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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第71章 決定的証拠入手と脱出 ― 光に焼かれる帳簿

城壁都市バルメリア。


カストリアの北西にあるオランティア地方の有力都市。人口はカストリアの約五倍と言われる。周辺の肥沃な土地を背景に、豊かな市場と厚い城壁を持ち、城壁都市として名を馳せていた。

二階堂商会達は市議会本部に忍び込みバルメリアの不正を暴くべく、「白い皿の裏」作戦を決行した。

 ――鐘が三度鳴った。


 〈市議会本部〉の晩餐会場の裏、石造りの地下通路。

 ミナは息を潜め、懐の中の帳簿を握りしめた。

 重い。紙束の重さではない――この都市の腐臭そのもののように。


「……特別会計と再生補助口座、転記日が一致。やっぱり隠してたのね」


 薄暗い廊下を抜け、外の光が差し込む中庭の影に飛び込む。

 背後では警鐘の音。侵入者の報告が、すでに上層に伝わったのだ。

 ミナは袖口の魔導通信石を叩いた。


「こちらミナ。台帳と鍵、確保。追手が出た」


 通信の向こうで、リュシアの静かな声が返る。


「了解。予定通り光写ひかりうつしの準備を。――ルーチェ、合図を」





 バルメリアの東塔。

 都市を見下ろすその最上部で、夜気を切り裂くように白い光が広がっていた。


 塔の中央――ルーチェの足元から、幾何学的な光陣が幾重にも展開されている。

 円と直線が重なり合い、精緻な紋様を描くたび、空気そのものが澄み渡っていくようだった。


 光陣の中心には、ひとつの魔晶石。

 それは都市全域に幻視を投影するための中継器――

 膨大な魔力を受け止め、正確無比に真実を届けるための心臓部だ。


 ルーチェは静かに息を整え、両手を掲げた。

 指先から溢れる光は揺らぎなく、むしろ彼女の呼吸と完全に同調している。


「……よし。やはり光の制御は、拙者の領分じゃな」


 その声音には迷いも弱さもない。

 かつて戦場で、儀式で、そして守るべき者のために振るわれてきた本職の魔法。

 派手さではなく、正確さと強度――

 それこそが、ルーチェの真骨頂だった。


 彼女の足元には、漣司が組み上げた簡易魔導機が据え付けられている。

 歯車と符文、魔導符を組み合わせた即席の装置だが、その設計思想は明快だった。

 ――証拠を、加工せず、歪めず、ただ光へと変換する。


 魔導符が淡く輝き、ミナが奪取した帳簿の写しが次々と装置へ流れ込む。

 紙に刻まれた数字、署名、封印の痕跡――

 それらが魔力として再構築され、光陣へと吸い上げられていく。


 ルーチェは視線を上げ、低く、しかし澄み切った声で詠唱を紡いだ。


「光よ――虚を照らせ。

 覆われし影を払い、真を曝け出せ」


 その瞬間。東塔を起点に、薄青い光の幕が夜空へと解き放たれた。

 それは稲妻ではない。爆発でもない。

 都市全体を包み込む、静かで抗いがたい照射だった。


 群青の空を背景に、白光が線となり、やがて文字を描き出す。


 ――市議会財務局直轄

 ――裏口座

 ――再生基金・横流し


 数字が並び、署名が浮かび、改竄の痕跡が克明に可視化されていく。

 それは告発ではなく、提示だった。

 誰にも否定できない、加工の余地すらない事実そのものである。


 光は嘘をつかない。

 そして今、ルーチェの光は――街そのものに真実を突きつけていた。





 一方その頃、ミナは北塔の回廊を駆け抜けていた。

 兵士たちの足音が追ってくる。

 肩越しに矢が飛び、石壁を穿つ。

 反射的に壁際へ身を滑らせ、指先のナイフで絨毯を切り裂く。

 布を丸めて廊下に投げる――瞬間、矢が誤射し、煙が立ちこめた。


「ちょっとした演出ってやつよ!」


 身を翻し、螺旋階段を駆け上がる。

 上層の窓から夜風が吹き込み、髪が舞う。

 その眼に、遠くで輝く光幕――ルーチェの魔法が映った。

 上空では、リュシアの声が幻視とともに流れる。


「――支出額と収入額の不整合、年度単位で平均七倍。

 循環取引による資金洗浄が行われていたと推定されます」


 冷ややかな声が夜気を裂く。

 街の広場では、晩餐会に出席していた商人たちが空を見上げ、どよめいていた。


「な、なんだ、あの光は……!?」

「数字が……動いているぞ!」

「市議会の……会計記録?」


 混乱の中、ミナは屋根へ飛び出した。

 リュシアの幻視が、街中に真実を映し出す。

 それを合図に、ガロウの兵士たちが市民の安全確保を名目に動き始めていた。





 だが――敵も、ただ黙って見ているわけではなかった。


 東塔の光が夜空を染めた、その直後。

 市議会直属・監査衛兵が、闇の高みから滑るように姿を現す。

 黒い装束に身を包み、外套の内側から覗くのは冷たく光る魔導銃。

