表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/316

第51章 新たなる地平 ― 第二部開幕


 漣司は吹き抜ける高風の中、

 塔の最上階で静かに息を吸い込んだ。

 足元に広がるカストリアは、もはやかつての瀕死の街ではない。

 朝の光に照らされ、商人が声を張り上げ、

 職人たちが再建した工房から煙が上がり、街路には二階堂商会の旗――

 剣と天秤の紋章が誇らしげにはためいている。

 かつて盗賊団と腐敗したギルドの食い物にされ、

 希望すら奪われかけたこの街は、いまや自立し、

 自らの腕で稼ぎ、守り、歩み始めた。

 その光景を、漣司はまるでひとつの作品を見届けるように眺めていた。


「都市を掌握した今、次は外の世界だ」

 

 呟いた声は、静かな高空に吸い込まれていく。

 しかしその胸中に渦巻く野心は、

 誰にも聞こえずとも確かに熱を帯びていた。

 塔の縁へ歩み出る。視界の向こうには、無数の可能性が広がっていた。

 荒廃した村々。交易路を牛耳る盗賊団。利権で縛られた小都市。

 カストリアはまだ序章。


 二階堂商会という武装法人の理念――


「経済と武力で秩序を築く」


 という新たな価値観は、この都市だけのものでは終わらない。

 リュシアが静かに近づき、肩越しに同じ景色を見つめた。


「……ここからが本番ですね、社長」

「そうだ。市場を守っただけでは足りない。世界を繋ぎ、立て直す。そのために、俺たちは武装法人になったんだ」

 

