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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第84章 湖上会議 ― 静けさの中の報告

都市バルメリアを再生させた二階堂商会は、次なる都市の可能性として、湖と水の魔力に抱かれたラクリアへと目を向ける。

水と聖性に閉ざされた湖上都市ラクリア。

静謐と停滞が同居するその街に、新たな流れは祝福となるのか、それとも破壊となるのか。

 ラクリアに辿り着いてから、しばらくの時が流れていた。


 湖畔を渡る風は穏やかで、朝の光が水面を反射しながら

 白壁の建物をやさしく照らしている。

 静寂に包まれた街は、目覚めたばかりのようにゆっくりと呼吸をしていた。


 二階堂商会の仮本部――

 宿の一室を改装した会議室もまた、簡素ながら落ち着いた空気に満ちている。

 厚手のカーテン越しに差し込む光が床に淡い影を落とし、

 湖から届く微かな水音が、沈黙を心地よく満たしていた。


 木製の長机を囲む五人の顔には、それぞれ充実の色が混じっている。

 街を歩き、人と話し、調べ、考え――

 この静かな都市と向き合ってきた日々の重みだ。

 漣司は椅子に深く腰掛けたまま、ゆっくりと全員を見渡した。

 視線が一巡し、会議室の空気が自然と引き締まる。


「よし、報告を始めよう」


 その一言で、私的な雑談の気配は完全に消える。

 ここからは、商会としての時間だ。


「まずは――リュシアからだ」


 名を呼ばれ、リュシアが小さく息を整えた。

 背筋をすっと伸ばし、手元の資料を揃えるその所作には、

 几帳面さと責任感がにじんでいる。



「はい。市の財務記録を一通り確認しました」


 リュシアは落ち着いた声音でそう切り出し、手元の資料を丁寧に揃えた。

 紙の端がきっちりと揃うその仕草だけで、

 彼女がどれほど丹念に目を通してきたかが伝わる。


「帳簿はやや不揃いな箇所がございますが、

 これは単なる記帳の誤りかと思われます。

 使途不明金や架空支出など、

 バルメリアで見られたような不正の形跡はありません」


 机の上に数枚の書類が並べられる。

 数字は整然とし、無理に取り繕った形跡もない。


「市の予算も健全です。資金繰りに余裕こそありませんが、支出はすべて公正。

 ――少なくとも数字の上では問題は見当たりません」


 その一言に、含みがあるのを察したのか。

 ミナが頬杖をつき、口元を緩めた。


「数字の上では、ね。ほんと、その言い回し、リュシアさんらしい」


「私は、街の周りの森と山道を調べたけど、

 盗賊と魔物の被害が少し出てるくらい」


 ミナは指先で机をとんと叩く。


「襲撃の頻度は高くないし、死人が出てるわけでもない。

 でも、積み荷を荒らされた商人や、途中で引き返した行商は確実にいる」


「盗賊、か……」


 漣司が低く呟き、指先を組んだ。

 その視線は資料ではなく、机の向こう――ラクリアの外を見ている。

 ミナは苦笑して肩をすくめた。


「ここの人たち、妙に気丈なのよ。

『あの森は昔からそういうもんだ』って、半ば諦めたみたいに言うの」


 笑ってはいるが、どこか乾いた表情だった。


「慣れてるだけ。解決したわけじゃない。

 放っておけば、危ない街って噂だけが広がって――商人は、確実に来なくなる」


 静かな会議室に、わずかな緊張が落ちる。

 数字は健全。街は美しい。人々も穏やか。


 だが、街道に巣食う小さな歪みは、確実に流通の喉元に指をかけていた。





 続いてロイが、手元の報告書を静かにめくった。

 紙の擦れる音が、会議室の静けさを際立たせる。


「住民の暮らしは質素ですが、概ね満足してます。

 税も低く、職や産業は少ないものの安定はしています」


 淡々とした報告の中に、ロイは一度だけ言葉を区切った。


「もちろん、愚痴はあります。若者が街を出ていくこと、

 商いの話題が減っている事などありますが...危険な不満は見られません」

 

