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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第74章 バルメリア買収 ― 真実の舞台

城壁都市バルメリア。

カストリアの北西にあるオランティア地方の有力都市。人口はカストリアの約五倍と言われる。周辺の肥沃な土地を背景に、豊かな市場と厚い城壁を持ち、城壁都市として名を馳せていた。

二階堂商会達は市議会本部に忍び込みバルメリアの不正を暴くべく、「白い皿の裏」作戦を決行した。

 バルメリア中央議会庁舎――。


 白亜の塔の奥深くに広がる大広間は、もはや議会という言葉の枠を超えていた。

 石床を埋め尽くす人、人、人。

 その熱と視線の重さに、空気そのものが軋んでいる。


 集ったのは、選ばれし代表だけではない。

 商人は帳簿を抱え、労働者は油に汚れた手を胸の前で組み、兵士は鎧の重みを忘れたかのように直立し、学生たちは固く拳を握りしめていた。

 誰もが声を発さず、ただ一点を見つめている。


 壇上――この街の真実が裁かれる場所を。中央に並び立つのは、二つの勢力。


 一方。


 市議会を束ね、長年この都市の舵を握ってきた老議長、

 ヴァル・デ・ラグーン。

 金糸の法衣に身を包み、老いを感じさせぬ威圧を纏っている。

 その眼差しは冷え切り、民衆を数字として測る者の光を宿していた。


 そして、もう一方――。


 武装法人二階堂商会代表、二階堂 漣司。

 

