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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第79章 出立の日 ― それぞれの見送り

都市バルメリアを再生させた二階堂商会は、次なる都市の可能性として、湖と水の魔力に抱かれたラクリアへと目を向ける。

水と聖性に閉ざされた湖上都市ラクリア。

静謐と停滞が同居するその街に、新たな流れは祝福となるのか、それとも破壊となるのか。

 朝の陽光が差し込むと同時に、バルメリアの石畳はゆっくりと色を変え、

 金色の海のように輝き始めた。

 昨夜までの静けさが嘘のように、広場には人の波が広がっている。

 二階堂商会の旗が高く掲げられ、その紋章が風を受けてはためくたび、

 集まった市民たちの視線が自然とそこへ吸い寄せられた。


 老商人は帽子を胸に当て、

 子どもたちは背伸びをして前へ前へと押し出される。

 誰かが笑い、誰かが目頭を押さえ、また誰かが声を張り上げて名を呼ぶ。

 歓声と泣き声が入り混じったそのざわめきは、混乱ではなく――

 確かな誇りと、名残を惜しむ温度を帯びていた。


 この街は、もう止まらない。

 荒れ、停滞していた日々を越え、今や自らの足で歩き始めている。

 その始まりに立ち会い、道筋を整え、背中を押したのが――

 武装法人二階堂商会だった。


 そして今日。

 彼らはこの街に「完成」を残し、次の可能性へと向かう。


 市民たちの視線の先で、旅装を整えた一行が並び立つ。

 別れは寂しい。だが、それ以上に胸を満たすのは期待だった。

 彼らが去るのは、見捨てるためではない。


 ――次の地でも、同じように未来を動かすためだ。


 風が吹き、旗が大きく翻る。

 バルメリアは見送る側として、誇らしげに胸を張っていた。

 物語は、ここで終わらない。

 この旅立ちは、新たな都市、新たな流れ、新たな挑戦の序章にすぎない。


 次なる舞台――湖と魔力に抱かれた都市へ。





 リュシアは、朝の光が差し込む庁舎の広間で、

 整然と並ぶ市の役人たちの前に立っていた。

 かつて市議会の中枢として権力を握り、街を停滞させていた者たち――

 今はその面影を消し、新たな行政組織の幹部として背筋を伸ばしている。


 視線が交錯するたび、空気がわずかに引き締まる。

 それは畏怖であり、同時に信頼でもあった。


「リュシア副社長。あなたの監査と助言がなければ、

 我々は再建など成し得ませんでした」

「あなたから学んだこと……決して忘れません」


 感謝の言葉が重なっても、彼女の表情は崩れない。

 ただ、わずかに唇の端を緩め、氷のように澄んだ微笑を浮かべる。


「数字は正直ですわ。

 人がどれほど巧妙に嘘をつこうとも、帳簿は必ず過去を覚えています」


 静かな声が、広間に凛と響く。


「どうか、この街が誠実な数字で生き続けますように。

 利益も、支出も、責任も――すべてを明るみに置いたまま」


 そこで一拍、間を置く。

 役人たちの喉が、無意識に鳴った。


「……もっとも」


 リュシアは書類を胸に抱き、淡々と告げる。


「私たちは、いずれ戻ってきます。

 その時は、再建直後と同じ基準――

 いえ、それ以上に厳密に、全てを確認させていただきますわ」


 それは脅しではない。

 約束であり、街を守るための宣告だった。


「不正も、怠慢も、例外なく数字に現れます。

 どうか――その覚悟を、忘れずに」


 そう言い切り、彼女は一礼する。

 完璧な角度、無駄のない所作。

 そして背を向け、静かに歩き出した。

 その後ろ姿は、冷たく、鋭く、しかし確かに街を守るための刃――


 氷の副社長の名にふさわしい威厳を纏っていた。




 商人街の入口は、昼下がりの喧騒に満ちていた。

 露店の呼び声、金属貨の触れ合う音、香辛料と焼き菓子の匂い――

