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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第一部 武装法人誕生 - 都市買収編

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第25章 逆転の采配 ― 孫子の兵法

 夜明け前のカストリア広場。

 まだ朝靄の残る石畳に、即席の舞台が組まれていた。


 剣と天秤を刻んだ二階堂商会の旗が、高く掲げられる。

 冷たい風を受け、布が大きくはためくたび、

 布擦れの音が静寂を裂いた。

 周囲には、吊るされた灯籠の列。

 淡い橙の光が揺れ、火の粉のように明滅しながら、

 群衆の顔を照らし出す。


 集まった人々は、数百。配給袋を抱えた者。

 手形を握り締め、指先を白くしている者。

 不安を隠しきれず、隣と小声で噂を交わす者。


 広場全体が、張りつめた息を共有していた。


 ――その視線の中心へ。


 漣司は、ゆっくりと舞台へ足を踏み出した。


 片腕に抱えるのは、青い帳簿。

 もう一方の手には、白い羊皮紙が一枚。


 二階堂蓮司。

 武装法人二階堂商会――

 その名を背負う男が、静かに群衆を見渡す。


 ざわめきが、わずかに沈んだ。


「市民諸君」


 低く、しかしよく通る声が、広場に広がる。


「俺は二階堂蓮司。武装法人二階堂商会の社長であり――

 お前たちと、契約を結んだ者だ」


 誰かが、息を呑む音が聞こえた。

 舞台の足元で、拍子木が打たれる。


 ――カン。


 乾いた音が、空気を引き締める。

 漣司は羊皮紙を台に広げ、筆を握った。

 ためらいなく、一文字目を書きつける。


 墨が走る。


「勢」


 続けて、二文字目。


「虚実」


 さらに、三文字目。


「奇正」


 太く、迷いのない筆致。

 三つの文字が、白い紙の上に並び立つ。


 群衆の間に、小さなどよめきが走った。


「これは兵法だ」


 漣司は筆を置き、正面を見据える。


「戦場を生き抜くための知恵だ。

 だが――経済もまた、戦場だ」


 視線が、群衆一人ひとりを貫く。


「俺たちは、この三つで逆転する」


 その言葉が落ちた瞬間、

 広場に張りつめた緊張が、波のように広がった。


 不安。期待。疑念。

 そして、かすかな希望。


 感情のうねりが、灯籠の揺れと重なって、

 空気を震わせる。


 ――物語は、ここから大きく動き出す。



 第一の策――勢。


 合図とともに、倉庫正面の巨大な幕が、

 裂けるように左右へ引き抜かれた。


 陽光が一気に流れ込む。


 現れたのは、壁のように積み上がる麦俵。

 梁から吊るされた干し肉の列。

 反物の山、塩壺の群れ。

 倉庫いっぱいに満ちた物資が、朝日を浴びて照り返し、

 まるで宝の山のように輝いた。


「これが、市の腹だ!」


 蓮司が一歩踏み出し、倉庫を指さして声を張り上げる。


「銀貨がなくても、物と物で取引できる!

 今日から倉庫街は――この都市最大の市場になる!」


 舞台袖で、リュシアが静かに帳簿を掲げた。

 淡々とした口調。

 しかし、その声音には揺るぎない確信が宿っている。


「在庫は一万俵。保険金は銀貨二千枚。配給も継続可能です。

 数字は真実を語ります。市民の皆さん、安心してください」


 群衆に、ざわめきが走る。


「……数字、合ってるぞ」

「一万俵……本当に?」

「ここで取引すれば、しばらく食える……」


 囁きが、次第に熱を帯びていく。

 群衆の重心が、わずかに前へ傾く。

 人の流れが生まれる。

 勢が形を持ち、空気が動き出す。


 市民たちは自然と列を成し、

 吸い寄せられるように倉庫へ雪崩れ込んでいった。



 第二の策――虚実。


 舞台裏、倉庫街の影。

 積み荷の隙間、柱の陰、屋根の縁。

 暗がりを縫うように、ミナの姿が滑っていく。


 ――ひとり。


 背後から口を塞ぎ、膝裏を払う。

 囁き屋は音もなく地面に沈んだ。


 ――ふたり。


 角を曲がった瞬間、影が絡みつく。

 布が締まり、息が詰まる。短い抵抗。沈黙。

 ミナは身を低くしたまま、

 縛り上げた男たちを見下ろし、肩をすくめた。


「南門の金が無防備……ふぅん。なるほどねぇ。

 これ、使えるじゃん」


 奪い取った帳簿を、指先でパラパラと弾く。

 数字の列に目を走らせ、楽しげに口角を上げた。


「嘘で揺さぶるなら――こっちも嘘で返しちゃお」


 指が、適当な数字を一つ、つまみ上げる。


 次の瞬間、ミナの姿は影から影へと溶け、

 何事もなかったかのように酒場の灯りへ紛れ込んだ。


 ざわめく店内。

 木杯の音、笑い声、汗と酒の匂い。

 ミナはカウンターに肘をつき、ひそひそ声で囁く。


「ねぇねぇ、聞いた?

