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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第98章 峡谷の抜け道 ― オルテリアへの道程

交易路を切り拓き、湖上都市ラクリアを再生させた武装法人二階堂商会。

だが商会の資金基盤は万全ではなく、次なる一手が求められていた。

彼らが向かうのは、ダンジョン化により衰退した

炭鉱都市オルテリア――眠れる資源の地。

失われた街を再生し、商会と大陸の未来を繋ぐ、新たな挑戦が始まる。

 山の肌を縫うように、細く冷たい風が流れていた。


 岩肌は縞模様に裂け、日差しは谷底まで届かない。

 天蓋のように覆いかぶさる断崖のあいだから、白い霧が糸のように垂れている。


「……険しきこと、まるで大蛇の腹を進むが如しでござるな」


 最前列を歩くルーチェが、足元を照らす灯を掌に浮かべながら言った。


「もうちょい縁起のいい例えにしてよ、ルーチェ。ほら、せめて絹の袖をくぐるとかさ」


 ミナが肩を竦める。


「岩道が続くナ。馬車はここまでダ。荷は降ろすゾ」


 ガロウが大斧を背に、荷台の留め具を外しながら低く吠える。


「徒歩移行だ。隊列を二列に、荷は三日分だけ持つ。他は隠して帰路に回す」


 漣司が短く指示を飛ばす。即座に商会兵たちが動き、荷を背負子に移していく。


「……物資配分、三日分でぎりぎりです。遅延は許されませんわよ」


 リュシアが帳簿片手に辛口の釘を刺す。


「はいはい、監査官さま〜。今夜こそぐっすり寝たいんだから、早く抜けましょ」


 ミナは冗談めかして笑ったが、その眼だけは谷の暗がりを警戒していた。

 岩壁の裂け目――

 一人ひとりがやっと通れる幅の溝に、ザハードが無造作に足を踏み入れる。


「ここが抜け道だ。昔は仕事で使ってた」

「仕事、ねぇ。物騒な響き」

「だが、よくできてる。風が抜け、音が反響しない。……隠された街道だ」


 ロイが壁に掌を当て、耳で風を測る。


「構造的には、古代の鉱道を再利用した可能性が高いでござる。

 壁の積み石が人工の手口にござる」


 ルーチェが灯をかざすと、岩の継ぎ目に古びた刻印が浮かんだ。


「奥には妙な気配が残ってる。音が吸い込まれる感じだ。俺も昔、

 一度だけ奥まで行ったが……途中で引き返した」


 ザハードの声に、ミナが片眉を上げる。


「引き返した、のに案内してくれるってわけ? 恩返しには早いんじゃない?」

「二度とあの森みたいに負けたくねェのサ。

 道を知ってる奴が先に立つのがいちばん安全ダロ」


 ガロウがニヤリと笑い、ザハードの肩を豪快に叩いた。


「行くぞ。二列、間隔は三歩、声は必要最小限。……進め」


 漣司の一声で、隊は裂け目へと吸い込まれていく。



 谷の空気が一段冷たくなる。吐息が白く、音が薄くなる。

 足裏に伝わる振動が、いつもより乾いている――そんな感覚があった。


「気温が急に下がりました。標高差だけでは説明がつきません」


 リュシアが携帯の温度計を確かめる。


「魔力の流れも不安定でござる。地脈の乱れ……それも、自然由来ではない揺らぎ」


 ルーチェの灯が、壁面を撫でるように滑っていく。


「嫌な感じ。霧の森のときと少し似てる。……ただ、もっと硬い。きしむみたいに」


 ミナが囁く。


「また化けモンか?」

「決めつけるな。ここは普通の山じゃない。――地下資源が眠っている」


 漣司は岩の層理を目で追い、立ち止まる。

 そのとき、壁の奥から微かな青白い線が、呼吸のように明滅した。


「……見えましたか?」


 ルーチェが息を呑む。


「鉱石の反射――に見えるが、光源がない。これは魔力反応です」


 リュシアの声が低くなる。


「この道、昔は光脈の道って呼ばれてた。理由は……今でも知らねぇ」


 ザハードが小さく舌打ちをし、先へ進む。


「光脈か。ならば、脈の拍動に合わせて風が動く」


 漣司が手を伸ばすと、確かに、目に見えない潮が指の隙間を抜けていった。



 谷がわずかに広がった瞬間だった。

 上方で石が弾けるような音がする。つづいて、砂が降り、拳大の岩が跳ね落ちた。


「上ッ!」


 ロイの怒声と同時に、ミナが身を翻して影の下へ滑り込む。


「《光障壁ルミナシールド・展開!》」


 ルーチェの前方に、半円の薄膜がぱっと張られ、落石を受け止めた。

 火花が散り、石が転がる。砂煙に咳き込む気配。


「大丈夫か!」

「無傷! こっち問題なし!」


 ミナの返答に、漣司が即断する。


「隊列は維持、崩落面を切り開く。――ガロウ」

「任セロ!」


 ガロウが一歩踏み込み、斧を振り下ろす。

 岩の亀裂を読み、狙いを一点に集める。


「ドーンだアァァ!!」


 鈍い音と共に亀裂が走り、塞ぎかけた岩楔が脈を打つように崩れ落ちた。

 砂煙の向こうに、細い通り道が再び顔を出す。


「相変わらず無茶苦茶なやり方だが……通りゃ結果オーライだな」


 ザハードが苦笑する。


「道は通すものだ。――それが我々の仕事だ」


 漣司は短く言い、砂塵の向こうへ視線を投げた。



 再び歩き出すと、やがて足元の石が変わった。

