表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/318

第93章 森の終端 ― 和解と新たな道

都市バルメリアを再生させた二階堂商会は、次なる都市の可能性として、湖と水の魔力に抱かれたラクリアへと目を向ける。

水と聖性に閉ざされた湖上都市ラクリア。

静謐と停滞が同居するその街に、新たな流れは祝福となるのか、それとも破壊となるのか。

 森の中心。


 かつて濃密に渦巻いていた魔力の霧は嘘のように晴れ、円形に拓けた空間に、戦いの余韻だけが静かに漂っていた。


 倒れ伏した巨木が幾重にも横たわり、裂けた幹からはまだ微かに魔力の残光が滲み出している。

 燃え尽ききらなかった魔導の光が、薄紫の残滓となって宙を漂い、ゆっくりと夜気に溶けていく。


 その中心に立つのは、長弓を携えた男――ザハード。

 外套は裂け、肩口には戦いの痕が刻まれているが、その背筋はなお真っ直ぐだった。

 その傍らには、数えるほどしか残っていない副官たち。

 誰もが疲弊し、息を荒くしながらも、武器を捨ててはいない。

 彼らを取り囲むように、二階堂商会の役員たちと兵士たちが円陣を組む。

 盾は下ろされ、剣先は向けられたまま――だが、もはや無秩序な殺気はない。

 そこにあるのは、勝敗が定まった後の、張り詰めた静けさだった。


 盗賊団は、事実上の壊滅。

 森を支配してきた幻影も、罠も、すでにその力を失っている。


 ――それでも。


 ザハードは膝を折らない。

 地に伏すことも、頭を垂れることもなく、森の主として最後まで立ち続けていた。


 霧の晴れた森が、彼を見守るように沈黙する。ここは終点であり、同時に分岐点。

 剣ではなく言葉が、次の道を決める場所だった。



「……よくぞ、ここまで踏み込んできたな。

 幻霧を越えられるとは――正直、予想外だ」


 ザハードは長弓を地に突き、杖代わりに体を支えながら、かすれた笑みを浮かべた。

 頬には裂傷、額には汗。呼吸は荒い。

 それでも、その瞳の奥に宿る炎だけは、消える気配を見せない。


「降伏しろ、ザハード」


 漣司の声は低く、抑制されていた。

 だが、その一言には、刃を向けずとも相手を縛るだけの重みがあった。

 森の空気が、わずかに張り詰める。


 ザハードは鼻で笑う。


「俺は……負けたことはねぇ。

 ただ、戦場が終わらず、場所が変わり続けてきただけだ」

「なら――ここで終わらせる」


 その瞬間。


 ――パァン、と空気が弾ける音が連なった。


 二人の背後で、幾何学模様の光が一斉に展開する。

 ルーチェの魔法陣だ。白銀の紋様が地面に刻まれ、残存する幻影を強引に押し返していく。


「幻影、制圧に入りまする!」


 同時に、リュシアの鋭い声が戦場を貫いた。


「左右包囲! 密度を保って前進!各班、押し込みなさい!」


 指示が飛ぶたび、二階堂商会の兵たちが迷いなく動く。

 混乱はなく、恐怖もない。ただ、組織として磨き上げられた動線だけが、森を切り裂いていった。


「オオオオォォォ!!」


 ガロウが雄叫びと共に突進する。

 巨斧が振り下ろされるたび、大地が震え、森の奥へと道が穿たれていく。


「森の奥まで、まとめてぶっ飛ばすゾォォ!!」


 その横を、ロイが低い姿勢で駆け抜けた。

 副官の突き出した槍を、剣で受け止める。


「……悪いが。こっちにも退く理由はないんだ!」


 刃と刃が噛み合い、乾いた金属音が響く。

 副官の動きは鋭く、踏み込みも的確。

 だが――その死角を、影がすり抜けた。


「後ろ――がら空きよ」


 ミナだった。

 跳躍。回転。

 閃光のような蹴りが連続して叩き込まれ、副官たちは悲鳴を上げる間もなく地に崩れ落ちる。


「雑魚は片づけたわ、社長!」


 その声に、漣司は一瞬だけ口角を上げた。


「上出来だ」


 短く、だが確かな信頼を込めた一言。

 次の瞬間、彼は地を蹴る。


 剣先が、ザハードへと真っ直ぐ向けられた。

 森の中心で、最後の対話と決着が――今、真正面から交わろうとしていた。



 ――ギィン、と空気が軋む音がした。


 ザハードの弓が唸りを上げ、間髪入れぬ連射が放たれる。

 放たれた矢は風を裂き、軌道すら見せぬまま迫った。

 一本が、漣司の頬をかすめる。

 皮膚が切れ、熱を帯びた血が一筋、宙に散った。


「ちっ……避けたか」


 ザハードが歯を噛みしめる。だが、その視線はまだ鋭い。


「狙いは悪くない」


 漣司は低く言い、足を止めない。


「だが――その弓、少し疲れてるな」


 一歩。さらに一歩。

 距離が、確実に詰まる。


 次の瞬間――刃が閃いた。


 漣司が踏み込み、剣が光を引く。

 ザハードは即座に判断し、弓を放り捨てた。

 代わりに抜いた短剣が、逆手に構えられる。


 ――カンッ!


