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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第75章 カストリア別邸 ― 接待作戦リターンズ


城壁都市バルメリア。


カストリアの北西にあるオランティア地方の有力都市。人口はカストリアの約五倍と言われる。周辺の肥沃な土地を背景に、豊かな市場と厚い城壁を持ち、城壁都市として名を馳せていた。

二階堂商会達は市議会本部に忍び込みバルメリアの不正を暴くべく、「白い皿の裏」作戦を決行した。

 ――その夜、バルメリアは笑いで満ちていた。


 市議会が二階堂商会の管理下に入ってから、まだ数日。

 混乱を恐れていた民たちは、むしろ歓声を上げていた。


 「税が下がるらしい」「工房の賃金が増えるってよ!」


 噂は瞬く間に広まり、街全体が祝祭の熱に包まれていた。

 そして、その中心にあるのは――


 〈カストリア別邸〉


 中庭には長テーブルが並び、豪華な料理と酒樽。

 入りきらない人々は門外の通りに溢れ、急遽ビアガーデン形式に。

 魔導灯が夜空を照らし、音楽隊が軽快な笛を鳴らす。

 誰もが笑い、語り、杯を掲げる。バルメリアが、

 ようやく本当の意味で一つになっていた。

 

 ――そのとき。


 外の喧噪の中から、ざわめきが広がった。


「おい……あれ、あの職人の息子じゃねぇか?」

「行方不明だったが……!」


 人々が振り返る。

 群衆の中、ロイの肩を支えながら歩く青年の姿があった。

 痩せこけてはいたが、その目には光が戻っている。


「……生きてたのか」


 父親が駆け寄り、息子を抱きしめた。周囲にいた者たちの目に、涙がにじむ。

 ロイが静かに言った。


「昨日の討論で出てきた職人の息子だ。議会の倉庫で働かされていた。

 ……もう、解放した」


 群衆に沈黙が走る。そして、ひとりが小さく呟いた。


「……本当に、街を救ったんだな。二階堂商会は」


 次の瞬間、歓声が爆発した。

 鍛冶屋がハンマーを掲げ、商人が杯を掲げ、兵士が剣の柄で地面を鳴らした。


「二階堂商会、万歳ッ!」

「バルメリアに光を!」


 その波の中心で、ロイは照れくさそうに笑い、小さく息を吐いた。


 ――ようやく、本当の意味で救えたのだ。





「おいミナ! そのジョッキ、何杯目ダ!」

「数えないでよ、ガロウ! 祭りに数字は不要よ!」


 ミナは人混みの真ん中で酒樽を抱え込み、肩で笑った。

 泡立つ琥珀色の酒を惜しげもなく注ぎ、ぐいと飲み干す姿に、

 周囲から歓声が上がる。

 そのすぐ隣では、ガロウが即席の鉄板台を据え、

 腕まくりしたまま豪快に肉を焼いていた。

 脂が落ちて炎が上がり、香ばしい煙が夜空に立ちのぼる。


「この肉はただの肉じゃねェ!」


 彼は胸を張り、兵士たちに向かって叫ぶ。


「命令でもねぇ――自由の味、ダッ!!」

「ちょっと! 煙が目に染みるんだけど!」


 ミナが文句を言うと、


「文句言う前に食えェ!」


 ガロウは焼き上がった肉を、串ごと放る。

 それを見た瞬間、周囲のバルメリア兵たちがどっと集まってきた。


「ガロウ殿! 一緒に飲みましょう!」

「今日は非番です! 叱責も号令もなしですよね!?」

「英雄と杯を交わせる機会、逃せません!」

「お、おウ……」


 一瞬たじろぐガロウだったが、すぐに大笑いした。


「いいだろウ! 今日は上官も部下もねェ!」


 酒瓶をひったくるように受け取り、兵たちと肩を並べる。


「飲メ! 食エ! 明日からはまた働けェ!」


 兵たちは腹を抱えて笑い、杯を掲げた。

 かつて練兵場で恐れられた鬼教官は、

 今や炊き出し番長として絶大な人気を誇っている。


