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長身猫背令嬢、社交界デビューに挑む! 〜あたくしのやることに文句ありますの?って美女を心に飼えって無茶ではないですか?〜  作者: あかね


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11/12

11、いくつかの特記事項

 社交界デビューしたあとに起こったことはいくつかある。


 まず、王妃殿下が、見たことのあるような顔が、というのが北方の王女様とそっくり案件だった。

 夜会後に、お城に招かれて一つの肖像画を拝見した。というより横に並べられた。確かに似ていた、ような気はする。

 いたのですか、そっくりさん。その場ではなぜ似ているのかについては結論は出なかった。なお、その肖像画があったのは第三王子の縁談相手として最有力であるから、らしい。

 もしいらしたら、お願いすることもあるかもと震えるようなことを言われた……。

 そして帰宅後、父が、ああ、なんか実家から王家に嫁いだ人いたなぁといまさら言ってきた。

 ……そーですか……。


 騎士団寮には、お礼の品を用意して訪問した。

 騎士団長と副騎士団長にお迎えされた。卒倒したかった。中には入れられないからねと玄関ホールでお茶をいただき、夜会の件で誠心誠意謝罪した。

 なぜか、お二人ともやさしげな表情で、逆に怖い。

 そして、兄もゼインさんもいなかった。逃げたんだ、きっと、逃げたんだっ!


 ディアスからは今までの非礼を詫びる手紙が来た。

 そのあと本人も来た。

 僕は君が好きなので結婚したいですとストレートに言われたが、無理ですと断った。いきおくれたらもらってやるよという捨て台詞がとてもらしい。

 ……それにしても、好きだったのか。

 十年前なら、喜んでといえたかもなぁと思いつつ、なかった未来にちょっとだけ思いを馳せたりした。

 たぶん、一年持たない。


 グレースさんからはその後も書庫整理のお仕事を請け負っている。いつのまにやら私の席もあり、同伴していた侍女もおそうじレベルが上がった。

 社員になりましょう! ほら、うちにも女性いるからと編集室に通されたこともある。

 それはまだ検討中だ。


 兄は兄でいつも通りに気が向いたときだけ実家に帰ってきている。

 母は夜会後からお誘いが増えたと苦笑いしていた。

 父は相変わらずあちこちを旅している。

 上の兄のとことはちょっと忙しそうだった。


 一応は平穏で、何事もない日常に戻りつつある。


 そんなある日、画廊に行く約束を果たしに行くことになった。


「……お忍びには最適だな」


 迎えに来たゼインさんが私を見てそう評した。

 今日は色合いも茶色という落ち着くワンピースだ。どこからどう見ても貴族のご令嬢に見えないと酷評されたことがあるが、これが落ち着く。


「母さんには反対されましたけど、下町に近いほうに行きますもの。

 ご令嬢ですという顔していると絡まれそう」


「そこはないと言えないな……。

 まあ、リース嬢ならそのままでも」


「目立ちますものね」


「そうだな」


 なんだか含みのある言い方だったような?

 今日は少し遠くまでいくため、馬車留めまでいくことになった。近況を報告しながら、ふと思った。私ばかり話していないだろうか、と。


「ゼインさんは最近どうなんですか?」


「家から探りを入れられたが、先輩に頼まれたと言っておいたから安心していい」


「……そこは、ソレじゃないほうがいいんですが」


「あれは婚約しろ、責任を取れという話になりそうでね。

 さすがに夜会に出ただけで責任を取れはないだろう」


「そーですねー」


 付き合い度で言えば、講師役をしてもらって、さらに夜会の世話までしてもらった、だ。

 厚かましいのは私。


「リース嬢にはもっと良い縁談もあるだろうし、他を見てからでも遅くはない」


「…………ごもっともで」


 追い打ちされた。瀕死。

 眼中にない。わかってた。夜会までの私って浮かれてたわぁ……。この冷静さを見よ、普通の優しさだったのだ。あれは。


「でも、私なんかに縁談あります?」


「君は努力して、変わったんだ。だから、私なんかといわない」


「……はい」


「よろしい」


 教育的指導されているみたいだ。

 そんな話をしながらも歩いていると画廊についた。画廊を外から見たことはあるけど、中にはいるのは初めてだ。窓からは白い壁と掛けられた絵がいくつか見える。

 夜会で会った二人は待っていてくれた。


「あっ!」


 挨拶よりも前に女性の急に大きな声で迎えられて、驚いた。


「ドレスの妖精さん!」


「……はい?」


「すぐ気がついてよかったのに、私ったらっ!」


「説明していただいても?」


 脱線しがちでも話を聞いたところ、下町で困っている私、親切な方に助けてもらう、かっこいい! 素敵! らしい。後半のほうが長かった。すぐに消えてしまうので人なのかというのも怪しいと噂になり、妖精さん、になったらしい。

