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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第73章 公開追及の布石 ― 光に集う声

城壁都市バルメリア。


カストリアの北西にあるオランティア地方の有力都市。人口はカストリアの約五倍と言われる。周辺の肥沃な土地を背景に、豊かな市場と厚い城壁を持ち、城壁都市として名を馳せていた。

二階堂商会達は市議会本部に忍び込みバルメリアの不正を暴くべく、「白い皿の裏」作戦を決行した。


 バルメリアの朝は、異様な静けさに支配されていた。

 夜明けとともに街を満たすはずの呼び声も、露店の金属音もない。

 まるで都市そのものが、深く息を吸い込み――

 吐く瞬間をためらっているかのようだった。

 昨日まで市場を覆っていた喧騒は、跡形もなく消えている。

 だがそれは平穏ではない。沈黙の底で、無数の視線がうごめいていた。

 人々の眼差しは、揃って一方向を向いている。


 白亜の議会塔。


 朝日を受けて輝くその塔は、いつもと変わらぬ威容を誇っているはずだった。

 だが今は違う。その白さは清廉の象徴ではなく、

 剥がされる直前の仮面のように見えた。

 通りの角、井戸端、閉じられた店の軒先。

 誰もが声を潜め、しかし耳だけは研ぎ澄ましている。


 昨夜、空に浮かんだ光。


 帳簿の数字、署名の列、そして消えぬ疑念。

 それらはまだ言葉になっていない。だが、確かにここにある。


 議会塔の麓――


 重厚な石畳の下で、誰にも見えぬ火種が、静かに形を取り始めていた。

 光に集まった声は、やがて問いとなり、糾弾となる。

 そしてそれは必ず、権力の中枢へと届く。

 市議会は、すでに動き始めている。

 証拠を消し、影を放ち、反撃の刃を研ぎ澄ませている。


 一方で――


 二階堂商会もまた、退かない。

 帳簿は揃い、布石は打たれ、舞台は整った。

 これは単なる疑惑では終わらない。密室の政治と、

 光の下へ引きずり出す商人たち。

 沈黙で支配してきた市議会と、公開という刃を手にした二階堂商会。

 全面戦争の幕は、すでに上がっている。


 あとは、最初の一声が――


 この街の運命を、決定的に揺らすだけだった。





 〈カストリア別邸〉――執務棟の一室。


 朝の光が差し込む長机の上には、

 数十枚に及ぶ複写帳簿が幾重にも並べられていた。

 紙の端には赤や青の印が走り、

 数字同士を結ぶ線が蜘蛛の巣のように広がっている。


 リュシアは椅子に浅く腰かけ、ほとんど休むことなく筆を走らせていた。

 昨夜、ミナが命がけで奪取した裏口座の記録。

 そして、市議会が公式に公表している歳入・歳出帳。

 それらを一枚ずつ突き合わせ、照合し、ずれを洗い出していく。

 作業は単調で、しかし致命的な真実へと直結していた。


「……やはり、ありました」


 筆が止まり、リュシアは一つの帳簿を指で叩いた。


「四半期ごとに支出額が完全に固定されています。

 しかも、項目が循環するように記帳されている……これは偶然ではありません」

「つまり?」


 ロイが身を乗り出す。


「表向きの帳簿では黒字です。ですが実態は空虚。存在しない金を、表の資金と裏口座の金で行き来させ、数字だけで繁栄している都市を演出しているのです」


 静かな言葉だったが、その意味は重い。

 都市の豊かさは、紙の上にしか存在しなかった。


 漣司は腕を組み、帳簿全体を見渡す。


「――なるほど。完全に、会計そのものを欺く構造だな。

 だが問題は、これをどう使うかだ」


 視線が集まる。


「それを、誰に、どう見せるか」


 一瞬の沈黙のあと、リュシアがはっきりと言い切った。


「民衆です。自分たちの街が、どのように偽られていたのかを知れば、

 市議会は言い逃れできません」


 数字の羅列は冷たい。

 だが、そこに自分たちの税と未来が絡んでいると理解した瞬間、

 人は黙ってはいられない。

 そのとき、控えめに――だが自信を含んだ声が上がった。

 ルーチェが小さく手を挙げている。


「拙者に策あり、でござる」


 全員の視線を受け、彼女は静かに続けた。


「長い説明は不要。光で示すのじゃ。民が一目でおかしいと理解できる形でな。

 短く、明確に――真実だけを映す」


 数字を言葉にするのではない。光に変え、都市の上に掲げる。

 漣司は、ゆっくりと頷いた。


「……いい。理解させるためじゃない。気づかせるための一手だな」


 帳簿の上で、朝の光が反射した。

 それは、やがて街全体を照らす光へと変わる――


 市議会を逃がさぬための、最初の一撃として。





 昼下がり。


 陽光が石畳に反射し、中央広場はいつも通りの賑わいを見せていた。

 焼き立てのパンの香り。行商人の呼び声。子どもたちの笑い声――

 平穏そのものだったはずの空気が、次の瞬間、はっきりと変質する。


 ――空が、白く染まった。


「な……なんだ?」


 誰かが見上げた刹那、街の上空に柔らかな円光が描かれる。