 ギルド、金庫ぜんぜん守れてないんだってさ。

 南門の荷なんて、護衛ゼロらしいよ?」


 軽い調子。冗談めいた笑顔。

 だが、その一言は確実に火種を落とした。


 隣の客が顔を上げる。

 さらに隣が耳を寄せる。


 噂は、杯から杯へ、席から席へと伝播していく。


「……本当か?」

「金持ってるくせに、そんな杜撰なのか?」

「ギルド、大丈夫なのかよ?」

「信用できるのは……どっちだ?」


 疑念が膨らみ、視線が一斉にギルドへ向く。

 数字が揺らぐ音がした。

 信用が、静かに軋みを上げる。


 その中心で――

 ミナは、誰にも気づかれないまま、満足げに笑っていた。



 第三の策――奇正。


 広場の端、二つの金庫が並び立つ。

 ひとつは誰の目にも触れる表の囮。

 もうひとつは建物の陰に溶ける裏の本丸。


 囮の金庫の前に、ガロウ率いる〈牙の旗〉が陣取っていた。

 わざと大げさに武器を鳴らし、

 挑発するように隊列を揺らす。


「こ・れ・ガ! お前らのお目当ての金庫だロ〜?欲しけりゃ来いヨ、ギルドの腰抜けどもォ!」


 獣じみた笑み。

 その声が広場に反響した瞬間――


 ギルド兵たちの空気が、一斉に変わった。


「ふざけるな!」

「叩き潰せ!」


 槍が揃い、怒号が重なる。

 隊列がうねり、一直線に突撃してくる。


 ――その刹那。


 ガロウの口元が獣のように吊り上がり、

 喉奥で低い唸りが弾けた。戦場を割る咆哮。


「挟メェェッ!!」


 地面が裂けたかのように、物陰が弾ける。

 金庫の裏手、荷車の影、崩れた石壁の陰――

 三方向から〈牙の旗〉の戦士たちが跳び出した。


 鋼の罠が、閉じる。


 斧が盾ごと鎧を叩き割り、

 衝撃波のように兵が吹き飛ぶ。

 足元で土煙が爆ぜ、隊列に次々と穴が穿たれる。


「う、うわっ――!」

「な、なんだこの化け物ども……!」


 〈牙の旗〉は、訓練された獣の群れだった。

 一人が盾を崩せば、次が体勢を奪い、

 三人目が武器を刈り取る。

 攻撃と制圧が、波のように連なり、反撃の芽を飲み込んでいく。


 そして――


 ガロウ自身が、前線へ踏み込んだ。


 大斧が唸り、

 風を裂く音が一拍遅れて鼓膜を打つ。

 一振りごとに、敵の陣形が崩れ、地面が震える。


「退職金まで出る戦士なんざ聞いたことねェ!牙の旗は――社長の剣となル!」


 〈牙の旗〉は、訓練された獣の群れだった。

 一人が盾を崩せば、次が体勢を奪い、

 三人目が武器を刈り取る。

 攻撃と制圧が、波のように連なり、反撃の芽を飲み込んでいく。


 そして――


 ガロウ自身が、前線へ踏み込んだ。


 大斧が唸り、

 風を裂く音が一拍遅れて鼓膜を打つ。

 一振りごとに、敵の陣形が崩れ、地面が震える。


「退職金まで出る戦士なんざ聞いたことねエ!

 牙の旗は――社長の剣となル!」



 そして――最後に、ロイが舞台へと歩み出た。


 いつもなら一歩引いて仲間を立てる青年が、

 この時だけは、真正面から群衆と向き合う。


 背筋を伸ばし、胸を張り、

 震えを押し殺すように拳を握りしめる。


「俺は――庶民代表、ロイ・フェンネルだ!」


 一瞬、広場の空気が止まる。


「二階堂商会は村を守り、市を守り、

 そして今ここで、俺たちに飯を食わせている!

 お前たちは何を見ている!

 俺たちの味方は――誰だ!」


 投げかけられた問いが、群衆の胸を打つ。

 ロイは一人ひとりの顔を見るように、

 ゆっくりと視線を巡らせた。


「俺は……毎日、あなたたちの列を見てきました。

 泣いてる人も、怒ってる人も、

 震えてる人も……全部、見てきました」


 拳に、わずかな力がこもる。


「でも――」


 ふっと、肩の力が抜ける。

 ほんの小さな、柔らかな笑み。


「今日、子どもがパンを抱えて笑ってました。

 父さんが泣いてました。

 ……ああいう光景、また見たいんです」


 広場が、音を失う。

 風の揺れる音だけが、耳に残る。


「二階堂商会は、数字で守ってくれた。

 俺たちは、声で支えた。

 牙の旗は、力で背中を押してくれた」


 ロイは、拳を胸に当てる。


「だから――信じてほしい。

 俺たちは、あなたたちの味方です!」


 その叫びに呼応するように、群衆が一斉に吠える。


「二階堂商会だ!」

「商会を信じろ!」

「俺たちの味方だ!」


 怒号のような歓声が、堰を切ったように噴き上がる。

 熱が、波となって広場を駆け抜け、

 ギルド兵の存在感を一気に飲み込んでいく。


 剣でも、金でもない。

 人の声が、人の心を動かした瞬間だった。



 漣司は最後に舞台の中央で宣言した。


「兵法に曰く――戦わずして人の兵を屈するは、善の善なるものなり」


 風が旗を裂くように揺らした。


「今日俺たちは――戦わずして勝った!信用は数字で守り、声で支え、力で裏打ちした!この戦いに勝ったのは、俺ではない! ――お前たちだ!」


 歓声が爆発し、夜明けの空に、剣と天秤の旗が鮮やかに翻った。 

 資金戦争の序盤、最大の窮地。

 二階堂商会は仲間の力と兵法で、ついに逆転勝利を手にしたのだった。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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