 黒灰色の岩に、青と緑の脈が走っている。

 踏むたびに、かすかに金属の鳴きのような音がした。


「……聞こえる?」


 ミナが立ち止まる。


「音が吸われているのではなく、どこかで鳴っているのが回り込んでいる。そんな響き」


 ロイが剣の柄で岩を軽く叩き、耳を澄ませた。


「光脈の密度が高まっておる。魔力の潮が満ち引きし、音も引いておるのじゃ」


 ルーチェの灯が、脈の線に沿ってゆらりと流れた。

 ザハードが振り返る。


「――この先を抜ければ、峠の肩に出る。夜明けにはオルテリアの外縁が見えるはずだ。

 ただ……今も、誰かが坑道を使ってる気配がある」

「盗賊?」

「違う。足跡は人の形をしてたが、熱がねェ。……冷たい、鉄の匂いがした」

「……動く鉱石、あるいは魔石の副産的な自律体ってところか。

 封鎖されたダンジョンが長いほど、そういうものは育つ」


 リュシアの低い声に、ミナが肩をすくめる。


「育たなくていいのよ、そういうのは」

「面白い」


 漣司は灯を落とし、暗さに目を馴らした。


「ならば、この道の先に、我々の資源がある。

 それを守るために、何が必要か――確かめよう」


 その声音に、ザハードが鼻を鳴らす。


「相変わらず、怖いのか頼もしいのかわからねェ男だ」

「怖くて頼もしい、でいいじゃない」


 ミナが笑い、隊列の後尾に位置を移した。


「背中は任せて」



 夕刻。


 谷の幅がわずかに広がる場所に辿り着き、一行は小さな焚き火を起こした。

 風は冷たいが、谷壁に守られて炎は穏やかだ。

 干し肉と固いパン。湯を沸かし、簡易スープが回される。


「配分は計画どおり。一人あたり三割減で温存。

 明日は夜明け前に出て、峠の肩で日の出を迎える」


 リュシアが簡潔に告げる。


「了解。――ロイ、交代の見張り、三組で回せ」

「わかった。ザハード、お前は最初の番を頼む」

「おうよ。谷風の音は慣れてる」


 ルーチェは焚き火に手を翳し、揺れる炎をじっと見つめた。

 橙の光が、彼女の瞳の奥で静かに反射する。


「……この谷の魔力、吸い込みも吐き出しも早いでござるな。

 まるで、生き物が呼吸しているかのようじゃ」


 その言葉に、漣司は焚き火越しに視線を向けた。


「生き物、か。――ダンジョンは地の生体とよく呼ばれる」


 だが、それは確認するような口調だった。

 ルーチェは小さく首を振る。


「……似て非なるものにござります。

 地の生体と申す呼び名は、あくまで人の理解を助けるための仮の言葉。

 本来のダンジョンは、より不安定にして、より気紛れなる存在にござります」


 そう述べつつ、ルーチェは指先で空をなぞり、思索を巡らせる。


「呼吸が早うございまする、ということは――

 魔力の循環が過剰に進んでおる証。

 内部にて何かが成長しつつあるか、あるいは……」


 一拍置き、真面目な顔で告げた。


「怒っている可能性が高いでござる」


「……怒る?」


 ミナが思わず聞き返す。


 ルーチェはこくりと頷いた。


「はい。拙者の師の言葉にござる。

 『ダンジョンは理屈で理解するな。感情で察せ』と」


 漣司は焚き火を見つめたまま、静かに息を吐いた。


「なるほどな……。俺は知識として知っているだけだ。

 実際に付き合ってきたわけじゃない」


 ルーチェは一瞬だけ目を丸くし、すぐに背筋を正す。


「社長は異界より来られた御仁。

 ゆえに、拙者が知ることをお伝えするのも役目にござる」


 焚き火が、ぱちりと弾けた。


「――この谷、長居は無用。

 ダンジョンがこちらを見始めております」


 その言葉に、場の空気がわずかに引き締まった。


「ならば、異物は拒まれ、順応するものは取り込まれる。

 ――我々は、もちろん順応の道を選ぶ」

「つまり、買い叩いて腹に収めるじゃなく、資産にして共に回すってことね」


 ミナが口の端を吊り上げる。


「言葉が荒いが、概ね正しい」


 リュシアが苦笑する。しばし、焚き火のはぜる音だけが谷に広がる。

 遠く、岩の向こうで――

 鈍い、金属の擦過音のようなものが、ほんの一度だけ響いた。

 ザハードが顔を上げる。


「……聞いたか」

「聞こえた。距離はある。今夜は接触しない」


 漣司は立ち上がり、谷の暗がりを一瞥した。


「各自、休め。装備点検、魔力の節約。――明朝、オルテリアへ入る」


 炎が小さく揺れ、灯が岩肌に呼吸のような影を刻む。

 頭上には星。谷の狭い額縁に、夜空が細くのぞいていた。

 眠りにつく直前、ミナはそっと指を伸ばし、岩に走る青白い脈をなぞった。


「……光ってる。生きてる、みたい」

「生きておる。だから、示してやらねばならぬ。――道を」


 ルーチェの囁きに、ミナは薄く笑った。

 やがて焚き火は熾きになり、息の合った見張り交代の声だけが谷に流れた。

 新しい都市の名を、誰もが胸の内で繰り返す。


 オルテリア。


 地の底に眠る資源と、未踏の危機。その両方が、彼らを待っている。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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