 彼は一息つき、穏やかに微笑んだ。


「皆、家族や職を大事にしている。……良い街ですよ、ここは」


 その言葉に、ガロウが腕を組みながらうなずいた。


「オレも、似た印象ダな。兵どもは素直で真面目。サボるヤツも少ねェ。

 鍛えりゃ、まだまだ強くなる連中ばかりダ」


 だが、次の言葉で、声の調子がわずかに重くなる。


「ただ……士気は少し低イ。森の盗賊のことが気になってるんダ。

 いずれ商人や家族を守れなくなるんじゃねェかってナ」


 ガロウは拳を握り、机に軽く置いた。


「誰も騒がねェ。だがその分、覚悟を決めちまってる顔をしてやがル。

 ――それが、オレは一番気に入らねェ」


「ふむ……」


 漣司は静かにうなずき、手帳にペンを走らせた。


「満ち足りているようで、少しずつ後ろへ下がっている。

 守りを固めるだけで、前へ進めなくなっている街……か」


 誰も反論しなかった。湖上都市ラクリアは、まだ美しく、まだ穏やかだ。


 だがその静けさは、停滞と後退の境界線に、確かに足をかけていた。





 最後にルーチェが挙手した。


「魔導学院につきまして、ご報告申し上げます」


 柔らかな声ながら、一語一語は明確だった。


「立派な校舎や潤沢な設備があるとは言えませぬ。

 研究器具も年季の入ったものが多く、予算にも余裕は見られませぬが――」


 資料を軽く整えながら、視線を上げる。


「魔導士、学者、学生のいずれも、誠実で教養が深く、

 基礎理論を軽んじることなく、地道な研究を積み重ねております。

 成果は派手ではございませぬが、確実に蓄積されている印象でござる」


 その声には、感情を抑えた冷静な評価が貫かれていた。


「また、市民の魔導理解が高く、魔法を特権や支配の手段としてではなく、

 生活を支える共助の力として受け入れております。

 照明、治水、気候調整、簡易治療――

 いずれも節度をもって運用されており、混乱は見られませぬ」


 彼女は微笑みながら続けた。


「総じて、この街は――光の扱い方を心得ております。

 力を誇示せず、恐れず、しかし軽んじることもない。

 ……魔導に携わる者として、誇るべき在り方でござる」


 場が一瞬、柔らかな空気に包まれた。

 漣司は全員の報告を聞き終えると、ゆっくり椅子に背を預けた。





「皆、よくやった。報告を聞く限り――ラクリアは健全だな」


 漣司はそう言って、ゆっくりと机の上に両手を置いた。

 断定的でありながら、慎重さを失わない声だった。

 ミナが椅子にもたれ、首をかしげる。


「拍子抜けするくらい、平和ね」

「そうだな」


 漣司は微かに笑みを浮かべた。


「バルメリアがあまりにも荒れていたせいかもしれん。

 議会との交渉も、肩透かしを食うほどに順調だった。

 二階堂商会が商路を繋いでくれるなら、こちらも全面的に協力しよう――

 それだけで話がまとまった」


 ミナの眉がぴくりと動く。


「それ、罠じゃないでしょうね?」

「ミナ、お前は少し疑いすぎだ」


 ロイが苦笑しそうになるのを、ミナは肩をすくめて返す。


「だって、順調すぎるのよ」

「順調な時こそ、焦らず進む」


 漣司は即座に言った。


「それが、経営の鉄則だ」


 漣司の言葉に、室内の空気が少し引き締まった。

 皆、それぞれの視線で彼を見つめる。

 バルメリアでの混乱と決断、血の気配すら残る日々を経た今――

 漣司の言葉は、経験に裏打ちされた重みを帯びていた。


「この街の光を、我々が濁すわけにはいかない。

 ラクリアは、力で縛る街ではない」


窓の外では、湖面に反射した夕光がゆらめいている。


「――統治すれど、支配せず」


 漣司は言葉を噛みしめるように告げた。


「その理念を貫くためにも、まずは街に受け入れられることだ。

 我々は主役ではない。この街が、自分の足で立てるようになるまで――

 支える側に徹する」





 リュシアが背筋を正し、迷いのない声音でうなずいた。


「承知しました。日々の財務記録と流通帳簿は、引き続き監視しておきます。

 異変があれば、即座に報告を」


 ガロウは椅子を鳴らして立ち上がり、拳を胸に当てる。


「オレは兵の練度を上げル。守る覚悟はあるガ、力が伴わなきゃ意味がねェ。

 ――この街を任せられる連中に仕上げてみせル」


 ミナは窓際に腰掛け、軽く肩を回しながら笑った。


「私は盗賊の動向を追っておくわ。森も山道も、一通り顔を出しておく」


 ロイは手帳を閉じ、静かに頷く。


「私は民と話し、街の声を拾い続けます。

 表に出ない不安や、小さな違和感――

 数字や報告書に載らないものほど、大事ですから」


 最後に、ルーチェがそっと手を胸に当て、一礼した。


「拙者は湖と街を巡る魔力流を観察いたします。

 結界の揺らぎ、魔導の偏り……何かあればすぐにお知らせするでござる」


 それぞれの言葉に、確かな役割と責任が宿っていた。

 漣司は全員を見渡し、ゆっくりと目を細める。


「……よし。それぞれの仕事に戻れ」


 その声は穏やかで、しかし揺るぎがなかった。


 窓の外では、白亜の街並みの向こうに、夕陽が湖面を赤く染めている。

 水面は鏡のように光を受け、静かに揺れていた。

 穏やかな光――それは、まるで嵐の前の静けさのようにも見えた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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