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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第59章 虚飾の都市を暴く ― 総括編

城壁都市バルメリア。


カストリアの北西にあるオランティア地方の有力都市。人口はカストリアの約五倍と言われる。周辺の肥沃な土地を背景に、豊かな市場と厚い城壁を持ち、城壁都市として名を馳せていた。

バルメリアの夜。


白金に輝く街灯が通りを照らし、建物の壁面に浮かぶ影は、やけに濃く、やけに冷たい。

誰もが眠らぬ都市の華やかさを演出しているが、その光は眩しいほどに――

底に沈む闇を隠そうとしていた。

その宿の一室に、二階堂商会の役員たちが次々と戻ってきた。

昼間は賑わいに満ちた街も、夜はどこか虚ろだ。

煌びやかな街灯の光が、かえって影を濃くしていた。

会議卓の中央に腰を下ろす漣司が、ゆっくりと視線を巡らせる。

明かりに照らされたその眼差しは、鋭くも静か――

獲物を見据える獣のようであり、同時に仲間を信頼する指揮官のそれでもあった。


「……さて。各々の報告を聞こう」


静かな声だった。しかし、その一言が落ちた瞬間、部屋の温度がわずかに変わる。

虚飾の都市の心臓部を覗き込んできた者たちの真実が、今まさに解き明かされようとしていた。



静寂を破るように、椅子がわずかに軋んだ。


最初に立ち上がったのは、二階堂商会随一の財務官――リュシアだった。

月光を受けて淡く輝く銀髪を耳にかけると、彼女は淡々と羊皮紙の束を卓上へ広げた。指先の動きは迷いなく、刃のように正確だ。


「――まず、帳簿の全体構造を確認しました」


その声音は冷ややかで、しかし確固とした芯を帯びていた。

漣司をはじめ、全員の視線が吸い寄せられる。


「売上は毎月、機械的なほど右肩上がり。季節変動も市場規模も無視した、不自然な曲線です。これは繁栄の形を維持するための数字……つまり粉飾と断定していいでしょう」


彼女の指先が、ある項目を軽く叩いた。

帳簿の端に記されていた公共事業費の欄――異様なまでに膨れ上がった数字の列。


「次に、この支出。額が大きいのに、用途の記載が不明確です。視察と称した豪奢な宴会、必要以上に金をかけた建造物……おそらく、浪費と裏金の温床になっています」


場がどよめく。

ガロウは腕を組んだまま鼻を鳴らし、ロイは眉を寄せ、ルーチェまで「なんと……」と息をのみ、ミナは無言で窓の外に視線を落とした。


漣司は短く息をつき、重々しい声で応じた。


「……やはりか。繁栄を取り繕う都市ほど、帳簿が歪むものだ。数字は嘘をつかん。だが、人は数字に嘘を押しつける」


リュシアは淡い微笑を浮かべ、元の席へ静かに戻った。

その仕草さえ、この場の空気を締めつけるほどに研ぎ澄まされていた。



次に口を開いたのはミナだった。

彼女は椅子の背にもたれ、悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、しかし声は妙に落ち着いている。


「――庶民の空気、全部見てきたわよ。昼は笑ってても、夜になるとみんな顔色が変わる。借金に追われて眠れない人、家計をつけては溜息をつく人……豊かな街並みなんて、上っ面だけね」


ミナは軽く指をひらひら揺らした。


「それに、酒場じゃ情報がゴロゴロしてたわ。酔っ払いに抱きつかれたり、突然プロポーズされたり、何故か恋文まで渡されたり……まあ色々あったけど」


場に苦笑が広がるが、しかしミナの表情はすぐに引き締まった。


「その騒ぎの中でね、決定的な話を聞いたの。市議会は赤字を隠してる。帳簿も演説も全部ウソだって。言ったのは商人でも兵士でもなく、普通の労働者よ。彼らは、上が隠す嘘にいちばん敏い」


