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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第90章 静寂の裏の気配 ― 森が見ている

都市バルメリアを再生させた二階堂商会は、次なる都市の可能性として、湖と水の魔力に抱かれたラクリアへと目を向ける。

水と聖性に閉ざされた湖上都市ラクリア。

静謐と停滞が同居するその街に、新たな流れは祝福となるのか、それとも破壊となるのか。

 森は静かだった。


 風もなく、鳥も鳴かず、葉一枚が落ちる音すら、やけに遠くに感じられる。

 陽が昇っているのに、光が濃霧の奥へ吸い込まれていくようだった。

 整地された拠点で、漣司は手を止め、森の奥を見つめた。


「……気配が変わったな」


 その一言で、空気が張りつめる。

 ミナが肩をすくめ、苦笑を浮かべた。


「確かに、風が止まってる。……ただ、ずっと見られてる気がするのよね」


 ロイが周囲を見回し、警備班に指示を飛ばす。


「警戒を強めろ。全員、間隔を広く取れ。弓の角度は森の縁に合わせる」


 すでに彼らの間に言葉はいらなかった。

 短い号令だけで、商会兵たちは隊列を組み直す。

 ガロウが腕を組み、低く唸った。


「静けぇのはいいガ、気持ち悪ィナ。だが怯えたら負けダ。オレらは進ム」

「止まれば、森に喰われる――そうだな」


 漣司は頷き、足元の地図を折りたたむ。


「行動は最小限、感覚は最大限に研ぎ澄ませ。今日からの森は敵地だ」


 霧が揺れる。その瞬間、何かが森の奥をかすめた。

 ルーチェが反応し、杖を構える。


「……魔力の流れが、逆です。風が北から吹いているのに、霧は南へ流れております」

「逆流?」


ミナが眉をひそめた。


「はい。これは自然現象ではありませぬ。誰かが意図的に霧を止め、操っている」

「つまり、こっちが入ってくるのを待ってる……罠ね」


 ミナの声に、漣司は静かにうなずいた。


「ならば、待つ必要はない。動かなければ、森の主導権を握れん」





 午後。


 陽はまだ高いはずだったが、森の外縁には夕刻のような陰りが漂っていた。調査班は言葉少なに進む。踏みしめる枯葉の音すら、霧に吸い込まれて消えていく。

 視界は開けている――はずなのに、奥行きが測れない。

 薄くなったようでいて、確実に深くなった霧が、感覚を狂わせていた。


 ミナが歩調を落とし、低く囁く。


「……ねえ、気づいてる?鳥の声が、一つも聞こえない」


 一瞬、全員が耳を澄ませる。風の音も、羽音もない。

 あるのは、自分たちの呼吸と、装備のかすかな擦過音だけ。

 ロイが眉を寄せ、周囲を見回す。


「音が消えているな。気温も、さっきより下がっている。

 ……魔術による領域干渉の可能性が高い」

「姿を見せず、気配だけで圧をかけてくる……」


 ミナが吐き捨てるように言う。


「嫌なやり口ね」


 ガロウは足を止め、木の幹に手を当てた。

 指先で苔を剥がし、湿り気を確かめる。


「地面が水を含んでル。夜になりゃ、確実に滑るナ」


 視線を周囲へ走らせ、獣の勘で地形を測る。


「攻める側にとっちゃ足を取られる。だが、待ち伏せと防御にゃ――最高の森ダ」


 ルーチェが小さく頷いた。


「つまり……ここが、戦場になるということですな」

「その認識で間違いない」


 漣司の声は、低く、澄んでいた。

 霧の奥を見据えるその眼差しに、迷いはない。


「全員、戦闘前提で動け。夜までに、防衛線を二重に張る」


 即座に視線が交わされる。


「ロイ。罠と動線の再確認を」

「了解しました。防衛陣は南北に分け、交差射線を確保します」

「よし」


 漣司は一拍置き、静かに言葉を継いだ。


「……この森は、俺たちを見ている。ならこちらも――見返すつもりで構えろ」


 その言葉を合図に、調査班の動きが変わる。

 歩みは慎重に、だが確実に。

 霧の中へと、刃を研ぎ澄ませるように踏み込んでいった。


 静かな森の奥で、何かが息を潜め、夜を待っていることを――

 誰もが感じ取っていた。





 夜。


 森の入口に設けられた野営地は、闇に沈みかけていた。

 焚火は必要最低限。炎は高く上げられず、

 揺らめく赤が地面に広げられた地図を歪めている。

 風が吹くたび、火の粉が跳ね、影が生き物のように蠢いた。

 リュシアは帳簿と測定器を並べ、淡々と報告する。


「前方およそ二キロ。微弱な魔力反応を確認しました。

 ……ですが、周期が安定しません。強弱もばらつきがあります」


 その言葉が終わる前に、ミナが即座に口を挟んだ。


「おとりね」


 即断だった。

 ロイも腕を組み、地図から目を離さずに続ける。


「同感だ。攻勢に出る気配が薄い。位置を誇示するだけで、踏み込んでこない」

