表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第一部 武装法人誕生 - 都市買収編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/314

第6章 資源争奪 ― 封鎖を破る雇用と金融

 資材供給の停止。


 それは、二階堂商会にとって――橋の落札以上に、致命的な一手だった。


 石材を握る大手ギルドは、都市周辺の採掘場をほぼ独占している。

 倉庫に積み上げられた在庫は、保って一週間。

 それを使い切れば、工事は止まり、取引は凍りつき、信用は一気に崩れる。


 数字は冷酷だ。猶予は、七日しかない。


 会議室に集められた幹部たちの表情は硬かった。

 獣人傭兵団《牙の旗》の戦士たちも、作業服姿の職人たちも、

 互いに視線を交わし、言葉を探している。


 張り詰めた沈黙を破ったのは、傭兵のひとりだった。


「社長……石材が尽きたら、俺たちの飯代も出ねぇよな」


 遠慮がちな声音。しかし、切実だ。


「仕事が止まるなら、他の商会に鞍替えするしかねえ」


 別の男が、視線を逸らしながら付け加えた。

 小声とはいえ、その囁きは、会議室の空気を確実に冷やした。


 不安。疑念。動揺。

 裏切りの芽が、確かに芽吹き始めている。


 漣司は、ゆっくりと立ち上がった。

 卓上に積まれた紙束を、軽く叩く。

 乾いた音が、全員の意識を引き戻した。


「……いい兆候だな」


 静かな声に、何人かがぎょっとして顔を上げる。


「裏切りの芽が出始めた、って意味だ」


 漣司は幹部たちを見渡し、淡々と続けた。


「だが勘違いするな。忠誠心は、根性論じゃ続かない。

 気合や恩義で人は動かない。――仕組みで管理するものだ」


 室内が、しんと静まり返る。

 リュシアが、眼鏡越しに鋭く彼を見る。


「社長。その仕組みとは?」


 漣司は、一枚の書類を抜き取り、机の中央に広げた。


「雇用契約書だ」


 紙の上には、契約条件と報酬体系、

 保障内容がびっしりと並んでいる。


「今日からお前たちは、我が二階堂商会の正式な社員になる」


 ざわり、と空気が揺れた。


「社員……?」

「傭兵が、商会の人間に……?」


 小さなざわめきが広がる。

 漣司は構わず言葉を重ねる。


「給与は固定給と成果報酬の二本立て。

 負傷時の補償、家族への手当も用意する。

 仕事が止まっても、最低限の生活は守る」

「……そこまで、やるんですか」


 誰かが、思わず漏らした。


「当然だ」


 漣司は即答する。


「生活を守られた人間は、簡単には逃げない。

 逃げない人間には、長期の投資ができる。

 これは情けじゃない。経営判断だ」


 リュシアが、わずかに口角を上げた。


「なるほど。人材の囲い込みですね」


「ああ。資材を止められたなら、人材は絶対に手放さない」


 漣司の視線が、傭兵団と職人たちを射抜く。


「お前たちは、もう使い捨ての駒じゃない。

 二階堂商会の戦力であり、資産だ」


 沈黙の中、誰かがごくりと喉を鳴らした。


 不安の色は、少しずつ――別の熱へと変わり始めていた。




 

 契約書には三つの柱があった。


 第一に、固定給の保証。

 戦いや工事が一時中断しても、最低限の賃金は支払われる。

 第二に、出来高制の導入。

 護衛や工事で成果を挙げれば、銀貨が上乗せされる。

 そして第三に、退職金制度。

 十年勤め上げた者には、家族が暮らせるだけの蓄えを与える。


 契約書が広げられた瞬間、テントの布が揺れ、重い足音が響いた。

 獣の影を連れた巨躯――「牙の旗」傭兵団長ガロウが姿を現す。

 その場の空気が一変した。誰もが息を呑む。

 まるで獣が戦場に降り立ったかのような威圧感。

 しかしその瞳には、ただの野蛮さではなく、

 仲間を背負う者だけが持つ責任の色があった。


「タイショクキン……? そんなもの、聞いたこともねェ」


 ガロウが低く唸るように言った。

 獣人たちがざわめき、職人たちでさえ身を固くする。


「当たり前だ。だが考えてみろ。

 戦いに明け暮れるだけの人生で、最後に何が残る? 牙と傷跡だけか?