 剣と契約書を掲げる旗が、風に大きく揺れた。

 その音はまるで、次の戦いへ向けた出陣の合図のように響き渡る。


 ──第二部『武装法人拡大編』 幕開け。



 会議室に集う役員たち。

 その視線が、自然と一人の女性へと収束していく。


 リュシア・アークライト。


 武装法人二階堂商会の副社長にして、

 財務と戦略のすべてを握る参謀。

 銀髪をきっちりと整え、切れ長の瞳には一切の曇りがない。

 氷のように澄んだ気配は、

 感情よりも常に「最適解」を選び取る彼女の生き方そのものだった。


 帳簿、法務、交渉、リスク管理――

 数字と論理の領域において、彼女に並ぶ者はいない。

 その冷静さは時に冷酷に見えるが、

 誰よりも仲間と蓮司の未来を案じ、

 弱みを決して人前に見せぬ強さでもある。


 分厚い資料が、机の上に静かに広げられた。

 リュシアは一度だけ全員を見渡し、

 淡々と、しかし逃げ場のない現実を突きつける。


「周辺の村のうち、三割は盗賊の脅威に晒され、二割は地方領主の搾取に苦しんでいます。残る村々も疲弊し、自治の機能を失いつつあるわ」


 紙の擦れる音だけが、会議室に冷たく響いた。

 眉をひそめたのは、ロイ・フェンネルだった。


 ロイ・フェンネル


 武装法人二階堂商会の役員にして、庶民代表兼営業部長。

 そして前線では大盾を構える防衛要員――

 いわば商会の壁を担う男である。

 農村育ちの素朴な体躯と柔和な笑顔は場を和ませるが、

 ひとたび守ると決めた瞬間、その背中は誰よりも頑丈になる。

 剣よりも盾を信じ、利益よりも人の暮らしを見てきた。

 数字の向こう側にある「夜」を、彼は知っている。


 ロイが静かに口を開く。


「都市の門からわずか半日の距離でも、夜は襲撃が日常だ。兵を派遣するにも、僕らの守備力を削ぐわけにはいかない」


 穏やかな声の奥に、現場を知る者だけの重みが宿っていた。

 そこでガロウが拳を打ち鳴らす。


 ガロウ・ベルガース。


 武装法人二階堂商会の役員にして、警備部門長。

 かつて傭兵団《牙の旗》を率いた元団長であり、

 今もなお商会の剣と看板を一身に背負う獣人戦士だった。

 二メートルを超える巨躯、黒鉄色の毛並み、金色に燃える双眸。

 肩が盛り上がり、太い首筋の筋肉が蠢くたび、

 会議室の空気そのものが圧迫される。


 理屈よりも現場、交渉よりも突破。

 部下の士気を一声で引き上げる天性の戦闘指揮官であり、

 同時に、義に厚く不器用な男でもある。


 獣のように息を吐き、牙を覗かせて吼えた。


「だったら討ち滅ぼせばいいダロ!牙の旗を広げりゃ、村も黙って従う!」


 机の上の資料が、低い衝撃でわずかに跳ねる。

 即座に、氷のような声がそれを切り落とした。


「……それでは、ただの侵略です」


 リュシアの視線が、真っ直ぐにガロウを射抜く。

 熱と理、獣性と秩序。会議室の空気が、

 目に見えない火花を散らして張り詰めた。


「武装法人が掲げるのは、略奪ではなく経営による支配。商会の名の下に利益と安定を与えることが、本来の使命です」


 ルーチェが袖を整え、背筋をすっと伸ばした。


 ルーチェ=ヴァルノア。


 武装法人二階堂商会の役員にして、

 魔導局筆頭を務める専属魔導士。

 白金の髪と小柄な体躯に、光を宿す琥珀の瞳。

 外見はまだ若いが、その内には、

 浄化と光の魔導を極めた稀有な精神性と、

 誰よりも真っ直ぐな責任感を秘めている。


 礼節を重んじ、虚飾を嫌い、力を誇ることをよしとしない。

 彼女にとって魔法とは、己を飾る武器ではなく――

 人を導き、守るための灯だった。


 静かにうなずき、真顔のまま口を開く。


「拙者も同意いたす。民に富と安寧を与えねば、導きとはならぬ」


 凛と澄んだ声が、会議室の空気をやさしく張り詰めさせる。


 荒々しいガロウの熱とは対照的に、

 ルーチェの言葉は静かな光のように場を照らしていた。

 だが、その芯に宿る意思の強さは、誰の剣よりも揺るぎない。


 漣司は沈黙ののち、口を開いた。


「買収だ」


 一言に、場の空気が変わる。彼は続ける。


「村を金で、契約で、株で縛る。兵も土地も特権も、帳簿の上で組み込めばいい。刀や矢より、効率的で確実だ」


リュシアは目を細めた。


「……つまり、外の村を商会の子会社とするのですね」

「そうだ。だが一気には無理だ。まずは一つ、見本となる村を徹底的に掌握する」


 ロイがうなずいた。


「納得してもらうには、見える利益が必要ですね。護衛、交易路、そして……福利厚生」


 漣司の脳裏に、日本で培ったノウハウがよみがえる。


「退職金制度に、医療支援、教育費補助。都市で始めた仕組みを地方にも流し込む。村人にここに従えば生きられると思わせればいい」


 ミナがにやりと口角を吊り上げた。


 本来なら、真っ先に視線を奪う存在であるはずの少女が、

 なぜか最後の紹介になってしまった。


 ――ミナ。


 金のツインテールを揺らす、小柄な少女。

 外見はまだ十四、五にしか見えないが、

 その身のこなしは猫のように軽く、視線は獲物を逃さない。