 金属音が炸裂し、火花が弾ける。

 二人の影が交錯し、森の中心で円を描くように入れ替わった。


 剣が唸り、短剣が喉元を狙う。一歩踏み違えれば終わり。

 呼吸すら、互いに読まれている。


 周囲の音が、遠ざかった。

 時間が引き伸ばされたかのように、ただ二人の刃だけが存在する。


「社長、助太刀致す!」


 ルーチェの声が響き、光が集まりかける。

 だが――


「いい」


 漣司は視線も向けず、短く制した。


「これは……俺の仕事だ」


 その一瞬の間。


 ザハードが踏み込む。獣のような低い動き。

 短剣が、一直線に心臓を狙った。


 ――速い。


 だが、漣司は逃げなかった。

 身をひねり、刃を受け流しながら――懐へ。

 距離ゼロ。剣が振り上がる余地はない。


「ッ――!」


 漣司は、剣を振らなかった。代わりに。

 剣の背で、全身の力を叩き込む。


 ――ドンッ!!


 鈍く、重い衝撃音。

 衝撃が胸骨を貫き、ザハードの体が浮いた。


 空気が吐き出され、視線が揺れ――

 そのまま、地面に叩きつけられる。


 短剣が転がり、弓が、遅れて音を立てた。

 森が、息を吐いた。

 霧が静まり、風が止み、ただ、倒れ伏すザハードと、剣を下ろした漣司だけが残る。


 戦いの中心に――ついに、静寂が戻った。



「……やっぱり、おいしいところは社長が持っていくよね~」


 ミナは肩をすくめ、戦いの余韻を振り払うように軽く笑った。

 その声音には、悔しさよりもどこか誇らしさが滲んでいる。


「仕方ない。俺たちの代表ですから」


 ロイは剣先を下げ、苦笑とともに息を吐いた。張り詰めていた緊張が、ようやくほどけていく。

 ルーチェは何も言わず、静かに頷く。

 その微笑みは、勝利の確信と、仲間への信頼を同時に宿していた。


「流石にござる……見事な采配であった」


 感嘆を込めた声に、戦場の空気が少しだけ和らぐ。

 ガロウは腕を組み、鼻を鳴らした。


「まあ、最後のトドメぐらいは社長に譲っといてやるヨ」


 軽口とは裏腹に、その眼差しは戦士としての敬意を隠していない。

 漣司はそれらを背中で受け止めるように、静かに剣を下ろした。

 刃に付着した血が、地面へと落ちる。


 ――その時。


「……殺すのか?」


 かすれた声が、戦場に落ちた沈黙を裂いた。

 倒れ伏すザハード。その眼には、恐怖と諦念、そして微かな覚悟が入り混じっている。

 漣司は一歩、踏み出した。


「いや」


 短く、しかし迷いのない声。


「お前には、まだやるべきことがある」

「……やる、こと?」


 疑念に揺れる問い。


「この森を奪うのではない。守るんだ。

 これから生まれる交易路――その守人となれ」


 風が吹き抜け、木々がざわめく。


 沈黙。


 ザハードの拳が、震えながら地面を叩いた。悔しさか、怒りか、それとも――救いか。


「……守る、ね。……ハッ、皮肉だな」


 吐き捨てるような笑い。それでも、漣司はわずかに微笑んだ。


「奪うより、護る方が――ずっと難しい。だからこそ、価値がある」


 その言葉は、刃よりも深く、ザハードの胸に突き刺さる。

 やがて彼は目を閉じ、長い沈黙の末に、静かに頷いた。


 戦いは終わった。だが――ここから、新しい役割が始まる。



 霧が、嘘のようにほどけていった。

 重く澱んでいた戦場の空気が、風に押し流されるように薄れていく。

 木々は静かに枝を揺らし、失われていた森の呼吸が、ゆっくりと戻ってきた。

 遠くで、鳥の声がひとつ――やがていくつも重なり、世界が再び音を取り戻す。


 ミナはその光景を見渡し、小さく息を吐いて笑った。


「ふぅ……終わった、のかな」

「いや」


 即答だった。

 漣司は剣を収めたまま、森のさらに奥――霧の向こうにあった未来を見据えている。


「まだ続いている。

 ここを戦場から通る道に変える――それが本当の戦いだ」


 雲間から差し込む光が、地面を照らした。

 濡れた葉がきらめき、森の緑は新しい色を帯びて輝く。


 奪い合いの場所だったこの地は、いま、つながるための場所へと姿を変えようとしている。

 剣ではなく、意志によって。支配ではなく、選択によって。


 二階堂商会とザハード。

 敵対の歴史を越え、互いを背負う関係が――この瞬間、静かに産声を上げた。


 戦いは終わらない。だが、進むべき道は、確かにここに生まれていた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