ミナは脚を組み直し、鋭く、しかしどこか優しい瞳で漣司を見た。


「民は、もう限界よ。誰にも言えない不満を、闇に押し込めてる。だから……社長の言う繁栄の裏ってやつ、多分ぜんぶ当たり」


漣司はゆっくり頷いた。


「噂は数字以上に重い。民の声は、都市の心臓の鼓動だ」


その言葉に、ミナは小さく満足げに笑った。



 ロイは拳を握りしめて前に出た。


「俺は労働者と一緒に働きました。……彼らの賃金は三月も滞っている。必死に働いても、報われない」


 声には怒りが滲んでいた。


「……バルメリアの工房街は、表の繁栄とはまるで別物でした。賃金は三か月滞納、税は増える一方。働く人たちは、毎日をしのぐので精一杯です」


その声音は静かだが、胸奥で燃える怒りが隠せていない。

労働者たちの汗、絞り出すような本音――それらが彼にとって、もはや他人事ではなかった。


「老人の職人に頼まれました。もしあなたが民の味方であるなら、この街を救ってくれと」


ロイは視線を上げる。まっすぐで、不器用なほど誠実な光だった。


「それでも彼らは、この街を支えてるんです。……俺は誓いました。必ず彼らを救うと」


漣司は黙って頷いた。

ロイの真面目さが、この街の痛みを最も深く拾い上げたのだろう。



次に、椅子の背もたれにどっかと寄りかかっていたガロウが立ち上がった。


「オレは兵舎に行ってきたがよォ……あいつラ、完全に火が消えてたゼ。鎧は光ってんのニ、目ぇが死んでんダ。戦士の魂が腐っちまってル」


いつもの獰猛な笑みを浮かべながら語り始めるが、その表情には怒りと憂いが同居していた。


「訓練ばかりで給金は出ねェ。上だけが贅沢三昧! 兵の士気は地に落ちてる! オレが怒鳴ったら、やっと火がついたがヨ!」


ガロウは胸を張り、豪快に笑った。


「だから殴り合いでも剣でモ、全部まとめて叩き起こしてやっタ。結果?――酒場で大騒ぎダ。いい具合に火がついたゼ」


誰も茶化さなかった。その乱暴さの奥に、兵たちを見捨てない誠があるのを知っているからだ。


「兵士の士気は表の数字にゃ現れねェが……こいつが落ちてる街は崩れル。放っときゃ危ねェ」



最後にローブを整えながらルーチェがそっと口を開いた。


「拙者は……魔法学院を見てまいった。学生は借金に苦しみ、教師は力を振り絞って見せかけの栄光を演じておる」


彼女の声音は柔らかいのに、不思議と凛とした緊張を帯びる。


「学生らは薬草も触媒も買えず、魔法は弱体化。教師でさえ、強大な魔導を演じるために身を削っておりました」


その表情には、学生たちから弟子入りを迫られ、顔を真っ赤にして逃げ回った時の面影がわずかに残っている。しかし今の瞳は、迷いなくまっすぐだ。


「学院は繁栄しているふりをしているだけで学びの場としても、魔導の象徴としても機能しておりませぬ。――ここもまた、赤字の都市の一部にござる」


静かに、しかし確固たる覚悟で言い切った。そして少し顔を赤らめながら続けた。


「そ、それに……拙者に弟子入りを望む者まで現れて……断るのに骨が折れ申した……」


仲間たちは思わず笑い、緊張が和らいだ。だが報告の内容は深刻だった。



漣司は全員の報告を聞き終え、深く椅子に沈んだ。


「…………想像以上だな。繁栄の皮をかぶり、内側は朽ちかけている」


数字。庶民の声。労働者の苦境。兵士の不満。魔導士の疲弊。

それらすべてが示すのは――この都市は赤字で塗り固められている、という事実だった。


「だが、それでこそ狙い目だ。粉飾の裏は必ず崩れる。そこで我々が入り込めば、この都市は丸ごと買える」


卓上のランプの炎が、まるで彼らの決意に呼応するように揺れた。

役員たちの目が輝きを取り戻す。

ここに来てようやく、バルメリアが攻略可能な標的として姿を現したのだ。


しかし、そのとき――静かに帳簿を閉じていたリュシアが、疑問の目を向けた。


「……ところで社長。あなたは今日一日、どこに行かれていたのです?」


全員の視線が、自然と漣司へ集まる。

彼はその注目を当然のように受け止め、ゆっくりと懐から一枚の羊皮紙を取り出した。


「物件を探していた」


瞬間、場の空気が止まる。


「……ぶ、物件?」

「宿ですか?倉庫ですか?」


役員全員が首をかしげる。漣司は地図の一角を指で叩いた。


「この大通りにある酒場だ。借金まみれで、今にも店じまいする寸前だった。しかし――見ろ、この通りの導線。商人たちの胃袋と財布が最も緩む帰り道の黄金ラインだ」


リュシアが眉をひそめる。


「社長……まさか」


漣司はその問いに、薄く、しかし自信に満ちた笑みを返した。


「――接待作戦だ」


その瞬間、部屋の温度が変わった。ロイは息をのむ。

ミナはにやりと笑い、ガロウは「面白れぇ」と腕を組む。

ルーチェは「接待……?はて?」と固まる。


「――始めるぞ。虚飾の都市バルメリアを暴くための、最初の夜を」


次なる一手が、静かに幕を開けようとしていた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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