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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第67章 光と理を繋ぐ魔導士 ― ルーチェ編Ⅱ

白亜の塔が朝陽を浴び、刃のような鋭い光を返していた。


雲ひとつない空に、塔だけが抜きん出て聳え立つさまは、まるで知の象徴と同時に虚飾の尖塔でもあるかのように見える。


――バルメリア魔導学院。


かつて拙者が、あの胸を刺すような虚飾の光を初めて嗅ぎ取った場所。今日は、その光が真なる理に立つものか否かを確かめに来たのじゃ。光とは、磨けば正義にもなるし、濁れば欲望の面を持つ。

それを見抜くのが、拙者の役目でござる。


門をくぐるや否や、若き声が飛ぶ。


「ルーチェ様だ! ほんものだ!」

「この前の光、本当にすごかったです!」

「お、おお、落ち着くのじゃ。拙者は見学者、ええと……視察に来ただけでござる」


声が重なり、光の粒が飛び散るように学生たちが集まってくる。

呆れるほどの熱気。少し胸がむず痒いのは……まあ、否定はせん。

とはいえ、ここで浮き足立つわけにもいかぬ。


漣司殿の言葉が脳裏を掠める。


――繁栄は眩しい。だからこそ、その裏に潜む影を見ろ。


光を疑えという意味ではない。光の真価は、それが照らす影の形によって決まる。

拙者は今日、この学院の光が誰のために放たれ、何を隠し、何を導こうとしているのか、理の目をもって見通すつもりなのじゃ。





学院長室。

金糸を織り込んだ絨毯、磨かれた黒檀の机、壁には学院の栄光を誇る金箔の額がずらり。

豪奢さが鼻を刺すほど満ちておるのに――その中心に座る学院長の笑みだけが、不自然に艶めいておった。


「本学院は市議会の厚いご支援で運営が潤沢でしてな」


あまりに滑らかすぎる口調。

だが拙者の視線は、机の片隅に置かれた捺印具へ吸い寄せられた。

金の縁取り、異様なまでの装飾、そして……刻まれた紋章。


「ほう……特別会計の印でござるな」


学院長の目が、ほんの一瞬だが細く揺れた。


「む? ご存じで」

「名は聞く。……されど、金の流れほど雄弁なものはないでござろう」


学院長室を後にし、廊下へ出た瞬間――豪奢さの裏に隠された実態が、耳へと流れ込んできた。


「実験触媒、また未納か……」

「授業料免除の書類が返ってきた。議会の許可待ちらしい」


誰も大声では言わぬ。皆、周囲を気にして小声で、しかし確かに不満と疲労を滲ませていた。

歩きながら、拙者はそっと視線を巡らせる。魔導式の照明は明るいのに、学生の瞳はどこか陰りがある。

煌びやかに取り繕った学院の影が、静かに蠢いておる。

胸の奥で、怒りとも悲しみともつかぬ熱がふつふつと立ち上がった。

拙者は袖の内で拳を握る。


(――これが、市議会の理か。ならば拙者は、光で暴いてみせるのじゃ)


そう誓った瞬間、塔の外で風が鳴った。白亜の塔が、ほんのわずかに軋むように見える。

それは、この学院の歪みそのもののようであった。





夜。資料庫。

拙者は灯を落とし、指先に微細な光をともす。


「光よ、照らすなかれ。ただ映せ。――写光レフレクタ


空気に散る塵が星座のように並び、封印文様の線をなぞる。

棚奥の革表紙が薄く光り、隠し綴じの糸が浮かび上がった。

糸を断たずに、頁の縁へ光を差し込む――文字が反転し、天井へと投影される。

連なる数列、矢印、付箋の符。拙者は息を呑んだ。


「市議会特別会計より入金――学院運営費名義――翌期、匿名口座へ返還金……」


光の帯がループを描く。

入る、巡る、戻る。見かけの賑わいの裏で、金だけが綺麗に周回しておる。


「光の塔は、金の輪で回っておる……。学生の灯は削られ、虚栄の火だけが焚き付けられるのじゃな」


頁を送る指先に、微かな震え。怒りか、哀れみか。

その時、足音。扉の金具が鳴る。


「誰だ。巡回だ、灯りが漏れたぞ」


拙者は光を指に吸い戻し、影へ沈む。床板の節目に影の屈折を作る。


「――屈光ディフラクタ


光を曲げるはすなわち影を綴じること。衛兵の視線は拙者を迂回し、やがて遠ざかった。

ふぅ。光も、使いようで影に化ける。拙者はそっと頁を閉じ、封印の縫い目を元に戻した。





翌朝の講義室。

教師が黒板に術式の素描をしているが、粉は薄く、線は頼りない。

拙者は手を挙げ、前に進む。


「失礼仕る。――術式は正しい。だが流しが粗いのじゃ。光は点でなく、面で受け、線で返す。ここ、肩の力を抜くべし」


指先に粒子を立て、板上の図式を空へ写す。

天井一面に柔らかな格子が広がり、学生たちの掌が呼応して点々と灯る。

弱い灯でも、面に載せれば力になる。


「見よ。ひとつの灯は儚い。されど――寄り合わば、術はゆたかに息をする」


ほぅ、と息がこぼれ、歓声が波紋のように広がった。

教師が深々と頭を下げる。拙者は慌てて手を振る。


「い、いや、拙者は旅の身! 教鞭を執る器では……」


それでも結びの一言は胸に留めておく。


「理なき光は眩しさでしかない。だが、光なき理もまた冷たすぎる。術は心と頭の両輪で回すのじゃ」


学生たちの目に、ほんの少し血が戻るのが見えた。



中庭。鐘が鳴るや、どやどやと群れが押し寄せた。


「ルーチェ様! 昨日、資料庫で――」

「あの空に浮かんだ数字の帯、見たんです!」

「え、ええと、それは……夜の灯火が反射してじゃな……」

「どうか弟子にしてください!」

「お師匠様、次の流しを教えて!」

「お、お師匠……!? ま、待たれい、拙者まだまだ未熟、身の丈がっ……!」


袖を引かれ、裾をつままれ、囲まれて、拙者はついに観念――せず、全力で退いた。

マントを翻し、回廊を疾走、角で滑って危うく植木鉢。


「拙者、社の務めが、あ、ある故――講義は、ええと、またいつか――!」


笑いと歓声と、幾つかの「お師匠様!」が背中に降り注ぐ。

門を駆け抜け、石段でようやく足を止めた。胸がどくどく鳴る。

空には薄い雲、塔の先は白く透け、拙者の足元には、さきほどの粒光がぱらぱらと残っていた。


「……まったく。光は余計なところまで照らすのう」


だが、頬は勝手に緩む。虚栄の火はまだ消えぬ。されど、学ぶ灯は確かに生きておる。

理で形を与え、光で進む道を示す。拙者の務めは、そこにある。


――お師匠様、と呼ばれる器ではない。


それでも。いつか本当にそう呼ばれて恥じぬよう、拙者は、もっと学ぼう。

マントの裾を払い、塔に一礼し、背を向ける。

足取りは軽い。光の粒が、その後ろ姿を小さく追いかけた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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