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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第92章 森の心臓部 ― 結末の矢

 ――森は息を潜めた。


 ざわめいていた葉擦れが途切れ、空気そのものが張り詰める。

 その静寂を裂くように、天蓋を押し分けて一本の光が降り注いだ。

 光の柱の中に、二つの影が立つ。


 一人は武装法人二階堂商会の長――漣司。

 もう一人は森に生き、森に選ばれた弓の支配者――ザハード。


 ザハードの指が、ゆっくりと弦にかかる。

 わずかな張力。だが弓は獣のように軋み、低い唸りを森に残した。

 その音だけで、ここが彼の狩場であると理解させられる。


「……来いよ」


 低く、乾いた声。


「武装法人の社長さんとやら」


 その声が終わるよりも早く、矢が放たれた。

 音は、ない。

 ただ、光を切り裂く線だけが、残像となって漣司へと迫る。


 ――速い。


 思考よりも先に、漣司の体が動く。剣が鞘を離れ、銀の軌跡を描いた。

 刃の平で、矢を叩き落とす。


 キィン――ッ!!


 金属音が炸裂し、静寂が粉砕される。

 跳ね飛ばされた矢は幹に突き刺さり、震えを残した。


 「ほう……」


 ザハードの口角が吊り上がる。獲物ではない。

 対等な敵を前にした、狩人の笑みだ。


「剣で矢を受け流すとは……噂どおりだな」


 漣司は剣を構えたまま、一歩も引かない。

 視線は真っ直ぐ、弓を引く男を射抜く。


「お前も見事な弓筋だ」


 淡々と、しかし確かな敬意を込めて。


「だが――矢は道を貫くものだ。閉ざすためのものではない」


 ザハードの瞳が、わずかに細まる。


「道だと?」


 弦を引く腕に、さらに力が籠もる。


「俺にとっちゃ、森が道だ。踏み荒らす足跡を拒むことが、俺の生き方だ」


 再び矢が放たれた。一本、二本、三本――目にも止まらぬ連射。

 視認する暇すら与えない、殺意の雨。


 だが――


 漣司は下がらない。半歩。ただ半歩ずつ、最小限の動きで剣を振るう。


 キィン、キン、キン――!


 矢は弾かれ、逸らされ、地へと吸い込まれていく。

 その所作は剣舞のようであり、呼吸そのものだった。


 剣と弓。

 二つの武が、互いの間合いを測り、読み合い、噛み合っていく。


 まるでこの森そのものが、二人の対峙を待ち望んでいたかのように――。



 森の周囲では、商会の兵たちが次々と幻影の罠に巻き込まれていた。


「敵、三方向から接近! 姿が見えません!」


 リュシアが叫ぶ。

 霧の中から、幻獣が唸り声をあげて飛び出した。

 霧狼に似た影が、複数――まるで森そのものが牙を剥いたようだ。


「チィッ、やっぱり仕掛けてきやがったか!」


 ガロウが大斧を構え、前に出る。

 さらに無音の弓雨が降り注ぐ。

 ルーチェの光陣が即座に展開され、眩い障壁が森を照らす。


「《光障壁ルミナス・バリア・展開!》――防御陣、維持しまする!」


 弓矢が弾かれ、火花が飛ぶ。


「左側に回り込みが来てる!」


 ミナが叫ぶ。


「了解、俺が押さえる!」

 

