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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第68章 集結編 ― 市議会潜入計画

城壁都市バルメリア。


カストリアの北西にあるオランティア地方の有力都市。人口はカストリアの約五倍と言われる。周辺の肥沃な土地を背景に、豊かな市場と厚い城壁を持ち、城壁都市として名を馳せていた。

〈カストリア別邸〉の会議室には、夜明け前の薄藍を閉じ込めたような静けさが漂っていた。

 机の上には、市街地の地図・市議会の組織図・帳簿の写し、そして淹れたてのコーヒーの香りが、

 重く張りつめた空気にほのかな温を差し込んでいる。


 漣司は椅子に深く座り、指を組んだまま、部屋に集った仲間たちの顔をゆっくりと一巡させた。

 その眼差しは穏やかだが、底には鋼の色が宿っている。


「――さて。報告を」


 静かに告げられた声は、まるで戦端を開く合図だった。

 次の瞬間、五つの影が同時に身を乗り出し、声を放つ。


「市議会です」

「市議会ね」

「市議会でした」

「市議会ダ」

「市議会でござる」


しん――と空気が止まった。

 誰も予期していなかった完全な一致。

 まるで、答えがこちらを嘲笑うように揺るぎなくそこにある。


 最初に口を開いたのはミナだった。

 肩をすくめ、唇の端だけで小さな笑みを作る。


「ふふ……息ぴったりって、こういうときに使う言葉なのね」


 小さな笑いが散り、すぐに空気は引き締まった。

 それぞれが見つけた腐敗の線。

 リュシアの帳簿が示した黒い支出。

 ミナが潜り込んで聞き出した裏の金。

 ガロウやロイ――そしてルーチェまでもが各地で拾った民の声。


 全てが、ひとつの巨影へ吸い寄せられるように――。



 最初に静寂を破ったのはリュシアだった。

 彼女は紙束を扇のように広げると、伏せた睫毛の奥で数字を確かめるように視線を走らせ、

 柔らかくも冷ややかな声で告げた。


「特別会計の資金――流れは三つに分岐します。学院、商人ギルド、兵団。

 それぞれ名目こそ違えど、末端から順に辿れば……

 最終的に市議会の裏口座へ帰着しております。

 これは推測ではなく、帳簿で裏付けました」


 紙束が机に置かれるたび、乾いた音が真実の重さを示すようだった。


 次にミナが椅子の背へ片腕を預け、靴先で地図の端を軽く叩く。

 赤いマーカーで記された点が、灯火の下できらりと光った。


「富裕層の屋敷、関連団体、慈善事業の名を借りた倉庫――

 ぜんぶ辿ったわ。でも結論は一つ。物証は中枢に集められてる。

 つまり、本部そのものに踏み込む価値は十分にあるってこと」


 言いながらも、彼女の瞳にはすでに潜入の導線が描かれていた。


 ロイは腕を組んだまま、短く息を吐く。


「庶民は気づいてます。『祭りは豪華なのに、家の飯は薄い』って。

 冗談めかして笑ってますが……その笑いは乾いてます。恐れと不満が半々。

 火種はすでに落ちてる。あとは火をつける者を待ってる状態です」


 その言葉に、会議室の空気が一段深まった。


 ガロウが腕を組んで唸る。


「兵の補給が削られてんのは事実ダ。理由は再配分なんて立派な看板だガ、

 実際は消える一方ダ。士気は下がる一方だガ、筋道を示しゃ付いてくル」


 剛腕の男の静かな怒りが、言葉の裏で火を噛んでいた。

 そして最後に、ルーチェが胸に手を置き、ひとつ息を整えた。


「学院も…同じく縛られておる。光を以て照らしたところ、巡る金は輪となりて本部へ戻る仕組み。

 学びの灯は削られ、虚飾だけが焚かれておった。

 これは教育でも支援でもない、ただの装飾にすぎぬ」


 凛とした声が、静かな怒りを帯びて落ちる。

 五人の報告――五つの線が、地図の一点へと収束した。

 それは、誰かが机に置いたコップの輪染みのように、濃く、逃げ場なく、

 ただひとつの黒点を示していた。


 ――市議会本部。


 その黒点は、まるで街そのものの病巣を示す烙印のように浮かび上がっていた。



 漣司は椅子にもたれ、低く言う。


