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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第81章 霧の森 ― 光の道を拓け

都市バルメリアを再生させた二階堂商会は、次なる都市の可能性として、湖と水の魔力に抱かれたラクリアへと目を向ける。

水と聖性に閉ざされた湖上都市ラクリア。

静謐と停滞が同居するその街に、新たな流れは祝福となるのか、それとも破壊となるのか。

 山のふもと一帯を覆う濃霧は、ただ立ちこめているだけではなかった。

 ゆっくりとうねり、脈打ち、

 まるで巨大な生き物が眠りながら呼吸しているかのように――

 静かに、生々しく蠢いている。

 霧の中へ一歩踏み込んだ瞬間、世界の音が薄れていった。

 鳥のさえずりは途中で断ち切られ、風が枝を揺らす音も、

 遠くで溶けるように消える。

 馬車の軋む音さえ、数歩先で霧に呑み込まれていく。


 視界は白一色。

 距離感も方向感覚も曖昧になり、足元だけが頼りだった。

 ルーチェが立ち止まり、霧を仰ぎ見る。

 白光を宿す瞳が、揺らぐ霧の流れをじっと追った。


「……これは、自然の霧ではありませぬな」


 その声は低く、確信を帯びていた。

 隣でリュシアが携行用の測定具を操作する。

 結晶板に刻まれた魔力波形が、乱れた脈動を描いていた。


「反応が安定しません。自然現象なら、ここまで不規則にはならないはず……」


 一拍置き、彼女は結論を口にする。


「誰かが意図して張った術式です。幻霧結界と見て間違いありませんわ」


 霧が、意志を持つかのように濃淡を変えた。進行方向の輪郭が、ふっと歪む。

 漣司はその様子を一瞥し、短く息を吐いた。

 逡巡はない。声は静かだが、揺るぎがなかった。


「見えぬなら、進むまでだ」


 一歩、霧の奥へ踏み出す。


「止まれば――霧に飲まれる」


 白の帳が、彼らを包み込むように揺れ動く。

 だが、その中で二階堂商会の足取りだけは、確かに前へと進んでいた。





 進めど、進めど、景色は変わらなかった。

 倒木の位置、苔むした岩の形、枝の折れ方――

 どれもが既視感を伴って迫ってくる。

 まるで森そのものが、侵入者の歩みを量り、嘲笑っているかのようだった。


「……おかしいな。どう見ても、さっき通った場所だ」


 ロイが足を止め、眉をひそめる。

 同時にミナが肩をすくめ、軽く息を吐いた。


「完全にループしてるわね。噂に聞く迷いの森ってやつか」


 霧が、二人の言葉に応じるようにざわりと揺れた。

 ルーチェは一歩前に出て、静かに周囲を見渡す。

 風にそよぐはずの霧は、どこか不自然な流れを描いていた。


「……風向きと、霧の動きが逆でござる」


 指先で空をなぞりながら、彼女は続ける。


「魔力が渦を巻いておるな。中心を突けば、結界は抜けられるはずでござる」


「なら行くゼ!」


 即座にガロウが反応し、大斧を担ぎ直す。

 その一歩を、しかし漣司の手が制した。


「力で押すな。霧は道そのものを拒んでいる」


 視線をルーチェへ向け、短く命じる。


「――光で導け」

「承知仕った!」


 ルーチェが軽く頷き、前へ進み出る。小さな掌に、淡い光が灯った。


「――《光路ルミナ・パス》!」


 詠唱と同時に、霧の奥が裂ける。

 白銀の光が一本の筋となり、揺らめきながら森の奥へと伸びていった。

 闇を拒むように、光の道がゆるやかに脈打つ。


「……スゲェな」


 ガロウが思わず息を呑む。

 次の瞬間――彼は躊躇なく、その光の中へ踏み込んだ。


「よっしゃァ! 道が見えりゃ、突っ走るだけダ!」


 大地を踏み鳴らし、光路に沿って前進する。

 霧が巻きつこうとするたび、彼の一歩がそれを押しのけた。

 枝をへし折り、足場の悪さも意に介さず、

 まさに突破と呼ぶにふさわしい勢いだった。


「ガ、ガロウ殿!? そんな速度で進まれては、拙者の光が――!」

「問題ねェ!」


 振り返りもせず、豪快に叫ぶ。


「見えてる間に、ガンガン行くゾ!」


 その背中を見て、ミナが吹き出す。


「なにそれ……作戦もへったくれもないわね」


 ロイも苦笑しながら肩をすくめた。


「でも、あれで迷わないんだから大したもんだよ」


 白銀の光と、獣のように突き進む男。

 その組み合わせに押されるように、霧の森はついに後退を始めた。


 光路の先――未知の領域は、確かに近づいていた。





 霧が、ひときわ濃く脈打った。

 その瞬間――ルーチェの放つ光路が、ぴしりと軋むように揺らぐ。


「――っ!」


 わずかな乱れ。

 だが、それを待っていたかのように、森の奥から低く湿った唸り声が転がり出た。


 ごぉ……ぉぉ……。


 音が、四方八方から迫る。次の瞬間、霧の中に光が灯った。


 ――否。眼だ。


 無数の黄金色の眼が、濃霧の奥で一斉に開く。

 視線だけが浮かび上がり、輪郭を持たぬ影が蠢いた。

 霧を裂いて、巨大な影が跳躍する。


 幻霧の主――霧狼フォグ・ウルフ


 獣の形をしていながら、その全身は濃霧そのもの。

 一歩踏み出すたびに身体が分裂し、左右、背後、頭上へと狼が増えていく。

 牙だけが鋭く白く、霧の中で異様な存在感を放っていた。