 その中心に、自然と視線を集める人物がいる。


 ミナだ。


 人波に囲まれながらも、彼女は窮屈そうな素振りひとつ見せず、

 肩の力を抜いて立っている。

 軽く手を振るだけで、周囲の空気が一段明るくなるのがわかる。

 それは計算された愛想ではなく、彼女がそこにいるだけで生まれる、

 天性の温度だった。


 その輪を割るように、ひとりの青年が飛び出してきた。

 両腕いっぱいに抱えた花束は、種類も色も揃っておらず、

 明らかに即席で集めたものだとわかる。

 指先は強張り、背筋は不自然に伸びきっている。


「ミナさん!」


 声が裏返りそうになるのを必死で堪え、青年は一歩前へ出た。


「おれ、あなたのことが……その……!」


 言葉は途中で絡まり、続かない。

 沈黙が落ち、周囲の視線が一斉に集まる。


 ミナは一瞬だけ目を瞬かせ――

 次の瞬間、堪えきれないといった様子で笑った。

 遠慮も気取りもない、腹の底からの豪快な笑み。


「やめやめっ!」


 ぱん、と軽く手を叩く。


「そんな顔して言うことじゃないでしょ。

 まずはさ、大金持ちになってから出直しな!」


 冗談めかした口調。

 だが突き放すようでいて、不思議と冷たさはない。


 青年の顔が、首筋まで真っ赤に染まった。


「で、でも! 絶対に金持ちになって、また――!」


 必死に食い下がるその姿に、ミナは少しだけ目を細める。

 そして、肩越しに振り返りながら言った。


「その時はね――」


 一瞬の間。


「ちょっとだけ、考えてあげるわ!」


 ウインク一つ。

 軽く、気まぐれで、残酷なほど眩しい仕草。


 それだけを残して、ミナは足早に人混みへと紛れ込んでいく。

 追いかける隙も、引き留める勇気も与えない、鮮やかな退場だった。


 背後では「がんばれー!」という野次と、腹を抱える笑い声が飛び交う。

 からかい半分、応援半分の空気に包まれ、

 青年は花束を抱えたまま立ち尽くした。


 商人街は今日も騒がしく、活気に満ちている。

 そしてその喧騒の中心には、確かに――

 人を惹きつけて離さない、ミナという存在があった。





 ロイは、市場の中央で労働者たちに囲まれていた。

 彼の手には、工具で荒れた男たちの手がいくつも重なる。


「ロイ、行っちまうのか……」

「お前がいたから、この街が変わったんだ」


 ロイは苦笑し、手を放した。


「街を変えたのは、俺じゃない。みんなだ。

 俺たちはただ、手伝っただけさ」


 少し間を置いてから、彼は静かに続けた。


「けどな……困ったときは呼んでくれ。仕事放り出してでも戻るから」


 笑いが起こり、涙ぐむ者もいた。

 ロイは背を向け、群衆に手を振る。

 その手を見つめる目には、尊敬と友情の光があった。



 練兵場の前は、朝靄と熱気が入り混じっていた。

 整列したバルメリア兵たちの輪の中心に、ガロウが仁王立ちしている。

 鎧の隙間から立ちのぼる汗の匂い、踏みしめられた地面の土埃――

 ここが、この街の「盾」の心臓部だった。


「教官ッ!」

 一人が声を張り上げ、すぐにそれが連なっていく。


「俺たちも連れて行ってください!」

「次はラクリアなんでしょう! だったら――!」


 その声を遮るように、ガロウが怒鳴った。


「バカヤロウ! おまえらがいなくなったら、誰がこの街を守んダ!」


 言葉が、拳のように胸を打つ。

 一瞬で、場が静まり返った。

 だが、それでも兵たちは歯を食いしばり、前に出る。


「でも俺たちは……!」


 その必死さに、ガロウは一瞬だけ目を細めた。

 次の瞬間、照れ隠しのように舌打ちし――


「チッ……だから、困るんダ」


 豪快に腕を伸ばし、近くにいた兵たちの頭をまとめて掴み上げる。


「ここに残って、汗かいて、歯ァ食いしばって――この街を守る盾になったんダ!」


 拳で胸を叩く音が、どん、と鳴る。


「泣くヒマがあったら剣を磨け!寂しいなら見張りに立て!

