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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第99章 オルテリア ― 寂れた炭鉱都市


交易路を切り拓き、湖上都市ラクリアを再生させた武装法人二階堂商会。

だが商会の資金基盤は万全ではなく、次なる一手が求められていた。

彼らが向かうのは、ダンジョン化により衰退した

炭鉱都市オルテリア――眠れる資源の地。

失われた街を再生し、商会と大陸の未来を繋ぐ、新たな挑戦が始まる。

 夜が、静かに明けていく。


 峡谷を抜け、最後の岩陰を越えた、その先――

 一行の視界に広がったのは、かつて栄えていたことだけが分かる街だった。


 黒く錆びついた煙突が、骨のように無数突き出している。

 建物は半分以上が崩れ、屋根は落ち、壁は裂け、

 石畳の道には草が遠慮なく根を張っていた。


 人の手が入らなくなって、どれほどの時が経ったのか――


 それだけで、街の時間が止まっていることは、嫌というほど伝わってくる。


 それでも、完全な廃墟ではない。

 崩れた建物の影。割れた窓の奥。

 どこかに、かすかに――人の影が、ちらつく。

 声はない。物音もない。ただ、沈黙だけが、街全体を覆っていた。


 ――炭鉱都市オルテリア。


 その名が、重く胸に落ちる。


「……なにこれ」


 最初に声を発したのは、ミナだった。

 思わず、というように息を吐き、街を見渡す。


「ラクリアとは……まるで別世界じゃない」


 活気に満ちたラクリアの記憶が、まだ鮮明に残っているからこそ。

 この街の死に方は、あまりにも極端だった。


「建物の数は多いが……」


 ロイが目を細め、周囲を観察する。


「ほとんどが廃屋に近いな。人の気配が……薄すぎる。

 まるで、時間そのものが止まってるみたいだ」


 言葉にした瞬間、

 その表現が、ぴたりとはまる。


 風は吹いている。朝日も差し込んでいる。

 だが、この街だけが――生きていない。


「魔力の流れが、滞っておる」


 ルーチェが、静かに告げる。

 掌に灯した淡い光が、空気に触れた途端、沈むように揺らいだ。


「……この街、呼吸をしておらぬのじゃ」

 

