表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/330

第53章 敵を知り己を知る ― 情報収集開始

城壁都市バルメリア。


カストリアの北西にあるオランティア地方の有力都市。人口はカストリアの約五倍と言われる。周辺の肥沃な土地を背景に、豊かな市場と厚い城壁を持ち、城壁都市として名を馳せていた。

 夜のバルメリア。

 二階堂商会の一行は、都市の片隅にある宿を借り切り、会議室に集まっていた。

 外はまだ市の灯りと人波で賑わっているが、部屋の中には重い空気が漂っていた。


 市議会での冷遇。


「田舎都市の商会」と嘲られた悔しさは、役員たちの胸に燻っている。

 ガロウは拳を固め、机を叩きつけんばかりに苛立ちを見せていた。


「クソッ! あんな小僧どもに見下されるなんザ、耐えられねエ!」


 ロイも苦渋を噛みしめるように口を開いた。


「……あの都市カストリアを救った我々の功績を、まるで無視する態度。正直、許せません」


 ルーチェも珍しく眉を吊り上げていた。


「拙者とて腹立たしく!田舎呼ばわりとは、聞き捨てならぬ!」


 仲間たちの声が熱を帯びていく中で、漣司は静かに口を開いた。


「――いいじゃないか」


 その声に、一同が振り向く。彼は微笑を浮かべ、淡々と告げた。


「先ほども言ったが、規模の小さい都市が侮られるのは当然だ。大事なのは、感情ではなく数字だ」


 リュシアが細い指で眼鏡の位置を直し、冷静に頷く。


「今は耐え、観察せよということですね」

「そうだ」


 漣司は立ち上がり、机の上に用意していた羊皮紙を広げた。

 そこにはバルメリアの地図と、市場・兵舎・学院・酒場などの主要施設が記されている。


「敵を知り己を知れば百戦危うからず。――孫子の兵法だ」


 彼は仲間たちを見渡す。


「今、俺たちがすべきことは、この都市の実態を知ること。繁栄に見えるが、違和感がある。数字が噛み合っていない。だが確証はまだない」


 仲間たちは息を呑む。漣司の直感は、これまで何度も彼らを勝利に導いてきた。


「それぞれの得意分野を活かし、情報を集めてこい」



 最初に一歩を踏み出したのは、リュシアだった。

 淡い銀髪が揺れ、氷のように澄んだ視線が会議卓の向こう――まだ見ぬ敵を射抜く。


「ならば、私は商人組合と公開帳簿を洗います。この都市の会計には、必ず歪みがあるはずです」


 声音は静かだが、断定に迷いはない。

 数字は嘘をつかない。

 だが、人は数字に嘘を混ぜる――その裏を剥ぎ取るのが、彼女の役目だ。

 帳簿の一行一行が、やがてバルメリアの喉元を締め上げる鎖となるだろう。

 数字の裏を見抜くのは、彼女にとって日常の仕事にすぎない。


 続いて、ミナが椅子の背にもたれ、軽やかに肩をすくめた。


「私は市場と酒場ね。商人も労働者も、酔えば本音を零すものよ。愚痴と噂話ほど、正直な情報源はないわ」


 口元には笑み。だが、その奥の瞳は獲物を探す猫のそれだった。

 闇に溶け込み、誰にも気づかれず真実を掬い上げる――

 情報部門の女王としての顔が、そこにあった。


 ロイは一度深く息を吸い、拳を胸に当てる。


「俺は、庶民と話します。働く者たちの中に入り、同じ目線で暮らしの声を聞く」


 飾り気のない言葉。だが、それこそが彼の強さだった。

 権力にも金にも与しない誠実さ。

 庶民の信頼を背負うその姿は、武装法人二階堂商会が力だけの組織ではない証明でもある。

 その信頼こそが武装法人の力の根幹だった。


「待ってましたァ!」


 ガロウが椅子を蹴って立ち上がる。巨躯が動くだけで、場の空気が震えた。


「オレは兵舎だ! 剣を交えリャ、兵士の腹の底が見えル! 誰が誰に金を流してるかモ、体で分かるだロ!」


 荒っぽい。だが、その豪胆さは真実をねじ伏せる力でもあった。

 恐れられ、信頼され、時に笑われる――それが彼の流儀だ。


 最後にルーチェが一歩前へ出た。


「では、拙者は魔法学院へ参る! 学徒や師範らと交われば、この都市の魔導の現状が見えるはず!」


 最後に、ルーチェが一歩前へ出る。

 琥珀の瞳を真っ直ぐに上げ、胸に手を当てた。


「では、拙者は魔法学院へ参る! 学徒、師範、研究者らと語らえば、この都市の魔導の現状――その光と闇、すべてが見えるはずにござる!」


 古風な口調に、思わず誰かが小さく笑った。

 だが、その笑いに侮りはない。彼女の光は、人と人を繋ぎ、組織に道を示す力を持っている。


 それぞれが異なる道を選び、異なる武器を手にした。

 だが目指す先は一つ――バルメリアという巨大な都市の、虚飾の奥に潜む真実。



 漣司は、集まった全員の顔をゆっくりと見渡した。

 一人ひとりと視線を交わし、その奥に宿る感情――

 憤り、闘志、そして静かな覚悟を確かめるように。


「よし。各自、動け。期限は一週間だ。夜になれば必ず、ここに戻れ」


 短く、だが迷いのない命令だった。

 仲間たちは一斉に頷く。先ほどまで胸を焼いていた怒りは、すでに刃のように研ぎ澄まされている。

 感情で殴りかかる段階は終わった。今は――敵を知り、弱点を掴む時だ。


 翌朝。


 二階堂商会の役員たちは、それぞれの役目を胸に刻み、バルメリアの街へと散っていった。


――リュシアは、閉ざされた帳簿と数字の海へ。

 取引の裏、会計の歪み、不自然な収支。繁栄を装う都市ほど、数字は正直だ。氷のように冷たい瞳で、彼女は一行一行を切り裂いていく。


――ミナは、市場と酒場、人の溜まり場へ。

 笑顔の裏で囁かれる不満、酒に溶けた本音。耳に入る愚痴の一つひとつが、都市の病巣を示す地図となる。


――ロイは、工房と倉庫、汗にまみれた現場へ。

 労働者と同じ目線で立ち、同じ椅子に腰掛ける。彼の誠実さは壁を作らない。押し殺された怒りや諦めが、やがて言葉となって零れ落ちていく。


――ガロウは、兵舎へ。

 剣を交わし、酒を酌み交わし、笑い合う。力の世界に生きる者たちの腹の内は、正直だ。士気、待遇、忠誠――それらは、金と権力の匂いを確実に孕んでいる。


――ルーチェは、魔法学院へ。

 学徒の眼差し、師範の言葉、魔導の水準と扱われ方。光を携える彼女だからこそ見える、この都市の“魔法の価値”と歪みがある。


 それぞれが、必ず繁栄の裏側を掴むという確信を胸に。


 漣司だけは、そのすべてを見送ったあと、静かに窓辺へと歩み寄った。

 眼下に広がるのは、活気に満ちた大都市バルメリア。

 白い石畳、往来する人々、鳴り止まぬ商いの声。


 ――表向きは、非の打ち所がない。


「表面は華やかだ」


 独りごちるように呟く。


「だが、数字の裏は隠せない」


 彼の視線は、すでに未来を見据えていた。この都市が抱える歪み、その価値、その値段を。


「……この都市は、必ず買える」


 その声を聞く者はいない。

 だが、確信だけが、静かに、しかし確かに――部屋の空気を満たしていた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