 姓を名乗らず、ただ「ミナ」とだけ呼ばれる彼女は、

 武装法人二階堂商会の役員――情

 報部門を預かる潜入・諜報の要だ。


 裏路地で生き延びてきた経験が、

 鍵開け、潜入、情報収集、逃走技術といった汚れ仕事を、

 遊びのような軽さでこなす技に変わっている。

 普段は調子がよく、冗談と悪戯で場をかき回すムードメーカーだが、

 ひとたび仕事となれば、誰よりも冷静で抜け目がない。


 そんな彼女が、悪戯っぽく片目を細めた。


「社長、接待で懐柔するのも忘れずにね♪」


 軽口の裏には、相手の欲と弱点を嗅ぎ分ける、

 諜報屋らしい計算が透ける。


「……その手は最後の切り札だ」


 蓮司が即座に切り返すと、

 ミナはくすっと笑い、肩をすくめた。



 会議が終わった後も、漣司は窓辺に立ち、

 夜の街を見下ろしていた。

 灯りが連なる市場の光は、

 まるで都市が一つの生命体のように呼吸しているように見える。


 ここは異世界。


 かつての日本とはすべてが違う。

 だが、それでも漣司は、この問いだけは忘れられなかった。


 ――法人とは何か。


 日本で彼が率いた会社は、競争に勝ち残り、

 成長し、やがて裏切りに沈んだ。

 だが、この異世界で立ち上げた法人は違う。

 剣と契約書を併せ持ち、民を守り、仲間の未来を請け負い、

 そして——この世界の勢力図すら書き換える器。

 企業ではない。軍でもない。その境界すら超えた、新たな力の形。

 だからこそ、彼は痛感していた。

 ここから先は、生半可な覚悟では通用しない。


「ここからが本当の勝負だ」


 独り言は、静寂の中で刃のように鋭く響いた。

 漣司は執務机の脇に立てかけていた木刀を取る。 

 昼は経営。数字と人材の渦を泳ぎ切るための知略の戦場。

 夜は剣と魔法の修行。

 身体を極限まで追い込み、戦場で仲間を守るために必要な力を磨く時間。

 どちらも欠けてはならない。

 そして、そのどちらか一方でも怠れば、

 武装法人の未来も、この都市の人々の明日も失われる。

 部屋の奥で、魔導灯が揺れた。

 その淡い光の中で、漣司はゆっくりと構えを取る。

 呼吸は深く静かで、心の奥で燃える決意は、

 遠く市場の光と同じリズムで脈打っていた。

 木刀を握る掌に、過去の痛みと現在の責務が宿る。

 だが、そこに迷いはない。

 彼は前を向いた。

 武装法人二階堂商会の未来は、ここから始まる。



 ――都市掌握から、すでに二か月。


 その間、二階堂商会はさらなる強化を遂げていた。


 リュシアは会計帳簿の改訂に取り組み、

 都市の商人たちへ標準帳簿を配布した。

 記録の透明化と統一が進み、不正は大幅に減少。

 都市経済は次第に法人の「会計法」に依存するようになっていた。


 ロイは兵制を改革した。

 農民兵に訓練を施し、正規軍として組織化。

 兵士たちは「給金と福利厚生」を得ることで士気が高まり、

 戦闘力も向上した。


 ガロウは日々その兵を鍛え上げた。

 木剣を握り、若い兵士を容赦なく叩き潰す。

 その豪快さは恐れられる一方、

 士気を高める源泉でもあった。

 漣司自身も彼を相手に木刀を振るい、

 幾度となく打ち倒されながらも技を磨き続けた。


 ミナは情報網を拡大し、市場や酒場に目を光らせた。

 都市の噂はすべて彼女の耳に届き、

 外部の商人や流浪者の動向まで掴み始めていた。


 そして、新役員ルーチェ。

 彼女は商会の一角に「魔導部」を立ち上げた。

 光魔法を基盤としつつも、基礎理論の共有、魔力制御の訓練を始める。

 その姿は天然な言動で仲間を困惑させつつも、志だけは真剣だった。


「拙者が導く光の部門、魔導部にて候!」


 彼女は誇らしげに宣言し、

 若い魔導士志望者たちを率いて魔法陣を描かせる。


「光あれ、と唱えるがよい!」


 ……派手に爆発して、仲間に水をかけられることもあった。

 漣司もその場を訪れ、彼女の実験を観察する。


「……ルーチェ、派手さよりも精度を重視しろ。経営でも魔法でも、本質は同じだ」

「承知つかまつった! 拙者、精度も鍛えてみせようぞ!」


 ぎこちないながらも、確かに法人に「魔法の知」が根を下ろし始めていた。



「都市を掌握した今、次は外の世界だ」


 漣司は塔の窓辺で静かに呟いた。

 眼下には、再生を果たした都市が脈打つように輝いている。

 だが彼の視線は、そのさらに遠くへ伸びていた。


 ――荒れ果てて野盗が巣食う村々、いくつもの争いに割かれた小都市。


 二階堂商会の旗は、もはやこの都市だけのものではなく、

 ひとつの都市に収まる器ではない。


「法人は組織だ。剣も魔法も、金も、信頼も、数字も、すべては組み合わせだ。次は地方を含め、更に大きな都市を――買収し、統治する」


 凪ぐ風が塔頂の旗を大きくはためかせた。

 蒼い盾紋章が夜空に吸い込まれるように翻り、

 漣司の瞳に映る光景をさらに鮮烈にする。

 漣司の瞳に映るのは、広大な大地と、まだ見ぬ敵と、

 未来の子会社たちだった。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