 ロイが剣を抜き、前線へ飛び出した。


 鉄と鉄がぶつかる音。霧の向こうに閃光が走る。

 ガロウの斧が唸りを上げた。


「道を開けェェ!!」


 森の枝をへし折り、盗賊を吹き飛ばす。

 しかし――霧の奥から、幻影が無数に立ち上がった。

 姿形は同じ、音も足跡もない分身。


「これじゃ数がわからない!」ミナが舌打ちする。

「幻術か……!」


 リュシアが測定器を叩き、叫ぶ。


「魔力反応、前方五十! 実体は……三つだけ!」

「実体以外は幻か! 見極めて叩け!」


 ロイが吠える。



 戦場を俯瞰するように、漣司は静かに息を吐いた。

 視線は動かさない。だが、森の歪みだけを正確に捉えている。

 葉の揺れ。霧の濃淡。重なり合う幻影の裏で、ひとつだけ――世界の軸がある。


「幻影を操る核がいる……」


 低く、確信を帯びた声。


「――ザハードだな」


 霧の奥。木々の隙間に、弓を引く影が浮かび上がる。

 ザハードは、まるで舞台の幕が上がるのを待つ役者のように、口角を吊り上げた。


「おもしれぇ……」


 愉悦を滲ませた声が、森を渡る。


「社長。ここからが本番だ」


 弦が鳴る。放たれた矢は、ただの矢ではなかった。

 矢身に宿った光が尾を引き、一直線に森を貫く。


 ――ドンッ。


 衝撃が地を打つ。大地が唸り、揺れ、応える。


 木の根が地表を割ってせり上がり、蔦が蛇のようにうねり、絡み合う。

 森が――意思を持ったかのように、牙を剥いた。


「森ごと……支配している!?」


 ミナの声が、震えを帯びて跳ねる。


「それがザハードの戦い方だ!」


 即座にロイが応じる。盾を構えながら、歯を食いしばる。


「地の利を使い切ってる……いや、森そのものを武器にしてる!」


 だが、漣司は揺れない。足元で蠢く根を見下ろし、静かに言い放つ。


「森はな。道を拒むだけの存在じゃない」


 一拍。そして、確信を込めて――。


「――導く光にも、ちゃんと応える」


 漣司の声が飛ぶ。


「ルーチェ!」

「心得た!」


 ルーチェが前に出る。杖を高く掲げ、魔力を重ね、言葉を紡ぐ。

 詠唱が終わる瞬間、杖先が白く燃え上がった。


「《導光路ルミナ・パス》――」


 空気が震える。


「照らせ!」


 白銀の光が走った。霧を裂き、枝葉を縫い、森の奥へ一直線に突き抜ける。 

 揺らめいていた幻影が、悲鳴を上げるように霧散していく。


「見えた!」


 ミナが目を見開き、弓を構える。


「本体は中央よ!」


「よっしゃァァ!!」


 雄叫びとともに、ガロウが飛び出した。斧を振りかぶり、獣のように突進する。

 幻獣のような影を次々と薙ぎ払い、道を切り開いていく。

 光が弾け、風が唸り、金属音が戦場を切り裂く。


 その混沌の只中を――漣司は、ただ真っ直ぐ進んでいく。


 霧の中心へ。すべての幻影が生まれる核へ。


 静と動が交差する中、社長の背中だけが、異様なほど鮮明に浮かび上がっていた。



 ついに両陣営の最前線がぶつかった。

 ロイが前で盾を構え、リュシアが後方で補給指揮を取る。


「第二陣、右へ回避! 後衛、矢筒を補給!」


 その冷静な指揮に、兵たちの混乱は収束していく。

 幻獣が再び吠えた。


「根がまだ残っておりまする!」


 ルーチェが息を切らす。


「任セロォォ!!」


 ガロウが地面を叩き割るように斧を振り下ろす。

 衝撃が走り、地中の魔力が弾けた。

 瞬間、森の奥に光柱が立ち上がる。


「魔力の根を断ちました!」ルーチェが叫ぶ。

「幻獣が……消えていきます!」

「今だ、全員前へ!」ミナが叫んだ。


 二階堂商会の兵たちが一斉に突撃する。

 霧が裂け、風が通る。 幻影が消え、森の奥に本陣が見えた。

 そこに立つのは――ザハード。

 弓を引き絞り、ただ一言。


「お前の剣、悪くねぇ……だがな、社長」


 ザハードが弓を引き絞り、血を滲ませながら笑う。


「俺はまだ、矢を残してる」

「なら――放て」

 

 漣司の瞳が、剣先と同じ鋭さで光る。森の空気が凍りつく。

 風が止まり、音が消える。光が奔り、森が震えた。

 二人を中心に、最後の決戦が幕を開けた。

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