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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第一部 武装法人誕生 - 都市買収編

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第50章 武装法人誕生 ― 都市買収編完

 都市の喧噪から半日の距離に、

 いくつもの小さな農村が点在していた。

 しかし、その平穏を思わせる景色とは裏腹に――

 村々は荒れていた。

 盗賊団の残党が夜な夜な襲い、街道は閉ざされ、

 村人は育てた穀物を都市へ運ぶことすら叶わない。

 干し草の匂いも、子どもの笑い声も、今はただ不安に沈んでいる。

 役員会議の場で、漣司は広げた地図の村々に指を置いた。


「……いずれ、都市だけでなく地方も整えねばならないな」


 低い声は静かだが、確かな決意を帯びていた。


「都市の繁栄は周辺の安定があってこそ。村を取り込むことは、法人の新たな柱となる」


 リュシアが静かに頷く。

 その瞳は冷静で、すでに数手先を見据えていた。


「買収という形式にしましょう。村の長に出資と支援を約束し、商会の傘下へと迎え入れる。暴力で押さえ込めば反発を招きますし……長い目で見れば損失です」


 その声音は、まるで冷たく澄んだ刃のように理路整然としていた。


「それに、税と治安を法人が担えば、村は喜んで従うはずですね人口が少ないほど、物流の乱れは致命的です。逆に整えてやれば……すぐに生き返りますよ」


 ロイが補足する。

 胸元の書類を整えながら、

 まるで地図の上に物流の線が浮かんでいるのが見えるかのように。


 そこへ、ガロウが勢いよく拳を打ち鳴らした。


「村ァは人手が欲しいし、道が守られりゃ商人も来る!盗賊なんざオレが蹴散らス!」


 力任せの言葉だが、

 その背中には確かな信頼が置ける実動部隊の雰囲気があった。


「じゃあ私は村の役人候補を調査するわ。数字を誤魔化されるのは一番面倒だから」


 ミナが肩をすくめつつも、目は鋭く光る。


「民を重んじ、守る事こそ、統べる者のあるべき姿……。拙者も微力ながら助太刀致す所存」


 ルーチェは胸に手を当て、凛とした声で言った。


 意見は次々に飛び交い、

 地図の上の村々に新たな未来が色づいていく。

 漣司は全員を見回し、短く、しかし力強く頷いた。


「――よし、動くぞ」


 そのひと言と共に、空気が引き締まった。

 二階堂商会は都市の枠を超え、いよいよ領域へと歩み出す。



 最初に訪れた村の会合。

 藁葺き屋根の大広間は、土の匂いと薪の煙が混じり合い、

 薄暗い光の中に緊張が満ちていた。

 老人、婦人、若者――村のほぼ全員が集まり、

 二階堂商会の一行を固く見据えている。

 漣司は正面に座し、静かながら通る声で語り始めた。


「我々は武装法人だ。出資し、道を整え、治安を守る。その代わり、収穫の一部を法人に納めてもらう」


 ざわ…と場が揺れる。村の長老は深い皺を寄せ、重く問いを返した。


「つまり税を取るということか?」

「いや、違う」


 漣司は即座に否定し、視線を村人たちの顔へ移していく。

 その眼差しは、取引相手としてではなく――

 未来を共有する仲間を見るそれだった。


「村が独自に兵を雇うよりもはるかに安上がりで、確実だ。組織が守れば、盗賊は近寄らない。さらに余剰は都市の市場へ売りさばき、利益を分け合う」


 漣司は懐から帳簿を取り出し、床に広げた。

 文字が読めない村人が多いと見るや、彼は躊躇なく図表を描き始める。

 木炭の線が走り、数字が並ぶ。


「見てほしい。今の道では、収穫のうち三割が盗賊に奪われている。だが、道を確保し、護衛をつければ――」


 彼は帳簿を指で叩いた。


「収穫はそのまま、売値は倍になりうる。盗賊に怯える必要もなくなる」


 ざわりと空気が変わる。

 長年押しつぶされてきた不安の影が、少しだけ揺らぐ。


「そして、その利益の三割を法人に渡し、七割を村に残す。これは負担ではなく――投資だ」


 沈黙が落ちる。

 だがそれは拒絶の沈黙ではなく、理解が浸透する音のない時間だった。

 やがて、若い農夫が立ち上がる。


「それなら俺たちも賛成だ!」