「ガロウさん! もう一枚!」

「こっちにも肉ください!」


 子どもたちが群がると、ガロウは照れ隠しのように鼻を鳴らしながら、

 鉄板に肉を並べた。


「仕方ねェナ……ガキどもは特別ダ」


 ミナはその様子を横目に見て、にやりと笑う。


「似合ってるじゃない。英雄より、こっちの方が」

「うるせェ! 今日は黙って飲めェ!」


 笑い声と杯の音が、夜の広場にいつまでも響いていた。





 屋内の大広間では、いつの間にか即席の演壇が設えられていた。

 その中央に立つのは、ワイングラスを優雅に掲げたリュシアである。


「――経営とは、数字のバランスです。

 すなわち、利潤とは愛。支出とは信頼。そして赤字とは……裏切りですわ!」


 きっぱりと言い切るその声音は、どこまでも凛としている。

 だが、よく見れば頬はほんのり赤く、足取りはわずかにふわふわしていた。


「リュシアさん、それ……もう三回目です」


 ロイが困ったように小声で突っ込む。


「しーっ! まだ導入部です!」


 人差し指を立てて制し、再び胸を張る。


「よろしいですか皆さま。数字は嘘をつきません。

 ですが――人は、すぐ嘘をつきますのよ?」


 その瞬間、場内が静まり返った。

 市民たちは誰一人として笑わない。むしろ、真剣な眼差しで頷いている。


「だからこそ、帳簿は人を裁くのです。

 正直な数字は、必ず正直な未来を連れてきますわ……たぶん!」

「たぶん!?」


 ロイの声が裏返る。


 しかし聴衆は動じない。

 美貌、知性、そしてほんの少しの危うさ――

 そのすべてが奇妙な説得力を生んでいた。


「なるほど……」

「難しい話のはずなのに、なぜか分かる……」

「……いや、分かった気がする……!」


 最後にリュシアはグラスを高く掲げ、満足そうに微笑んだ。


「――以上ですわ。本日の結論。お金は大切。信頼はもっと大切。

 そしてこのワインは……とても美味しいです!」


 一拍の沈黙。

 次の瞬間、なぜか大きな拍手が巻き起こった。


「……あれ、酔ってても説得力あるんだよな」


 ロイが呆然と呟く。


「ええ……」


 隣の市民が神妙な顔で頷く。


「会計の女神、としか言いようがありません……」


 拍手喝采の中心で、リュシアは少しだけよろめきながら、

 誇らしげに微笑んでいた。


 ――完璧な参謀の、唯一にして最大の弱点が、今夜も全力で発揮されていた。





 一方その頃、バルメリア中庭では、ひときわ澄んだ魔力の波動が立ち上っていた。

 光を操るのはルーチェ――

 武装法人二階堂商会の役員にして、専属魔導士。

 学院所属ではない彼女の魔法演舞は、それだけで特別扱いだ。


 杖を掲げた瞬間、夜気が震える。

 放たれた光は花弁の形を取り、夜空へと舞い上がり、

 ぱちり、ぱちりと小さな音を立てて弾けていく。

 金と白の光が重なり、まるで夜空そのものが祝福しているかのようだった。


 中庭を囲む観衆の多くは、魔導学院の生徒たちだ。

 講義室で理論として学んできた高度魔法が、今まさに実演されている。

 しかも放っているのは、現役で前線に立つ一流の実務魔導士。

 自然と歓声が上がった。ルーチェ自身も、その反応に気を良くしていた。

 祭りの熱気。若い視線。期待に満ちた空気。


 ――ほんの少しだけ、調子に乗った。


「見よ、民の光を――光花ひかりばなの術!」


 声を張り、魔力を一段強める。

 光の花はより高く、より広く――そして、わずかに制御を外れた。


 ぱち、と嫌な音がした。次の瞬間、屋根の縁が赤く瞬く。


 一瞬の静寂。


 それを破ったのは、若い声だった。


「お師匠様っ! 屋根が燃えてます!」


 その呼び方に、ルーチェはびくりと肩を震わせる。


「誰がお師匠様でござるかっ!……って、えっ!? 