 ルーチェの手の中で灯った光が、空気に沈んだように揺らいだ。

 リュシアは、すでに懐中帳簿を開いている。

 視線は感情を挟まず、数字だけを拾い上げていた。


「建物の損壊率は、体感で三割以上。

 しかも、修繕された形跡がありません」


 ページをめくる音が、やけに大きく響く。


「商取引の基盤は、ほぼ崩壊しています。

 ……この街で、まともな取引を成立させるのは、相当難しいでしょうね」


「オレの故郷も、荒れてたガ……」


 ガロウが低く呟く。


「ここは……魂まで、抜け落ちてるナ」


 比喩ではない。

 この街には、確かに生きようとする意志が見えなかった。

 最後まで黙っていた漣司が、街全体を見下ろしながら、短く息を吐く。


「……予想通りだな」


 その声には、驚きも戸惑いもない。


「治安は悪い。補給にも、相当苦労しそうだ」


 彼の視線が、街の奥――炭鉱の方角へと向く。


 崩れ落ちた塔。黒ずんだ坑口。

 かつて無数の人間が出入りしていたはずの場所は、今や口を閉ざし、

 まるで――巨大な墓標のように沈黙していた。





 街の外縁部――


 炭鉱から距離のある地区には、まだ人の姿があった。

 だが、それは「暮らしている」と呼べる光景ではない。

 通りの脇では、労働者が酒瓶を抱えたまま倒れ込み、朝だというのに、誰も起こそうとしない。

 店先に吊るされたランプは油が尽きかけ、黒煙を吐きながら、じわじわと空を汚している。


 その足元で――子どもたちが、無言で屈み込み、

 石畳の隙間から錆びた釘や金属片を拾い集めていた。


 遊びではない。仕事でもない。ただ、生き延びるための動作だった。


「……人はいる」


 ミナが、ぽつりと呟く。

 声を張る気にもなれず、視線は街の奥を彷徨ったままだ。


「でも……生きてるっていうより、沈んでる、って感じだね」


 言葉を選ばなかったのは、飾る意味がないと分かっていたからだ。


「ああ」


 漣司が、街を見渡したまま呟く。ただ静かに、現実を受け止めるように。


「炭鉱が止まれば、金も止まる」


 崩れた坑口。使われなくなった運搬路。

 動かなくなった街の心臓を、彼は一目で理解していた。


「仕事を失えば、人は希望から切り離される」


 一瞬、酔い潰れた労働者に視線が向く。

 拾い物をする子どもたちの手元へと、静かに移る。


「そして……街は、こうなる」


 漣司は短く息を吐く。断定。同情でも、非難でもない。

 結果としての現実を、そのまま置いた言葉だった。

 理屈としては単純だ。だが、その結果がここまで露骨だと、胸に来る。


「信用取引も不可能ですね」


 リュシアが静かに言う。

 帳簿を開いてはいたが、もう数字を追う意味はないと悟っていた。


「ここまで荒れていては、紙幣も、約束も、価値を失う」

 

 そう言って、帳簿を閉じる音が、やけに乾いて響いた。


「魂を失えば、土地は瘴気を呼ぶ……」


 ルーチェが、小さく首を振る。


「魔石の力を、己のためだけに使い続けた報いかもしれぬの」


 街そのものが、疲弊し、それを支えていた何かが、すでに壊れている。


「……ラクリアの活気を見たあとだと」


 ロイが、低く呟く。


「余計に、こたえるな」


 その空気を、ふっと――意図的に軽くしたのは、ミナだった。


「ま、でもさ」


 肩をすくめ、横目で一人の男を見る。


「社長がなんとかしてくれるでしょ。――ね?」


 根拠は語らない。計算も、理屈もない。

 それでも当然のように言い切る、その声音。


 ――信じているからだ。


 街でも、状況でもない。ただ一人。


「簡単に言うな」

 

 漣司は、視線を前に向けたまま静かに返す。


 責任の重さを知っている声。現実を直視した者の、短い拒否。


 だが――


 ほんのわずか、口元が緩んだ。

 誰にも見せないはずの、微細な変化。

 それは、苦笑でも、諦めでもない。


 

 街の入り口――


 崩れた門柱と、擦り切れた石畳の境界で、一行は足を止めた。

 背後には、峡谷から続く細い道。前方には、沈黙した炭鉱都市オルテリア。

 漣司は一歩前に出ると、片手を軽く上げた。


「ザハード」


 名を呼ばれ、巨躯の男が振り返る。


「お前と商会社員を連れて、ラクリアまでの道を整備しろ。

 補給路が確立できなければ、この街での活動は――詰む」


 淡々とした声。だが、そこに迷いは一切ない。


「……了解した」


 ザハードは、肩をすくめて苦笑する。


「まさか、俺たちが整備側に回るとはな」


 その言葉に、漣司はわずかに目を細めた。


「壊した道を直すのは、立派な仕事だ」


 言い切る。飾りのない声だった。


「――それが、雇用だ」


 一瞬の沈黙。その意味が、じわりと染み込む。

「あ、いいこと言った!」


 ミナが、ぱっと顔を上げる。


「いつも言っているだろう」

 

ミナと漣司の軽いやりとりに、ガロウが低く笑った。


「オレは、街に残ル」


 包帯の巻かれた腕を、軽く鳴らす。


「何が出てモ、殴る準備はできてル」

「拙者も同行いたしまする」


 ルーチェが、魔灯を掲げながら前に出る。


「魔力の流れが乱れておる。調べねば、宿を建てるにも危険でござるからな」


 淡く灯る光が、空気の歪みを照らす。


「私は、宿泊費と補給品の交渉を進めます」


 リュシアは帳簿を閉じ、冷静に告げる。


「信用の低い街では、紙より実物。物資を担保にすれば、話は通ります」


「俺は警備を担当する」


 ロイが周囲を見回しながら言う。


「夜は物盗りも多いはずだ。人が減れば、影は濃くなる」

 

