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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第80章 道を行く ― 山森の入り口にて

都市バルメリアを再生させた二階堂商会は、次なる都市の可能性として、湖と水の魔力に抱かれたラクリアへと目を向ける。

水と聖性に閉ざされた湖上都市ラクリア。

静謐と停滞が同居するその街に、新たな流れは祝福となるのか、それとも破壊となるのか。

 バルメリアを出て、二日目。


 風は明らかに性質を変えていた。

 街を包んでいた乾いた石と鉄の匂いは遠のき、

 代わりに湿り気を帯びた草と土の香りが、肺の奥まで染み込んでくる。

 頬を撫でる風はやわらかく、どこか重く――

 山が近いことを、身体が先に理解していた。


 バルメリアから伸びる新しい街道を、馬車の列が静かに進んでいく。

 まだ若いその道は、ところどころに削り跡を残しながらも、

 確かな意志をもって山のふもとへと続いていた。


 先頭で翻るのは、二階堂商会の旗。

 陽光を受けて白と紋章がきらめき、揺れるたびに、

 これまで築いてきた街の記憶を振り切るように空を切る。


 その姿は、進軍ではなく――旅立ちの象徴だった。


 荷台の中では、ゆったりとした振動が一定のリズムを刻んでいる。

 木製の床がきしみ、金具が微かに鳴るたび、時間が穏やかに流れていく。


 簡易机の上で地図を広げ、指先で街道と山脈をなぞる者。

 揺れに身を任せ、酒瓶を傾けながら小さく息をつく者。

 幌の隙間から外を覗き、深まっていく緑の濃さに目を細める者。

 誰かの何気ない一言に、誰かが吹き出し、

 それにつられて、別の笑い声が重なる。

 作られた緊張でも、無理に盛り上げた賑やかさでもない。

 同じ道を行く者同士だからこそ生まれる、

 自然で、肩の力の抜けた空気だった。


 馬車は止まらない。山森の入り口は、もう遠くない。


 街を治めた者たちは、次に繋ぐべき場所へと向かっている。

 その始まりを告げるように、旗は再び風を受け、大きくはためいた。





「ガロウ殿」


 馬車の揺れに紛れることのない、澄んだ声だった。

 呼ばれて、ガロウは酒瓶を下ろし、のそりと顔を上げる。


 向かいの座席で、ルーチェが背筋を正し、

 やけに真剣な眼差しを向けていた。

 光を映した白金髪が、揺れに合わせてわずかに揺れる。


「そなたは、兵たちからたいへん慕われておったな。

 叱咤しても離れず、命令すれば迷わず動く。

 どうすれば、あのような信頼を得られるのだ?」


 あまりに真面目な問いに、ガロウは一瞬きょとんとする。

 そして、ぽりぽりと頬をかき、視線を宙に泳がせた。


「え、えーっとだナ……別に難しいことじゃねェんダ。

 こう……ガーッとやって……ドーン、だ。」


 沈黙。


 馬車の軋む音だけが、やけに大きく聞こえる。


 だが――


 ルーチェは眉ひとつ動かさず、深く、厳かに頷いた。


「なるほど……ガーとやって、ドーン……」


 そのまま、しばし考え込むように顎に指を当てる。


「単純に聞こえるが、きっとその中に深い理があるのだな」


 自分で言いながら、感心したように目を輝かせる。


「ふむ……奥深い。これを即座に理解できぬ拙者は、

 まだまだ未熟ということか……!」


 ガロウが引きつった笑みを浮かべる。


「お、おウ……そうカ?」


 その横で、ミナがついに限界を迎えた。


「ぷっ……! ちょ、ちょっと……!く、くははははっ!!