 お、おのれっ、制御を誤ったでござるぅう!」


 そう叫びながら杖を振る姿は、普段の冷静沈着な彼女からは想像もつかない。

 言い訳と同時に、彼女の動きは速かった。

 即座に氷魔法へ切り替え、冷気が夜空を裂く。

 白い霧とともに火は瞬時に鎮まり、被害は最小限で済んだ。


 技術は完璧。対応も的確。


 ――だが、耳まで真っ赤になっているのは隠せない。


 その慌てて氷魔法で消火する姿に、再び爆笑が起こる。

 嘲笑ではない。

 有能すぎる魔導士が、祭りではしゃいで失敗する――

 その滅多に見られない光景への、親しみと安堵の笑いだ。

 彼女のお約束が、すっかりバルメリア名物となっていた。





 ロイはビアガーデンの中央で、いつの間にか人の輪の中心にいた。

 酒樽と長机に囲まれ、肩を叩かれ、背中を叩かれ――

 労働者たちの笑顔が絶えない。


「ロイ、あんたらのせいでこの街、やっと息できるようになったよ!」

「違う。お前たちが立ち上がったからだ」


 短く返しながらも、ロイは一人ひとりと視線を合わせ、握手を交わす。

 力強く、だが決して威圧しない掌。

 その手に込められた誠実さが、言葉以上に伝わっていた。


 気づけば、足元がやけに重い。

 見下ろすと、子どもが二人、三人――

 いつの間にか彼の腕や外套にしがみついている。


「ロイ兄ちゃん!」

「ねぇねぇ、今日も一緒にごはん食べていい?」

「この街、すき?」


 矢継ぎ早に投げかけられる無邪気な声に、ロイは一瞬だけ言葉を失い――

 それから、困ったように笑った。


「……ああ。いい街だな」


 頭を撫でると、子どもたちは嬉しそうに目を細める。

 誰かが膝の上に座り、誰かが袖を引き、誰かが背中に寄りかかる。

 剣を握っていた頃には、決して得られなかった距離だ。

 歓声と笑い声。

 剣も命令もない場所で、人々と同じ目線に立つ。

 武の人間が、民の笑顔のただ中にいる――


 それこそが、彼にとって何より確かな「勝利」だった。





 その喧噪から一歩だけ距離を取るように、漣司はバルコニーに立っていた。

 手にした杯の中で、酒がわずかに揺れる。

 視線の先には、夜のバルメリア――

 赤い魔導灯が点々と連なり、街路を縫うように光の川を作っていた。


 音楽。

 笑い声。

 杯を打ち鳴らす乾いた音。


 それらが混じり合い、波のように押し寄せては、また引いていく。

 祝祭そのものは、確かに本物だった。

 漣司は静かに息を吐き、胸の奥で言葉を転がす。


(――人は、悪くない)


 今日一日で、嫌というほど分かった。

 この街の商人も、労働者も、兵も学生も――

 誰もが、不器用なほど真っ直ぐだ。

 奪うより、分け合うことを選べる人間ばかりだった。


 だからこそ、違和感が際立つ。


「……バルメリアの連中は、根が悪い者がいない」


 独り言のように呟き、杯を軽く傾ける。


「だが、この搾取システムは――出来すぎていた」


 財務構造。

 帳簿の分岐。

 責任の所在を曖昧にし、金だけが滑るように消えていく仕組み。

 それはまるで、完成された商品のようだった。

 

「市議会の者が、自分たちで組める構造じゃない……」


 あの老議長たちは、悪党ではあっても策士ではない。

 権威に胡坐をかいた管理者に過ぎず、複雑な仕組みを理解し、

 維持する力量はなかった。


「むしろ……上層部は、使いこなせていなかった」


 だからこそ、帳簿は歪み、痕跡が残った。

 巧妙であるはずの網に、素人じみた綻びがあった。


 ――誰かが、外から与えた。


「外部から、誰かが教え込んだ……?」


 口にした瞬間、胸の奥が、ひやりと冷える。


 金の流れ。権力の配置。

 都市を内側から腐らせる設計思想。


 それは、商会が敵に回したい類の相手ではない。

 むしろ、商会と同じ視点を持つ者――いや、それ以上に冷酷な存在。


「……いや、まさかな」


 そう否定しながらも、思考は止まらない。


 遠く、風が吹く。

 その風の奥に、かすかに焦げた鉄の匂い――。

 ほんの一瞬、戦場の匂いを感じた気がした。



「社長~!」


 振り向くと、ミナが笑顔で手を振っていた。

 背後には、なぜかグラスを両手に抱えたリュシアが、完全に出来上がっている。


「こんなところにいたんだ~!こっちで飲みましょうよ!

 リュシアさんが急に『資本循環はリズムです』とか言い出して、

 理論語りながら踊り始めちゃって大変なんだから!」


 漣司は目を細め、少しだけ笑った。


「……そうか。今は――この夜を、楽しむか」


 杯を掲げ、彼は喧騒の中へ歩み出した。

 笑いと音楽が再び包み込み、

 カストリア別邸の光が、夜空を柔らかく染め上げる。

 バルメリア再生の祝宴は、夜更けまで続いた。


 ――そして、次なる嵐の前の静けさが、ゆっくりと街を覆い始めていた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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