表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第一部 武装法人誕生 - 都市買収編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/315

第31章 赤狼の咆哮 ― 本隊動く

荒野の闇を切り裂くように、二条の影が砂煙を引いて疾走した。

夜営地の焚き火が視界に入った瞬間――。


「――っっぎゃああああああ!! 助かったああああ!!」


チカが半ば転がり込むように飛び込み、続いてゴローが膝から崩れ落ちた。


「ひいっ……はあっ……ちょ、チカ! 走るの止めんなって……! 俺、いま命が三つくらい削れた……!」

「アンタの残機なんてどうでもいいの!! あの斧の兄ちゃん、絶対普通の人間じゃないって! あれ、荒野に棲む怪物の親戚レベルでしょ!?」


二人は肩で息をしながら、互いの腕を掴んでガクガク震える。

それでも、逃げ切ったという安堵からか、妙な笑みがこぼれた。


「……でもさ、ゴロー。」


チカの笑みが次の瞬間、すっと消える。

思い出したのだ――あの、列の奥から放たれた圧を。


「今の、あれで本気じゃなかったんだよね?」


ゴローも乾いた喉を鳴らした。軽口の代わりに出てきたのは、現実を認めるような声だった。


「……うん。絶対に、違う。あの隊列……歩幅も視線も全部揃ってた。昨日まで狙ってた商隊とはレベルが違いすぎる。」

「二階堂商会が……」


チカは震える指先で、闇の向こうを指す。追跡者の気配がまだ、皮膚の下を這っている。


「本気で組織した部隊だよ。商人じゃない。軍」


焚き火の赤がチカの横顔に揺れ、ゴローの青い髪に影を落とした。

笑いはもうどこにもない。荒野の風が、もうひとつの冷たい現実を運ぶ。


「……二階堂商会の、部隊だね」

「商隊の皮をかぶった軍勢。しかも……ただ者じゃない」

「うん。あれ、絶対狩る側の目だった。」


二人の視線は、まだ息を潜めているかのような夜闇の彼方へ吸い込まれる。

まるで――巨大な獣がそこに潜んでいるかのように。



修道院の厚い木扉が、突風のような轟音を立てて開いた。

吹き込んだ冷気よりも鋭いものが空気を切り裂く――頭目グラド・バルザークの気配だ。


赤い外套が血煙のように翻り、片目の獣光がチカとゴローをかすめただけで、

焚き火の炎が一瞬だけ縮んだように見えた。


「戻ったか……チカ、ゴロー」


その低音は雷鳴より重く、修道院の石壁に響き渡る。


「は、はいっ! 一応その……生存報告ということで!」

「敵情もバッチリでして! いやぁ〜、ほんと、見事に組織された隊列で……!」


普段より三割増しの軽口。

しかしグラドが一歩踏み込むたびに石畳が沈むような錯覚が走り、二人の笑顔は音を立てて剥がれ落ちていく。


「報告を聞く限り……」


グラドの声が、底冷えするほど静かに沈んだ。


「――俺の牙を、へし折られたということか」

「い、いえ! その! これはほんの前哨戦でして! むしろこれからが本番で――」


言い訳の続きを絞り出すより早く、グラドの巨大な手がゴローの胸倉をつかみ上げた。


「舐められたな……二階堂商会に。俺たち〈赤狼の牙〉が――獲物だと舐められたァ!」


怒号が天井を震わせ、埃がぱらぱらと舞い落ちる。


「ひぃあああああっ! せめて言葉を柔らかめにお願いします頭目ぅぅ!」

「ゴロー、がんばって! 私は……その、気持ちだけ後方支援してるから!」


背後で必死に応援するチカの声も、巨大な獣が咆哮した後の静寂に飲まれていった。

周囲の盗賊たちは一斉に姿勢を正し、誰一人、息すら大きく吐けない。

修道院の空気は、焚き火の赤よりもなお、重く、鋭く、張りつめていく――。



だが――その瞬間、グラドの片目に宿る光が、獣のそれへと変わった。怒りではない。愉悦だ。捕食者だけが持つ、血を求める炎。


「……面白ぇじゃねぇか」


低く笑い、喉の底で獣が唸るような響きが漏れる。

「都市の商人風情が軍を気取る? なら――本物の戦の味ってやつを、骨まで刻んでやろうじゃねぇの」


言い終わる前に、彼の腕が閃いた。

バンッ――!

地図のど真ん中に、分厚い刃が突き立つ。羊皮紙が震え、周囲の空気が一気に引き締まる。


「全隊に通達だッ!」


轟く声は、夜の修道院すべてを揺らした。


「夜明けと同時に進軍! 百を超える牙を集めろ! 街道を塞ぎ、商隊を丸ごと――灰にしろ!」


その言葉が引き金だった。盗賊たちが一斉に咆哮を上げる。鉄が打ち鳴らされ、刃と刃が火花を散らす。鎖帷子が軋み、油壺が次々と並べられ、馬たちが蹄で夜の地面を掘り返す。修道院は、瞬く間に戦場へ向かう獣の巣へ姿を変えた。


――血の夜明けが、そこまで迫っていた。



渦巻く怒号と鉄音の隅で、チカとゴローは同時に息を呑んで顔を見合わせた。


「ねぇゴロー……これ、けっこう洒落になってなくない?本隊が動くってことは、本気の戦だよ」

「わ、分かってる。でも俺たち、いつも斥候とか囮役ばっかりだろ。今回もどうせ……」

「うん。端的に言うと――死ぬ役回り、だよね」


 一瞬の沈黙。だが次の瞬間、チカが肩をすくめて笑った。


「――まあ、らしいっちゃらしいけど。死なない程度に逃げればいいし」

「だよなぁ。俺たちは〈赤狼の牙〉の……生き残り担当ってやつ!」


 二人の掛け合いに、周りの盗賊が吹き出す。


「お前ら、死なねぇのだけは天才だよな!」

「斥候にゃもったいねぇぜ、その運!」

「まあ役には立つさ!」


「でしょ?」

「でしょでしょ?」


混乱の中でも、チカとゴローだけはいつもの調子。だがその軽口が、張りつめた空気にわずかな笑いと余裕をもたらしていた。


 

だが、仲間たちの笑いが完全に消えるよりも先に――

グラドの声が落ちた。


それは、焚き火の炎を圧し殺すような低音。荒野の夜風すら怯え、ひれ伏すほどの重みを帯びていた。


「聞け……」


たった一言で、全員が背筋を正す。焚き火がパチ、と小さく弾け、音に怯えたかのように揺れた。


「奴らの掲げる旗を叩き折れ。都市に血の匂いを思い出させろ。二階堂商会など――俺たち〈赤狼の牙〉の前では、ただの肉袋だ!」


その宣告は、まるで呪いを世界に刻みつけるように響き渡った。


一語ごとに焚き火がうねり、赤い炎が獣のように咆哮し、黒い煙が夜空へとまっすぐ伸びていく。

まるで天へ牙を突き立てる狼の影が立ち上ったかのようだった。

その光景に、盗賊たちは直感で悟る。


――今夜は、ただの襲撃では終わらない。

――都市と荒野の境界を、血で引き直す夜だ。


「うおおおおおっ!!!」


雄叫びが、崩れかけた修道院の壁に反響し、荒野へ獣の遠吠えのように広がっていった。

武器が掲げられ、牙の紋章が狂気じみた熱量で揺れる。

その中心で、グラドは静かに、だが確実に――満足げに笑った。


盗賊団本隊。いま、完全に目を覚まし、すべての牙を剥き出しにした。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