 街を守るってのは――そういうことダ!!」


 兵たちの瞳から、迷いが消える。

 こぼれかけた涙を乱暴に拭い、背筋を正す。


「……はい!」

「必ず、この街を守ります!」

「俺たちは、バルメリアの盾です!」


 一斉の敬礼。

 その姿は、もう未熟な兵ではなかった。


 ガロウは鼻を鳴らし、ぷいと背を向ける。


「フン……当たり前ダロ」


 だが、その背中はどこか誇らしげで。彼が育てた盾は、確かにここに残った。





 魔導学院の正門前。

 そこは今や、ちょっとした戦場と化していた。


 白衣の教授、腕章をつけた助手、そして制服姿の生徒たち――

 百人を超える人波が、一斉に一人の少女へと雪崩れ込む。


「ルーチェ様ー! お師匠様ー!!!」

「光の教えを忘れません!」


 称号が飛び交い、拍手と歓声が渦を巻く。

 その中心で、ルーチェは完全にパニックだった。


「う、うぬぬぬぬぬ!?

 ちょ、ちょっと待たれよ!? 拙者、まだ出立の支度すら――」


 両手をぶんぶん振って制止を試みるが、誰一人止まらない。


「お師匠様、最後にもう一度だけ実技を!」

「触媒理論の続きもお願いします!」

「だから師匠言うでないーっ!!」


 マントの裾を掴まれ、杖を引かれ、いつの間にか宙に浮きかける。

 光の魔力が反射的にちらつき、周囲が一瞬きらりと輝いた。


「やめるでござる! 離すでござるー!」


 ついに限界。

 ルーチェは隙を突き、魔導学院の回廊を全力疾走する。


「撤退! 戦術的撤退でござるーっ!!」


 光の残像を引きながら、するりと人波を抜けるその姿は、

 もはや高位魔導士というより――逃走する小動物だった。


 広場の隅。

 植え込みの陰で、ようやく立ち止まり、肩で息をする。


「はぁ……はぁ……」


 乱れた前髪を直し、小さく、真顔で呟く。


「……拙者、次までに逃げの術を真剣に磨かねばならぬな……」





 バルメリア中央広場。

 澄み渡る空の下、その中心にすべての役員が並び立っていた。


 商人も、職人も、兵も、子どもたちも――

 街を埋め尽くす人々の拍手が、石畳を震わせるように広がっていく。


 その一歩前へ、漣司が進み出た。

 背後には、彼とともに街を築いた仲間たち。正面には、

 未来を託すバルメリアの民。


 彼は群衆を見渡し、静かに、しかし確かな声で告げる。


「――統治とは、留まることではない。

 抱え込むことでも、縛ることでもない。

 繋ぎ、流し、次へと渡していくことだ」


 ざわめきは起こらない。

 人々はただ、その言葉を胸に刻むように聞き入っていた。

 その沈黙を、ミナの軽やかな笑みが和らげる。

 リュシアは一歩下がって小さく頷き、ルーチェは胸に手を当て、

 誇りを込めて視線を上げた。


「――二階堂商会、出立します!」


 号令とともに、荷馬車の車輪がきしりと鳴る。

 馬が蹄を打ち、幌が揺れ、隊列がゆっくりと動き始めた。


 次の瞬間。

 抑えきれなかった歓声が、波のように押し寄せる。


「行ってこい!」

「また戻ってこいよ!」

「二階堂商会万歳!」


 ロイは振り返り、静かに手を上げる。

 ガロウは無言のまま、拳を天に突き上げた。

 それだけで十分だった。


 その頭上。

 夜へと移ろう空を裂くように、一筋の光が走る。

 ルーチェの魔法が、弧を描きながら輝き、旅立つ一行を照らし出した。

 祝福の光の中、漣司は振り返らず、低く呟く。


「――さあ、行くぞ。ラクリアへ」


 夕陽が背を押し、二階堂商会の旗が強い風を受けて高くはためく。

 それは、別れの印ではない。

 新しい世界へと踏み出す者たちにだけ許された、

 夜明け前の、まばゆい光だった。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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