 華美な装いはない。

 だが、その背後にあるのは、契約と証拠、光と影を束ねた現実。

 静かに立つその姿は、剣を抜かずして刃を突きつけるような緊張を放っていた。


 両者の間。ほんの数歩の距離が、あまりにも遠い。


 それは単なる立場の違いではない。

 旧き支配と、新しき秩序。隠蔽と開示。都合の良い繁栄と、耐えうる真実。

 光と影の境界線に立つ二人の間へ、重く、逃げ場のない沈黙が落ちた。


 この瞬間を境に、バルメリアは――もう元には戻らない。





 漣司は、ゆっくりと仲間たちへ視線を巡らせた。

 長机を囲む顔ぶれは、ここに至るまでの死線を共に越えてきた者たちだ。


 リュシア。

 帳簿と数字の海に沈み、誰よりも冷静に都市の嘘を暴いた参謀。

 彼女は眼鏡越しに漣司を見据え、静かに言った。


「ここまで整えました。逃げ道は、理論上すべて塞いであります。

 ――あとは、社長が事実を突きつけるだけです」


 ルーチェ。

 光を操り、真実を空に掲げた魔導士。

 胸元で手を組み、凛とした声音で頷く。


「拙者の役目は果たしました。光は既に民の目に届いております。

 ……あとは、主殿の言葉が道を定めるのみ」


 ミナ。

 影を走り、証拠を奪い取ってきた切り込み役。

 口元にいつもの不敵な笑みを浮かべ、肩をすくめる。


「裏も表も、全部丸裸にしてきたわ。あとは転ばせれば、

 もう起き上がれない。……派手にやってよ、社長」


 ロイ。

 民の中に立ち、声を束ねた若き象徴。

 拳を胸に当て、真っ直ぐな瞳で言い切る。


「みんな、社長の言葉を待ってます。難しい理屈じゃなくて構いません。

 ――この街をどうするか、それを聞かせてください」


 ガロウ。

 最後の盾であり、最後の刃。

 斧を肩に担ぎ、豪快に笑う。


「難しい話は分からねぇがヨ。社長が前に出るなラ、俺は後ろを守ル。

 それだけダァ!」


 全員が、静かに頷いた。

 証拠、記録、証言――積み重ねてきたすべてが、この瞬間のためにある。


 漣司は深く息を吸い、背筋を伸ばす。その声音は低く、しかし揺るぎなかった。


「……皆、よくやった。ピースはすべてそろった」


 一瞬の間。

 彼は壇上の向こう――市議会と群衆、そのすべてを見据える。


「――あとは、俺の仕事だ」


 その言葉を合図に、運命を賭けた討論が、ついに幕を開けた。





「では――問おう」


 漣司の声が、議場に響く。


「この街の財政に、二重計上と裏金流用が存在する。

 それを、あなた方はどう説明する?」


 ヴァル議長は嘲るように笑った。


「ほう、商人が政治を裁くとでも? 見識を疑うな」

「そう言うと思ったよ」


 漣司が軽く指を鳴らす。


「――リュシア」


 氷の副社長が一歩前に出た。

 静かに帳簿を掲げ、ページを開く。


「こちらが市の公開帳簿。

 そしてこちらが、昨夜入手した裏口座の控え。

 ご覧の通り――同額の支出が二重に記帳されています」


 壁の幻視幕に数字が浮かぶ。同じ日付、同じ金額。だが宛先だけが違う。

 議員たちがざわついた。


「ば、馬鹿な! 幻術の捏造だ!」


 リュシアは淡々と告げた。


「捏造なら、あなた方の印影がなぜ重なっているのです?」


 その瞬間、会場が静まり返る。





 漣司が次の指示を出す。


「ルーチェ、照らせ」


 白金の杖が高く掲げられた。光が天井を包み、巨大な帳簿の幻像が浮かび上がる。

 そこには――議長ヴァル・デ・ラグーンの署名と印章。


「ま、待て! それは幻視だ!」

「幻ではない。光の記憶じゃ」


 ルーチェの声は凛としていた。


「過去に刻まれた魔力の残滓を、光で再構成しただけのこと」


 観衆のざわめきが大きくなる。誰もが目を疑った。


 議員席の一人が叫ぶ。


「この資料をどこで手に入れた!? 盗難だろう!」


 その声に、ミナがすっと現れた。


「盗難? いいえ、回収よ」


 彼女は懐から一枚の封書を取り出した。

 封蝋には、市議会の紋章――そして、薄く第七口座の刻印。


「これは、あなた方の倉庫にあった裏帳簿の鍵。

 中には口座名義の一覧が入ってたわ」


 ミナは指先で紙をはじく。宙に浮かぶ名前の列。


 ヴァル・デ・ラグーン・監査長オルダン・商業ギルド代表ネレウス


 どよめきが走る。


「こ、こんな……!」

「偽造だ! 証拠能力はない!」


 ミナは片目をつむり、笑って言った。


「偽造って言葉、そんなに便利なの? 残念、私が現物も持ってきた」


 机に置かれた封筒から、金の印章が覗く。

 本物だった。





 議場が混乱する中、ロイが前に出た。


「証拠が難しいってなら、簡単に話そう」


 彼は群衆の中から一人の老人を呼び出した。

 煤けた手の職人――昨日、息子を失った父親だ。


「議会の倉庫で、夜な夜な金箱が運ばれてた。

 再生特別会計の印があったって、見たんだよ……。

 なのに次の日、息子は――もう戻らなかった」


 静寂。


 観衆の誰もが息を呑む。リュシアの冷静な声が重なる。


「つまり、裏金の隠蔽だけでなく、口封じまで行われていた可能性がある」





 ヴァルが机を叩いた。


「黙れぇ! そんな与太話、誰が信じるか!」


 漣司は一歩前へ進み、淡々と返す。


「信じるか信じないか――決めるのは民だ」


 群衆の視線が、一斉に壇上へ集まる。

 光、数字、証言、名義。すべての線が、一つの真実を示していた。

 漣司は、ざわめく議場の中心で一歩前に出た。

 声を張り上げるでもなく、しかし不思議と、その言葉は大広間の隅々まで届いた。


「あなた方が繁栄と呼んでいたものは、粉飾で塗り固めた虚像だ。

 帳簿を循環させ、存在しない金で未来を先食いした――

 それが、この都市の正体だ」


 群衆の空気が、ひりつく。

 視線が一斉に、議長ヴァル・デ・ラグーンへと集まった。


「それでもまだ言うのか?」


 漣司は静かに問いを重ねる。


「――あれは幻視の嘘だと」


 ヴァルの喉が、ひくりと鳴った。

 老いた身体は小刻みに震え、額には脂汗が浮かんでいる。

 だが、長年権力の頂に座り続けた男の矜持が、最後の抵抗を許さなかった。


「民など……すぐに忘れる……!」


 杖に縋り、叫ぶ。


「恐怖と権威こそが秩序だ! それがなければ都市は崩壊する!」


 その言葉に、どよめきが走る。

 だが同時に――失望と、怒りの混じった視線が、議長へ突き刺さった。

 漣司は、ゆっくりと首を振った。


「……ならば、取引しよう」


 彼は右手を差し出す。剣でも、契約書でもない。開かれた、まっすぐな掌。


「あなた方の議会を、私が引き受ける」

「金ではない。武力でもない」


 一拍。


 議場が、異様なほど静まり返る。


「――信頼という対価でだ」


 ざわめきが爆発する。何を言っているのか、理解できない者も多い。

 だが、ヴァルだけは違った。

 彼の瞳が、震えながらも漣司の背後を見る。

 民衆。怒り、疑念、そして――期待。

 もはや、誰も議会を信じていない。

 この男が示した数字と証拠、そして覚悟にこそ、耳を傾けている。


「……貴様……本気で……」


 ヴァルの声は、掠れていた。

 否定の言葉は、もう喉までせり上がってこない。


 拒めばどうなるか――それは、彼自身が一番よく分かっていた。

 ここで拒絶すれば、市議会は力を失った権威として瓦解する。

 民は離れ、記録は晒され、議会は統治機構ではなく罪状の山になる。

 老議長の脳裏を、これまでの年月がよぎる。

 街を守るためだと信じて始めた妥協。

 秩序を保つためだと言い聞かせて重ねた隠蔽。

 いつしか街のためと自分たちのための境界は、曖昧になっていた。


(……わしは、導いてきたのか?それとも――縛りつけてきただけか)


