉を寄せられた。ちょっとどころではなく察しが悪い。


「忙しいところ申し訳ありません」


 兄の代わりに謝罪した。どうせ、先輩風吹かせてねじ込んだに違いない。兄は少しばかりバツの悪そうな顔をしていたから大体あってるっぽい。


「まあ、先輩には借りがありますからね」


「これからも増えるから返済の機会を提供してやったんだよ」


「ま、これもうちのかみさんのためと思えば」


「……ところでクレア嬢、いや、クレア殿は」


「そのうちに来るはずなんだけどな」


 その言葉が終わらぬうちに奥から一人の女性が出てきた。


「遅くなってごめん。もう、うちの旦那様ったら恥ずかしがり屋で」


「……それで揉めてたんだ? ほっとけよ。クレアと違って繊細なんだから」


「うっさいなぁ。

 ……あ、すみません。クレアです。ええと、リースさん?」


「はい。エルス家の長女のリースと申します」


「今日はご相談と聞いたんだけど……」


 そこでなぜかフィデルさんの方を向いて少し咎めるような表情をしていた。彼は嫌そうに顔をしかめている。


「そこは女同士でなんかして。俺は嫌」


「いやいや、お前がしなくて誰が」


「そうだよねぇ」


 なんか揉めてる。

 私以外知っている何かで揉めてる。説明してほしいと兄の袖を引っ張る。困ったなぁと言いたげに兄が見下ろしてくるが、説明はない。


「ほかに頼るあてがないんだよ」


「ほら、お困りじゃない。受けたんでしょ?」


「違う。相談ならといったよっ!」


「そこをなんとか」


「もう二度とするかよ! 見苦しい女装」


 じょそう?


「あの長身の可憐なメイドがいると聞いていたのですけど?」


 嫌な予感がしながらも聞く。


「こいつ」


 と兄が指したのはフィデルさんで。


「我が家特製のメイドは兄」


 クレアさんも重々しく言う。冗談を言っている雰囲気がないのが怖い。


「ええと、美人で可憐なメイド? なんですか?」


「任務の都合で、そうなったことはあります」


 本人が渋々認めた。

 どこをどう見ても一般男性。信じがたい。


「ああいうのは、訓練がいる。

 俺は小さいころから仕込まれたから、出来たんであって」


「妹もちゃんとご令嬢やってるが?」


「俺の真似をするの無理だと思いますよ。

 まず、猫背直してください」


 冷静で冷酷な一撃だった。

 少しでも小さく見せたくあって、どうしても縮こまってしまう。それは自覚があったが、直せるものでもない。


「入場から見られる。つまりは歩き方から始まるんです。知らないですけど」


「は?」


「俺、社交界デビューしてないんで。仕事忙しすぎて」


「あ、すみません。私もしてないんで、現場は知りません」


 兄が愕然とした表情をしていて面白かった。いや、面白がっている状態ではないと思うのだけど。うち弱小なんでというが、建国以来の血筋でそういうことをしていいのだろうか。


「……はぁ、じゃあ、なんだ。

 歩き方を直せばいいのか」


 色々なものを飲み下し、兄がため息交じりに問う。


「ほら、いいやつがいるじゃないですか。

 ゼインが適任。小物くらいはサービスするんで勘弁してくださいよ」


 フィデルさんはそう言って、席を立って行ってしまった。


「もう、兄さんったら。

 あ、怒ってるわけじゃないから。多分、うまく歩く自信がないんだと思う」


「ああ、そういや、後遺症まだあるんだったか……」


 兄が手短に教えてくれたには任務で怪我をしてそれ以降、足が悪くなったという。ゆっくり歩くのはできるが、優雅にとなると難しいのかもしれないなと呟いていた。

 あまりにも普通すぎて忘れてたというのだから、気取らせないフィデルさんがすごいのだろう。


「ところでゼインさんというのは?」


「歩き方の講師してるやつなんだが……。ものは試しで聞いてみる」


「すみません。お役に立てなくて。

 まあ、ひとまず、現状を知るために着替えてみますか」


 へ? と間抜けな声が出る。着替えるって何に? 半分既製品も出回るこの世の中ですべてオーダーメイドで済まさねばならないこの身長。着替える服があるとは思えない。


「兄のメイド服と義姉さんたちのサイズ確認用のものがあるから試しましょう」


「え、そんな、合わないですわよ」


「大丈夫。夫の親族の女性、皆、大きい。迫力満点」


「そうだな……。伯爵夫人、すっごいもんな」


 すっごいってなにが!? 混乱しているうちに試着室に連れ込まれ、手際よく脱がされていた。職人芸だ。恥ずかしいと思う間もなく採寸されてしまった。


「うん。ちょっと手直しすればいけそう。ちょっとダボついているかもしれないけど今日はそれで」


「あの、服を作るんですか?」


「古着を修繕して、格安販売ってことで。歩き方を教えてもらうにもそれっぽい服がないと始まらないでしょうし」


「べつに社交界デビューしなくてもいいんです」


 つい本音が出てしまった。悪目立ちするくらいなら、出ないほうがマシだ。


「うちは特別気にしてないからいいけど、よそのお嬢さんは違うでしょ? きらきらのきれいになってもらわなきゃ」


「なれるとは思えません」


 そう言うとクレアさんはちょっと困ったように眉を寄せた。

 同じくらいの年に見えるのに子供を見るような視線にすこし恥ずかしさを覚える。


「まあ、とりあえず着替えてみて」


 そう言って用意された服は、ほぼぴったりだった。腰回りが少々緩いが今日はコルセットをキツめにつけてきたからでいつもの装いならゆるさはないだろう。歩くたびに揺れる裾にひやひやしながら試着室を出る。

 そのまま髪も整えられ軽く化粧もし、立たされた。


「かわいいな」


「ですね」


 称賛というより事実確認のような言い方だった。それでもなにか照れる。確かに私史上、一番可愛いだったが。


「ちょっと歩いてみて。

 みんなごめん、ちょーっと場所空けてもらっていい?」


 指定されたところまでいつも通りに歩いた。

 その結果は。


「……ちょとなんか、だめ」


「擁護できん」


 葬式のような暗さだった。店の店員もちょっと気まずそうで。


「なんなんですのーっ!」


 言われたとおりにしただけなのに!

女装メイドの任務はこちら

守りの手袋(完結済)

https://ncode.syosetu.com/n6360jv/

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