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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第一部 武装法人誕生 - 都市買収編

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第8章 偽札公開裁判 ― 手形の正当性を証明せよ


 翌日――


 カストリア中央広場は、朝から異様な熱を帯びていた。


 石畳の隙間にまで人が詰め込まれ、屋台の呼び声も、行商の鈴も、

 この日ばかりはかき消されている。

 代わりに広場を満たすのは、期待と不安がない混ぜになったざわめき――

 まるで処刑前の祝祭だ。


 商人ギルド主催による「公開裁判」

 その名目は、二階堂商会が流通させた手形が――偽札であるという糾弾。


 即席の演壇が組まれ、その中央に、腹を突き出すように立つ男がいた。

 商人ギルド長、マルコ。

 絹の外套に金糸の装飾、指には宝石が嵌め込まれ、

 いかにも「都市の実権者」を体現した姿だ。

 その背後には、帳簿と印章を抱えた役人たちが、整然と並んでいる。


「見よ、市民よ!」


 マルコが両腕を大仰に広げる。

 声は魔法具で増幅されたかのように、広場全体へと響き渡った。


「この二階堂商会なる新参は、偽札を流し、都市の秩序を乱している!」


 マルコの声が響くと、群衆はざわめき立つ。

 だが中には、二階堂商会の手形を受け取って取引が楽になった小商人たちもおり、

 不安と期待が入り混じった表情をしていた。

 大げさな身振りに合わせて、群衆がざわめく。


「本当に偽札なのか?」

「いや、あの手形で助かったんだが……」


 ――期待と不安、疑念と希望が入り混じる、揺らぐ民意。


 その揺らぎを、静かに割るように――

 一人の男が、群衆の中から歩み出た。

 革靴が石畳を打つ音が、やけに大きく響く。

 後ろには、銀髪の女――リュシア。

 獣人の戦士ガロウ。そしてミナ。


 視線が、一点に集中する。

 まるで闘技場に現れた挑戦者と、それを待ち受ける支配者。

 この一歩が、勝敗を決める序章だと、誰もが本能で理解していた。


「二階堂商会代表、二階堂漣司だ」


 漣司は演壇を見上げ、淡々と告げる。

 怒りも、焦りもない。あるのは、確信だけ。


「……偽札だと言うなら、証明してみせろ」


 その声が落ちた瞬間、広場の空気が変わった。

 ざわめきが、すっと引いていく。まるで水面が凪ぐように。

 リュシアが一歩前に出る。白手袋の指先で、手形を掲げた。

 紙片に刻まれた魔法印章が、淡く光を放つ。

 脈動する魔力――本物だと、一目で分かる輝き。


「これが、二階堂商会の手形です」


 冷ややかな声が、広場に澄み渡る。


「金貨の裏付けと、商会倉庫の資産台帳を基に発行しています。

 つまり裏付けのない紙切れではありません」

 どよめきが起こる。

 知識のある商人ほど、顔色を変えた。


 だが――マルコは、あからさまに鼻で笑った。


「裏付け、だと?」


 彼は肩をすくめ、群衆を見渡す。


「そんなもの、どうとでも誤魔化せる。ここで焼き捨てるべきだ!」


 その言葉が落ちた瞬間、広場の空気は再び、爆ぜる寸前まで張り詰めた。


 ――これは裁判ではない。

 信用を巡る公開処刑だ。


 そして同時に、この都市の「価値のルール」を巡る、最初の決戦でもあった。





 ――その瞬間だった。


 舞台袖の影が、ひゅっと裂ける。

 風を切る音と同時に、小さな影が宙を舞った。


「ちょっと待ったぁぁ!!」


 甲高く、それでいて芯の通った声。

 まるで雷鳴の前触れのように、広場の空気を一気に引き裂いた。

 視線が、反射的に集まる。

 降り注ぐ陽光を受け、ツインテールが翻る。

 金の矢のように輝きながら、少女は宙で一度身をひねり――


 ドンッ。


 舞台中央へ、軽やかに着地した。


 ミナだった。


 小柄な体躯。だが、その立ち姿には迷いがない。

 片手には、角の擦り切れた一冊の文書。

 何度も開かれ、何度も閉じられた痕跡が残る、年季の入った帳簿だ。

 彼女はそれを高く掲げ、群衆を睨み据える。


「ギルドの台帳を盗んで……じゃない!」


 一瞬、舌を噛みそうになりながらも、すぐに胸を張る。


「――調べてきた!!」


 次の言葉は、刃だった。


「こいつらの通貨証明こそ偽物だ!裏付けの金貨、

 横領されてスッカラカンだよ!」


 広場に、見えない稲妻が走った。

 一拍遅れて、ざわめきが爆発する。

 市民たちがどっと声を上げ、役人たちの顔から一斉に血の気が引いた。

 帳簿を抱えていた男の手が震え、印章が地面に落ちて乾いた音を立てる。

 それは、罪が零れ落ちる音にも似ていた。


「で、でたらめを言うな、小娘!!」