 壇下。民衆の視線が突き刺さる。怒りだけではない。

 問いだ。期待だ。「答えろ」と、無言で迫ってくる。

 ヴァルは杖に体重を預け、深く息を吐いた。

 肩が、目に見えて落ちる。


 ――もう、誤魔化せぬ。


 歯を食いしばり、誇りと恐怖と、長年の執着を噛み砕くようにして――

 老議長は、ついに言葉を絞り出した。


「……議会は……もはや……」


 声が震える。それでも、逃げなかった。


「……この街を、導けぬ……」


 沈黙が、重く落ちる。誰も歓声を上げない。

 それが敗北であることを、全員が理解していたからだ。


 そして――


 その瞬間だった。


 漣司の掌が、淡く、しかし確かな金色に輝いた。

 意思に応えるように、光は脈動する。だが、まだ広がらない。

 空気が張り詰める。

 まるで世界そのものが、最後の確認を求めているかのように。


 漣司は一歩近づき、静かに問いかけた。


「確認する。バルメリア市議会は、自らの財務監督権を放棄し、その管理を――

 武装法人二階堂商会へ委ねる」


 ヴァルの瞳が揺れる。だが、もう逸らさない。


「……ああ……」


 かすれた声で、しかし確かに言った。


「……譲渡を……認める……」


 その一言が、鍵だった。


 金色の光が、爆ぜるように広がる。

 風となり、波となり、帳簿へ、議事録へ、議会の紋章へと連なっていく。


『――条件確認完了――』

『対象:バルメリア市議会』

『承認:議長ヴァル・デ・ラグーン』


 重厚な声が、世界そのものから響いた。


『――スキル発動:「企業買収(M&A)」――』


 帳簿が一斉に浮かび上がり、ページが自動的にめくられていく。

 虚偽の数字が砕け、実数だけが金の光として再構築される。

 白亜の壁に刻まれていた議会の紋章が、軋む音を立てて変形し――

 二階堂商会の印章へと、静かに書き換えられていった。

 群衆は、誰一人として声を発せない。ただ、その光景を目撃している。


「この瞬間より――」


 漣司は宣言する。


「バルメリア市の財務監督権は、武装法人二階堂商会が引き継ぐ」


 言葉が終わった瞬間、まるで支柱を失ったかのように、

 議場の空気が崩れ落ちた。


 ヴァルの手から、杖が滑り落ちる。石床に当たり、乾いた音が響いた。


 それは――旧時代の終わりを告げる、確かな音だった。





 漣司は振り返り、仲間たちに微笑む。


「……これでようやく、バルメリアは自分の数字で生きられる」


 ルーチェが小さく呟いた。


「光が、闇を照らしたでござるな」


 ミナが笑い、ロイが頷く。リュシアは静かに帳簿を閉じた。

 その瞬間――民の間から、自然と拍手が湧き上がった。

 歓声ではない。涙とともに滲む、感謝の拍手だった。


 拍手の波がようやく静まり、白亜の議場には沈黙が戻った。

 敗北を認めた市議会の重鎮たちは、重く項垂れている。

 中心に立つヴァル議長が、ゆっくりと顔を上げた。


「……負けたよ、二階堂殿。

 民の前でここまで明確に証を突きつけられては、弁明の余地もない」


 声は掠れ、しかし確かに潔さがあった。

 長年、権威に縋ってきた男が、今、初めて現実を見たような表情だった。

 漣司は静かに頷いた。


「認めてくれれば、それでいい。街を立て直すことが目的だ」


 ヴァルは苦く笑った。


「……ただし、一つだけ、条件がある」


 会場がざわめく。ミナが眉をひそめた。


「この期に及んで、条件?」


 ヴァルは小さく咳をしながら、肩をすくめた。


「戦では負けた。だが、心まではまだ奪われてはおらん。

 ――我々に、お前たちの流儀を見せてくれ。民の心を掴んだ、そのやり方を」


 ルーチェが小首を傾げた。


「流儀とは、何を意味しておるのじゃ?」


 漣司はヴァルに問うた。


「……なんだ?」


 ――その問いを残して、議会の鐘が鳴り響いた。


 歓喜と安堵、そして、奇妙な笑いの混じる音が、街に溶けていった。


 バルメリア。


 新たな秩序と、次なる宴の幕が、静かに上がろうとしていた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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