 奥が深いって何よそれ!!」


 腹を抱えて机に突っ伏し、肩を震わせる。


「ガロウの戦術、擬音しかないじゃないの!」


 ロイが苦笑しながらフォローする。


「まあ……理屈はともかく、結果は出てるから否定はできないけどな。」

「そうダロ!? 結局よォ、勢いと気合がありゃ、

 人はついてくるモンなんダ!」


 胸を張るガロウに、ミナが呆れたように溜息をつく。


「それを理論に昇華しちゃうのが、あんたとルーチェだけだと思うわ……」


 その間にも、ルーチェは真剣そのものだった。

 どこからともなく小さなメモ帳を取り出し、羽ペンを走らせる。


「……よし。『指導法概論・第一項――ガーとやって、ドーン』……」

「書くな書くな!」


 ロイが慌てて身を乗り出す。


「それ、後で学術論文とかに載せるなよ!? 魔導学院が混乱する!」

「な、なんと……それほど危険な知見であったか……!」


 真顔で驚くルーチェに、ミナは涙を拭いながら笑い続け、

 ガロウは「オイオイ……」と頭を抱えた。

 馬車の中は、しばらく笑い声に包まれていた。


 揺れる車輪とともに、彼らの旅は――賑やかに、続いていく。





 やがて馬車の揺れが目に見えて荒くなり、

 車輪が小石を弾く乾いた音が連なって響き始めた。

 板張りの床越しに伝わる振動が重くなり、同時に外気がひやりと肌を撫でる。


「……空気、変わったな」


 誰ともなく呟いた直後、ロイが腰を上げ、窓の留め具を外した。

 きしりと音を立てて開いた窓から、湿り気を帯びた冷風が一気に流れ込む。


「……見ろよ」


 その声に、全員が自然と視線を寄せた。


 視界の先――


 巨大な山と、うねるように広がる深い森が重なり合い、

 まるで世界を隔てる一枚の壁のように聳え立っていた。

 樹海の隙間からは白い霧がゆっくりと立ちのぼり、

 風に揺れた枝葉がざわめくたび、森全体が呼吸しているかのように見える。


 そして、そのさらに奥。霧の向こう、ほとんど幻のように――

 白く細い尖塔の影が、ぼんやりと浮かび上がっていた。


 馬車の前方から、低く落ち着いた声が届く。


「――あれが、ラクリアだ」


 その一言で、空気が引き締まった。

 一同の視線が、無言のまま同じ方向へと揃えられる。

 山の頂を中心に、街を包み込むような淡い光の層が見えた。

 結界のようにも、朝靄に反射した陽光の残滓のようにも見える、不思議な輝き。

 ミナが腕を組み、わずかに眉を寄せる。


「……この森、厄介そうね。道があるようで、ない。

 地図も……ここから先は、ほとんど信用できないわ」


 その言葉に、リュシアが資料束をめくりながら頷いた。

 紙の擦れる音が、緊張を帯びた沈黙の中に小さく響く。


「交易が発達しなかった理由が、まさにこれですわね。

 凶暴な獣、山賊、そして――魔導的な霧の障壁。

 進入した商隊が戻らなかった記録も、少なくありません」

「なるほどな……」


 ロイは窓枠に手を置いたまま、静かに拳を握る。


「つまり――ここからが、本番ってわけだ」


 その隣で、ガロウが楽しげに口角を上げ、豪快に腕をまくった。


「おうヨ!道がねェなラ――作りゃイイだけの話だロ?」


 重苦くなりかけた空気を、彼の一言が力強く切り裂く。

 ルーチェは、そんなやり取りをよそに、じっと森を見つめていた。

 霧の流れ、木々の揺れ、光の歪み――

 その一つひとつを確かめるように。


「……この霧、ただの自然ではござらぬな。

 魔力の流れを感じる。森そのものが、外の者を拒んでおるようだ」


 そう言って、彼女は胸元に手を当て、静かに息を整える。


「拙者の光であれば……完全ではないが、道を示すことはできよう」


 やがて馬車は、きぃ、と軋む音を立てながら、

 森の入り口でゆっくりと停止した。

 霧が、すぐそこまで迫っている。

 御者台から、漣司が地面へと降り立つ。

 足元の土を踏みしめ、彼は目の前に広がる山森を見上げた。





 深く、静かに息を吸い――

 そして、低く呟く。この先が、次の舞台であると。

 馬車がゆっくりと止まり、漣司が外に降り立つ。

 彼は森の入り口を見上げ、低く呟いた。


「ここから先は、未知の領域だ。

 ――だが、未知こそ、我らの商売だろう?」


 漣司の言葉は強くも高くもなかった。

 それでも、不思議と胸の奥に沈み、確かな熱となって残る声だった。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、誰からともなく小さな笑いが漏れ、やがてそれが連なっていく。


「未知なら、値踏みしがいがありますわ」


 リュシアは細く目を眇め、森の奥に潜む気配を量るように視線を走らせた。

 そこにあるのは恐れではなく、冷静な算段の光だった。


「違いねぇナ」


 ガロウは肩を鳴らし、重たい外套の上から拳を握り込む。

 未知の気配に身体は自然と戦う準備へと切り替わっていた。


「面白くなってきたじゃない」


 ミナは小さく息を吐き、口元に浮かんだ笑みを隠そうともしない。

 胸の奥で、いつもの危うい高揚が静かに灯っていた。


「……魔力の流れ、これまでにない性質でござるな。

 慎重に探るがよろしかろう」


 ルーチェは帽子の鍔に指を添え、森の奥を静かに見据える。


「ええ。でも、社長が進むと決めた以上、俺たちは全力で支えます」


 ロイはまっすぐに頷き、迷いのない声で応えた。


 軽口混じりの声とともに、仲間たちは次々とうなずいた。

 不安は消えていない。だが、それ以上に――前へ進む覚悟が揃っていた。


 そのとき、森を抜ける風が一陣、強く吹き抜ける。

 枝葉がざわめき、霧がゆっくりと流れ、光が揺れた。


 馬車の側に掲げられた二階堂商会の旗が、

 風を受けて静かに揺れる。

 白地に刻まれた紋章は、深緑の森を背景に、

 ひときわ鮮やかに浮かび上がっていた。

 それは、ただの目印ではない。支配でも、征服でもない。

 

 ――商いで道を切り拓くという、

 彼ら自身の在り方を示す、無言の宣言だった。


 森の奥には、まだ道はない。

 霧に包まれた山と湖上都市ラクリアが、黙してその行く末を見つめている。

 だが、旗は揺れている。仲間は揃っている。そして、歩みは止まらない。


 二階堂商会の一行は、今、森へと踏み出した。

 その一歩が――新たな取引と、新たな秩序、

 そして次なる物語の幕を、確かに押し開けていた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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