表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/314

第86章 森を繋ぐ者たち ― 新たなる経済戦線

都市バルメリアを再生させた二階堂商会は、次なる都市の可能性として、湖と水の魔力に抱かれたラクリアへと目を向ける。

水と聖性に閉ざされた湖上都市ラクリア。

静謐と停滞が同居するその街に、新たな流れは祝福となるのか、それとも破壊となるのか。

 白亜の柱が整然と並ぶ、ラクリア議事堂の一室。


 高い天井から落ちる柔らかな光が、磨かれた床を淡く照らしている。

 壁一面に掲げられた大地図には、湖の輪郭と森の濃淡、

 そこを縫うように伸びる細い獣道が、繊細な線で描かれていた。

 臨時に設えられた長卓には、二階堂商会の役員たちに加え、

 ラクリア側の測量士、魔術師団の代表、

 兵士団の代表が並んで腰掛けている。


 開かれた窓から湖風が吹き込み、紙束をめくった。

 さらり、と乾いた音。

 何枚もの設計図が、互いに触れ合って小さくさざめく。

 漣司は卓の先に立ち、地図を見下ろしたまま、

 手元のペンを静かに走らせた。

 細い線が、森を横切るように一本、引かれる。


「我々の目的は、森を制圧することではない」


 ペン先が止まる。


「――森を、道に変えることだ」


 短い言葉だった。

 だが、その一言で場の空気がぴたりと揃う。

 敵を打ち倒すのではなく、人と物が行き交う流れをつくる。


 武と経――


 二つの論理が噛み合う地点を、最初に明確に打ち込む宣言だった。

 誰かが小さく息を整える気配がした。

 リュシアが書類の束を整え、一枚を卓上に滑らせる。

 視線は冷静そのものだが、数字を操る指先には、

 わずかな自信の熱が宿っている。


「予算骨子を提示します」


 彼女は淡々と切り出した。


「第一期は、開削・測量・仮橋梁に重点を置きます」


 図面の端を指で押さえ、項目を示す。


「資材の三割は現地調達。残り七割は、

 バルメリアからの搬入です」


 視線が測量士へと向けられる。


「物資列の護衛費は兵団と折半。

 支払いは出来高ベースで管理します」


 言い切る声音には、曖昧さがない。

 計算済みの数字と責任の所在が、はっきりと刻まれている。


 測量士は一拍置き、ゆっくりと頷いた。


 紙の擦れる音と、湖風の気配だけが、静かに室内を満たしていく。



 地図の端を押さえ、測量士が指先で湿地の記号をなぞった。

 湖に近い低地。淡い青で塗られた部分が、まだらに点在している。


「地形は緩やかですが……湿地帯が点在しますな。

 仮設路盤が必要になります」


 紙の上で、指が小さく円を描く。

 その言葉を待っていたかのように、リュシアが顔を上げた。

 ペン先が止まることなく、即座に返る。


「承知しました。木製パネルと砂利の併用で、

 コストを抑えましょう」


 迷いのない即答だった。

 材料の調達経路、輸送量、設置工数――

 すでに頭の中で一度、計算が終わっている声音だ。

 その流れに、ミナが椅子をきしませながら身を乗り出した。


「でも、森の中――まだ霧の残り香があるのよ」


 指先で空をなぞる。


「自然に出る霧じゃないわ。

 術式が継続してる可能性、低くない」


 場の空気が、わずかに引き締まる。

 ルーチェが軽く顎に指を添え、目を伏せて感覚を探った。

 白いまつ毛が、ほんのわずかに揺れる。


「拙者も、同意でござる」


 静かな声。


「魔力の波形が一定でなく、周期的な脈を感じ申す。

 結界の核が、どこかで鼓動しておるやもしれぬ」


 見えないものを言葉に変換する、

 その慎重な言い回しに、数名が小さく息を呑む。

 その空気を、豪快に破ったのがガロウだった。


「だったら、核をぶっ壊せば早ェ話ダ!」


 大斧の柄を、床に軽く打ち鳴らす。

 鈍い音が、議事堂の壁に反響した。


「道はドーンと通せばイイ!」


 力こそ正義、と言わんばかりの笑み。


 だが――


「破壊は、予算外ですわ」


 リュシアの声が、即座に飛んだ。


 冷静で、寸分の揺らぎもない切り返し。

 ガロウの勢いに、まるで刃を差し込むような一言だった。

 卓の上に、静かな緊張が走る。


「出た、経理の女神……」


 ミナがわざとらしく肩をすくめる。

 その言い方が妙に大げさで、

 卓の周囲にくすりと小さな笑いが走った。

 張り詰めていた空気が、ほんの一瞬だけやわらぐ。

 その隙を縫うように、ラクリア側の兵士代表が手を挙げた。

 革手袋の指先が、地図の森の部分を示す。


「盗賊の出没域は、主に森の中段です。

 街まで襲いに来ることは滅多にありませんが――

 戻りの輸送列を狙ってきます」


 声が少し低くなる。


「弓の腕が立つ連中が混じっています。

 油断は禁物です」

「戻りが危ない、か」


 漣司は短く応じ、地図の折り目を指でなぞった。