「結論は出た。議会は都市の中枢ではなく、吸血器官だ」


 誰も反論しない。


「潰すのは簡単だ。だが、それでは街が死ぬ。

 ――我々は買う。金だけではない、信頼と仕組みごとだ」


 視線が自然とミナへ集まる。


「中から扉を開ける必要がある。影の仕事だ。行けるか」


 ミナは薄く笑って立ち上がる。


「言われる前から準備してたわ。数日後、市議会主催の晩餐会が開かれるの」

「顔役が一堂に会する――

 つまり、警備も情報も一番甘くなる場所。そこが、突破口よ」

「潜入経路は?」


 低く、無駄のない問い。リュシアが即座に応じた。


「正面は使いません。納入業者に偽装します」

「侵入口は厨房。そこから酒蔵、裏廊下へと動線が繋がっています。

 警備交代の時間帯も含め、すべて洗い直します」


 迷いのない口調。

 すでに地図は頭の中にあり、再確認に過ぎない。


「許可証の整合性は、私が担当します」

「提出先の帳簿と照合用印影――その偽造も問題ありません」


 一瞬の間。


「頼んだ、副社長」


 蓮司の短い一言に、リュシアは静かに頷いた。

 ミナは指を折って、役割を置いていく。


「ロイ、あなたは退路担当よ。市門ではなく市民区の裏抜けを押さえて。

「万一の時、民衆を巻き込まず抜ける道をつくる」

「了解いたしました」


 ロイは即答する。


「人の流れは、私が調整します。露店の配置や出店時間についても、協力を仰いでおきます。

 自然な混雑を作り、異変があっても目立たない形にいたします」


 丁寧な言葉遣い。だが、その裏にある判断力と行動力は確かだ。


「ガロウは警備の動線。演習名目で詰所の交代間隔を変えられる?」


 一瞬の沈黙のあと、ガロウは口の端を吊り上げた。


「できらァ」


 迷いはない。


「『非常時対処訓練』て名目にしときゃ、文句は出ねェ。

 巡回の死角を入れ替えてやるヨ。兵には実地の方が効くッテな」


 豪放な言葉遣いとは裏腹に、

 その頭の中では、すでに巡回路と死角の再構成が終わっている。

 現場を知り尽くした者の、即断即決だった。


「ルーチェは結界。反応を低く保って、必要な時だけ光で合図を」


 ルーチェは、静かに目を閉じ、胸の前で指を組んだ。


「心得た」


 穏やかな声。だが、その言葉には、長年の研鑽に裏打ちされた自信がある。


「光は眩ますためにあらず、道標のために。拙者、陰の面で支えよう」


 見えない場所で戦う覚悟。

 その存在があるからこそ、作戦は成立する。


 そして――最後に、ミナは自分の胸を、こつんと軽く叩いた。


「私は潜る」


 声は低く、揺れない。


「鍵を盗る。財務局の控え室。裏口座に繋がる証拠を押さえる」


 さらに、間を置いて。


「それから――顔だね。誰がこの輪を回してるのか」


 単なる書類ではない。構造の頂点。

 この腐敗を動かす、名も地位も持った存在。

 それを掴みに行く覚悟が、その一言に込められていた。

 役割は、すべて出揃った。誰一人、余分な言葉を挟まない。

 それぞれが、自分の持ち場と責任を理解している。


 静かな空気の中で、作戦はすでに――動き始めていた。



 漣司は一同の報告を黙って聞き切り、ゆっくりと頷いた。

 その仕草ひとつで、部屋の温度が変わる。張り詰め、静かに燃え始める。


「――目的は破壊じゃない。掌握だ」


 低く、しかし揺るぎなく。


「――市議会を買収する。証拠で相手の身動きを封じ、取引の席に引きずり出す。

 拒めば法に――いや、この世界に法は緩い。ならば世論と兵站で締める」


 論理の刃が、机の上をまっすぐ切り裂いた。


「受け入れるなら――その瞬間から、議会は我々の帳簿の一部だ」

 

 リュシアが即座に指先を滑らせ、書類を揃える。


「証拠が揃い次第、商人ギルドと学院への支援枠を先行提示します。

 代替の資金ラインを作れば、議会は孤立する。

 議会と縁を切るための逃げ道を、先に敷いておくのです」


 ロイは拳を握り、真っ直ぐ言う。


「庶民に逃げ場を示せば、声は味方につく」


 ガロウが牙のような笑みを浮かべる。

 