「くそ……数が多すぎる!」


 ロイが即座に前へ出る。

 盾を構え、衝撃に備えながら視線を走らせる。


「どれが本体かわからない!」


 霧狼たちが一斉に動いた。跳躍、回り込み、同時攻撃。

 霧の牙が空を裂き、風圧が頬を叩く。


「――足跡ッ!!」


 鋭い声が戦場を切り裂いた。

 ミナだ。

 彼女は半身を低く落とし、地面を指さす。


「見て! 本体だけ、地面に痕が残ってる!」

「影だけで滑ってるやつは偽物よ!」


 霧の中――

 確かに、一体だけが湿った土を踏みしめ、わずかに沈み込んでいた。


「了解だ!」


 ロイが進路を切り、仲間を誘導する。


「――任せロォォ!!」


 次の瞬間、地響きが起きた。


 ガロウが霧の群れへ突進する。

 大斧を振りかぶり、霧狼の幻影をまとめてなぎ払う。

 斧が通過した軌跡で霧が爆ぜ、偽物が一体、また一体と霧散していく。


「オオオオッ!!」


 獣のような咆哮。

 視線はすでに、本体ただ一体を捉えていた。


「――ドーンだァァァ!!!」


 全身の力を叩き込んだ一撃。


 斧が大地に叩きつけられ、衝撃波が円状に走る。

 地面が割れ、霧狼の身体が引き裂かれた。

 悲鳴とも唸りともつかぬ音が上がり、霧の核が砕け散る。


 次の瞬間。


 森を覆っていた霧が、一気に引き潮のように消えた。

 幻影だった狼たちは溶け、黄金の眼も次々に閉じていく。

 空気が澄み、風が通り、森本来の色が戻ってきた。


 ルーチェが一歩前へ出る。

 両手を胸元で合わせ、残留する魔力を丁寧に束ねていく。


「……霧の核、完全に封じましたでござる」


 静かに、しかし確信をもって告げる。


「これでもう、この森が人を惑わすことはありませぬ」


「やったナ、ルーチェ!」


 ガロウが満面の笑みで拳を突き上げた。


「皆が力を合わせた結果にござる」


 ルーチェは少し照れたように微笑む。

 ミナは肩の力を抜き、ロイは安堵の息を吐いた。

 その光景を少し離れた場所から見つめながら、

 漣司は、何も言わずに小さく微笑んだ。


 ――この仲間なら、未知の先へも進める。

 そう確信するには、十分すぎる戦いだった。





 その頃――森の外れ。


 切り立った崖の上から、戦いの余韻が残る森を見下ろす一団がいた。

 身にまとっているのは、継ぎはぎだらけのマント。

 風に煽られてはためくその姿は、どう見ても正規の旅人ではない。


 ――盗賊団。


 その中で、ひときわ見覚えのある男女が顔を見合わせている。


「……チカ。おい、今の……見たか?」


 ゴローが引きつった声で囁く。

 視線は森の奥――霧が晴れた方向から離れない。


「見りゃわかるでしょ、バカ」


 チカは呆れたように即答した。


「あれ、二階堂商会の連中よ。しかも、ガチのやつ。霧狼ぶっ飛ばしてたじゃない」

「しかもさ……あの真ん中にいたの、たぶん社長だよな?」

「たぶんじゃない。確実。あの落ち着き方、間違いないわ」

「……うわぁ」


 二人同時に、深いため息。


 そこへ、重たい足音とともに盗賊団の頭領が近づいてきた。

 筋骨隆々、顔には古傷。


「どうした。獲物でも見つけたか?」


 一瞬の沈黙。

 チカは即座に表情を切り替え、にこっと笑った。


「旅の商人っすよ。……ちょっと物騒な雰囲気ですけどね」


頭領は森の奥を睨み、鼻を鳴らした。


「ならば追え。森を抜ける者は全員荷台を奪う。ラクリアを出たところで、だ」

「……承知」


 チカは軽く頭を下げる。頭領は満足げに頷き、そのまま踵を返した。


 足音が遠ざかったのを確認してから――

 二人は同時に、がっくりと肩を落とす。


「……どうする、ゴロー」


 チカが低く呟く。


「どうするも何も……あの人ら、バカ強いよ」

「……命令は命令だしなぁ」

「ええ。逆らったら、今度は頭領に殺される」


 重いため息をつきながらも、二人は立ち上がる。


「ついていくか」

「ついていくしかないわね」


 そうして――

 チカとゴローは、霧の名残が漂う森の奥へと消えていった。


 その背中には、悪党というより、どうにも間の悪い運命に巻き込まれた小物感が、

 ありありと滲んでいた。





 霧が晴れた。

 眼前には、湖とその上に広がる白い都市。

 湖面に映る光が眩しく、まるで天上の街のようだった。


「……あれが、ラクリアか」


 漣司が呟く。

 ミナは一歩遅れて振り返った。

 霧の名残がまだ森の奥に揺れている。

 そこに、ほんの一瞬――人影のような揺らぎが見えた気がした。


「……なんだか、嫌な風が吹いてるわね」


 ロイが眉を寄せる。


「疲れてるんじゃないか?」

「ふふ、そうだといいけど」


ミナは笑ってみせたが、その笑みはどこか硬い。


「風向きは変わるもんダ」


 ガロウが低く言い放つ。その声には、妙な確信の響きがあった。

 漣司は小さく頷く。風が木々を揺らし、霧の残り香が完全に消えていく。

 だがミナはもう一度だけ、森の奥を見た。

 こうして二階堂商会は、新たな地へと歩みを進めた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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