 それは太陽とは違う、意志を持った光。

 ルーチェが展開した〈簡略幻視投影〉だった。

 淡い光の幕が、ゆっくりと広がる。

 そこに浮かび上がったのは――一枚の帳簿。

 誰の目にも分かるよう、簡潔な数字だけが、赤と青で色分けされている。


『歳入:五十万』

『歳出:四十万』

『特別支出:十万』


「……黒字、だよな?」

「それが、どうしたっていうんだ?」


 困惑が、広場に小さく広がった。

 だが、次の瞬間――はっきりとした声が空から落ちてくる。


「同じ年度の支出を、別の帳簿と照らし合わせます。ご覧ください」


 リュシアの声だった。


 光幕が、静かに反転する。

 新たな帳簿が重ねられ、先ほどの数字の上に――

 もう一つ、同じ数字が浮かび上がった。


 十万。

 そして、また十万。


 完全に同一の金額。同一の期日。同一の用途。


 ――二つの帳簿に、同じ金が存在している。


 ざわり、と空気が揺れる。


「……待て」

「同じ金が……二度?」

「使ったことに、なってる?」


 理解が追いついた者から、声が震え始めた。


「金が増えたわけじゃない……」

「回してるだけだ……!」

「帳簿の上で、ぐるぐる――!」


 誰かが言葉にした瞬間、それは疑問から確信へと変わった。

 ルーチェは、ゆっくりと魔力を落とす。光幕は淡くなり、文字が薄れていく。


「これ以上は、強制して見せることはできぬ。されど――十分でござろう」


 彼女は、静かに言った。


「真実の種は、すでに民の目に落ちた。

 あとは、芽吹くか否か……それは、人の心次第じゃ」


 光が消え、空は元の青を取り戻す。

 だが、広場の空気は、もう元には戻らなかった。

 人々は互いの顔を見交わし、数字の意味を反芻する。

 中央広場に生まれたのは、怒号でも歓声でもない。


 ――考え始めた沈黙だった。





 その頃、市場の裏手では、ロイが労働者たちと共にいた。


「ロイ、これじゃ暴動が起きる!」

「いや、違う。暴れるんじゃない――見守るんだ」


 ロイの声は低く、それでいて力強かった。


「俺たちは戦うわけじゃない。正しい場所に立つだけだ。

 民が怒鳴れば暴徒だが、黙って立てば意思になる」


 その言葉に、誰かが頷いた。市場の労働者、職人、行商人、

 果ては母親たちまで。

 彼らは自然と列をなし、議会塔の方へと歩き出した。

 誰も叫ばない。ただ、静かに――確かな意志を持って。





 一方、衛兵詰所ではガロウが声を張り上げていた。


「落ち着ケ! 市民が集まってるのは暴動じゃねェ! 示威ダ、心配すんナ!」

「し、しかし議会からは排除命令が!」

「命令なんざ知らねェ! この街を守るのが俺たちだろうガ!」


 彼の一喝に、兵士たちは息を呑む。

 ガロウの背に立つその姿勢は、もはや外部の商会員ではなかった。

 彼は完全に、兵の信頼を掴んでいた。やがて、一人の副団長が小声で言った。


「……ガロウ殿。もし、議会が誤っているなら、我らは……」

「正しい方につク、それでいいだロ?」


 笑って肩を叩く。兵士たちの顔に、かすかな決意が宿る。





 午後三時。


 議会塔の正面階段。そこに、無言の群衆が集まり始めていた。

 誰も声を上げず、ただ一点を見つめる。

 塔の上空では、ルーチェの光がまだ淡く輝き、

 リュシアの会計資料が再び浮かび上がる。


 ――数字が流れる。

 ――矛盾が重なる。

 ――沈黙が街を覆う。


 その光景を、塔の上から見下ろす議会の重鎮たち。

 老議長ヴァルの眉が僅かに動いた。


「……まさか、民をここまで操るとは」


 隣にいた副議長オルダンが、震える声で呟く。


「民は操られておりません。……見たのです。数字を」


 ヴァルの指が、肘掛けを強く握りしめる。


 静寂。


 だが、確実に空気が変わっていた。議会の内部に――不安が芽吹いている。


 〈カストリア別邸〉の屋上。


 ミナが下の街を見下ろしながら口笛を吹いた。


「すごいね。誰も暴れてないのに、あんなに集まってる」

「怒りよりも理解が先に来た。……リュシアの作戦成功だな」


 漣司が答え、腕を組む。


「民衆の心が動けば、議会は焦る。焦れば、奴らは自ら尻尾を出す」


 彼の眼差しの先――


 白い議会塔の窓が、ゆっくりと閉じられていくのが見えた。

 その奥に蠢く影は、まだ何も知らない。

 この街が、すでに真実を見た者たちに囲まれていることを。





 夕刻、鐘が鳴る。

 誰も命じずとも、人々は一斉に頭を上げ、塔を見上げた。

 光が、再び空を照らす。その中で、ルーチェの声が穏やかに響いた。


「真実を恐れぬ者に、光は届く。――この街の未来は、皆の手に」


 その瞬間、沈黙の街に小さな拍手が起こった。

 誰も叫ばず、誰も乱れず。ただ、確かな波が広がっていく。


 ――そしてその波は、議会の壁をも震わせ始めていた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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