「兵には筋を示しゃイイ。命令より義のほうが、ずっと重ェンダ」


 ルーチェは胸に手を当て、ほのかに微笑んだ。


「学院に光が戻れば……人の心も戻りましょう。拙者、橋となってそれを繋ぎ申す」

 

 その言葉に、どこか本物の灯火が宿っていた。


 漣司は立ち上がり、地図の上へ一本の線を引いた。

 晩餐会会場から、酒蔵、廊下、財務局控室、非常口へ――

 まるで夜の迷宮に抜け道を刻むように。


「当日まで二日。各自、準備に入れ。……最後に」


「撤退は、恥ではない。仲間は捨てない」


 蓮司の声は低く、静かだった。


「二階堂商会に、捨て駒はない」

「――これは、いつも通りだ」


 その一言で、空気が締まる。誰も反論しない。

 それが、この商会の絶対的な方針だった。

 ミナはその言葉を受け止めるように、目を細める。

 そして、口角を上げた。


「了解、社長。それじゃあ任務名は――」


 言葉が途切れた、まさにその瞬間。


「晩餐会プロジェクト:白い皿の裏で」

 

 リュシアが、即答した。


 間。


 わずか一秒にも満たない沈黙。

 だが、その場にいた全員の思考が、同時に止まった。


 真顔。迷いなし。氷の副社長は、あくまで淡々としている。


「……」


 ミナの口元が、ぴくりと引きつった。


「……ネーミングセンス……」

 

 誰も、即座に肯定も否定もできない。

 それが、リュシアのネーミングセンスだった。


「カタい名は覚えやすいダロ」


 ガロウは胸を張り、もっともらしく頷く。


「作戦名は、実用性が第一ダ。現場で迷わねェ」


 どこまで本気か分からない擁護だったが、本人は至って真剣だった。

 その隣で、ルーチェが本気で首を傾げる。


「白い……皿……?……その、裏……でござるか?」


 ゆっくりと顎に手を当て、思案に入る。完全に思考モードだ。


「むむ……拙者、裏方より入るのであれば――」


 ぱちり、と目を輝かせる。


「皿洗いから潜入すればよいのかの? 泡立ての術式は得意でござるぞ」

「違う違う違う!!」


 ミナが、反射的に声を張り上げた。


「ルーチェ、それは裏方の最終ライン!」

 

 額に手を当て、深くため息。だが、その口元は、完全に笑いを堪えていた。

 笑いが丸く弾み、しかしすぐに静まった。

 窓の外、夜の藍がゆっくり薄くなる。もうすぐ夜明けだ。


 ――動くなら、いま。


 作戦前夜の、最後の一息。

 そして――二階堂商会は、静かに動き出す。



「行こう」


 漣司の声は短く、静かだった。

 だが、その一言だけで、場の空気が切り替わる。


「契約で街を救う。――二階堂商会のやり方で」


 それは理念であり、宣言だった。


「了解しました」


 リュシアが即答する。

 無駄のない、氷の副社長らしい声。


「りょーかい!」


 ミナは軽く手を挙げ、いつもの調子で応じる。

 だが、その瞳の奥に宿る光は、すでに仕事の色だ。


「行ってきます」


 ロイは丁寧に一礼し、退路と人の流れを思い描いている。


「オウ!」


 ガロウは短く頷き、現場の空気を掴みに行く覚悟を滲ませる。


「心得たでござる」


 ルーチェは静かに目を閉じ、見えぬ場所で支える役目を胸に刻む。

 椅子が引かれ、足音が、それぞれの役割へと分かれていく。

 扉が閉まる、その直前。ミナだけが、ふと足を止め、振り返った。


「社長」


 声は低く、しかし確かだった。


「鍵は、必ず持ち帰る――中から、扉を開けてみせるわ」


 漣司は、迷いなく頷く。


「任せた、影の切り札」


 その言葉に、ミナは小さく笑い、扉の向こうへ消えた。


 藍色の朝が、ゆっくりとほどけていく。

 夜と昼の境界線。光と影が、静かに交わる刻。


 理と策、力と信頼。

 二階堂商会は、都市という巨大な器の――

 その心臓へ、音もなく針を通そうとしていた。


 次に鳴るのは、祝杯の触れ合う音か。

 それとも、闇に隠された錠が外れる音か。


 選ぶのは――この街自身だ。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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