 続いて別の青年が拳を握る。


「盗賊の夜襲で家族が震えるのは、もうごめんだ!」


 女性たちの間からも、安堵と希望の入り混じった声が漏れる。

 長老はしばらく目を閉じ、深く息を吐いた。

 まるで、長年抱えてきた重荷を一度手放すように。

 そして静かに、しかしはっきりと言った。


「……分かった。村を――お前たち二階堂商会に委ねよう」


 大広間に感情の波が走る。

 安堵、決意、未来へのざわめき。

 人々の視線が二階堂商会の面々へ集まる。

 ロイは小さく笑みを浮かべ、ガロウは腕を組みながら満足げに頷き、

 リュシアは村人たちの反応を一通り観察したあと、

 その場で帳簿を膝に広げ、数字の整理を淡々と始めていた。

 目の動きは鋭いが、村人が近づけば柔らかい声で説明し、

 不安を抱えた老人には、読みやすい図を描いて見せる。


「大丈夫、全部私たちと一緒に積み上げればいいんです」


 と、その声音には不思議と安心が宿る。


 一方、ミナは全体を見渡しながら、

 まるで戦場の布陣を確認する将のように、

 村の人々の表情の変化と力の流れを冷静に見極めていた。

 そして漣司の言葉を受け、静かに一歩前へ進む。


「ね、ね、大丈夫だから! あたしたち、怖いことなんてしないよ!むしろ盗賊が来たら――先にぶっ飛ばすから安心していいって!」


 元気いっぱいの声に、何人かの村人が思わず笑った。


「安心していい。俺たちは奪いに来たのではない。この村と商会、双方が生きられる形を築くために来た」


 蓮司の研ぎ澄まされた声音は、ミナの明るさとは違う方向から、

 村人たちの胸の不安をそっとほどいていく。


「……なんか、本当に変わるかもしれねぇ」


 と小さく呟くほどに。

 ルーチェはどこか神事のように厳かに村人たちへ頭を下げ、

 場は次第に、警戒から期待へと色を変えていった。



 その夜、漣司は村の粗末な宿に泊まり、

 村の中心にある共同の集会場で開かれたささやかな酒席へ招かれた。

 木の皿に盛られた素朴な料理、足りない酒を薄めて皆で分け合う。

 それでも村人たちは笑い、

 久しぶりの安堵した夜をかみしめるように盃を寄せ合っていた。


「社長さんよ、今日は助かったなぁ」

 

 皺深い農夫が、握力に頼るような太い手で漣司の肩を叩く。


「盗賊に怯えて何年も、畑を耕しても奪われるばっかりで……ようやく、まともに眠れそうだ」


 漣司は目を伏せ、その手の荒れを静かに見つめる。

 皮膚はひび割れ、指の節は変形している。

 生きるために使い込み、守る力も与えられず、

 ただ搾られてきた手だ。


 別のテーブルでは、ミナが子どもたちに囲まれていた。


「ほら、この数字ね、実はお金増える魔法陣なの!」

「えっ!? すげえ!!」

「……いやいや、魔法じゃなくて帳簿なんだけどね!? あ痛っ! 石投げないの!」

 

 元気な笑い声が上がるたび、場に灯がともるようだった。

 ルーチェは女たちの輪に入り、

 皿を配りながら優しく声をかけていた。


「皆々様、この光を。――心安らぐ、癒しの術にて候」

 

 掌に小さな光を灯すと、疲れた顔が次々とほころんでいく。

 その光は、さながら村の闇を祓う祈りのようだった。

 リュシアは商会の規模や今後の支援を、

 若い男たちに真剣な眼差しで説明していた。


「危険地帯の見回りは一時的に増やします。あなたたちが安心して畑に向かえるように」

 

 彼女の言葉には、威圧も甘言もない。

 ただ、真摯な責任だけがあった。

 ロイは何人かの男と地図を囲み、流通の改善案を吟味している。


「荷車の通る道幅が足りてない。まずはここから整えよう」

「そんなとこまで見てくれんのか……」

「俺らも動く。村が強くなれば、商会も強くなるからな」

 

 落ち着いた声音に、男たちの硬い肩がほぐれていった。

 ガロウは酔った農夫たちと腕相撲大会になっていた。


「よっしゃ来イッ! おらァ!!」

「つ、強ぇ……! けどなんか憎めねぇ!」

 

 豪快な笑い声は、疲弊した村の夜を久々に賑わせた。

 そんな賑やかな輪から少し離れ、

 漣司は外の縁側に腰を下ろした。

 夜風が吹き、虫の声が草原を流れる。

 遠くで子どもたちの笑い声が聞こえ、誰かが薪をくべる匂いが漂う。


 ――彼は静かに、手を握りしめた。


「……必ず守る」

 