「動かないことで、こっちを動かそうとしてる」


 ミナが肩をすくめる。


「焦らせて、判断を鈍らせる。森を使う連中の常套手段ね」


 焚火の向こうで、ルーチェが顔を上げた。


「では……こちらから迎撃を仕掛けまするか?」

「いや、違う」


 漣司は短く否定した。地図に歩み寄り、人差し指を置く。

 そこから、ゆっくりと線を引いた。


「次は待つ。だが、待たされるんじゃない――こちらが待たせる」


 指先が止まる。

 線は、森の奥へと誘い込むような形を描いていた。


「敵が仕掛けてくるその瞬間を、こちらが決める」

「それって……」


 ミナが意味を察し、目を細める。


「つまり、こっちから芝居を打つってことね」

「そうだ」


 漣司の声は低く、だが揺るぎなかった。


「混乱しているように見せる。防衛線が崩れたと錯覚させ、撤退するフリをする」


 さらに線を引き、別の地点を示す。


「敵が油断し、距離を詰めた瞬間――接近戦に持ち込む。

 幻影も、矢も、間合いがなければ意味を持たない」


 焚火が、ぱちりと音を立てて弾けた。

 赤い光が全員の顔を照らす。

 不安ではない。そこにあったのは、理解と覚悟だった。


「明日は――森が牙を剥く日だ」


 漣司は視線を上げ、仲間たちを見渡す。


「その牙を、正面からへし折る」


 静寂の中、誰も反論しなかった。

 リュシアは報告書を閉じ、静かに頷く。

 ルーチェは杖を胸に抱き、目を伏せて祈るように息を整えた。

 ミナとガロウは短く拳を合わせ、何も言わずに笑う。

 ロイはそれを見届け、無言で頷いた。

 それだけで、全員の士気が伝わる。

 言葉は不要だった。策は共有され、意志は揃っている。


 焚火の炎が、再び小さく揺れた。





 その頃、森のさらに奥――


 霧の帳に包まれた空間で、

 もうひとつの焚火が脈打つように揺れていた。

 火は高く上げられず、赤黒い光だけが周囲の木々を舐める。

 煙は上へ昇らず、霧に溶けて消えていった。


 ザハードは岩に腰掛け、長弓の弦をゆっくりと撫でている。

 研ぎ澄まされた指先が、木と魔力の感触を確かめるように滑った。


「……静かだな」


 それは独り言に近い呟きだった。

 焚火の向こう、副官が低い声で応じる。


「商会の連中、進みが遅ぇ。完全に警戒してやがります」

「進まねぇ――それ自体が、もう策だ」


 ザハードは弓から視線を離さず、淡々と言い切った。

 少し離れた場所で、チカが膝を抱え、唇を尖らせる。


「ほんと嫌な相手よ、あの社長。

 目は冷たいのに、中で火が燃えてる。……油断ならない」

「へぇー、社長に恋でもしたか?」


 唐突に、後ろから気の抜けた声が飛んだ。


「してないわよッ!」


 チカが即座に振り返り、ゴローの額を小突く。


「何でそうなるのよ! 敵! 敵の話!」

「いやぁ、だってよ。そんな言い方されたらさぁ。

 冷たい目で燃えてるとか、詩人かよって思うだろ?」


「このバカ……!」


 チカが本気で睨みつけるが、

 ゴローはどこ吹く風で肩をすくめる。


「ま、確かにヤバそうではあるな。ああいうタイプはよ、逃げねぇし、折れねぇ。

 ――殴り合いになると、一番面倒だ」


 一瞬だけ、空気が変わった。


「……あァ」


 ザハードがようやく顔を上げる。

 焚火の赤が、その片目の傷を照らす。


「だからこそ、狩り甲斐がある」


 焚火がぱちりと音を立てる。


「奴は勝ちに来るタイプだ。だがな――この森じゃ、それは通じねぇ」


 視線が、闇に沈む樹海へと向けられる。


「森は誰のものでもねぇ。支配しようとした瞬間、逆に喰われる」


 その言葉に、副官が一瞬だけ黙り込み、やがて問いかけた。


「……で、どう動きます?」


 ザハードは弓を立て、焚火の赤を刃のような眼で見据える。


「簡単だ」


 低く、断定的に。


「――奴らが踏み込んだ瞬間が、開戦だ」


 焚火が一際強く燃え上がり、闇が濃くなった。





 夜はさらに深まり、森は音を失った。

 霧の奥で、風が一度だけ走る。

 枝葉が震え、土がかすかに鳴り――

 それはまるで、森そのものが胸いっぱいに息を吸い込むかのようだった。

 嵐の直前に訪れる、あまりにも不自然な静寂。


 そして――黎明。


 闇が薄くほどけ、東の空が白み始めた瞬間。

 最初の一羽の鳥が、ためらうように、しかし確かに鳴いた。

 その一声が合図だった。

 二階堂商会と盗賊団――

 森を懸けた最後の戦いの幕が、静かに上がった。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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