 重力を感じさせない降下用の魔導具が唸り、石壁を蹴るたび、かすかな火花が散った。

 彼らの視線はひとつに定まっている。


 ――帳簿を持つ者。


「……やっぱり、来たか」


 ミナは屋根の縁に片足をかけ、低く息を吐いた。

 夜風が外套をはためかせ、懐にしまった帳簿の重みが確かな存在感を主張する。


「これだけは、渡さない」


 刹那――背後で、魔導銃の術式が起動する甲高い音が鳴った。


 次の瞬間、空気が裂ける。

 魔力弾が瓦を粉砕し、火花と破片が雨のように弾け飛ぶ。

 砕けた瓦の一片がミナの頬をかすめ、熱を残して跳ねた。

 だが、ミナは一歩も止まらない。

 身を低くし、屋根を蹴る。着地と同時に方向を変え、次の建物へ――

 追撃の銃声が夜を切り裂き、背後で石と金属が弾ける。


「――ガロウ、今!」


 叫びは短く、しかし正確だった。


 返事が届くより早く、通りの下で爆竹のような破裂音が連続して響く。

 誕生日訓練――ガロウ式の撹乱戦術が発動したのだ。

 魔導信号弾が複数方向で炸裂し、誤報の警戒音が街に反響する。

 監査衛兵たちの魔導端末が一斉に鳴り、視線が散った。


 「北区で侵入反応!」

 「違う、南だ!」

 「命令が錯綜している……!」


 巡回経路は崩れ、包囲網は一瞬で瓦解する。


「こっちは任せとけェェェェ!!」


 遠くから響く、腹の底から叩きつけるような豪快な声。

 怒号と共に、何かが叩き壊される鈍い音が重なる。

 ミナは口元を歪め、獲物を逃がす獣のように笑った。


「……最高のタイミング」


 彼女はためらいなく屋根の縁を蹴り、夜の闇へと身を投げ出す。

 風が身体を包み込み、街の灯りが流線となって流れ去る。

 背後では、混乱と怒号が渦を巻き始めていた。


 そしてミナは、その渦の外へ――


 帳簿という切り札を抱えたまま、闇へと消えていった。





 中庭の噴水へ、ミナの身体が落ちる。

 水音が弾けるより早く、彼女は膝をつき、衝撃を殺した。


 ――その瞬間。


 淡い光が、ふわりと降り注ぐ。

 夜闇を切り裂くのではなく、溶かすような白――ルーチェの光だった。


 魔導転送。薄明〈トワイライト〉の応用式。

 座標は事前に共有済み、誤差は指一本分もない。

 視界が白に染まり、重力感覚が一瞬だけ失われる。

 次の瞬間、足裏に感じるのは、見慣れた石畳の冷たさ。


 ――〈カストリア別邸〉中庭。


「……無事、帰還したな」


 光陣の中心で、ルーチェがすでに待っていた。

 詠唱を解きながら、わずかに肩で息をするが、術式は寸分の乱れもない。


「予定通りじゃ。刻限、誤差なし」


 それだけで、十分だった。労いも感嘆も、互いに言葉はいらない。


 ミナは立ち上がり、懐から帳簿を取り出す。

 走り続けたせいで呼吸は荒いが、笑みは崩れない。


「……これで確定。市議会の裏金ルート、全部抑えたわ」


 差し出された帳簿を、リュシアが即座に受け取る。

 迷いはない。すでに次の工程が頭の中で組み上がっている。

 彼女は頁をめくり、取引番号、日付、封印痕を一瞥するだけで理解した。

 そして、机に広げた別資料と照合しながら、筆を走らせる。


「ええ……整合性は完全ですわ。表の決算と、地下口座の流れが一本に繋がる。

 これ以上、言い逃れはできません」


 冷静な声。だがその奥には、獲物を仕留めた知性の確信があった。

 漣司は腕を組み、一歩前へ出る。

 中庭に揺れる光と影、その両方を見渡してから、短く言った。


「――よくやった。これで、表も裏も押さえた」


 誰一人として異を唱えない。光が暴き、影が掴み、知が固め、力が守る。

 すべてが、寸分の狂いもなく噛み合っていた。


「ふふ……」


 ミナが肩をすくめ、軽く笑う。


「光と影の連携ってやつね。なかなか様になってきたじゃない」


ミナがウインクを返す。ルーチェは小さく頷き、リュシアは筆を止めず、漣司はすでに次の盤面を見据えている。


 ――この一瞬の静けさは、勝利ではない。だが確かに、決戦へ至る布石は、今ここに揃った。



 だがそのとき、ルーチェの光が微かに震えた。

 天井の片隅――魔晶石の反応が、一瞬、黒く染まる。


「……え?」


 ルーチェが顔を上げた。漣司の眼も細められる。

 記録映像の最後、光幕にわずかに映り込む影。

 市議会の紋章を背に立つ、黒衣の人物。

 顔は見えない。だが、視線だけが――まっすぐこちらを向いていた。

 ミナは眉をひそめ、帳簿を握り直す。


「……誰かに、見られてた」


 風が窓を鳴らす。成功の余韻の中に、冷たい緊張が流れ込んだ。

 バルメリアの夜は終わらない。

 白い皿の裏――そのさらに奥に、まだひとつ、黒い手が潜んでいた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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