 噂話怖い。


「私も嘘だろうと言われていたりもしましたが、兄も助けてもらったことがあって」


「ええ、財布をすられたときに」


「……君、なにしてんの?」


「あ、あははは」


 笑ってごまかすけれど、どれ!? となった。

 反射的に動いちゃうのが悪い。そもそも、兄たちも父も、なんなら母もそういう性質だ。祖先から継いだやつなのでもう血のなせる業。父は血縁ではないけど家族だし。

 ゼインさんの呆れたような視線と二人の憧れのような清い視線にとても居心地が悪かった……。


 画廊の絵はよかった。小さい青い絵を一枚予約した。展示期間が終わった後に支払いし、持ち帰れる。

 帰り道、散歩といい公園を回っていくことにした。もうちょっと、一緒にいたい、の遠回し表現が通じているのかはわからない。


「もうしないでほしい、といってもするんだろうな」


「下町に行くなというなら努力します」


「……怪我をしないように気を付けて欲しい。それから、書店にいくとか、用事があれば付き合う」


 どういう風の吹き回しだろう。突風でも吹いたかな。


「よろしくお願いします」


「見えないところでされるよりはマシだからね」


 ……監視!?


 そこから、普通に一周して、家まで送ってくれた。

 名残惜しがるようなこともなく、すんなりと……。


「やっぱり、対象外なのでしょうかね……?」


「どうかしら。あちらのお家に話をしても良いのだけど、どうする?」


「ほっといてください……。そういうのもちょっと嫌なので」


 そう言うと母はあら? と言いたげに口元に手を当てていた。ふふふと笑われるのも不気味。


「色々経験よ、経験」


 はぁいと気のない返事だけをして、部屋に戻った。机の上に見覚えのない冊子が置いてあった。

 なんだろと手にとって、驚愕した。


「母さんっ! なにこれっ!」


 爆速で駆け下りて冊子を見せた。その表紙を!


「綺麗に描いてもらったわね」


「しらな、え、やっぱり、私!?」


 今年の社交界デビューの特集をした冊子。毎年出している、参加者全てに配られる、という情報が耳から入ってきたが、理解したくなかった。


 一番に選ばれたものが表紙を飾る伝統というのも知らない!


「こんな、わたくしが一番ですわ、と言わんばかりの俺様顔」


「他の家に届くほうが早かったみたいで、お問い合わせいただいちゃったわ。とっても評判が良いわよ。

 鼻が高いわね。うちの男たち、壊滅的だったから」


「そ、そうですか……」


 兄と出ていればよかった。壊滅的で良かった。同意なく表紙にしないで。

 燃え尽きている私に母から中身も見たら?と促される。


「……この絵、描いた方ってどこにいるのかしら」


「さあ? 王家発行なのだから関連の何処かの誰かではないかしら」


 おかしそうな母に、明日お出かけすることを告げる。

 中身に描いてあった私とゼインさん。なんだか楽しそうに踊っているのは微笑ましい。

 しかし、あれは騎士団で踊ったときだ。服装が違う。イメージです、なんて小さく描いてあるが、偽装も良いところだ。


 翌日、騎士団に殴り込みをした。気分としてはそうだ。

 予想されていたのか、副団長さんがすでにいた。


「すまん。同意を取ったと聞いていたんだ」


「すみません」


「すみません」


 お二人いた。一人はグレースさんだった。


「姪だからと甘いこと言う団長には出ていってもらった。反省すれば良いというものでもない。

 ただ、回収はできない。申し訳ないが、詫び方を選んでほしい」


「いえ、事前に教えていただければびっくりしないで済んだので」


「本当にな。

 事後報告とか最悪だ。どうせ怒られる? 馬鹿か。怒られることをわかっていてするな」


 冷酷に告げる。うちの副団長すげぇ怖いというのは正しかった。今日も兄もいない。


「なぜグレースさんが?」


「うちの出版社で発行しているので」


 私、出入りしてたのに、気が付かなかった!?