 紙のしわに沿って、指先がゆっくりと滑る。


「議会長も、同じことを言っていたな」


 笑いの余韻が消え、

 会議の空気は自然と次の現実へ戻っていった。


「往路と復路で、時間差の護衛線を引く」


 漣司は地図上に指で二本の線を描き、わずかにずらした。


「ここで――ロイの才覚が要る」


 名を呼ばれ、ロイは静かに一歩前へ出る。

 背筋は崩さず、視線は地図と卓上の資料を素早く行き来した。

 考えは、もう整理されている。


「労務隊は班単位で再編成します」


 迷いのない声。


「各班に士気維持係を置き、帰路では補給と士気、

 この二本で崩れを塞ぎます。疲労は必ず判断力を鈍らせる。

 そこを仕組みで支えます」


 彼は指先で、森沿いの数点を示した。


「沿道に休憩拠点ハーフベースも置きましょう。

 温かいスープと簡易な手当てだけでも、人は踏みとどまれる。

 ……いえ、戻って来られる」


 言い切りのあと、わずかな間が落ちる。

 戦場の数字ではなく、

 人の足取りを想像して組み上げた案だと、誰の目にもわかった。


「人は戻って来られる、か」


 漣司は口角をわずかに上げる。


「いい言葉だ。机上の勝利じゃない。

 ちゃんと人が帰ってくる計画だな」


 ロイは小さく息を整え、深く一礼した。

 その背中には、盾役だけではない

 ――隊を支える柱の気配が、確かに宿っていた。


「任務の割当を確認する」


 漣司は視線で役員を順に射抜いた。


「リュシア――資材・賃金・護衛費の三本柱を統括。

 支払いは日々締め、帳簿は誰が見てもわかる現場帳に落とせ」

「承知しました。現場帳は閲覧自由に。数字で信頼を積み上げます」


「ミナ――盗賊動向の監視と交渉の窓口。

 必要なら潜る。その場合は必ず帰りの足を二本準備しろ」

「了解。森の中を走り回って、怪しい動きは全部拾ってくる」


「ロイ――労務隊の編成、健康管理、士気維持。

 『守る』のではなく『導く』だ」

「畏まりました。働く誇りを保ったまま帰ってこられる列にします」


「ガロウ――伐採隊と護衛の指揮。

 乱暴ではなく迅速、威圧ではなく抑止だ」

「任セロ。刃を振るうのは最後ダ。

 だが振るう時は、一度で終わらせル」


「ルーチェ――霧の残留魔力の計測と中和、結界核の探索。

 光で道を示せ」

「拙者の光、必ずや道標と致しまする」


 ラクリア側の魔術師団長が口を開いた。


「我らも魔法結界の補助を担います。

 街の学徒も志願しておりますが……危険は?」


 ガロウが短く言い切る。


「学徒には最前列を歩かせねェ。頭は守るべき命ダ」」


 団長は目を細め、深く礼をした。


「その方針に感謝を」

「物流線の設計は私が詰める」


 漣司は新たな紙を広げ、三本のルートを描いた。


「第一線:伐採・測量の作業線。

 第二線:補給と休憩の支援線。

 第三線:予備・救護の安全線。三本を網にして動かす。

 どれかが切れても全体は止まらない。

 これは武でも経でも同じだ」


 測量士が感嘆の声を漏らす。


「戦場の兵站を、そのまま交易に転用……!」

 

 ミナが小声で囁いた。


「ねぇ社長、もし盗賊に話がわかるやつがいれば、

 交渉の余地もあるわ。たぶん全部が悪じゃない」

「その判断は任せる。

 ただし線をまたぐ者にはルールを与えろ。

 従えば保護、破れば排除だ」

「了解」

 

 会議の終わりに近づき、ルーチェがそっと手を上げた。


「ひとつ提案を。

 夜間、湖面の光を反射させルミナパス

 を森の入口に掲げ申す。

 迷いの気を払うと同時に、人心の支えとなりましょう」

 

 リュシアが頷く。


「象徴は費用対効果が高い。迷わぬ列は、遅れない列ですわ」

「いい。――やろう」


 漣司は即決した。

 最後に、彼はゆっくりと卓から一歩退き、全員を見渡した。


「森は脅威ではない。私たちの経済圏を広げる最初の試練だ。

 武は道を切り開き、経は道を太くする。

 魔は道を迷わせず、民は道を歩いて強くなる」

 

 息を一つ置き、言葉を結ぶ。


「――やるぞ。武装法人の名に恥じぬ仕事を」

 

 椅子が一斉に鳴り、返事が重なる。


「承知しました」

「任せて!」

「やってみせます」

「オウ!」

「拙者、光を掲げ申す!」

 

 会議が解散すると、廊下の向こうから金具の触れ合う音、

 外庭では木材の搬入、鍛冶の鎚音が次々に重なり始めた。

 ラクリアの街に、新しい拍動が生まれる。

 商会の旗が庁舎の塔に揚がり、湖風をはらんで大きく翻った。


 その日、ラクリアの空に初めて道の設計図が描かれた。

 森を越え、街と街を繋ぐ――

 単なる施工ではなく、時代の流れを再び動かす経済の戦。

 二階堂商会は、水と光の都を背に、

 静かに、しかし確かに前進を始めた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