 呟きは誰に向けたものでもない。

 その場のすべて――この村の暮らし、笑い、命に誓った。


「これが……武装法人の意味だ」


 漣司の胸には、

 都市だけではなくここにも未来を守る責任が生まれていた。



 一方その頃――都市から遠く離れた森の奥深く。

 風も光も届きにくい鬱蒼とした木々の間で、

 ひっそりと焚き火が揺れていた。

 その周囲には、盗賊団の残党が肩を寄せ合うように座り込んでいる。

 敗北で組織は瓦解し、いくつもの小集団に散り散りとなった。

 だが、生き残りは生き残りだ。

 そして――

 その中心には、やはりあの二人がいた。チカとゴローの姿である。


「……ふぅー……あったか〜い……」

 

 チカは火に手をかざしながら、うっかり薪を蹴って火花を散らし、

 周りの盗賊を慌てさせていた。


「おいチカ! 火、火!」

「わっ、ごめんっ!」


 驚くほど腕は立つのに、驚くほどドジ。

 そしてゴローはというと――


「よーし、俺も薪足して……って、あっつつつ!!」

「そっちまだ燃えてるやつ!!」

「どれだ!? 全部同じに見える!!」


 毎度何かしらのトラブルを起こしてくれる。

 だが、憎めない。

 二人のそんな姿に、まわりの盗賊も笑うほかないのだ。


「……でもさ」

 

 チカは火の揺らぎを見つめ、ふいに真剣な目つきになる。


「偵察もルート探索も、ウチら結構うまくやれてたじゃん。次は絶対、もっとやれるよ」

「おう。ボウガンも短剣も鈍っちゃいねぇしな」


 ふたりのシルエットが、炎の向こうで揺れる。

 その背に漂うのは、敗北を悔いる影ではない。

 むしろ、また悪戯を仕掛ける前の子供のような輝きだった。


「今回はこてんぱんにされたけどね……」


 チカは草の上にぺたんと腰を下ろし、

 悔しさを噛みしめるように唇を尖らせた。

 短剣を握る指先が微かに震えている。

 くやし涙は落とさない。

 ただ、その瞳の奥で、負けん気の火だけがぎゅっと燃えていた。


「今度は一泡吹かせてやる」


 ゴローは折れたボルトを指で弾き、にやりと笑った。

 あの独特の、妙に頼もしくて妙に危なっかしい笑みだ。

 彼の背負うボウガンは泥まみれで、

 弦は続く戦闘で切れかけている。

 けれど、目だけは獲物を狙う野性の輝きを保っていた。

 ふたりの影がゆっくりと立ち上がる。

 チカは短剣をくるりと回し、指先で軽々と掴み直した。

 ゴローはボウガンの弦を引き直し、

 ひとつ息を吐いて夜気に馴染む。


「……次は失敗しない」

「いや、ちょっとくらいドジっても勝つさ」


 そんな軽口を交わしながら、

 ふたりは音もなく村の外れへ歩き出した。

 月が雲の切れ間から顔を出した瞬間、

 彼らの姿はすでに闇へと溶けかけていた。

 足音は消え、気配も消える。

 ただ、風だけが草を揺らし、

 ふたりが確かにこの地を去ったことを告げている。

 こうして、斥候チカと狙撃手ゴローは、

 しばらく物語の舞台から姿を消す。

 しかし、消えた影が次にどんな形で戻ってくるのか――


 それを知る者は、まだ誰もいない。



 都市へ戻る帰路。

 馬車の上でルーチェが口を開いた。


「社長殿、光は照らすものに非ず。導くものなり。村々を導くその姿、拙者、誇りに思うて候」


 漣司は微笑を浮かべ、夕陽を見つめた。


「導く光、か。ならば次は……法人という灯火をもっと広げてやる」


 沈みゆく夕陽が街並みに長く影を落とす。

 馬車の輪が道を刻むたび、武装法人の名が静かに、

 しかし確かに地方へと響き渡る予感があった。


 武装法人二階堂商会――

 小さな都市の片隅から生まれた光は、今や新たな地平へと旅立つ。


 こうして――二階堂商会の「都市買収編」は幕を下ろした。


 都市カストリアを統治下に置き、周辺地域の治安改善に成功した。

 しかし、その光はまだ小さな街の片隅にとどまるものではない。

 次なる舞台は、広大な地方の大地。

 村々をつなぎ、道を整え、秩序を築く――

 果てしなき挑戦が、彼らを待ち受けている。

 武装法人の歩みは、今まさに加速し始めた。

 光と意志を胸に、仲間たちは未知の地平を照らし、まだ見ぬ未来を切り開く。

 戦いも、笑いも、涙も――すべてを力に変えて。

 物語は、ここからさらに大きく動き出す――



 第一部 武装法人誕生編、完。



 そして舞台は、より広大な地へ――

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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