「それを良いことに職権乱用した。嘆かわしい」


「ごめんなさい。次は同意を取るわ。表紙がね」


「グレース」


「すみませんっ!」


 ヒヤヒヤする……。


「それで、このバカをどうすればいいと思う?」


「……契約書を」


「契約?」


「無断使用したので割増の使用料をいただきます。

 次は、ありませんよ」


「すみませんでした!」


 なぜか、綺麗に揃った謝罪が来た。

 おや?


 後にこの冊子に使われる絵のモデルには使用料が払われることになったという。絵のモデルについての同意は夜会参加の規約にもりこまれたらしい。

 今後のトラブル防止に一役買ったのならば良いことをした。


 という話をその日は非番だったらしいゼインさんに、お出かけの日に話した。

 書店に長居をし、立ってばかりで疲れたと言われ公園の周遊である。もう定番コースになってきた。


「……副団長が、あれはいい、騎士ならないかと言ってたよ」


「女性厳禁では」


「そうでなければ……無念、だそうだ」


「男であったら、良かったんですけど」


 冗談半分でそう言えた。今は、男でなくてもできることがあると知っている。

 好きな本は読んでも誰も文句言わないし、背が高くても背を伸ばして歩いていける。下ばかりを見ないで、前を向いて。

 まあ、結婚だけは目の前に残っているけど。それは、相手あってのこと。


 そう思って視線を向ければ、え? と言いたげに見上げられる。

 さらに焦って、君が男だったら困るとか言われてしまった。


「きっと俺よりかっこいい」


 ゼインさんが深刻な顔して何を言うかと思えば。ぷっと吹き出してしまった。


「そう笑うけどな……」


「いいじゃないですか。かっこいい。

 私が男なら騎士になって、楽しくやってたと思いますわ。

 ものすっごいモテる自信あります」


「だろうな」


「まあ、仕方ありません。望みをすべて叶える事もできませんし、男なら男の悩みもありましょう」


「確かに」


 苦笑いしたところをみると心当たりでもあったんだろう。

 そのまま公園を一周してしまった。そういえば、ゆっくり歩けとはもう言われてない。爆速なのではと心配になってきた。


「あの、もっとゆっくりがいいですか?」


「いや? 好きな速度で、好きに歩けばいい。あれは夜会用に合わせているだけなんだから」


「そうですね」


 焦ることもなく私なりに歩いていければいい。

 まあ、それは、それとして、だ。


「では、今後ともよろしくお願いします」


「今後?」


「ええ、夜会、まだありますし、私のパートナーはゼインさんしかいません。会う人いないんですのよ? やりすぎて、踊りの名手みたいに思われていて困ります」


「……君についていけるようなのは俺しかいないかな。

 仕方ないな」


 言質とった。長期戦でもなんでも、隣を取ればいい。

 歩きやすくて一緒にいたいのはゼインさんしかいないんだから。

こちらで本編完結です。

お疲れ様でした。

いいね、評価ポイント、ブックマーク、感想等、ありがとうございました。


おまけを一つ追加して完結いたします。


リース

 誰もが振りかえるのは、でかいせい、と思っているが、この地に珍しい銀髪でも目立っている。青みを帯びた特殊な色ではあるが、父親も同じ色なのでちょっと変わっている程度で認識。

 背を丸めてもあまり小さく見えないので、意味はない。気持ちの問題である。堂々と振舞うときは存在感が増えるのに小さくと思うと気配が消えるのでわりと特殊任務向きではあるが、それを発揮するときはたぶんない。


ゼイン

 長男にして庶子という立場で、弟たちには兄さんといわれるものの居心地の悪さを覚えて騎士団へ。幼いころから人の観察をしていたため、変装などを見破るのが得意。歩き方は癖が出るという。

 護衛対象に歩き方が、と教えていたところ、教師として見込まれ、仕事を依頼されることもある。騎士団公認なので時々業務。

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