 俺は違う。命を賭けた働きには、未来を保証する」


 テントの内側に沈黙が落ちる。

 ガロウの太い腕が、卓上の契約書をつかんだ。

 そのまま引き裂くのではないかという緊張が走る。

 だが次の瞬間、彼はじっと文字を読み込み――鼻で笑った。


「戦場の外まで考えてるヤツなんざ、初めて見たワ……

 仲間に、安心して飯を食わせられるのカ」


 その声は獣の咆哮のように力強く、しかしどこか震えていた。

 職人たちからも息を呑むような視線が注がれる。


「そうだ。俺は約束する。裏切らずに働けば、お前たちと家族を守る。

 それが二階堂商会のルールだ」


 静寂が落ちた。風の音さえ止んだかのように、

 テントの中は張り詰める空気で満ちる。

 獣人傭兵たちも、職人たちも、

 ただ漣司の言葉を噛みしめるように息を呑む。


 やがて。


 ガロウがゆっくりと立ち上がった。

 巨体が影を落とし、テントの骨組みが軋むほどの圧が生まれる。

 拳を握りしめたその手は震えていた――

 怒りではない。何かを押し殺すような、熱い震えだった。


「……お前、本気でそんなことを言ってるのカ」


 低く、地鳴りのような声。


「戦場を渡り歩く俺たちニ、未来を作るだト……

 そんな夢みてぇな話、誰も信じなかっタ。誰も言わなかっタ」


 ガロウの目が赤く潤む。

 仲間たちは驚き、息をのむ。

 団長が涙をこらえている姿など、誰も見たことがない。


 次の瞬間。


 ガロウは天を揺るがす咆哮を上げた。


「――聞けェェッ!!」


 テントの空気が爆ぜる。


「聞いたカ! 俺はニカイドウ社長に命を預ける! 

 牙の旗は今日から正式に商会の警備部門ダ!」


 その瞬間、漣司のスキルが静かに起動する。


――《買収交渉開始》

――対象:傭兵団長ガロウ。

――信用=中、潜在能力=極高。

 必要対価=「固定給+出来高+退職金保証」提示条件を口にする。


「固定給は最低限保証する。戦いの成果は出来高として上乗せ。

 十年勤め上げれば退職金も出す。

 牙の旗は、お前自身と仲間の未来を守る」


 ガロウの眉が吊り上がり、怒りと興奮が混ざった表情を見せる。

 戦いで命を賭けるだけの生活――そのルールを壊す新しい提案。

 獣人たちが大地を揺らすほどの雄叫びを上げる。

 職人たちも次々と契約書に署名し、広場は熱気に満ちていった。

 その背中を見た者は、皆が直感した。


――この男は、いつか必ず大きな組織を支える柱となる。

 制度が絆を作り、覚悟が忠誠を生む。

 こうして二階堂商会には、

 未来の役員ガロウという最強の忠誠者が加わった。


――二階堂商会は、この日、本当の意味で「軍」を手にした。




 

 会議後、リュシアが漣司に歩み寄った。


「社長。あなたの方法は、まるで……」

「日本のサラリーマン制度さ。忠誠は心じゃなく給与明細で測る。

 俺はそれを異世界で実証するだけだ」

「……合理的ですね。ですが、あまりにも現実的すぎて、

 この世界の人間には奇跡に見えるかもしれません」


 リュシアの瑠璃色の瞳が冷たく光る。


「ですが覚えておいてください。

 制度もまた、一度壊されれば、どんな剣より脆い。

 武装した敵だけでなく、妬み、嫉妬、欲望……

 外部からも内部からも、あらゆる方向から崩しに来ます」


 漣司はしばし考えるふりをして、やがて小さく笑った。

 冷徹で、まるで敵対的買収を仕掛ける投資家のように。


「だからこそ、次は根っこから押さえる。資材供給網を丸ごと買収する。

 鉱山、精錬所、運送路――全部だ。

 俺の制度を壊す気なら、まずこの世界のインフラごと折りに来いってな」


 その言葉に、リュシアの眉がわずかに動いた。

 畏れでも反発でもない。

 猛獣を見たときの、研ぎ澄まされた戦士の反応。

 ふたりの視線が交わった刹那、会議室の空気は戦場以上に張り詰めた――

 二階堂商会の支配戦略が、今まさに始まりを告げたのだった。




 

 その夜。倉庫に一通の封書が届けられた。

 封蝋には商人ギルドの紋章。中には短い文面が記されていた。


 ――二階堂商会による「商会手形」は違法通貨であり、都市の秩序を乱す。

 速やかに使用を中止せよ。さもなくば、法的措置を講ずる。


 漣司は手紙を読み終えると、乾いた笑いを漏らした。


「……来たな。次の戦場は金融だ」


 リュシアが微笑む。


「社長。通貨は血液。心臓を握られれば企業は死ぬ。

 ――金融戦争こそ、本当の戦場です」


 窓の外、都市の灯が瞬いていた。

 二階堂商会は今、資材の供給網と金融の支配権を巡る、

 新たな戦いへ踏み出そうとしていた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