 リュシアが即座に返す。


「ええ。あなたが一番、頼りになります」

「……フォローされると、逆に怖いんですが……」


 ロイが苦笑すると、わずかに空気が緩む。

 漣司は、全員の顔を一度ずつ見渡した。

 仲間たち。それぞれの役割。それぞれの戦場。


「動け」


 短く、しかし強い声。


「三日以内に、拠点を築く。――情報網と補給路。

 この二つが整えば、街は必ず、息を吹き返す」


 その言葉に、誰も疑問を挟まない。

 頷きが連なり、それぞれが自分の方向へと動き出す。

 ザハードたちは敬礼し、再び、谷道の方へと引き返していった。


 街の入口に残るのは、これから再生を始める都市と、その中心に立つ男の背中だけ。


 

 残された漣司たちは、ゆっくりと街の中心部へ足を進めた。

 通りを挟む建物は、どれも半壊状態だ。

 壁はひび割れ、屋根は落ち、窓という窓が闇を抱えたまま口を開けている。


 その瓦礫の隙間に――


 奇跡のように、まだ営業中を示す木製の看板が揺れていた。

 風が吹き抜けるたび、壁に貼られていた紙切れが剥がれ、彼らの足元を転がる。


 ――《採掘禁止区域》

 ――《炭鉱封鎖命令》


 かつては意味を持っていたであろう文字。

 だが今や色褪せ、端は破れ、拾い上げれば、指先でぼろりと崩れ落ちる。


「……こんな状態で、紹介状の相手がまだ生きてるのかしらね」


 ミナが、半ば呆れたように呟く。視線は宿へ、そして崩れた街並みへと泳ぐ。


「バルメリア議長の友人、という話でしたが……」


 リュシアが眼鏡を押し上げ、静かに息を吐く。


「消息不明でも、おかしくはありませんね」


 冷静な分析。だが、その言葉は重い。


「資源は未知数、治安は最悪、情報はゼロ……」


 ロイが肩をすくめ、わざとらしく言った。


「こりゃもう、完全に地獄の支店だな」


 冗談めかした声。だが誰も否定しない。

 その空気を、ガロウが噛み砕くように笑った。


「地獄だろうが、オレらが殴って整えル」


 白い歯が、瓦礫の色の中で不釣り合いに明るい。


「いつも通りダ」

「死した街を蘇らせるとは……」


 ルーチェが、魔灯を胸元に抱え、柔らかく微笑む。


「まるで神話のようでござるな」

 

 誰かが英雄になる話。だがここでは、ただの仕事だ。

 漣司は歩みを止め、街の奥――崩れかけた炭鉱塔を見上げた。

 かつて、富と人を呼び込んだ心臓部。今は、沈黙したまま錆に覆われている。


「――この街の心臓を取り戻す」


 静かな声が、瓦礫の間に落ちる。


「それが、我々の仕事だ」


「だが、その前に宿を見つけねばな」

「現実的~」


 ミナが即座に突っ込みを入れる。


「いや、それが一番大事だ」


 ロイが苦笑し、ミナも肩をすくめて頷いた。


 空は、すでに夕暮れ色だ。

 沈む陽が瓦礫を赤く染め、錆びた鉄骨が、炎の名残のように鈍く輝く。

 その光の中で、漣司は低く呟いた。


「バルメリア議長の友人……」


 ほんのわずか、口角が上がる。


「骨が折れそうだな」


 風が吹き抜け、砂塵が巻き上がる。

 その中で、二階堂商会の旗がゆっくりと翻った。



 ――荒廃の街に、再び商いの灯を。



 武装法人二階堂商会。炭鉱都市オルテリア進出――始動。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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