 マルコの怒声が響く。

 だがその声は、先ほどまでの余裕を完全に失っていた。

 声が裏返り、語尾が揺れる――焦燥が、隠しきれていない。


 その瞬間。


 リュシアが、すっと一歩踏み出す。

 空中に指を走らせると、淡い光の魔法式が展開された。

 ひらり、ひらりと。

 光で編まれた紙片が舞い降り、観衆の前に並ぶ。


「事実です」


 氷のように冷静な声。


「こちらに、監査報告書があります。

 市役所の収支表と突き合わせれば一目瞭然。

 ギルドの通貨管理は――粉飾決算に等しい」


 証拠。


 その言葉が落ちた瞬間、

 群衆の感情は、一斉に方向を変えた。


 疑念が、確信へ。

 不安が、怒りへ。


 そして――漣司が、前に出る。


 たった一歩。だがその姿勢は、一本の剣のように真っ直ぐだった。

 背筋を伸ばし、視線を上げ、広場全体を射抜く。

 その声は、拡声具も魔法も使わずに、確かに全員の耳へ届いた。


「俺たちの手形は、資産で裏付けられている。偽札じゃない」 


 一呼吸。


「むしろ――ギルドの通貨こそ、裏付けのない虚構だ」 


 漣司は、問いを投げる。裁くのは自分ではない、と言わんばかりに。


「――市民よ、どちらを信じる?」


 静寂。


 一秒、二秒。

 そして――その言葉に、群衆から声が上がった。


「俺は二階堂商会の手形で仕入れができた!」

「うちも! 本当に助かった!」

「信用できるのは、あの人たちだ!」


 市民の声が広場を揺らし、やがて大合唱となった。

 マルコは顔を真っ赤にして叫んだ。


「黙れ! ギルドに逆らえばただでは済まん!」


 その時、ガロウが一歩踏み出し、大斧が地面に叩きつけられる。


 ゴッ!!


 石畳が砕け、粉塵が舞い上がる。


「社長に指一本触れたラ……この場で血の雨、降るゾ」


 その一歩に、周囲の空気が震えた。

 衛兵は思わず槍を引き寄せ、役人たちは言葉を失い、

 ギルドの面々は視線を逸らす。

 ガロウが踏み鳴らしたのは、ただの石畳ではない。恐怖と覚悟の境界線だった。

 群衆のざわめきは次第に静まり、広場は別の意味での沈黙に包まれる。

 誰もが悟ったのだ――

 この場で無理に押し通す者は、生きて戻れない。

 その中で、最年長の役人が唇を震わせ、肩を揺らしながら一歩前へ出た。

 決断の重みが、老いた背中をさらに小さく見せる。衛兵すら後ずさった。

 武力と民意、そして数字の証拠。三つが揃った瞬間、

 天秤は完全に二階堂商会に傾いた。





 やがて――


 沈黙に耐えきれなくなったかのように、最年長の役人が一歩前へ出た。

 白髪混じりの喉が、ひくりと鳴る。

 その声は掠れていたが、広場全体を貫く重みを宿していた。


「……裁定を下す」


 世界が息を止める。


「二階堂商会の手形は――合法と認める」


 次の瞬間だった。歓声が、爆発した。

 まるで堰を切った洪水のように、声が重なる。

 掲げられた旗が風を孕み、帽子が宙を舞う。

 子供たちは走り回り、老人は目頭を押さえ、商人たちは互いの肩を叩き合った。


 都市が、動いた。


 その中心に立つ漣司は、広場を包む熱狂を静かに見渡し、

 ゆっくりと両手を広げる。支配者の所作ではない。

 だが、紛れもなく流れを生んだ者の姿だった。


「今日から――二階堂商会の手形は、この都市の新たな血流となる」


 声が、波紋のように広がる。


「俺は約束する――裏切らない限り、

 必ず利益を分配し、暮らしを豊かにする」


 それは理想論ではなかった。

 数字と契約の裏付けを持つ、現実の宣言だった。

 市民の熱狂は最高潮に達し、

 商人ギルドは、公開の場で完全に息の根を止められた。

 舞台の端で、リュシアが低く囁く。


「社長。これであなたの名は都市全域に知れ渡りました」


 その声には、冷静な分析と、ほんのわずかな高揚が滲んでいる。


 ミナは胸を張り、満面の笑みを浮かべた。


「へへっ。あたしのおかげでも、あるよな!」


 ガロウは豪快に笑い、拳を鳴らす。


「社長に付いていけバ、必ず勝てル!」


 漣司は振り返り、仲間たちを一瞥すると、悠然と笑みを浮かべた。


「会議室も、裁判も――全部、戦場だ」


 一瞬、声を落とす。


「勝利した以上……次に来るのは、ギルドの報復だろうな」


 だが、その瞳に宿るのは恐怖でも迷いでもない。

 ――次の局面を見据える、研ぎ澄まされた光。


 市場を制した者は、必ず狙われる。

 だがそれでも前に進む者だけが、世界の値を決められる。

 ただ――次の戦場を見据える鋭い光だけが宿っていた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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